実務上、「逮捕又は勾留されている場合」(身体拘束されている場合)は、取調べに応じる義務(いわゆる「取調受忍義務」)があると考えられています。
そして、取調べで話したことは、原則として全て証拠となります。
捜査側は事案の解明を目指すべく時に厳しい取調べを行うこともあります。
現在の実務の運用では、弁護人の同席は認められていません。そのため、思いもよらず自分に不利な供述をさせられるおそれがあります。
早期に弁護士に依頼して適切な見通しとアドバイスを受けることが、身体拘束の長期化を防ぎ、より有利な処分を獲得しやすくなります。
ここでは取調べを受ける際の権利とともに弁護人に依頼することの重要性を説明します。
1 接見交通権
身体拘束中の被疑者は、様々な防御活動を自ら積極的・効果的に行うのが困難です。
そこで重要となるのが、被疑者が外部の者と連絡を取る機会(直接面会する機会)の保障です。
この、身体拘束中の被疑者が外部者と直接面会することをとくに「接見」といい、そのほか書類や物の授受を含めた外部との連絡手段全体をさして「接見交通」といいます。
(弁護士による接見について)
刑事訴訟法39条1項は、「身体の拘束を受けている被疑者・被告人は、弁護人又は弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という)と立会人なしに接見し、書類若しくは物の授受をすることができる」と規定しています。
身体拘束下にある方は、自らの権利を行使する知識・手段などを持ち合わせていないのが通常ですので、弁護士が知識、今後の見通し、対応・防御方法を伝授するために接見交通権が認められています。
このように、弁護士が接見を行うことにより、被疑者の方の自己防御権を補完することができます。
(弁護士以外(ご家族等)の接見について)
刑事訴訟法は、「勾留されている」被疑者は、弁護人以外の者と「法令の範囲内」で接見し、または書類・物の授受をすることができると規定しています。
(弁護士による接見と弁護士以外による接見の違いについて)
現行法あるいは実務上、弁護士による接見交通権の方が手厚い保護がなされています。
まず、①弁護士以外(ご家族等)は逮捕後勾留されるまで(最大72時間)被疑者との面会(接見)が認められていません。
あくまで、被疑者が勾留されている場合に面会が認められます。但し、捜査関係者の立会いや時間制限のもとで面会が認められるにすぎません。
また、②裁判官は逃亡や罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由がある場合にはご家族との面会を禁止できます。
一方、弁護士の面会は原則として自由です。しかも捜査関係者の立会いや時間制限もありません。
逮捕・勾留されている方は、密室空間で行われる長い取調べに耐えなければならないうえに、外部との連絡も絶たれ、精神的に参ってしまうことも少なくありません。
このような状況では、取調べで対応を誤り、取り返しのつかない事態を招くおそれすらあります。
ですから、速やかに弁護士を派遣することで、身柄拘束を受けている方を安心させることが大切です。
被疑者・被告人は、弁護士との接見交通権を行使することで、弁護士に事件のことを相談し、アドバイスを受けることができます。
また、ご家族へのご伝言やご家族からの伝言・差入れ等、弁護士を通じて行うことも可能です。
2 黙秘権
取調べの際、自己の意思に反して発言しない権利があります。
しかし、どのような場合にこの権利を使うかは難しい問題です。
本当に犯人でないのであれば「自分はやっていない」と主張した上で黙秘した方が効果的な場合がありますが、積極的に取調べに応じることが反省の態度を示すことになり、後の刑事処分が軽くなる場合もあります。
事前に弁護士と相談されたうえで、この権利を効果的に使うことをお勧めします。
3 増減変更申立権(調書の内容に不足・不要な部分がある場合に使用する権利)
一言でいうと、供述調書の内容を訂正してもらうことができる権利があります。
取調べで話した内容は「供述調書」に記録されます。そして、そのあと、捜査機関より調書の読み聞かせの時間がありますが、その際、「間違い」があれば当該箇所を直してもらうことができます。
ここで「間違い」には、ちょっと言い回しの違いや、ニュアンスの違いも含みます。
自分だったらこういう言い回しをしないと感じた場合には、遠慮なく訂正を求めてください。
自分の言い方に直してください。権利として認められています(刑事訴訟法198条4項)。
だいたい意味同じだったらよいと思ってサインすると、そういうものが積み重なって、後々不利益に働く可能性があります。
なお、捜査機関が直してくれなかった場合には、「署名押印を拒否」(下記4参照)することにより対応しましょう!
4 署名押印拒否権(取調官が作成した調書に誤りがあるときに使う権利)
3で記載しましたように、取調べで話した内容は「供述調書」に記録されます。
そして、その供述調書にサインと指印(署名押印)をおすと、その供述調書が証拠となります。
つまり、「捜査機関に発言した内容が間違いのないもの」として後の裁判で取り扱われます。
しかし、署名押印は義務ではありません。
仮に、調書が100%正しい内容であっても、あなたは署名押印を拒めます。
まして、「自分はそんな話をしなかったのに、事実とは違うことが調書に記載されていたら」その調書の署名押印を拒めるのは当然です。
署名押印拒否は権利として認められています(刑事訴訟法198条5項)。
供述調書が作られても、署名押印をしなければ、その供述調書は証拠として扱われません。
署名押印するか迷った場合は、いったん保留して弁護士に相談しましょう!
5 弁護人選任権
被疑者や被告人には、いつでも法律の専門家である弁護人を選任することができる権利が、法律上保障されています。これを弁護人選任権といいます。
勾留請求されるまでは国選弁護人を選任できませんが、私選弁護人の選任は可能です。
早期に適切なアドバイスをえることにより、今後の見通しをしっかりたてることができる上、有利な結果を獲得しやすくなります。
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