1.「取調べの可視化」とは何ですか?
「取調べの可視化」とは、弁護人の取調べへの立会権を認めることや、取調べ状況をすべて録音・録画することをいいます。
現在の実務では、弁護人の取り調べへの立会権は認められていません。
しかし、新法では特定の事件について「取調べの録音・録画」が認められることとなりました。
なお、新法制定前の現在の実務においては、明文がないものの一定範囲で取調べの録音・録画が認められています(※)。
強制捜査においては、多くの場合、警察署留置場への勾留、密室での長時間の取調べ、接見禁止等が行われ、ともするとこれらを手段として自白調書の作成が行われます。
いったん自白調書が作成されてしまうと、裁判においてはこの自白調書が重視され、いわゆる「調書裁判」といわれる審理が行われているのが我が国の刑事裁判の実情です。
このように、自白調書が裁判を支配し、裁判の帰趨を決定するという現実の下では、自白獲得を目的とした密室での捜査活動を抜本的に改善することが最優先の課題といっても過言ではありません。
そこで、刑事訴訟法において新しい規定(録音録画の規定)が設けられました。
- 「密室」の取調べに対処するために裁判員裁判対象事件(国民の関心が高く、社会的にも影響の大きい事件が対象となります)・検察官が独自に捜査する事件(収賄等の罪があげられます)について、警察及び検察官の取調べにつき、原則として取調べの状況についてビデオ撮影(録音・録画)が実施される運びとなりました。
- 検察官は、対象事件に係る被疑者調書として作成された被告人の供述調書の任意性が争われたときは、当該調書が作成された取調べ等における被告人の供述及びその状況を録音・録画した記録媒体の証拠調べを請求しなければなりません。
(※)参考
なお、対象事件以外については録音録画の明文上の義務化はないものの、事件の種類によっては録音録画の申入れをした際には捜査側ができるだけかかる要請に応えるよう通達が出されています。
現在の録音録画の運用は下記のとおりです。
原則として録音録画を実施すべきもの【実施対象事件】
- 裁判員裁判対象事件
- 知的障害がありコミュニケーション能力に問題のある被疑者
- 責任能力の減退・喪失が疑われる被疑者
- 検察独自捜査事件
公判請求が見込まれ、取調べ録音・録画が必要と考えられる事件【施行対象事件】
- 公判請求が見込まれる身柄事件であって、事案の内容や証拠関係等に照らし被疑者の供述が立証上重要であるもの、証拠関係や供述状況等に照らし被疑者の取調状況をめぐって争いが生じる可能性があるものなど、被疑者の取調べを録音・録画することが必要であると考えられる事件
- 公判請求が見込まれる事件であって、被害者・参考人の供述が立証の中核となることが見込まれるなどの個々の事情により、被害者・参考人の取調べを録音・録画することが必要であると考えられる事件
2.誰に対する取り調べで録音・録画が義務付けられるのですか?
逮捕・勾留されている被疑者です。つまり、逮捕前の被疑者や被害者・参考人は対象外です。
3.録音録画されない例外はありますか?
以下の4つの場合が例外として挙げられます。
① 物理的支障
録音機器の故障など、記録が困難なときをあげることができます。
② 本人拒絶など
録音・録画を拒否するなど、記録をすると被疑者が十分に供述できないと認めるときがあげられます。
③ 心理的支障
被疑者の供述内容があきらかにされると、被疑者や親族に危害が及ぶおそれがあり、記録をすると被疑者が十分に供述できないと認めるときがあげられます。
④ 暴力団構成員
指定暴力団の構成員による事件があげられます。
4.対象事件の供述調書を裁判で使うためにはどうすればよいのですか?
自白が被疑者の任意のもとでなされたか否かが争われたとき(自白の任意性が争われたとき)は、その調書作成の取調べ開始から終了までを録音・録画した記録媒体(DVDなど)を証拠として提出しなければならないと明文化されました。
5.取調べの可視化(録音・録画)で何か良いことがあるのですか?
取調べ過程を可視化することにより取調室の密室性が打破されることとなり、その結果、捜査官による違法行為の危険性は著しく減少するといえます。
また、自白が被疑者の任意のもとで行われたかに関して争いが生じても、その争いに関して適切な判断がされやすくなります。
さらに、裁判員制度のもとでは国民にとってわかりやすい裁判手続きが行われるべきであるところ、裁判員に加重な負担を課することなく、自白が任意のもとで行われたかにつき適切に審理を行った上で判断することが可能となります。
6.弁護士に依頼して録音録画の申入れをしてもらおう!
改正刑事訴訟法では、録音録画が義務としてなされるのは、前述のように裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件(収賄等の罪があげられます)の2つに絞られています。
しかし、この対象事件は全事件のわずか3%にすぎません。
ただ、この対象事件以外でも、弁護士が検察官に録音録画の申入書を提出し、直接交渉することにより録音録画がされやすくなります。
特に、否認事件では捜査機関の取調べが厳しくなる傾向にあります。
そのような時、録音録画が認められると、取調べに対する態様も緩和されます。
7.刑事訴訟法で録音・録画の範囲がこれ以上拡大されないのですか?
そうではありません。
法整備のための要綱では、「一定期間経過後必要に応じて見直すこと」を定めています。
前述のように、現在の録音録画の対象事件は全事件のわずか3%にすぎませんが、今後は範囲が広がっていくことが期待できます。
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