1.一部執行猶予判決について
「刑の一部執行猶予」とは、判決により言渡し刑期の一部のみを猶予し、実刑部分の執行後、猶予期間が開始し、その期間が無事に経過すれば実刑部分の刑期に減刑される制度です。
一部執行猶予制度は、実刑の一種であるという点に注意が必要です。
全部執行猶予制度は、執行猶予期間を無事に過ごせば刑務所には一度も行かなくて済みますが、一部執行猶予制度はまず初めに実際に刑務所に行かなければならない点が大きく違います。
例えば、「被告人を懲役2年6月に処する。その刑の一部である懲役6月の執行を2年間猶予する」といったもので、宣告刑の一部の執行を猶予するものです。
この判決を受けた者は、まず刑務所に2年(2年6か月-6か月)入り、出てきてから2年間を無事にすごせば、残りの6か月は刑務所に行かなくてもよいこととなります。
刑の一部執行猶予は、平成28年6月1日よりも前に犯した犯罪でも、同日以降に判決が下される事件では、一部猶予の判決を言い渡すことは可能となっています。
2.刑法上の一部執行猶予制度について
(1)要件
①対象者
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
②3年以下の懲役または禁錮の言渡しを受けた場合
③必要性・相当性
犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき
(2)効果
①猶予期間
1年以上5年以下
②猶予期間経過の効果
実刑部分の執行が終了した時点で刑の執行を受け終わったものとする。
③保護観察
刑法上の一部猶予では、保護観察を付するかどうかは任意(但し、実務の運用では保護観察がつけられることが予想されます)。
3.薬物法上の一部執行猶予制度
(1)要件
①対象者
以下に列挙する薬物使用等の罪を犯した者
- あへん煙の吸食、あへん煙の所持、同未遂
- 大麻所持、同未遂
- 毒物及び劇物の摂取、吸入、同目的の所持
- 覚せい剤所持、使用、施用、覚せい剤原料所持・使用、施用、覚せい剤原料所持・使用、同未遂
- ジアセチルモルヒネ等所持、ジアセチルモルヒネ等の施用、施用を受けたこと、ジアセチルモルヒネ等の施用、施用を受けたこと、ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬所持、同薬の施用又は施用を受けたこと、同未遂
- あへん等所持、あへん等吸食、同未遂
なお、(刑法上の一部執行猶予と異なり)再犯者も含みますので、刑務所から出所してすぐに薬物使用して逮捕されても適用されることとなります。
②3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合
③必要性・相当性
犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において同条第1項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが必要であり、かつ、相当であること
(2)効果等
①猶予期間
1年以上5年以下です。
②猶予期間経過の効果
実刑部分の執行が終了した時点で刑の執行を受け終わったものとする。
③保護観察
薬物法上の一部猶予では、必要的に保護観察に付されます。
4.一部執行猶予の判断枠組みについて
一部執行猶予については、下記の順で判断されます。
① 当該事案において「執行猶予」か「実刑」かの判断が先行する。
② 実刑であるとの判断に至った場合、次に宣告刑を考える。
③ 宣告刑が3年以下の場合、初めて「一部執行猶予」にするか「全部実刑」にするかを検討する。
→上記の検討順序からも、一部執行猶予はあくまで、実刑のバリエーションの1つにすぎないことがわかります。
5.仮釈放との違いについて
仮釈放とは、収容期間満了前において仮に釈放されることをいい、残りの刑期の期間は社会内で保護観察を受けるというものです。
仮釈放制度の場合は、保護観察を受ける期間が刑期の残りの期間だけです。
一方で、一部執行猶予制度は、執行猶予期間は長期間になることが想定されているため、仮釈放に比べて保護観察期間が長期になります。
つまり、一部執行猶予は仮釈放に比べて国家からの監視の期間が極めて長くなるという点に特色があります。
6.一部執行猶予はメリットが制度なのか
確かに、服役期間は短くなるため(宣告刑の約2割程度)。その意味ではメリットがある制度です。
しかし、一方で、全部執行猶予と異なり服役すること(実刑)が前提の制度ですし、服役後は年単位で保護観察がつきます。
特に薬物事犯の場合、保護観察が必ずつけられ、定期的に簡易薬物検査があり、長期間の保護観察中に遵守事項の違反があると執行猶予が取消しになり、再び収監される可能性があります。
一部執行猶予は専門的処遇プログラムを長期間受けることにより、真剣に社会内で更生しようとする熱意のある方には有益な制度といえます。
しかし、単に刑務所にいる期間を少しでも短くしたいという思いだけで一部執行猶予を主張すると、その後のルールを破ることによってかえって不利益が大きくなる可能性があります。
慎重な判断が求められます。
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