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【事例解説】電子計算機使用詐欺罪とその弁護活動(電子マネーを不正送金した架空の事例に基づく解説)

この記事では、架空の事例を基に、電子計算機使用詐欺罪がどのような場合に成立し、弁護活動がどのように展開されるかを解説します。
事例紹介:電子マネーを不正送金したケース
北九州市在住の同市職員の男性Aが、同市在住の会社員女性Vのスマートフォン上の電子決済アプリのアカウントから、Vになりすまして虚偽の送金情報を入力し、自身のアカウントに8万円相当の電子マネーを不正送金したとして、電子計算機使用詐欺の容疑で逮捕されました。
警察の調べによると、AとVは飲食店で知り合った後にA宅で過ごし、翌日Vが帰宅後に自身のアカウントの電子マネー残高が減っていることに気づき、同署に相談したことから捜査が開始され、送金履歴などからAの不正送金が発覚したとのことです。
Aは、電子計算機使用詐欺の容疑を認めています。
(事例はフィクションです。)
電子計算機使用詐欺罪とは
人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて、財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、財産上不法の利益を得た者は、10年以下の懲役に処する、と定められています(刑法第246条の2)。
詐欺罪(刑法第246条)が、人を欺き財物を交付させたり、財産上の利益を得た場合などに成立するのに対し、電子計算機使用詐欺罪は、「電子計算機」(パソコン、スマートフォンなどの電子機器全般)に虚偽の情報を入力することなどにより、財産上の利益を不正に得る場合などに成立します。
「虚偽の情報」とは、電子計算機のシステムにおいて予定されている事務処理の目的に照らし、その内容が真実に反する情報、とされます。
電子マネーの送金は、通常本人の意思に基づき行われるものであるため、送金する約束もないのに本人になりすまして入力した送金情報は、真実に反する「虚偽の情報」に当たると考えられます。
また、「財産権の得喪若しくは変更に係る電磁的記録」について、ネットバンキングの預金残高や電子決済アプリの電子マネー残高は、通常これに該当します。
本件で、送金する約束もないのにVになりすまして入力した送金情報によって、「不実の電磁的記録」が作出されたといえ、不正送金した金額が、自身のアカウントの電子マネー残高に反映された時点で、Aは当該残高相当の電子マネーを自由に利用することができると考えられるため、「財産上不法の利益」を得たものと通常認められます。
よって、本件Aの不正送金行為は、電子計算機使用詐欺罪が成立し得ると考えられます。
なお、AがVの電子決済アプリのアカウントに不正にログインした行為については、「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」(不正アクセス禁止法)第3条違反が別途成立する可能性があります(法定刑は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金)。
市役所職員による電子計算機使用詐欺事件の刑事弁護
電子計算機使用詐欺罪は罰金刑の定めがないため、起訴され有罪となった場合、執行猶予が付く可能性はありますが、懲役刑が科せられることとなります。
Aは地方公務員であることから、起訴され有罪となり懲役刑が科せられた場合、執行猶予が付いたとしても、地方公務員法第16条1号で定める「禁錮以上の刑に処せられた者」に該当し、原則として失職することとなります(同法第28条4項)。
そのため、不起訴処分の獲得を目指して、早期に被害者に対する謝罪及び被害弁償を行った上、示談成立に向けた交渉を行うことが重要ですが、本件のような詐欺事件では、銀行や電子決済アプリ運営会社がVに被害金額を補填する場合もあり、示談交渉の相手先が必ずしもVとは限らない可能性もあります。
よって、示談交渉を行うに際しては、事前に十分な検討を要するため、刑事事件に強く、詐欺事件の示談交渉の経験豊富な弁護士への相談をお勧めします。
福岡県の電子計算機使用詐欺事件に関するご相談は
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件に強く、電子計算機使用詐欺などの詐欺事件において、示談成立による不起訴処分を獲得した実績が多数あります。
電子マネーの不正送金などの電子計算機使用詐欺事件でご家族が逮捕されるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部へご相談ください。
【事例解説】事後強盗罪とその弁護活動(万引き犯が逃走時に店員を転倒させた架空の事例に基づく解説)

この記事では、架空の事例を基に、事後強盗罪がどのような場合に成立し、弁護活動がどのように展開されるかを解説します。
事後強盗罪とは
窃盗犯が、財物を取り返されるのを防ぐこと、逮捕を免れること、罪跡を隠滅すること、のいずれかの目的をもって「暴行」を加えた場合に、事後強盗罪が成立すると定められています(刑法第238条)。
例えば、万引きは、通常、窃盗(刑法第235条)にあたる行為ですが、万引き犯が、万引きに気づいた店員や警備員らに捕まらないよう逃走する際に、店員らに「暴行」を加えたりすると、窃盗罪ではなく強盗罪が成立する場合があります。
事例紹介:万引き犯が逃走時に店員を転倒させたケース
福岡市在住の主婦Aが、同市内のドラッグストアで化粧品を万引きして店外に出た直後、呼び止めた店員女性Vの身体に接触し床に転倒させ、逃走したとして、事後強盗の容疑で逮捕されました。
福岡県博多警察署の調べに対し、Aは、「万引きしたことに間違いはないが、逃走の際に店員に接触し転倒させるつもりはなかった。」と供述しています。なお、Vに怪我はないとのことです。
事後強盗罪の弁護活動
窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金ですが、事後強盗罪の法定刑は、強盗罪と同じく、5年以上の有期懲役と格段に重くなり、事後強盗罪で起訴された場合、原則として執行猶予が付くことはなく、懲役刑の実刑となる可能性が高いです。
本件で、Aは「店員に接触するつもりはなかった」と供述していることから、事後強盗の故意(罪を犯す意思)を争うことも考えられますが、故意は、積極的に結果の発生を意図する場合だけでなく、結果が発生するかもしれない、又は発生してもかまわない、という認識がある程度でも認められるため、本件のような状況で、故意を争うのは容易ではないと思われます。
他方で、暴行の態様が比較的軽微であり、Vに怪我もないことから、被害者であるVとドラッグストアに対する真摯な謝罪と被害弁償を行った上、示談が成立することで、不起訴処分や刑の酌量減軽による執行猶予を得られる可能性を高めることが期待できます。
万引きは、常習性があることも多く、被害店舗の経営に大きな打撃を与える行為であることから、被害店舗によっては、被害弁償には応じるが示談交渉には応じない、加害者に厳罰を求める、という強い態度を示す場合も少なくないため、示談交渉は、刑事事件に強く、示談交渉の経験豊富な弁護士への依頼をお勧めします。
福岡県の事後強盗事件に関するご相談は
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件に強く、事後強盗事件において、示談成立による不起訴処分を獲得した実績があります。
事後強盗事件でご家族が逮捕されるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部へご相談ください。
【事例解説】窃盗罪の余罪取調べと黙秘権の行使
窃盗(万引き)の容疑で逮捕され、取調べにおいて余罪を追及された架空の事件を参考に、余罪取調べにおける黙秘権の行使について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
参考事件
令和5年8月12日、福岡市在住の男子大学生A(22歳)は、コンビニで万引きしたところを店員に通報され、窃盗の容疑で逮捕されました。
Aは、それ以前に他のコンビニで複数回万引きをしたことがありますが、発覚して通報されたのは今回が初めてであり、取調べにおいて、余罪として過去に行った万引き(窃盗)の有無も聴取されましたが、曖昧な返答に終始しました。
翌日、Aは身元引受人となる保護者と同居していることもあり、検察官に送致されず釈放され、次回取調べ予定を告げられました。
Aは、次回取調べ時に、余罪を正直に申告した方が良いか悩んでおり、刑事事件に強い弁護士に相談しました。
(事例はフィクションです。)
余罪とは
余罪とは、ある犯罪事実が捜査や起訴の対象となっている場合に、まだ捜査や起訴の対象となっていない別の犯罪事実のことです。
本件では、捜査の対象は、令和5年8月12日の窃盗ですが、それ以前(以後)にAが行った窃盗やその他の犯罪が余罪となります。
特に、窃盗は、生活困窮という動機によるものや、窃盗症(クレプトマニア)などの精神疾患によるものなど、繰り返し行われることが多い犯罪のため、取調べにおいて余罪を厳しく追及されることがあります。
余罪取調べと黙秘権の行使について
余罪取調べは、少なくとも任意で行われる限りは違法でないと解されますが、厳しい追及により余罪の申告を強要されるおそれがないとも言えないため、刑事訴訟法で保障される黙秘権の規定に留意する必要があります。
「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」との憲法第38条第1項を受けて、取調べにおける被疑者の黙秘権の行使を保障するために、「被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨」の権利告知が規定されています(刑事訴訟法198条第2項)。
よって、取調べに対し余罪の申告を行わないことは、被疑者の法的な権利として保障されています。
余罪取調べにおける黙秘権行使についての刑事弁護
黙秘権の行使が被疑者の権利として保障されるとはいえ、余罪を追及された際に、正直に余罪を申告した方が良いかどうかは、個々の場合によるため一概には言えません。
黙秘権の行使により不利益な取り扱いを行うことは本来許されないものですが、事実上、取調べが厳しくなることや、逮捕・勾留による身体拘束からの解放の判断に不利な影響を及ぼすおそれがあります。
また、防犯カメラ映像など、明らかな物的証拠があることが考えられる場合には、黙秘権を行使してもあまり意味をなさず、却って、後に発覚した場合に不利な情状となるおそれもあります。
このように黙秘権行使による事実上の不利益がある一方、黙秘することで結局、捜査機関が犯罪を証明できるだけの証拠が得られず不起訴処分になる可能性もあります。
余罪についての黙秘権の行使の判断は非常に難しい問題であること、捜査機関の厳しい追及や誘導に対して黙秘権を行使を貫くのは困難を伴う場合もあることから、被疑者本人が自分で対応を決めるのは避け、刑事事件に強い弁護士に相談した上で対応することをお勧めします。
福岡県の刑事事件に関するご相談は
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件に強く、窃盗罪をはじめとする様々な刑事事件において、取調べ対応の豊富な実績があります。
自身やご家族が窃盗罪で警察の取調べを受け、余罪の申告のことでお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部にご相談ください。
【事例解説】乗り捨てされた自転車の一時使用による占有離脱物横領罪(後編)
前回に引き続き、共同住宅に乗り捨てされた放置自転車を一時的に使用したことで、占有離脱物横領罪で取調べを受けた架空の事件とその弁護活動ついて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
参考事件
北九州市内の共同住宅に居住する自営業男性A(42歳)は、共同住宅の駐輪場に数日前から放置されている鍵の付いていない自転車を、近所のスーパーなどへの買い物で2時間程度、繰り返し使用するようになりました。
いつもの通り自転車に乗って近所のスーパーに向かっていたとき、鍵の付いていない自転車を見て不審に思った警察官に呼び止められ、職務質問を受けました。
警察の調べで、Aが使用していた自転車は、数日前に窃盗の被害に遭い乗り捨てられたものであることが判明し、Aは占有離脱物横領の容疑で警察の取調べを受けることとなりました。
(事例はフィクションです。)
前回の前編では、占有離脱物横領罪の成立について、「不法領得の意思」以外の要件を解説しました。
不法領得の意思とは
不法領得の意思とは、窃盗罪や横領罪などの領得罪の成立において、不可罰的な一時使用行為や、罪質の異なる毀棄・隠匿罪との区別のために、故意と別個の主観的要件として必要とされるものです。
窃盗罪の判例ですが、不法領得の意思の内容は、(1)所有者などの権利者を排除して他人の物を自己の物として振る舞う意思(権利者排除意思)と、(2)他人の物をその経済的用法に従い、利用又は処分する意思(利用・処分意思)、とされます。
本件における占有離脱物横領罪の成立について、Aが自転車を、近所のスーパーなどへの買い物で2時間程度使用した行為に、(1)権利者排除意思や(2)利用・処分意思が認められるか問題となり、自転車の使用時間や使用方法、自転車自体の価値や使用に伴う価値の減少の程度、自転車の所有者の利用可能性の排除の程度、など様々な要素から判断されると考えられます。
窃盗罪や占有離脱物横領罪の裁判例では、乗り捨ての意思がなく元の場所に返還する意思をもって、短時間、他人の自転車を一時使用した行為について、不法領得の意思が認められないとして、罪の成立を否定したものもありますが、判例上明確な基準が確立されているわけではなく、自転車の一時使用で不法領得の意思を認めた裁判例もあります。
一時使用による占有離脱物横領罪の弁護活動
不法領得の意思が認められないとして、占有離脱物横領罪の成立を争うことも可能ではありますが、早期に被害者との示談を成立させ不起訴処分での事件の終了を目指すことも、現実的な選択肢の一つと考えられます。
本件における被害者は、自転車の所有者となります。所有者から自転車を窃盗した犯人が別にいるとはいえ、占有離脱物横領罪に係る自転車の使用によって、所有者が自転車を使用する権利が損なわれていることは間違いないため、これに対して謝罪と被害弁償を行う意味は十分にあると考えられます。
弁護士であれば通常、示談交渉のために捜査機関から被害者の連絡先を教えてもらえると考えられ、刑事事件に強い弁護士であれば、しっかりした内容の示談が成立する可能性が見込まれ、不起訴処分で事件が終了する可能性を高めることが期待できます。
また、本件では、取調べにおいて自転車の窃盗の容疑も追及される可能性も考えられますが、窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金と、占有離脱物横領罪と比べると重いため、取調べ対応について刑事事件に強い弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めします。
福岡県の刑事事件に関するご相談は
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は刑事事件に強く、占有離脱物横領罪などの財産犯の刑事事件において、示談成立による不起訴処分を獲得している実績が多数あります。
占有離脱物横領罪で自身やご家族が警察の取調べを受けるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部へご相談ください。
【事例解説】乗り捨てされた自転車の一時使用による占有離脱物横領罪(前編)
共同住宅に乗り捨てされた放置自転車を一時的に使用したことで、占有離脱物横領罪で取調べを受けた架空の事件とその弁護活動ついて、前編・後編に分けて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
参考事件
北九州市内の共同住宅に居住する自営業男性A(42歳)は、共同住宅の駐輪場に数日前から放置されている鍵の付いていない自転車を、近所のスーパーなどへの買い物で2時間程度、繰り返し使用するようになりました。
いつもの通り自転車に乗って近所のスーパーに向かっていたとき、鍵の付いていない自転車を見て不審に思った警察官に呼び止められ、職務質問を受けました。
警察の調べで、Aが使用していた自転車は、数日前に窃盗の被害に遭い乗り捨てられたものであることが判明し、Aは占有離脱物横領の容疑で警察の取調べを受けることとなりました。
(事例はフィクションです。)
占有離脱物横領罪とは
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する、と定められています(刑法第254条)。
「占有を離れた他人の物」とは、所有者の意思に基づかずにその占有を離れ、誰の占有にも属していない物とされます。
本件の自転車が、共同住宅の住人の所有物であるなど他人の占有する物だった場合には、窃盗罪の問題になり得ますが、実際は乗り捨てされた物で、既に所有者など他人の占有する状態になかったといえることから、占有離脱物横領罪の問題になったものと考えられます。
占有離脱物横領罪における「横領」とは、不法領得の意思をもって、自己の占有する占有離脱物を自己の事実上の支配下に置くこと、とされます。
本件のAが、占有離脱物である本件自転車を、買い物で2時間程度使用することは、「自己の事実上の支配下に置く」ものとして占有離脱物横領罪の成立が考えられますが、一時的に使用した行為でもあることから、「不法領得の意思」の有無が問題になると考えられます。
次回の後編では、占有離脱物横領罪における「不法領得の意思」について、詳しく解説します。
一時使用による占有離脱物横領罪の弁護活動
不法領得の意思が認められないとして、占有離脱物横領罪の成立を争うことも可能ではありますが、早期に被害者との示談を成立させ不起訴処分での事件の終了を目指すことも、現実的な選択肢の一つと考えられます。
本件における被害者は、自転車の所有者となります。所有者から自転車を窃盗した犯人が別にいるとはいえ、占有離脱物横領罪に係る自転車の使用によって、所有者が自転車を使用する権利が損なわれていることは間違いないため、これに対して謝罪と被害弁償を行う意味は十分にあると考えられます。
弁護士であれば通常、示談交渉のために捜査機関から被害者の連絡先を教えてもらえると考えられ、刑事事件に強い弁護士であれば、しっかりした内容の示談が成立する可能性が見込まれ、不起訴処分で事件が終了する可能性を高めることが期待できます。
また、本件では、取調べにおいて自転車の窃盗の容疑も追及される可能性も考えられますが、窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金と、占有離脱物横領罪と比べると重いため、取調べ対応について刑事事件に強い弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めします。
福岡県の刑事事件に関するご相談は
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は刑事事件に強く、占有離脱物横領罪などの財産犯の刑事事件において、示談成立による不起訴処分を獲得している実績が多数あります。
占有離脱物横領罪で自身やご家族が警察の取調べを受けるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部へご相談ください。
【少年事件解説】同級生に万引きを行わせた中学生 窃盗容疑で警察の取調べ(後編)
前回に引き続き、同級生に万引きを行わせたことにより、中学生が窃盗容疑で警察の取調べを受けた架空の事件を参考に、間接正犯や教唆犯・共同正犯の成立について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
参考事件
北九州市内の中学校に通う少年A(15歳)は、同校内の特別支援学級に通う知的障害を有する同級生のBに命じ、家電量販店で欲しかったゲームソフト1点の万引きを行わせ、Bから回収しました(X事件)。
犯行後、Bは体調不良で学校を欠席するようになりました。Aは別の同級生Cに「前に成功した店だから絶対に大丈夫。」と唆し、同店でCにゲームソフト数点の万引きを行わせ、Cから情報提供料として内1点を譲り受けました(Y事件)。
後日、被害に気づいた同店が警察に被害届を提出し、防犯カメラの映像からBとCの犯行が明らかになりました。BとCは、警察の取調べに際しAの関与を供述したことから、Aは窃盗の容疑で警察の取調べを受けることとなりました。
(事例はフィクションです。)
前回の前編では、X事件における間接正犯の成立について解説しました。
教唆犯及び共同正犯の成立について
人を教唆して犯罪を実行させた者は、教唆犯が成立します(刑法第61条)。
Y事件で、CはAから唆されて万引きを実行しましたが、Aに意思を抑圧されるような両者の関係性は見受けられず、Cは万引きしたゲームソフトのほとんどを自分の物としている点で、X事件とは異なり、Cに窃盗罪の正犯、Aに同罪の教唆犯が成立することがまず考えられます。
なお、AがCから万引きしたゲームソフトを譲り受けた点について、盗品を無償で譲り受けたとして、Aに盗品等無償譲受け罪も成立し得ます(刑法第256条第1項)。
他方で、Aは万引きにより得た利益を享受しており、自らの犯罪としてCに万引きを行わせる意思を有していたとも言い得ます。
そのため、万引きの計画や実行の際に、Aが一定の役割を担った事実が認められるなどした場合、窃盗罪の教唆犯ではなく、2人以上で共同して犯罪を実行したものとして、窃盗罪の正犯(共同正犯)が成立する可能性もあります(刑法第60条)。
なお、Aに窃盗罪の正犯(共同正犯)が成立する場合は、AがCから万引きしたゲームソフトを譲り受けた点は、窃盗罪の正犯の中で評価されているため、別途、盗品等無償譲受け罪は成立しないと考えらえられます。
少年が万引きに関与して取調べを受ける場合の弁護活動
窃盗罪は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金を科する、とされる罪ですが、本件は15歳の少年による事件のため、原則として刑事裁判や刑事罰の対象とはならず、少年法における少年事件として取り扱われます。
ただし、捜査段階では成人の刑事事件と原則同じ手続きとなるため、逮捕・勾留され、長期の身体拘束を強いられる可能性はあります。
そうした不利益を回避する可能性を高めるためにも、できるだけ早期の段階で刑事事件や少年事件の弁護活動の実績が豊富な弁護士に相談し、事件の見通しや取調べ対応などについて法的な助言を得ることをお勧めします。
福岡県の刑事事件・少年事件に関するご相談は
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は、主に刑事事件や少年事件を取り扱っており、窃盗の刑事事件・少年事件対応の豊富な実績があります。
ご家族の少年が窃盗に関与したとして警察の取調べを受けるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部にご相談ください。
【少年事件解説】同級生に万引きを行わせた中学生 窃盗容疑で警察の取調べ(前編)
同級生に万引きを行わせたことにより、中学生が窃盗容疑で警察の取調べを受けた架空の事件を参考に、間接正犯や教唆犯・共同正犯の成立について、前編・後編に分けて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
参考事件
北九州市内の中学校に通う少年A(15歳)は、同校内の特別支援学級に通う知的障害を有する同級生のBに命じ、家電量販店で欲しかったゲームソフト1点の万引きを行わせ、Bから回収しました(X事件)。
犯行後、Bは体調不良で学校を欠席するようになりました。Aは別の同級生Cに「前に成功した店だから絶対に大丈夫。」と唆し、同店でCにゲームソフト数点の万引きを行わせ、Cから情報提供料として内1点を譲り受けました(Y事件)。
後日、被害に気づいた同店が警察に被害届を提出し、防犯カメラの映像からBとCの犯行が明らかになりました。BとCは、警察の取調べに際しAの関与を供述したことから、Aは窃盗の容疑で警察の取調べを受けることとなりました。
(事例はフィクションです。)
間接正犯の成立について
万引きは、他人の財物を窃取する行為であり、窃盗罪が成立します(刑法第235条)。
万引きを直接実行したのは、X事件ではB、Y事件ではCですが、関与したAにも同罪が成立するか問題となります。
自身で直接犯行を行わなくても、事情を知らない他人や、幼児などの是非を弁識する能力のない者を利用して犯行を行う場合、正犯が成立するとされます(これを「間接正犯」といいます。)。
具体的には、他人を利用する者が、(1)自らの犯罪として行う意思を有し、(2)他人の行為を道具として一方的に支配・利用した、と認められる場合に間接正犯が成立し得ると解されます。
X事件で、(1)について、Aは自分の欲しかったゲームソフトの万引きをBに行わせ、回収し自分の物としている点で、自らの犯罪として行う意思を有したと認定し得ると考えられます。
(2)について、Bは特別支援学級に通う知的障害を有する生徒であることから、是非を弁識する能力のないBをAが一方的に利用したものと認められる可能性が十分にあります。
以上のことから、X事件で、Aに間接正犯として窃盗罪が成立し得ると考えらえます。
なお、この場合、Bは心神喪失(精神の障害により、善悪を区別する能力が全くない状態)に当たるとして、不可罰になると考えられます。
次回の後編では、Y事件における教唆犯及び共同正犯の成立について解説していきます。
少年が万引きに関与して取調べを受ける場合の弁護活動
窃盗罪は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金を科する、とされる罪ですが、本件は15歳の少年による事件のため、原則として刑事裁判や刑事罰の対象とはならず、少年法における少年事件として取り扱われます。
ただし、捜査段階では成人の刑事事件と原則同じ手続きとなるため、逮捕・勾留され、長期の身体拘束を強いられる可能性はあります。
そうした不利益を回避する可能性を高めるためにも、できるだけ早期の段階で刑事事件や少年事件の弁護活動の実績が豊富な弁護士に相談し、事件の見通しや取調べ対応などについて法的な助言を得ることをお勧めします。
福岡県の刑事事件・少年事件に関するご相談は
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は、主に刑事事件や少年事件を取り扱っており、窃盗の刑事事件・少年事件対応の豊富な実績があります。
ご家族の少年が窃盗に関与したとして警察の取調べを受けるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部にご相談ください。
【事例解説】特殊詐欺で勾留 接見禁止解除の弁護活動
特殊詐欺事件で逮捕・勾留され、接見禁止決定がなされた事件を参考に、接見禁止解除の弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
参考事件
福岡市在住の男子大学生A(21歳)は、アルバイト先の先輩からの誘いをきっかけに高齢者を騙して現金を振り込ませる特殊詐欺事件に加担したことで、詐欺の容疑で逮捕され、福岡県中央警察署の留置場に身体拘束されました。
中央警察署からAの父Bに、Aが逮捕されたという連絡があった2日後、再び警察からBに、Aに対して10日間の勾留が決定したことと併せて、接見禁止決定がなされたため面会できない旨の連絡がありました。
Aと早く面会して直接話をしたいBは、刑事事件に強い弁護士にどうしたらよいか相談しました。
(事例はフィクションです。)
接見禁止決定とは
被疑者が警察に逮捕された場合、通常、警察所の留置場に身体拘束されます。逮捕後から勾留決定前は、弁護人及び弁護人となろうとする者以外との面会は基本的に認められていないため、家族であっても被疑者と面会をすることはできません。
逮捕から最大3日間の身体拘束後に勾留決定が行われる際に、接見禁止決定がなければ、面会時間や警察官の立会等の制約はありますが、家族を含めて一般の方でも面会することが通常可能となります。
しかし、事例の特殊詐欺事件のような複数の共犯者がいる組織的な犯罪の場合は、被疑者が一般面会を利用して、口裏合わせなどの証拠隠滅を図ることを防ぐため、勾留決定と併せて接見禁止決定が裁判所によりなされることが多いです。
身体拘束を受けたまま起訴された場合、基本的には、判決が出されるまで身体拘束が継続することになります。起訴されてから判決が出るまでの期間は、場合によっては数か月やそれ以上に及ぶこともあり、接見禁止決定がなされると、そのままでは家族であっても長期間面会できない可能性があります。
接見禁止解除の弁護活動
接見禁止決定は、逃亡・罪証隠滅すると疑うに足りる相当な理由があることが要件(刑事訴訟法第81条)ですが、事件と無関係の両親との面会により、逃亡・罪証隠滅することが疑われる可能性は一般的に低いと思われます。
そこで、弁護人は、接見禁止決定に対して、その一部の解除、例えば、両親等の特定の親族との関係においてのみ面会を許すよう、裁判所に申立てを行い、被疑者と両親等との早期の面会を可能とする弁護活動を行うことが考えられます。
接見禁止の一部解除の申立てにおいて、対象者が事件と関係ないため被疑者との面会を認めても逃亡・罪証隠滅の恐れがないこと、対象者と被疑者との間で接見を認める必要性があることなどを申述する必要があり、経験の豊富な弁護人からの申立てが有効です。
福岡県の刑事事件に関するご相談は
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は、被疑者が身体拘束され接見禁止決定がなされた刑事事件も多数取り扱い、接見禁止解除の弁護活動により、被疑者とご家族との早期の面会を可能とした実績が多数あります。
ご家族が逮捕・勾留され、接見禁止決定がなされて面会ができないなどしてお悩みをお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部にご相談ください。
【事件解説】特殊詐欺グループの「出し子」を窃盗罪で逮捕
不正に入手した他人名義のキャッシュカードでATMから現金を引き出したとして、特殊詐欺グループの「出し子」が逮捕された窃盗事件とその弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
事件概要
福岡市在住の会社員男性A(21歳)が、特殊詐欺の「出し子」として、指示役の男が不正に入手したV名義のキャッシュカードを使用し、同市内のコンビニのATMで現金50万円を引き出したとして、窃盗の容疑で逮捕されました。Aは、窃盗の容疑を認めています。
(過去に報道された実際の事件に基づき、一部事実を変更したフィクションです。)
窃盗罪で逮捕された理由
本件Aは、特殊詐欺の一環として犯行を行っていますが、窃盗罪で逮捕されています。詐欺罪は、「人を欺くこと」が要件ですが、Aの行為は、機械であるATMから現金を引き出したものであり、人を欺いたとは言えないため、詐欺罪が成立しないためです。
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する、と定められています(刑法第235条)。
「窃取」とは「財物の占有者の意思に反して、その占有を侵害し、自己又は第三者の占有に移すこと」を言います。
預金口座の残高に相当する金員については、銀行が、保有している資金の一部としてATM内に現金で保管(「占有」)しています。
また、銀行は預金者のみが使用することを前提にキャッシュカードを発行しており、預金者と何ら関係ない者が当該キャッシュカードを利用してATMから現金を引き出すことは、銀行の意思に反すると言えます。
以上のことから、Aが「出し子」として行った行為は、ATM内の現金(「財物」)を占有する銀行の意思に反して、V名義のキャッシュカードで当該現金を引き出し、自己の占有に移したもの(「窃取」)として、被害者を銀行とする窃盗罪が成立すると考えられます(判例同旨)。
なお、指示役の男がキャッシュカードを不正に入手した行為について、Vに対する詐欺罪等の犯罪が別途成立しているものと考えられます。
特殊詐欺事件の「出し子」として逮捕された場合の刑事弁護
特殊詐欺事件の「出し子」として窃盗罪で逮捕された場合、余罪や犯行グループの全容を解明するために、引き続き勾留され身柄拘束が長期化する可能性が非常に高いです。
また、特殊詐欺事件は、組織的な犯行であり、被害額も高額で犯罪組織の資金源になる場合も多いため、「出し子」といった末端の一員に対しても厳しい処分が行われる傾向があり、初犯であっても起訴され実刑を科されることが少なくありません。
そのため、弁護人は、捜査段階から裁判を見据えた弁護活動を行うことが多いです。具体的な弁護活動として、被害弁償、謝罪文の提出、示談交渉などが挙げられますが、これらの弁護活動を適切に行うことで、起訴された場合でも、刑の減軽や執行猶予を得る可能性を高めることができます。
福岡県の刑事事件に関するご相談は
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は、刑事事件を専門に扱う法律事務所です。
特殊詐欺事件の「出し子」として、窃盗罪でご家族が逮捕されご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部へご相談ください。
【事例解説】落とし物の財布を横領 遺失物横領罪で取り調べ
コンビニの駐車場に落ちていた財布を持ち去ったとして警察で取り調べを受けた事件を参考に、遺失物横領罪と、その弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
参考事件
福岡市在住の男子大学生A(22歳)は、コンビニの駐車場に落ちていた財布を発見し、そのまま持って帰ってしまいました。
暫く後、財布の落とし主Vからコンビニに連絡があったところ、防犯カメラにAの様子が写っていたため警察に通報がなされ、後日、警察からAに呼び出しがあり、遺失物横領の容疑で任意の取り調べが行われました。
Aは、今後の対応について、刑事事件に強い弁護士に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
遺失物横領罪とは
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する、と定められています(刑法第254条)。
遺失物とは、「他人が占有していた物であって、当該他人の意思に基づかず、かつ、奪取によらず、当該他人が占有を失ったもので、それを発見した者の占有に属していないもの」と定義されており、落とし物は通常これに該当します。
遺失物法により、遺失物の拾得者は、遺失物を速やかに遺失者に返却するか、警察等に提出しなけなければならないとされていますが、遺失物を横領(自己の占有する他人の物を不法に自分の物にすること)した場合、遺失物横領罪が成立します。
本件では、Vの落とした財布は遺失物にあたるので、Aが拾得後、これを横領したとして、遺失物横領の容疑で取り調べが行われたものです。
持ち主の占有の有無と窃盗罪の成否
本件では、Aに窃盗罪が成立する可能性もあります。
他人の物を拾得したときに、持ち主の占有が残っている場合は窃盗罪が成立し、持ち主の占有が残っていない場合は遺失物横領罪が成立します。
ここでの占有とは、「物が他人の事実的支配力の及ぶ場所に存在する」こととされており、人の出入り等の現場の状況、持ち主が現場を離れて経過した時間や移動した距離など、様々な要素から占有の有無が判断されます。
なお、判例では、公園のベンチに置き忘れた小物入れを持ち去った場合に、持ち主が現場から離れた時間や距離等の事情から、窃盗罪の成立を認めたものがあります。
以上のことから、本件でVがコンビニの駐車場を離れた時間や距離などから、財布に対するVの占有が残っていたものとして、容疑が窃盗罪に変わる可能性も否定できません。
遺失物横領罪の弁護活動
窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金と、遺失物横領罪より重くなるため、取り調べについては、刑事事件に強い弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めします。
遺失物横領罪などの財産犯では、被害者への謝罪や被害弁償の有無のほか、示談の成立が検察官の起訴・不起訴の判断において特に重視されますが、刑事事件に強い弁護士であれば、しっかりした内容の示談が成立する可能性が見込まれ、不起訴処分で事件が終了する可能性を高めることができます。
福岡県の刑事事件に関するご相談は
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は刑事事件に強く、遺失物横領罪などの財産犯の事件において、示談成立による不起訴処分を獲得している実績が多数あります。
遺失物横領罪で自身やご家族が警察の取り調べを受けるなどして不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部へご相談ください。