Archive for the ‘刑事事件’ Category

傘で失明、傷害罪?過失傷害罪?

2019-08-31

傘で失明、傷害罪?過失傷害罪?

傷害罪過失傷害罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

北州市八幡東区に住むの会社員の男性Aさんは、路上で肩がぶるかるなどしてVさんと口論となり、もっていたの先端でVさんの目を突き刺しまし、その場から逃走しました(Vさんはその後病院に搬送され、失明の障害を負ってしまいました)。ところが、現場に駆け付けた目撃者の話、防犯ビデオカメラの映像からVさんの目にの先端を突き刺したのはAさんだ、ということが判明し、Aさんは福岡県八幡東警察署傷害罪で逮捕、勾留されてしまいました。そして、Aさんは、福岡地方検察庁小倉支部の検察官に傷害罪で起訴され、実刑判決を受けてしまいました。
(実際にあった事例をもとに作成したフィクションです)

~ 傘も立派な凶器 ~

普段何気なく使っているでも、使い方によってはナイフなどと同様「凶器」に変わりえます。
本件のように、被害者に失明などの障害を与えてしまった場合は、「傷害罪(刑法204条)」、

刑法204条
 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金

あるいは、殺意が認められる場合は、「殺人未遂罪(刑法199条、203条)」

刑法199条
 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
刑法203条
 第199条及び前条の罪の未遂は、罰する。

に問われます。

~ 過失による場合は? ~

傷害罪は「人を傷めつけてやろう」、殺人未遂罪は「人を殺してやろう、死んでもかまわない」などという意図(故意)があってはじめて成立する犯罪です。
ところが、たとえば、

会社員Aさんが、雨の日、雨が止んだと思ってを折りたたみ、そのを地面と平行にして持って歩いていたところ、たまたまAさんの後方を歩いていた幼児Vちゃん(3歳)の目にの先端が当たってしまい失明させてしまった

という場合はどうでしょうか?
この場合、AさんにVちゃんを「痛めつけてやろう」とか、「殺してやろう」とする意図(故意)は認められません。
ただし、過失犯に問われることがあります。
ここで、「過失」とは「故意がないこと」とご説明すれば簡単ですが、それでは分かりにくいことからもう少し踏み込んでご説明すると「不注意」、つまり、「注意義務に違反すること」をいいます。
では、ここでの「注意義務」は何かといえば、雨の日ですからさすがに「を持ち歩くな」ということをAさんにいうことはできません。やはり、を持ち歩くことは認めるとしても、その「持ち歩き方に注意してね」ということ、つまり、「凶器となり得るの先端を人に当たらないよう地面に向けるなどして歩け」ということではないでしょうか?
そして、「凶器となり得るの先端を人に当たらないよう地面に向けるなどして歩かなかったこと」が注意義務違反、つまり「過失」となるのです。
過失により傷害を負わせた場合は、刑法209条の過失傷害罪に問われるとされています。なお、同罪は、被害者の告訴がなければ起訴されない親告罪です。

刑法209条
1項 過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。
2項 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

~ 民事上の不法行為責任も? ~

なお、過失傷害罪傷害罪や殺人未遂罪に比べ法定刑は低いですが、たとえ過失による場合であっても、失明などの重大な傷害を負わせた場合は民事上の不法行為責任を問われ
(刑事責任とは別に)何千万円という損害賠償金を請求されることもあります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件で逮捕されるなどしてお困りの方は、まずはお気軽に、0120-631-881までお電話ください。専門のスタッフが24時間体制で、初回接見無料法律相談の予約を受け付けております。

酒気帯び運転等の禁止②~酒類提供罪、同乗罪~

2019-08-30

酒気帯び運転等の禁止②~酒類提供罪、同乗罪~

酒気帯び運転等の禁止と酒類提供罪同乗罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

福岡県朝倉市に住むAさんは、地域の会合の打ち上げに参加するため、妻に会場である居酒屋まで車で送ってもらいました。ところが、Aさんは会合中、タバコを買いに行くため、隣席にいるBさんに「コンビニまでたばこを買いに行きたいけど脚がない。」「車を貸してくれないか。」と言いました。Bさんは、Aさんの顔が赤く、酒を飲んでいることは分かりましたがAさんにしつこく頼まれるため、「コンビニは近いし、事故を起こすこともないだろう」という気持ちからAさんに車の運転キーを渡しました。Aさんは、居酒屋の店主Cさんに、「ちょっと、コンビニ行ってくるから。」と言いました。Cさんは、「Aさんは奥さんに車で送りに来てもらっていたけど、どうやっていくのだろう」「歩いていくのかな」などと疑問に思いましたが、Aさんを止めることはしませんでした。そうしたところ、Aさんはコンビニに行く途中、車を電柱に衝突させる自損事故を起こしてしまいました。そのことがきっかえけで、Aさんは福岡県朝倉警察署酒気帯び運転の罪で、Bさんは車両提供罪で事情を聞かれることになりました。
(フィクションです)

~ はじめに ~

前回(酒気帯び運転等の禁止①)は、酒気帯び運転等に関する規定(道路交通法65条)を確認するとともに、その1項で規定される酒気帯び運転の罪(酒気帯び運転の罪、酒酔い運転の罪)、2項で規定される車両提供罪についてご紹介しました。

第65条 何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
2 何人も、酒気を帯びている者で、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。
3 何人も、第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。
4 何人も、車両(トロリーバス及び旅客自動車運送事業の用に供する自動車で当該業務に従事中のものその他の政令で定める自動車を除く。以下この項、第117条の2の2第6号及び第117条の3の2第3号において同じ。)の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。 

今回は、65条3項の酒類提供罪、65条4項の同乗罪についてご紹介したいと思います。

~ 65条3項(酒類提供罪)について ~

65条3項は「何人も、第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。」と規定されています。

「第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者」とは、前回、車両提供罪のところでもご紹介したのと同様、酒類を提供するなどすれば、酒気を帯びて車両等を運転することとなる蓋然性のあるものであることをいいます。
「酒類を提供」の「提供」とは、自らが事実上支配している酒類を飲酒できる状態におくことをいいます。ですから、宴席で、すでに自分の目の前に出されている酒を隣の者にお酌する行為は「提供」には当たりません。また、居酒屋の従業員が、支配人から指示されたお酒を運ぶ行為も同様に「提供」には当たらないでしょう。

なお、本罪が成立するには、酒類の提供を受けた者(Aさん)が実際に飲酒運転したことが必要です。また、酒類を提供した側(Cさん)が、Aさんが「酒気を帯びて車両等を運転することとなる蓋然性のあるもの」であることを認識しつつ(故意)、酒類を提供したことが必要です。
この点、Cさんは、Aさんが妻に居酒屋まで車で送ってもらっている、すなわち、交通手段としての車は居酒屋の近くには駐車していない、と考えている可能性が高く、本罪の故意を認めることは難しく、Cさんを酒類提供罪に問うのは難しいのではないでしょうか?

ちなみに、酒類提供罪の罰則は、飲酒運転をした方が酒酔い運転だった場合は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」、酒気帯び運転だった場合は「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」です。なお、罰則が適用されるのは、「酒類を提供した行為」だけであって、「すすめる行為」には適用されません。飲酒運転への関与が低いことがその理由です。ただし、刑法上の教唆犯、幇助犯に問われるおそれはありますから注意が必要です。

~ 65条4項(同乗罪)について ~

65条4項はいわゆる同乗罪といわれる罪に関する規定です。

本罪が成立するためには、「車両の運転者が酒気を帯びていることを知っていたこと」、「当該運転者に対し、当該車両を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼したこと」、「当該運転者が第一項の規定に違反して運転したこと」、「当該車両に同乗したこと」が必要です。
「要求」とは指示すること、「依頼」とは頼むことなどをいいます。明示的な要求,依頼行為がなくても、同乗者と運転者の関係、同乗に至った経緯等個別具体的な事情を勘案して要求、依頼があったと認められる場合があります。

同乗罪の罰則は、飲酒運転をした方が酒酔い運転だった場合は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」、酒気帯び運転だった場合は「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」です。 

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件で逮捕されるなどしてお困りの方は、まずはお気軽に、0120-631-881までお電話ください。専門のスタッフが24時間体制で、初回接見無料法律相談の予約を受け付けております。

刑事事件の罪数問題

2019-08-29

刑事事件の罪数問題

刑事事件罪数問題について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

福岡県直方市に住むAさん(30歳)は,強盗目的でBさん(78歳)の自宅に立ち入り,自宅にいたBさんの顔面を力いっぱい殴りつけ,Bさんが怯んだ隙にBさんの財布を奪いました。また、Aさんが逃走しようとしたところ,Bさんの妻であるCさん(75歳)が携帯電話で警察に通報しようとしていたため,Aさんはこれを止めようとCさんを力いっぱい殴りつけ、携帯電話を破壊してその場からと逃走しました。病院での診察の結果、Bさんは加療約1か月の、Cさんは加療約3週間の怪我を負ったことが判明しました。そして、後日、Aさんは、福岡県直方警察署により住居侵入・強盗致傷罪、器物損器罪の容疑で逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)

~ Aさんに対する罪 ~

Aさんは、強盗目的でBさん宅へ立ち入っていますから住居侵入罪(刑法130条前段)が成立することは明らかです。

刑法130条前段
 正当な理由がにないのに、人の住居(略)に侵入し、(略)た者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

次に、強盗致傷罪(刑法240条前段)です。

刑法240条前段
 強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、(略)。

強盗致傷罪は、Aさんのように相手を力いっぱい殴るという行為のように相手方の犯行を抑圧するに足りる「暴行」を加えて財布などの「財物」を奪い、結果として相手に怪我をさせた場合に成立する罪です。このことから、まずBさんに対する強盗致傷罪が成立することは明らかです。
また、強盗致傷罪の「人(被害者)」は、財物を奪われた直接の被害者に限られるものではありません。Cさんのように、警察に通報しようとしている人、強盗犯人を追いかけてきている人なども当然含まれます。AさんはBさんから財物を強取した時点で「強盗」なのですから、Cさんのような人を怪我させた場合でもやはり強盗致傷罪は成立するのです。

~ 刑事事件における罪数問題   ~

ところで、刑事事件において科刑(被告人に刑を科す)上で罪数問題は避けては通れない問題です。
罪数問題とは、簡単にいえば、事件が一罪として処理されるのか、複数の罪(併合罪)として処理されるのか、という問題です。そして、一罪として処理される場合は、併合罪で処理される場合よりかは刑の重さが軽くなる、ということは何となく想像が付くのではないでしょうか?

では、本件は一罪として処理されるのでしょうか?併合罪として処理されるのでしょうか?
まず、Bさんに対する住居侵入・強盗致傷罪は「手段」と「結果」の関係にあることから科刑上は「一罪」として扱われます。これを牽連犯といいます。Cさんに対する罪についても同様の考え方でやはり牽連犯となります。牽連犯の場合、「最も重い刑」、つまり本件では強盗致傷罪の法定刑の範囲内で処断されます。

刑法54条後段
 (略)犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。

~ かすがい現象 ~

次に、「Bさんに対する住居侵入・強盗致傷罪」と「Cさんに対する住居侵入・強盗致傷罪」との罪数関係はどうなるのでしょうか?
この点、「Bさんに対する住居侵入・強盗致傷罪」と「Cさんに対する住居侵入・強盗致傷罪」の2つの罪が成立し「併合罪」となる、とする考え方もあります。
ところが、裁判所(最判昭29年5月27日)は、このような住居侵入罪によって2つの強盗致傷罪が結ばれている

Bさんに対する強盗致傷罪-住居侵入罪-Cさんに対する強盗致傷罪

のような、いわゆる「かすがい現象」においては

科刑上一罪

となることを認めています。
強盗致傷罪の最高刑は「無期懲役」であり、併合罪による刑の長期の引き上げは行われないため、併合罪の場合と科刑上一罪の場合とで法定刑に違いはありません。
ただ、今回は、罪数問題を知っていただくべくご紹介したしだいです。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。24時間、無料法律相談初回接見サービスを受け付けております。

酒気帯び運転等の禁止①~飲酒運転、車両提供罪~

2019-08-28

酒気帯び運転等の禁止①~飲酒運転、車両提供罪~

酒気帯び運転等の禁止(飲酒運転車両提供罪)について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

福岡県朝倉市に住むAさんは、地域の会合の打ち上げに参加するため、妻に会場である居酒屋まで車で送ってもらいました。ところが、Aさんは会合中、タバコを買いに行くため、隣席にいるBさんに「コンビニまでたばこを買いに行きたいけど脚がない。」「車を貸してくれないか。」と言いました。Bさんは、Aさんの顔が赤く、酒を飲んでいることは分かりましたがAさんにしつこく頼まれるため、「コンビニは近いし、事故を起こすこともないだろう」という気持ちからAさんに車の運転キーを渡しました。Aさんは、居酒屋の店主Cさんに、「ちょっと、コンビニ行ってくるから。」と言いました。Cさんは、「Aさんは奥さんに車で送りに来てもらっていたけど、どうやっていくのだろう」「歩いていくのかな」などと疑問に思いましたが、Aさんを止めることはしませんでした。そうしたところ、Aさんはコンビニに行く途中、車を電柱に衝突させる自損事故を起こしてしまいました。そのことがきっかえけで、Aさんは福岡県朝倉警察署酒気帯び運転の罪で、Bさんは車両提供罪で事情を聞かれることになりました。
(フィクションです)

~ 酒気帯び運転等の禁止 ~

夏本番といったところで、お酒を飲む機会が増える方も多いのではないでしょうか?
そこで、改めて「酒気帯び運転等の禁止」に関する規定を確認しておきたいと思います。「酒気帯び運転等の禁止」については、道路交通法65条に規定されています。

第65条 何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
2 何人も、酒気を帯びている者で、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。
3 何人も、第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。
4 何人も、車両(トロリーバス及び旅客自動車運送事業の用に供する自動車で当該業務に従事中のものその他の政令で定める自動車を除く。以下この項、第117条の2の2第6号及び第117条の3の2第3号において同じ。)の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。 

~ 65条1項(酒気帯び、酒酔い運転)について ~

65条1項は「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」と規定されています。
「車両等」の中には、自動車のほか原動機付自転車、自転車も含まれます。

この規定を受けて道路交通法117条の2第1号には「酒酔い運転」を、道路交通法117条の2の2第3号には「酒気帯び運転」を処罰する旨の規定が設けられています。
「酒酔い運転」の罰則は「5年以下の懲役又は100万円以下の罰金」、「酒気帯び運転」の罰則は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。

なお、自転車については「酒気帯び運転」の適用はありませんが、「酒酔い運転」の適用はある(処罰される可能性がある)ことから注意が必要です。

~ 65条2項(車両提供罪)について ~

65条2項は「何人も、酒気を帯びている者で、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。」と規定されています。

「酒気を帯びて」とは、社会通念上酒気帯びといわれる状態をいい、外観上(顔色、呼気等)認知できる状態にあることをいうと解されています。したがって、車両を提供する側(Bさん)が、車両等を提供した時点において、提供を受ける者(Aさん)がその顔色、呼気等から酒気を帯びているとの認識があれば足り、どの程度のアルコール保有量を有しているか、数値はどの程度かといったことまでの認識は必要ではないとされています。
「前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるもの」とは、車両等を提供すれば、酒気を帯びて車両等を運転することとなる蓋然性のあることをいい、車両等提供者(Bさん)において、提供を受ける者が酒気を帯びている者で、酒気を帯びて車両等を運転することとなるおそれがあるとの認識が必要です。
「提供」とは、提供を受ける者が利用し得る状態に置くことをいい、車両等の所在を教え、車のエンジンキーを渡す行為も「提供」に当たります。

以上から、Bさんは車両提供罪に問われる可能性が高いといえます。

車両提供罪の罰則は、運転者が「酒酔い運転」だった場合は「5年以下の懲役又は100万円以下の罰金」、「酒気帯び運転」だった場合は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。このように、たとえ自ら車を運転していない場合でも、

罰則は運転した場合と同様

ですから注意が必要です。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件で逮捕されるなどしてお困りの方は、まずはお気軽に、0120-631-881までお電話ください。専門のスタッフが24時間体制で、初回接見無料法律相談の予約を受け付けております。

交通事故多発?~福岡県、佐賀県~

2019-08-27

交通事故多発?~福岡県、佐賀県~

佐賀県神埼市に住むAさんは、普通乗用自動車を運転して佐賀県神埼市内の国道34号線の道路を走行中、交差点を右折したところ、同交差点を青色信号表示に従って直進してきたVさん運転の普通乗用自動車に自車を衝突させてしまい、Vさんに加療約3週間の怪我を負わせてしまいました。Aさんは、佐賀県神埼警察署に過失運転致傷罪の容疑で事情を聞かれることになりました。Aさんは、今後のことが不安で刑事事件専門の弁護士に無料法律相談を申し込みました。
(フィクションです。)

~ はじめに ~

先日、7月19日、東洋経済データベースより

交通事故が特に起こる自治体ランキング300(2017年中、1000人当たりの交通事故件数)

が発表されました。

調査の対象となった自治体は、

全国の市と東京都の特別区を含む815自治体のうち810自治体(通勤や通学などで人口が集中し、昼間の人口が夜間の人口の2倍以上になる千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区は除外)

とのことです。
それによると、以下のとおり、佐賀県福岡県の自治体が軒並み上位にランクインしており(上位20位の中、8つの自治体が佐賀県福岡県の自治体・・・(泣))、不名誉な記録を打ち出してしまっています。

1位  佐賀県神埼市  12(2017年中、1000人当たりの交通事故件数)
3位  佐賀県佐賀市  9.9
4位  佐賀県小城市  9.9
9位  佐賀県鳥栖市  9.1
11位 福岡県田川市  8.5
12位 福岡県直方市  8.4
15位 福岡県久留米市 8.3
15位 福岡県飯塚市  8.3

ちなみに、福岡県北九州市は26位の「7.5」、福岡県福岡市は43位の「6.9」でした。

~ 地方で交通事故が多い理由 ~

一般的には、公共交通機関の未発達が大きな理由に挙げられるのではないでしょうか?
公共交通機関の未発達⇒自家用車の保有台数増⇒交通事故発生増、という流れができやすくなることは確かです。

また、それに加えてその地域の特殊性も加味しなければなりません。
今回、1位にランクインした佐賀県神埼市は、西は佐賀県佐賀市、南は福岡県久留米市、東は(みやき町を一つ間に挟んで)佐賀県鳥栖市に囲まれた位置にあります。これらの自治体がいずれも上位20以内に属しているのですから、これらの自治体に囲まれた佐賀県神埼市が1位にランキングすることも致し方ないかな?とも思います。また、佐賀県神埼市から福岡県福岡市までは高速で40分~50分と生活圏内です。よって、こうした大都市圏からの車の流入の多さも交通事故が多発する理由の一つとなっています。

~ 交差点での事故 ~

交差点での事故では、直進車対右折車のいわゆる「右直事故」も多いと言われています。今年5月の、園児などが死亡するなどした滋賀県大津市での交通事故もこの右直事故でした。

交差点における直進車と右折車の交通事故においては、通常、

直進車が優先

です。したがって、交差点における直進車と右折車の交通事故の場合、右折車の運転者に過失有りとされることが多いかと思います。これは、道路交通法37条が

車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しようとする車両があるときは、当該車両等の進行を妨害してはならない

としているところに根拠があります。
これを直進車の運転者側から解釈すると

右折車両が交通法規(道路交通法37条)に従って停止し、自車の通過を待つものと信頼して進行することが許されている

ということができます。

しかしながら、どのような場合でも右折車の運転者に過失があり、直進車の運転者には過失がないというわけではありません。例えば、直進車の運転者が法外な速度で交差点に進入してきた場合などです。そのような場合、右折車の運転者において、法外な速度で交差点に進入してくることまで予測して、安全を確認すべき注意義務(過失)はないとされます。

~ おわりに ~

交差点では特に交通事故が起きやすいと言われています。今回、ランキングが発表されたことをきっかけに、上位にランキングされた自治体で車を運転する際には特に注意が必要です。

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犯人は証拠隠滅罪に問われない?②

2019-08-26

犯人は証拠隠滅罪に問われない?②

Yさんを殺したAさんは、その現場にいたVさんにその場で「警察にちくったらどうなるか分かっているのでだろうな」などと言って語気鋭くして脅し、捜査機関への口止めをしていました。しかし、後になって、Aさんは知人Bさんに「あいつ(Vさん)は口が軽いから信用できん。」「お前の方で処分して(殺して)くれないか」と言いました。そして、Bさんは、Aさんから言われたとおりVさんを呼び出し、Vさんを殺害しました。しかし、一連の件が、福岡県博多警察署に発覚し、AさんはYさんに対する殺人罪、Vさんに対する殺人罪の共犯及び証拠隠滅罪の教唆犯、BさんはVさんに対する殺人罪の共犯及び証拠隠滅罪で逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)

~ はじめに ~

前回の「犯人証拠隠滅罪に問われない?①」では、

・Bさんに証拠隠滅罪が成立する

一方で、

・本来、殺人犯人であるAさんには証拠隠滅罪は成立しないこと
・その理由

についてご説明いたしました。今回は、なぜ、Aさんが証拠隠滅罪の教唆犯に問われているのかご説明いたします。

~ Aさんは、なぜ、証拠隠滅罪の教唆犯に問われる? ~

前回、Aさんが証拠隠滅罪に問われないのは、

犯人が証拠の隠滅などを図ることは、人の心情として当然・自然のことで、法律で犯人に「そんなことしたらだめだ!」と強制するには無理があるから(期待可能性がないから)

とご説明しました。しかし、「自ら証拠を隠滅する行為」と「他人を介して証拠を隠滅させる行為」は別の行為だと考えられています。この点に関して、あくまで犯人蔵匿罪での事例ですが、判例(昭和40年2月26日)は、

犯人自身の蔵匿行為が不可罰とされるのは、これらの行為を罰することが刑事訴訟法における被疑者・被告人の防御の地位(黙秘権等が認められています)と相容れないからであるのに対して、他人を教唆してまでその目的を達成しようとすることは、もはや法の放任する防御の範囲を逸脱する

とし、犯人蔵匿罪を教唆した犯人を犯人蔵匿罪の教唆犯に問えると判断しています。犯人蔵匿罪も犯人自身は処罰されませんから、考え方としては証拠隠滅罪にも適用できるのではないかと思います。

~ 教唆犯とは? ~

教唆犯とは、人を教唆して犯罪を実行させた者をいいます。教唆犯が成立するには、

・人を教唆すること
・それに基づいて被教唆者が犯罪を実行すること

の2つの要件がそろうことが必要です。

刑法61条1項 
 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
 
* 教唆とは *

教唆とは、まだ犯罪に対する実行の決意をしていない他人を唆して、犯罪実行の決意を生じさせることをいいます。教唆犯は、自ら犯罪を実行した者(正犯者といいます)と同様の地位にあることから、教唆犯にも正犯者と同様の刑を科すとされています。
教唆は、特定の犯罪の実行を決意させるに足りるもでなければなりません。AさんがBさんに「お前の方で処分してくれないか」と言った行為は、この教唆に当たると判断されたのでしょう。

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誤認逮捕について~防犯ビデオ映像の落とし穴~

2019-08-25

誤認逮捕について~防犯ビデオ映像の落とし穴~

福岡県新宮町に住むAさんは、同町内の大型スーパーで商品8点を万引きしたとして福岡県粕屋警察署に窃盗罪で通常逮捕されてしまいました。Aさんは、取調べを担当した警察官に、「確かに、そのスーパーは私も利用しますが、逮捕事実に記載されている日にはそのスーパーにはいっていません。」「その日は、自宅でごろごろしていました。」「万引きなどしていません。」などと言いました。すると、Aさんは警察官から、「スーパーの防犯カメラにあんたの顔が映っているの。」「これは動かぬ証拠だよ。」「正直にいいなさない。」と言われてしまいました。その後、Aさんに対しては、犯行を否認しているなどという理由で勾留決定が出されてしまいました。ところが、その後、勾留期間3日間が経過した後、粕屋警察署の裏付け捜査によって、万引きをしたのはAさんとよく似たBさんで、犯人はAさんでないことが判明しAさんは釈放されました。
(フィクションです)

~ 誤認逮捕とその特徴 ~

誤認逮捕に関する法律上の定義があるわけではありませんが、誤認逮捕とは、簡単にいえば

白であることが明らかである人を、犯罪の関わった疑いがあるとして逮捕すること

ではないでしょうか?これに対し、「黒か白か分からない人(程度の差こそありますが、いわゆるグレーな人)を逮捕すること」は誤認逮捕とは言わないでしょう。なぜなら、逮捕は犯罪に関わった「疑い」がある人を対象としているからです。だからこそ、誤認逮捕かどうかは逮捕した直後に判明することは稀で、事例のように数日経ってから、あるいは最悪の場合、数年、何十年も経た裁判の結果が出てから(冤罪事件)「あれは誤認逮捕だった」と判明することが大多数です。

~ 繰り返される誤認逮捕 ~

このブログを書こうと思ったのは、先日、「愛媛県で女性が誤認逮捕された(逮捕は今年7月8日)」とのニュースを見たことがきっかけでした。
女性が疑われた事実は、「今年の1月9日、松山市清水町の路上で、タクシーから降りる際に、売上金などが入ったセカンドバックを盗んだ」というものでした。女性は逮捕されその後勾留請求されていますが、請求が却下されたことから釈放されていますが、逮捕後約2日間は社会と隔離された生活を強いられたことは事実ですし、仮に、勾留請求が許可されていたならばもっとさらに拘束期間は伸びていましたし、最悪、裁判で有罪の烙印を押されていたかもしれません。昨年10月には、男性が、東京都中野区内のコインランドリーで女性の衣服を盗んだとして逮捕、勾留され、約3日間、身柄を拘束されています。

~ なぜ、誤認逮捕は繰り返されるのか? ~

一つ目に、ビデオカメラの性能が上がったことによる、捜査官の先入観です。
愛媛の事件ではドライブレコーダーが、東京の事件では防犯ビデオカメラが逮捕の証拠となっていることは明らかです。確かに、防犯ビデオ映像はそこに記録されている状況を客観的に映し出す鏡であり「動かぬ証拠」とも言われています。しかし、その映像を見て、確認するのは捜査員である「人」であり、そこにはどうしても先入観が入り込んでしまうおそれがあるのです。愛媛の事件でも東京の事件でも、捜査員の「この映像に映っている人が犯人だ」という先入観が誤認逮捕の一因となっているのではないでしょうか?(またそのような先入観が、取調べ官の、逮捕された方の話に耳を傾けないという態度に現れてしまいます。)

二つ目に、犯行を裏付ける証拠が不十分であることです。
愛媛の事件では、犯人が犯行時に着ていたとされる服や被害品は、誤認逮捕された女性の近辺からは出てこなかったそうです。また、ドライブレコーダーに映っていた他の同乗者も特定できず、どの同乗者から話を聴くことすらできていなかったようです(誤認逮捕なのですから、同乗者が特定できないのも自然なことで、この時点で警察は「おかしいな」とは思わなかったのでしょうか?)。このように、犯行を裏付ける証拠が不十分なまま逮捕に踏み切ったことが誤認逮捕の原因となっています。警察は「ドライブレコーダーに女性らしき人が映っているから」と安心してしまったのでしょうか?

~ あなたも誤認逮捕の対象に? ~

最近は、以前に比べ、市民の防犯意識が高まり、街中のいたるところで防犯カメラが設置されてあるのをみかけます。しかし、防犯ビデオ映像には、上でご紹介した危険も孕んでおり、よって、あなたもいつ、どこで誤認逮捕の対象とされてしまうか分かりません。もし、逮捕されてしまい困ったという場合(誤認逮捕以外の場合も含め)は、はやめに弊所の弁護士まで弁護活動をご依頼ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件で逮捕されるなどしてお困りの方は、まずはお気軽に、0120-631-881までお電話ください。専門のスタッフが24時間体制で、初回接見無料法律相談の予約を受け付けております。

犯人は証拠隠滅罪に問われない?

2019-08-24

犯人は証拠隠滅罪に問われない?

Yさんを殺したAさんは、その現場にいたVさんにその場で「警察にちくったらどうなるか分かっているのでだろうな」などと言って語気鋭くして脅し、捜査機関への口止めをしていました。しかし、後になって、Aさんは知人Bさんに「あいつ(Vさん)は口が軽いから信用できん。」「お前の方で処分して(殺して)くれないか」と言いました。そして、Bさんは、Aさんから言われたとおりVさんを呼び出し、Vさんを殺害しました。しかし、一連の件が、福岡県博多警察署に発覚し、AさんはYさんに対する殺人罪、Vさんに対する殺人罪の共犯及び証拠隠滅罪の教唆犯、BさんはVさんに対する殺人罪の共犯及び証拠隠滅罪で逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)

~ 証拠隠滅罪は「他人の刑事事件」に関する罪 ~

証拠隠滅罪は刑法104条に規定されています。

刑法104条
 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

この規定を見ていただければお分かりいただけるように、

証拠隠滅罪は「他人の刑事事件」に関する罪

だ、ということがまず大切なポイントです。
ここで「刑事事件」とは、

現に刑事被告事件として刑事裁判中の刑事事件

に限らず、将来刑事被告事件となる可能性のあるもの、すなわち、

現に捜査機関により捜査を受けている刑事事件、あるいは、未だ捜査機関に発覚されていない捜査前の刑事事件

も含まれます。
「他人」とは、自己・行為者以外という意味です。
したがって、本件AさんがYさんに対する殺人事件の証拠を隠滅するなどしても証拠隠滅罪に問われることはありません。

~ どうして罪を犯した犯人は証拠隠滅罪に問われないの? ~

これは、

犯人が証拠の隠滅などを図ることは、人の心情として当然・自然のことで、法律で犯人に「そんなことしたらだめだ!」と強制するには無理があるから(期待可能性がないから)

と考えられているからです。同じ考え方から、罪を犯した犯人には「犯人蔵匿・隠避罪(刑法103条)」は問えないとされています。

~ Bさんは? ~

反対に、Bさんはどうでしょうか?
この点、Bさんからすれば、Aさんの殺人事件は「他人の刑事事件」ですから(もっとも、BさんがYさんに対する殺人事件の共犯者の場合は「他人の刑事事件」とはいえません)、Bさんが証拠隠滅罪に問われる可能性はあります。

ちなみに、「証拠」は、物証(物的証拠)に限られず、人証、すなわち刑事裁判における証人、あるいは捜査段階における参考人も含まれます。
「隠滅」とは、物理的に滅失させるだけでなく、証拠の顕出を妨げ、若しくはその価値を滅失・減少させる全ての行為をいいます。
・証拠物を隠匿すること
・証人又は参考人を逃避させて隠匿すること
・証人、参考人を殺害すること
などは「隠滅」に当たるとされています。

Bさんによって殺害されたVさんは、AさんのYさんに対する殺害行為の一部、あるいは全部を目撃していた方だと思われますから「証拠」に当たります。ですから、やはり、Bさんは証拠隠滅罪に問われる可能性が高いといえます。

~ AさんがVさんに虚偽の供述をさせていたら? ~

では、AさんとVさんが口裏合わせをして、AさんがVさんに、警察官、あるいは検察官に対する虚偽の供述(話)をさせていた場合はどうでしょうか?
この点については、作成される書面が供述録取書(警察官、検察官が作成する書面)であることを理由に本罪は成立しないとした裁判例があります(千葉地方裁判所、平成7年6月2日など)。

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犯罪の実現過程③~中止未遂の中止行為~

2019-08-22

犯罪の実現過程③~中止未遂の中止行為~

Aは長年、Vに対する恨みを抱いており、隙あらば殺そうと考えていました。そして、Aは、知人からVがとある地域のアパートに一人暮らしをしているとの情報を得ました。そこで、AはいよいよVを殺す決意をしました。そこで、Aは殺害用のナイフを購入し、V方アパート付近の下見をするなどしました。そして、Aは、実行日当日、V方アパート近くでVを待ち伏せし、Vが帰宅するのを待ちました。そして、AはVが帰宅したのと同時に、その背後からいきなり、右手に把持していたナイフをVの背中に1回突き刺しました。しかし、AはVから「長年の付き合いではないか。」「頼む、命だけは奪わないでくれ。」と泣きながら懇願されたことから、それ以上突き刺すことをやめ、その場から逃走しました。その後、Vは付近の住民によって119番通報されて駆け付けた救急隊員による救命活動などによって一命をとりとめました。Aは殺人未遂罪で逮捕されてしまいました。

~ はじめに ~

前回、犯罪の実現過程②では、未遂の種類、障害未遂中止未遂の違い、中止未遂の成立要件などについてご説明いたしました。
今回は、中止未遂の残る一つの要件である「中止行為」についてご説明したいと思います。

~ 中止行為について ~

前回のおさらいですが、中止未遂が成立するには、

①犯罪の実行に着手したこと
②結果が発生しなかったこと

に加え、

③自己の意思により犯罪を中止したこと

が必要でした。そして、③の要件が認められるためには、ア「中止意思の任意性」とイ「中止行為」を検討する必要があり、前回はAさんに「中止行為の任意性」は認められるというお話をしました。では、「中止行為」は認められるのでしょうか?この点、中止行為には、実際の線引きは難しいですが、2つのパターンがあると言われています。

= 着手中止 =

犯罪の実行に着手した後、その終了前に実行行為の継続を放棄した場合です。本件は、AさんがVさんの背中を1回刺した後、Vさんから「助けてくれ」などと懇願されていることからも、実行行為の継続中と評価できなくもありません。そこで、本件の場合は、着手中止の場面とされる可能性が高いでしょう。

この場合は、その後の殺害の実行の継続を放棄する(やめる)ことで「中止行為」が認められます。

= 実行中止 =

実行行為の終了後において結果の発生を阻止する場合です。

この場合は、着手中止の場面より実害が発生する(相手が死亡する)危険が高いことから、着手中止と異なり、単なる放棄では足りず、行為者が積極的に結果の発生を阻止するための行為をしたことが必要とされています。
また、中止行為によって現実に結果発生が防止されたという、中止行為と結果不発生との間に因果関係があることを必要とし、それが認められない場合は障害未遂となると一般に考えられています。ただ、中には、「一生懸命中止行為を行ったのだから、中止行為と結果不発生との間に因果関係が認められない場合も中止行為を認めるべきである」と主張する学説もあります。

では、中止行為を一生懸命尽くしたものの、結果が発生してしまった(Vさんが死亡してしまった)場合はどうでしょうか?
この場合は、中止未遂の成立要件である「②結果が発生しなかったこと」の要件を満たしませんから中止行為は成立しないと考えられていますが、中には、先ほどと同様、「一生懸命中止行為を行ったのだから中止未遂を認めるべきだ」などと主張する学説もあるようです。

~ Aさんに中止未遂は成立する? ~

本件は、着手中止の場面である可能性が高いことは先ほどご説明しました。そして、Aさんは、さらにVさんをナイフで刺そうと思えばさすことができたにもかかわらずその場を立ち去っていますから、殺害の実行の継続を放棄しており「中止行為(着手中止)」が認められます。

よって、Aさんには中止未遂が成立する可能性はあると思われます。

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強制性交等事件と故意

2019-08-21

強制性交等事件と故意

北九州市小倉南区に住む会社員のAさん(28歳)は,知人女性Vさん(29歳)の自宅においてVさんに対して無理やり性交を行ったとして,Vさんから福岡県小倉南警察署に被害届を出され、強制性交等罪で逮捕されてしまいました。Aさんは、母親の依頼で接見に来た弁護士に、「Vさんと合意の上で性交したので、被害届を提出されたこと、逮捕されたことには納得がいかない」などと話しています。接見後、弁護士は、Aさんに強制性交等罪を行う故意がないとして検察官に不起訴処分を求めていく弁護活動を始めました。
(フィクションです。)

~ 強制性交等罪 ~

Aさんが疑いをかけられている強制性交等罪は刑法177条に規定されています。

刑法177条
 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

強制性交等罪は、平成29年7月13日に施行された改正刑法によって罪の名称(改正前は「強姦罪」)や構成要件、法定刑が変更されています。強姦罪では、「暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。」とされていました。つまり、罪の客体(被害者)を「女子」→単なる「者(つまり男子を含む)」とすること、行為を「姦淫(陰茎を膣内に挿入すること)」→「性交」のほか「肛門性交」「口腔性交」まで拡大したこと、法定刑を「3年以上の有期懲役」→「5年以上の有期懲役」に変更されています。
また、強姦罪は、被害者の告訴がなければ検察官が公訴を提起(起訴)できない親告罪でしたが、強制性交等罪では非親告罪、つまり被害者の告訴を不要とする罪に変更となったことも大きな変更点です。

~ 強制性交等罪と同意 ~

ところで、強制性交等罪は、被害者の性的自由を保護する(保護法益とする)罪ですから、被害者自身がその保護法益を自ら放棄する場合はもはやその被害者を法で保護する必要はありません。このように、法益の帰属主体たる被害者が、自分にとって処分可能な法益を放棄し、その侵害に同意又は承諾を与えることを被害者の「同意」とか「承諾」といいます。被害者の同意がある場合は、その行為に「違法性がない」とされ、行為者(犯人、被疑者、被告人)が罪に問われることはありません。なお、強制性交等罪の場合、13歳未満の者の「同意」はそもそも有効な同意とはいえないことから(そのような判断能力を備えていないから)、13歳未満の「同意」は本来の「同意」とはいえず、仮に13歳未満の者の表面上の「同意」があったとしても罪に問われてしまいます。

また、強制性交等罪故意犯ですから、行為者を罪に問うには、被害者に対する「暴行・脅迫」の事実に加え、行為者がこの「暴行・脅迫」の事実を認識していたこと(故意)、が認められなければなりません。Aさんのように、強制性交等罪故意を否認する場合は、この「暴行・脅迫の認識」が欠けていること通常です。

~ 故意がないと主張するには? ~

ただし、いくら故意がない、認識がないといっても捜査機関、裁判所は簡単には信じてくれないでしょう。
あなたは「同意があった」、被害者は「同意はなかった」といっているわけですから、どちらの話がより信用できるのか慎重に検討する必要があります。具体的には、あなたと被害者の関係、犯行に至るまでの経緯、犯行現場とされる現場の状況、犯行態様などをできる限り客観的な証拠(メールのやり取りなど)で精査していく必要があります。
その結果、被害者の話が信用できないということになれば、不起訴(嫌疑不十分)、無罪となる可能性が高くなるでしょう。
もっとも、こうした主張をする場合、反対に「反省していない」ともみなされかねませんから、弁護士とよく相談して慎重に検討していく必要があります。

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