Archive for the ‘財産事件’ Category

強盗と中止未遂

2019-03-28

強盗と中止未遂

福岡市城南区に住む無職のAさん(26歳)は,小遣い銭欲しさに,深夜,一人で自宅に帰宅途中のBさんにナイフを突きつけて脅迫し現金を強取しようしましたが,風で木立が揺れた音を他人の通行人が来た音と誤認し,事件の発覚を恐れて何も奪わずに逃走しました。ところが,後日,Bさんの被害状況などに関する供述や現場周辺の防犯ビデオカメラの解析結果などからAさんの犯行であることが判明し,Aさんは,福岡県早良警察署強盗未遂罪で逮捕されました。Aさんの家族は,刑事事件に強い弁護士に初回接見を依頼しました。
(フィクションです)

~ 強盗既遂罪が成立するまで ~

強盗罪は刑法236条に規定されています。その1項をご紹介すると次の規定となっています。

刑法236条1項
 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は,強盗の罪とし,5年以上の有期懲役に処する。

これからすると強盗罪が成立するには,通常,

強盗をするぞという意図・動機(故意・犯意)→②実行の着手(強盗罪の暴行・脅迫)→(③相手方の反抗抑圧)→④他人の財物の取得(強取)

という経過をたどることになります。

~ 未遂犯とは ~

未遂犯とは,特定の犯罪の②実行に着手したものの,何らかの事情によって結果が発生しなかった場合をいいます。本件における②実行の着手とは,AさんがBさんにナイフを突きつけるという脅迫行為です。強盗罪における「結果」とは,④他人の財物を取得することです。しかしながら,AさんはBさんの財物を取得していません。つまり,④まで至っていないことからAさんは強盗未遂罪で逮捕されているのです。未遂罪について規定する刑法43条前段には次のように書かれています。

刑法43条前段
 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は,その刑を減軽することができる。

未遂犯として処罰されるためには,罪ごとに未遂犯の規定を設けていなければなりません。強盗罪については243条に未遂犯を罰する旨の規定が設けられています。

~ 中止未遂とは ~

ところで,刑法43条には,先ほどの規定に続いて,次の規定が設けられています。

刑法43条前段
(略),その刑を軽減することができる。ただし,自己の意思により犯罪を中止したときは,その刑を減軽し,又は免除することができる。

このように,犯罪の実行に着手したものの,「自己の意思により犯罪を中止した」ため,結果が発生しなかった(犯罪が既遂とならなかった)場合を中止未遂といいます。これに対して,犯罪の実行に着手したものの,「自己の意思により犯罪を中止した」場合以外で,結果が発生しなかった(犯罪が既遂とならなかった)場合を障害未遂といいます。

中止未遂が成立するためには,

①犯罪の実行に着手した者が
②自己の意思により
③犯罪を中止し
④結果発生が防止されること

が必要です。Aさんは強盗罪の脅迫行為を行っていますから①の要件は満たします。では,②についてはどうでしょうか?これについての考え方はいろいろありますが,最高裁は,客観説の立場を採っていると理解されています。客観説とは,未遂に終わった原因が,一般人を基準とした場合,通常障害と考えられるものは否かを基準とする見解です。障害と考えらえる場合は障害未遂となり,障害と考えられない場合は中止未遂となります。
この基準を本件に当てはめると,Aさんは木立が揺れた音を通行人が来た音と誤認しているようですが,通常,通行人が来て犯行が発覚するという事情は,犯行を継続する上で障害となるものと考えられます。よって,Aさんには中止未遂は成立せず,障害未遂が成立するにとどまります。

* 障害未遂と中止未遂 *

障害未遂中止未遂は上記の違いがありますが,その他に,障害未遂は刑が任意的に減軽されるのに対し,中止未遂は必要的に(必ず)減軽されます。障害未遂の場合,刑を減軽するかづおかは裁判官しだいとなります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,強盗罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。お困りの方は,まずはお気軽に0120-631-881までお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間受け付けております。

 

詐欺罪の受け子と接見等禁止

2019-03-26

詐欺罪の受け子と接見等禁止

大学生のAさん(20歳)は親と喧嘩をしたことで家出をし,全国各地のネットカフェで寝泊まりしながら生活していました。そして,その間の生活費等は,特殊詐欺組織の受け子役で得た報酬等で賄っていました。
そして,ある日,Aさんが所属する特殊詐欺組織が組織が福岡県中間市に住むお年寄りVさんに対しオレオレ詐欺を実行しました。Aさんは指示されたとおり,Vさん方へ行き,Vさんからお金を受け取ろうとしたところ,現場に張り込んでいた福岡県折尾警察署の警察官に詐欺未遂罪の現行犯人として逮捕されました。その後,Aさんは勾留され,接見等禁止決定が出ました。勾留の通知を受けたAさんのご両親はAさんと面会しようとしましたが,接見等禁止が付いていたので面会することができませんでした。そこで,Aさんのご両親は,接見等禁止の解除を弁護士に依頼しました。
(フィクションです)

~ オレオレ詐欺(特殊詐欺) ~

オレオレ詐欺とは,特殊詐欺の犯行態様の一つです。特殊詐欺には,オレオレ詐欺のほか,架空請求詐欺,還付金等詐欺などがあります。特殊詐欺は捜査機関の摘発を免れるため,複数の者が役割を分担して組織的に行われています。オレオレ詐欺の場合,Vさんのような被害者に電話をかける役割のことを「かけ子」,Aさんのように実際に被害者から現金等を受け取る役割のことを「受け子」と呼ばれています。

~ 特殊詐欺と詐欺罪 ~

特殊詐欺は,申すまでもなく刑法246条1項の詐欺罪に当たります。

刑法246条1項 
 人を欺いて財物を交付させた者は,10年以下の懲役に処する。

オレオレ詐欺の場合,「欺く」行為をする役割を担うのは,Aさんのような「受け子」ではなく「かけ子」です。しかし,詐欺罪の成立には「欺く」行為の他に財物を「受け取る」行為(その裏の意味として「交付させる」行為)が必要です。Aさんは,この「受け取る」行為を担ったとして詐欺未遂罪に問われています。このように,犯罪の一部の行為しか担っていない場合でも,その罪の全部の責任を問われることを「一部実行全部責任」と呼ばれています。

* 「受け子」の刑の重さは? *

受け子」は主犯格から指示を受けているなど従属的な立場に立たされている場合が多いと思われます。また,主犯格に比べ報酬は低いでしょう。したがって,主犯格よりかは刑は軽くなると思われます。ただし,事案にもよりますが,必ず執行猶予が約束されているわけではありません。組織との関係が深い場合,常習性が認められる場合などは実刑となることも十分予想されます。

~ 被疑者段階における接見等禁止 ~

被疑者段階における接見等禁止とは,原則として検察官の請求を受けた裁判官が,被疑者が逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認めた場合に,勾留されている被疑者と弁護人又は弁護人となろうとする者以外の者との接見等を禁じることをいいます。裁判官が「公訴の提起があるときまで」と接見等禁止の期間を決めて禁じることが通常のようです。このような裁判官の決定が出てしまうと,ご家族の方は被疑者と面会することができません。

* 一刻でも早く面会したい場合は? *

弁護人であれば,接見等禁止が出されても自由に面会することができます。したがって,間接的にはなりますが,まずは弁護人に被疑者の方との面会を依頼することが考えられます。
直接の面会をご希望の場合は,接見等禁止を解除するしかありません。接見等禁止を解除するには,その判断が間違っていたとして不服申し立てをするか,検察官あるいは裁判官に意見書などを提出するなどして接見等禁止を解除してもらうよう促すしかありません。その場合でも,手続は弁護人に依頼しましょう。

* 起訴後の接見等禁止もあり得る *

先ほど,通常,接見等禁止の期間は検察官の「公訴の提起があるまで」つまり,起訴されるまでという話をしましたが,起訴後でも接見等禁止が出される可能性はあります。特に,特殊詐欺などの組織性の高い犯罪,余罪が多数認められる犯罪などは注意が必要です。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,詐欺罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。ご家族の方が詐欺事件などで逮捕され,面会できない等お悩みの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。初回接見無料法律相談のご予約を24時間受け付けております。

美人局?と恐喝・詐欺罪

2019-03-21

美人局?と恐喝・詐欺罪

福岡県久留米市の風俗店で働く風俗嬢のAさんは,お金に困っていました。ある日,Aさんが,お金に困っていることを店長(Aとは婚姻関係にはない)に相談したところ,店長から「俺に暴力団組員の知り合いがいる」「お前は客と本番しろ」「本番した後に,俺が客から金を巻き上げるから」などと言われました。そして,Aさんが,風俗店を利用したVさんの接客中,店長から言われたとおりにしたところ,店長がいきなり部屋に入ってきて,Vさんに「お前,おれの妻(A)と本番したやろ!」「罰金として50万払え」「俺は〇〇組の組員だからな」「はらわんとどうなるかわかっとるやろうな」などと言い,Vさんから5万円を受けとり,そのうち1万円をAさんに渡しました。そうしたところ,Aさんと店長は,福岡県中央警察署恐喝罪で逮捕されました。
(フィクションです。)

~ 美人局とは ~

美人局とは,夫婦が共謀し,妻が「かも」になる男性を誘って性交等をし,行為の最中または終わった瞬間に夫が現れて,妻と性交等をしたことに因縁をつけ,法外な金銭を脅し取る行為のことをいうとされています。
しかし,実際には,婚姻関係にないにもかかわらず,それがあるかのように装ったり,交際中の女性を利用するなどして美人局に似た手口で金銭を脅し取ったり,騙し取ったりする行為も美人局と呼ばれていることがあります。

~ 美人局と刑事責任 ~

それでは,美人局ではどんな刑事責任に問われうるのかご紹介したいと思います。

= 恐喝罪 =

恐喝罪は刑法249条に規定されています。

刑法249条
1項 人を恐喝して財物を交付させた者は,10年以下の懲役に処する。
2項 前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,同項と同様とする。

恐喝」とは,財物の交付又は財産上不法の利益を得るために行われる「暴行」又は「脅迫」のことをいいますが,恐喝罪の場合,一般的に「脅迫」行為が行われることが多いと思われます。「脅迫」とは,人を畏怖させる足りる害悪の告知をいいます。具体的には,相手方(Vさん)またはこれと密接な連帯感情にある者の生命,身体,自由,財産に対する危害を加える旨を言うことをいいます。Aさんが,Vさんに,

「俺は〇〇組の組員だからな」「はらわんとどうなるかわかっとるやろうな」

という行為は,それを受け取った側からすれば,

「殺されるかもしれない」「家を焼かれるかもしれない」

という思いを想起させるものであり,「人を畏怖させる足りる害悪の告知(脅迫)」ということができるでしょう。

= 詐欺罪 =

AさんがVさんに何を言ったによって,詐欺罪に問われることもあります。
詐欺罪は刑法246条に規定されています。

刑法246条
1項 人を欺いて財物を交付させた者は,10年以下の懲役に処する。
2項 前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,同項と同様とする。

例えば,店長が,Aさんが性病にかかっていないにもかかわらず,Vさんに,

「うちの妻(Aさん)が性病にかかった」「慰謝料として○○万円払え」

などと言った場合は詐欺罪(又は詐欺未遂罪)に問われる可能性があります。

~ 美人局と共犯 ~

本件で,恐喝行為(脅迫行為)を行っているのはAさんではなく店長です。しかし,Aさんも店長と同じように恐喝罪で逮捕されています。このように犯罪にかかる行為を行っていなくても全部の責任を問われることを

共謀共同正犯あるいは一部行為の全部責任の原則

と呼ばれます。この犯罪に問われるためには,共犯者間(Aさんと店長との間)での「意思の連絡(共謀)=話し合い,打合せ」があることが必要です。本件では,Aさんと店長との間で,話し合い,打合せが行われていたことが認められ,Aさんも逮捕されるに至ったのだと考えられます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,恐喝罪,詐欺罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は,まずは,0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間受け付けております。

窃盗罪と準現行犯人逮捕②

2019-03-08

窃盗罪と準現行犯人逮捕②

Aさんは,福岡県小郡市にある民家に,深夜の午前2時30分頃,窃盗の目的で侵入し,1階リビングのテーブルの上に置かれていた現金5万円入りの財布1個を盗みました(以下,本件)。2階で寝ていたVさん夫婦は1階で何かが壊される音を聞き,慌てて1階に降りたところ,リビングのドアガラスが壊されていました。Vさん夫婦は盗みに入られたと思い,すぐさま110番通報(午前2時40分)しました。
その時,小郡警察署に所属する警察官Kは,Vさん方から約50メートル離れたところで夜間警邏中でした。無線で本件の通報を受けたKは,右手にバールのようなものを所持していた男を認めたことから,男(のちに,Aさんと判明)に職務質問のため停止を求めました(午前2時45分)。そうしたところ,制服姿のKをみたAさんはその場から逃げ出し(その間,バールは川に投棄)たため,Kは追跡し,約50メートルしてAさんに追いつきました。Kの所持品検査の結果,Aさんは財布(Vさんの免許証入り)とペンライトを所持していたため,KはAさんを準現行犯逮捕しました(午前2時47分)。

~ 私人でも可能な現行犯人逮捕・準現行犯人逮捕 ~

刑事訴訟法では,検察官,検察事務官及び司法警察職員以外の者を「私人」と呼んでいます。現行犯人は,逮捕者にとって犯罪と犯人が明白であることから,誤認逮捕のおそれがなく,犯人を確保し,犯罪を制圧するなど速やかに犯人を逮捕する必要も高いことから,私人でも逮捕できるとされています。私人の現行犯逮捕については刑事訴訟法213条に規定があります。

刑事訴訟法213条
 現行犯人は,何人でも逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

* 緊急逮捕との違い *

緊急逮捕は,逮捕時に無令状(裁判官から発せられた令状がない)であることは現行犯逮捕と同じです。しかし,現行犯逮捕の場合と違い,逮捕者が犯罪及び犯人を現に見たわけではありません。そのため,緊急逮捕の場合は,誤認逮捕を防止するため,逮捕後,裁判官に逮捕状の発布を求める手続をしなければならないとされおり,逮捕状が発布されないときは,ただちに犯人(被疑者)を釈放しなければならないとされています(刑事訴訟法210条1項)。緊急逮捕できるのは,検察官,検察事務官,司法警察職員で,私人には認められていません(刑事訴訟法210条1項)。逮捕状が発せられたときは,逮捕状を犯人に示さなければなりません(刑事訴訟法211条,201条1項)。

~ 現行犯逮捕後の手続,流れ ~

現行犯逮捕の場合,犯罪及び犯人が明白であることから,逮捕するにあたって逮捕の理由となる被疑事実の要旨(どんな罪を犯しのか大まかな概要)を告げる必要はないと解されています(この点,通常逮捕,緊急逮捕の場合は必要です)。
逮捕後の流れを次の2パターンにわけてご紹介いたします。

= 私人による現行犯逮捕の場合 =

私人が現行犯逮捕した場合は,直ちに犯人を検察官,司法警察職員に引き渡さなければなりません。近くに警察官がいた場合は,警察官に引き渡せば済みますし,いない場合は連絡を取り(110番通報などし),警察官が現場に来るまで犯人の身柄を確保しておく必要があるでしょう。私人が自分の判断で犯人を釈放することはできません(ただし,犯人が自力で逃走した場合など,やむを得ず釈放してしまった場合は責任を問われることはないでしょう)。

= 司法警察職員(警察官=司法警察員と司法巡査)が逮捕した場合 =

司法警察職員が逮捕した場合の流れは,司法巡査が現行犯人を受け取った場合,速やかに司法警察員に引致しなければならないとされている他は,通常の逮捕の場合と同様です。

* 逮捕後の流れ *

司法警察員による弁解を聴く手続,すなわち「弁解録取」の手続が取られます。その上で,司法警察員は,身柄を拘束する必要があるか否かを判断し,拘束する必要がないと判断したときは釈放し,必要がある判断したときは逮捕から48時間以内に,犯人及び事件を検察官の元に送致する手続を取ります。送致を受けた検察官も「弁解録取」という手続をとります。身柄拘束の必要がない場合は釈放し,必要がある場合は,犯人を受け取ってから24時間以内に,裁判官に対し勾留請求の手続を取ります。勾留の請求を受けた裁判官は,「勾留質問」という手続を取った上で,勾留するか釈放するかの判断をします。勾留の決定が出た場合は10日間拘束されます(ただし,不服申し立ての制度あり)。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,窃盗罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間体制で受け付けております。
福岡県小郡警察署までの初回接見費用:39,200円)

窃盗罪と準現行犯人逮捕①

2019-03-07

窃盗罪と準現行犯人逮捕①

Aさんは,福岡県小郡市にある民家に,深夜の午前2時30分頃,窃盗の目的で侵入し,1階リビングのテーブルの上に置かれていた現金5万円入りの財布1個を盗みました(以下,本件)。2階で寝ていたVさん夫婦は1階で何かが壊される音を聞き,慌てて1階に降りたところ,リビングのドアガラスが壊されていました。Vさん夫婦は盗みに入られたと思い,すぐさま110番通報(午前2時40分)しました。
その時,小郡警察署に所属する警察官Kは,Vさん方から約50メートル離れたところで夜間警邏中でした。無線で本件の通報を受けたKは,右手にバールのようなものを所持していた男を認めたことから,男(のちに,Aさんと判明)に職務質問のため停止を求めました(午前2時45分)。そうしたところ,制服姿のKをみたAさんはその場から逃げ出し(その間,バールは川に投棄)たため,Kは追跡し,約50メートルしてAさんに追いつきました。Kの所持品検査の結果,Aさんは財布(Vさんの免許証入り)とペンライトを所持していたため,KはAさんを準現行犯逮捕しました(午前2時47分)。

~ 準現行犯人逮捕とは ~

準現行犯人逮捕とは,現行犯人逮捕の場合のように現に犯罪,犯人を目の前で見てはいないものの,これじ準じる要件があるために,現行犯人逮捕と同様に犯人を無令状で逮捕できるというものです。要件については,刑事訴訟法212条2項に規定されています。

刑事訴訟法212条2項
 左(下)の各号の一にあたる者が,罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときは,これを現行犯人とみなす。
1号 犯人とし追呼されているとき。
2号 贓物(ぞうぶつ)又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
3号 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
4号 誰何(すいか)されて逃走しようとするとき。

= 「罪を行い終わってから間がない」 =

「罪を行い終わってから間がない」とは,犯行終了時から時間的に近接した時点をいいます。「間がない」とは,せいぜい数時間であると解するのが通説ですが,場所的に離れれば離れるほど,一般的に犯人であることの明白性(犯人であることが明らかであること)は失われているいくことから,場所的な近接性も無視できないとされています。

= 「追呼」(1号) =

「追呼」とは,犯人として追跡,又は呼称されていることをいいます。声を出して追っていることは必要ではなく,身振り手振りで追いかけている場合でもよいとされています。犯罪終了後継続して追呼されていることを要しますが,一度見失った後,間もなくして発見して追呼した場合でもよいとされています。

= 「贓物」(2号) =

「贓物」とは財産犯によって得られたものをいいます。「財産犯」とは,窃盗罪,強盗罪,恐喝罪,詐欺罪,横領罪,背任罪,盗品等に関する罪のことを指します。

= 「兇器」「その他の物」(2号) =

「兇器」とは,ナイフ・包丁など人を殺傷し得る物をいいます。「その他の物」とは,贓物や兇器以外の物であって,これらの物と同様に犯罪と犯人とを結びつける物をいいます。各種偽造罪の偽造用具,住居侵入に用いた鉄棒,ドライバーなどがその例です。

= 「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡がある」(3号) =

「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡がある」とは,身体に負傷していたり,被服に結婚が付着していたりして殺傷罪が推認される場合や,放火犯人の手に石油が染みついていた場合などを指します。

= 「誰何」(4号) =

「誰何」とは,「誰か」と問う必要は必ずしもなく,制服警察官を見て逃げ出したような場合も含みます。一般市民の方による誰何も4号に該当します。

~ 本件の準現行犯人逮捕は適法か? ~

では,本件の準現行犯人逮捕は要件を満たしているか確認しましょう。

まず,本件は,犯行(午前2時30分)から逮捕(午前2時47分)まで17分ですし,逮捕現場も犯行現場からさほど離れているとはいえないため「罪を行い終わってから間がない」といえるでしょう。Aさんの逃走状況から1号,4号にも当たります。また,Aさんは財布とペンライトを持っていたということでした。財布は「贓物」(2号)に当たりますし,夜間,ペンライトを持って入れば盗みに入ったと疑われますから「ペンライト」は「明らかに犯罪の用に供したと思われるその他の物」(2号)に当たります。
以上より,Kの逮捕準現行犯人逮捕の要件を満たし適法ということができるでしょう。

明日は,現行犯人逮捕,準現行犯人逮捕された場合のその後の手続(流れ)についてご紹介いたします。

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福岡県小郡警察署までの初回接見費用:39,200円)

少年事件と不処分

2019-03-06

少年事件と不処分

福岡県大牟田市に住むA君(16歳)は,試験勉強や部活の成績が不調であること等でストレスが溜まっていました。そして,ある日,コンビニ寄った際,誰にも見つからないだろうと思って本棚にあった漫画本1冊を手に取り,お金を支払わず店外へ出ました。そうしたところ,Aさんはコンビニ店長に呼び止められました。Aさんは店内の事務室に連れていかれ,駆け付けた福岡県大牟田警察署の警察官に窃盗罪で事情を聴かれることになりました。捜査の結果,Aさんはこの件以外にも他のコンビニ等で漫画本を万引きしていたことが判明しました。その後,Aさんの事件は,家庭裁判所へ送致されてしまいました。Aさんの両親は少年事件に強い弁護士に無料法律相談を申し込みました。
(フィクションです)

~ はじめに ~

少年(20歳に満たない者)事件では,警察,検察での捜査が終わると,事件は家庭裁判所へ送致されます(送られます)。逮捕,勾留され身柄を拘束されている場合は通常,少年鑑別所に収容され,担当技官による面接や心理検査などを受けます。また,同時に家庭裁判所調査官の調査も受けます。身柄を拘束されていない場合は,稀に少年鑑別所に収容されることもありますが,通常は,収容されないまま家庭裁判所調査官の調査を受けるなどします。調査を受けた結果,結果は家庭裁判所に報告され,少年審判などに活かされます。

ただし,少年審判は必ず開かれるとは限りません(審判不開始決定)。また,仮に開かれたとしても保護処分(保護観察,少年院送致等)が下されない場合もあります(不処分決定)。以下,ご紹介いたします。

~ 審判不開始決定 ~

審判不開始決定とは,少年鑑別所や家庭裁判所調査官による調査の結果,審判に付することができず,又は審判に付するのが相当でないと認めるときに,少年審判を開始しない旨の決定をいいます。

= 「審判に付することができず」 =

「審判に付することができず」とは,非行事実の存在の蓋然性がない場合や少年の所在が不明であり,審判することができない場合などが当たります。「非行事実の存在の蓋然性がない場合」とは,少年の行為が非行の構成要件に該当しない場合や証拠上非行事実の存在の蓋然性すら認められない場合,すなわち,成人でいえば「嫌疑なし」の場合をいいます。この場合は,少年自身を少年事件の手続から解放する必要がありますし,少年に適切な処分を下すことができないからです。

= 「審判に付するのが相当でない場合」 =

「審判に付するのが相当ではない場合」とは,事案が軽微であったり,家庭裁判所に送致された段階では少年が十分に反省しており要保護性(矯正施設による保護の必要性)がなくなったりしている場合をいいます。少年審判の一番の目的は「少年の更生」にありますから,審判開始前に少年が更生していると認められる場合は少年審判を開くことは不要であるからです。

= 審判不開始決定の効果 =

少年審判は開かれません。少年審判が開かれないということは保護処分を受けることはありません。

~ 不処分決定 ~

不処分(決定)とは,家庭裁判所における少年審判の結果,保護処分に付することができないとき,又は保護処分に付するまでの必要がないと認めるときに,保護処分に付さない旨の決定のことをいいます。

= 「保護処分に付することができないとき」 =

「保護処分に付することができないとき」とは,非行事実の存在が認められない場合などが当たります。「非行事実の存在が認められない場合」とは,少年の非行事実の存在について,合理的疑いを超える心証が得られない場合をいいます。成人でいえば「無罪判決」に相当します。

= 「保護処分に付するまでの必要がないと認めるとき」 =

「保護処分に付するまでの必要がないとき」とは,審判までに少年が更生し,要保護性がなくなった場合や試験観察期間中の少年の生活態度からさらに保護処分を行う必要がなくなった場合などが当たります。調査や審判の過程で,調査官などによる教育的な働きかけによって,少年の問題点が改善され,要保護性がなくなった場合をいいます。

= 不処分決定の効果 =

保護処分を受けることはありません。

~ 審判不開始決定,不処分決定を受けるための弁護活動 ~

付添人(弁護人)としては,調査の過程で,少年に対して教育的な働きかけを行っていき,少年の事件に対する反省を深めさせたり,生活環境を整えていったりしていきます。そして,その結果を,家庭裁判所調査官に書面などで報告します。家庭裁判所調査官は,その報告書や自ら調査した結果などをもとに,家庭裁判所に対し,処分に関する意見を上申することができます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。少年事件でお困りの方はフリーダイヤル0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談等を24時間受け付けております。

窃盗罪と微罪処分

2019-02-24

窃盗罪と微罪処分  

福岡県春日市に住むAさんは,スーパーで万引きし,福岡県春日警察署で事情を聴かれることになりました。Aさんのご両親は,今後のことが不安になって刑事事件に強い弁護士に相談すると,弁護士から微罪処分のことを教えてもらいました。
(フィクションです)

~ 微罪処分とは ~

微罪処分とは,警察が事件を検察庁を送致せず,被疑者への厳重注意,訓戒等で終了させる手続きのことをいいます。本来,警察が立件した事件は警察→検察へと送致することが基本です(刑事訴訟法246条本文)。

刑事訴訟法246条
 司法警察員は,犯罪の捜査をしたときは,この法律に特別の定がある場合を除いては,速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し,検察官が指定した事件については,この限りでない。

しかし,刑事訴訟法246条但書では,検察官が指定した事件については,この限りでない,つまり「送致しなくてもよい」とされており,これが微罪処分の根拠規定となっています。

~ どんな事件が対象となるの? ~

なお,「検察官が指定した事件」とありますが,検察官がいちいち事件が立件された都度指定しているのではなく,通常は,各都道府県を管轄する地方検察庁の検事正という役職の人が,各地域の実情に合わせて予め指定しています。一般的に,

窃盗罪
・横領罪
・占有離脱物横領罪
・暴行罪

などの事件は微罪処分の対象とされていることが多いでしょう。
ただ,微罪処分の対象事件であっても,概ね,次の基準を満たす必要があります。

・ 犯情(犯罪事実そのものの情状)が極めて軽微であること
・ 被害弁償,示談済みであること
・ 被害者が処罰を望んでいないこと
・ 前科,前歴がないこと

~ 微罪処分のメリット ~

微罪処分となれば,どんなメリットがあるのでしょうか?

= 検察庁からの呼び出しがないで済む =

微罪処分となれば,事件が検察官の元に送致されませんから,検察庁から呼び出しを受けることはありません。お勤めの方であれば,休みをとって出頭するという手間が省けます。

= 刑事処分を受けないで済む =

検察庁に送致されないということは,検察官の刑事処分を受けることもありません。一番,不利な刑事処分は「起訴されること」ですが,微罪処分となれば,もちろん,起訴されることはありません。

= 裁判を受けないで済む =

起訴されることがないということは,裁判を受けなくて済むということを意味します。正式裁判されれば,裁判所が指定した日に出廷しなければなりませんが,その手間が省けます。

= 刑事処罰を受けなくて済む = 

起訴され,有罪となり,その裁判が確定すれば刑事処罰を受けなくてはなりませんが,微罪処分となれば起訴されませんし,裁判を受ける必要もありませんから,刑事処罰を受けなくて済みます。

= 前科が付かない =

裁判で言い渡された刑事処罰の判断が確定すれば前科となりますが,微罪処分となれば裁判を受ける必要はありませんから,前科が付くこともありません。

~ 微罪処分獲得のための弁護活動 ~

これまで見てきたように,微罪処分となるためには,被害者弁償,被害者との示談が必要であることが分かります。よって,微罪処分獲得に向けた弁護士の弁護活動も,被害弁償や被害者との示談が中心となってきます。そして,微罪処分とするか否かは警察が決めますから,被害弁償,被害者との示談は,警察が事件を検察官へ送る前に済ませ,その結果を警察官へ示す必要があります。
被害弁償,被害者との示談をスピーディーに,かつ適切な内容でまとめるには弁護士の力が必要です。当事者間で行おうとすると,感情の縺れなどから,交渉が難航し,交渉中に事件を検察官の元へ送られてしまう可能性もあります。被害弁償,被害者との示談交渉は弁護士にお任せください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,窃盗罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は,まずは0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間体制で受け付けております。

強盗罪と恐喝罪 

2019-02-18

強盗罪と恐喝罪  

福岡県大牟田市に住むAさんは,ある日の夜中,人通りの少ない路上を歩いていたVさんの背後から,Vさんに対し,左手に持っていた刃物を突き付け,「金を出せ,騒ぐと殺すぞ」などと言いました。Aさんはそのまま刃物を突き付けながら,Vさんから現金2万円入りの財布を右手で受け取り,その場から逃走しました。しかし,後日,Aさんは,福岡県大牟田警察署強盗罪で通常逮捕されました。
(フィクションです)

~ 強盗罪 ~

刑法236条
1項 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は,強盗の罪とし,5年以上の有期懲役に処する。
2項 前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,前項と同様とする。

= 強盗罪の暴行・脅迫とは =

一般に,「暴行」とは人の身体に対する有形力の行使,「脅迫」とは人に畏怖させるに足りる害悪の告知のことをいいますが,強盗罪の「暴行」「脅迫」の程度は,

相手方の反抗を抑圧する程度

に強いものでなければならないとされています。そして,程度であるか否かは,

・犯行の時刻・場所その他周囲の状況
・凶器使用の有無
・凶器の形状性質
・凶器の用い方など犯行の手段方法
・犯人,相手方の性別,年齢,体力

などを総合的に考慮して判断されます。

= 強取とは =

「強取」とは,上記の「暴行」「脅迫」により,相手方の反抗を抑圧して財物を自己又は第三者に移すことをいいます。
通常は,犯人が被害者自身から直接財物を奪取することが多いと思いますが,必ずしもその必要はなく,反抗を抑圧された被害者から交付を受けてもよいとされています。

= 2項強盗とは? =

2項強盗とは,刑法236条2項に当たる行為をした場合に成立する犯罪です。
典型的ケースが,

タクシー強盗(例:目的地に着き,運転手からタクシー代を請求されたところ,運転手の顔面を殴ってタクシーを降り,代金の支払いを免れた場合など)

です。
「前項の方法により」とは,先ほどご説明した「暴行」「脅迫」の手段を用いてという意味です。「財産上不法の利益を得」とは,利益を得る手段が不法であることを意味し,財産上の利益そのものが不法であることを意味しません。具体的には,支払を免除させる(上記の例),借金の支払の履行を延期させる,被害者に一定の役務(サービスなど)を提供させることなどが挙げられます。「前項と同様とする」とは,1項と同様,5年以上の有期懲役に処せられるという意味です。

= 被害者が怪我した場合,死亡した場合は? =

強盗の機会に,人を負傷させた場合は強盗致傷罪が成立するおそれがあり,法定刑は無期又は6年以上の懲役です。また,死亡させたときは死刑又は無期懲役です。なお,「人」とは必ずしも被害者に限らず,強盗を目撃した目撃者,目撃者から依頼を受けて犯人を捕まえようとした通行人なども含まれます。

~ 恐喝罪 ~

刑法249条
1項 人を恐喝して財物を交付させた者は,10年以下の懲役に処する。
2項 前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,同項と同様とする。

= 恐喝とは =

恐喝」とは,財物の交付又は財産上不法の利益を得るために行われる「暴行」又は「脅迫」のことをいいますが,恐喝罪の場合,一般的に脅迫行為が行われることが多いと思われます。ただ,その程度は,強盗罪と異なり,

相手方の反抗を抑圧するに至らない程度

であることが必要とされています。つまり,強盗罪よりは,やや程度の落ちる脅迫行為である必要だということです。規定上も,強盗罪と異なり「財物を交付させた」とあります。つまり,相手方に一定の処分行為をする余地を認めているのが恐喝罪ということになり,よって,強盗罪よりも程度の弱い脅迫行為で恐喝罪が成立するとされるのです。

強盗罪の「暴行」「脅迫」か恐喝罪の「恐喝」かは,上記で述べた基準(・犯行の時刻・場所その他周囲の状況,・凶器使用の有無,・凶器の形状性質,・凶器の用い方など犯行の手段方法,・犯人,相手方の性別,年齢,体力,・その他個々の事情など)をもとに判断され,個々の事案の具体的状況により結論は異なります。

~ おわりに ~

刑事事件において,ある犯罪に当たると疑われても,ふたを開けてみると

実は別の犯罪だった

ということがよくあります。強盗罪についても同じことがいえ,「強盗罪で逮捕されたものの恐喝罪で起訴された」,あるいは,「強盗罪で起訴されたが裁判で恐喝罪と認定された」などという場合です。仮に,このような事態となれば,適用される刑罰も異なり,量刑もだいぶことなりますから,

強盗罪が成立するか恐喝罪が成立するかは大きな違い

ということになります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,強盗罪恐喝罪をはじめとする刑事事件,少年事件専門の法律事務所です。刑事事件,少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間受け付けております。

他人名義のクレジットカード使用で詐欺罪

2019-02-09

他人名義のクレジットカード使用で詐欺罪

Aさんは多額の借金を抱え,返済も滞りがちでした。そのため,自己名義クレジットカードを使用することができない状態でした。しかし,物欲のあるAさんは,それでも以前から目をつけていた指輪(時価10万円)が欲しいという気持ちを抑えることができず,何とかしてこれを手に入れたいと思っていました。そこで,Aさんは,友人のBさんからBさん名義クレジットカードを借り,これを使って宝石店Cで指輪を買うことにしました。Aさんからこの話を聞いたBさんは当初は断りましたが,「10万円分だけならいいよ」などと言って,渋々自己名義クレジットカードをAさんに貸しました。
そして,Aさんは,宝石店Cに行き,Bさん名義のクレジットカードを店員Dに呈示するなどし,店員Dから指輪を受け取りました。ところが後日,Aさんは,福岡県糸島警察署の警察官から呼び出しを受け,詐欺罪で取調べを受けました。今後のことが不安になったAさんは,刑事事件に強い弁護士に無料法律相談を申込みました。
(フィクションです)

~ 詐欺罪(刑法第246条) ~

他人の財物をだまし取った場合には詐欺罪が成立します。
詐欺既遂罪が成立するには,①欺罔行為(=騙すこと)→②錯誤(=騙されること)→③錯誤に基づく処分行為(=財物を交付すること)→④財産的損害の発生,およびこれら①から④が一連の流れとして連結していることが必要です。

Aさんは,Bさん名義クレジットカードを宝石店Cの店員に呈示して店員から指輪を受け取っていますが詐欺罪は成立するでしょうか。

= 欺罔行為 =

まず,AさんがB名義のクレジットカードを呈示する行為は①「欺罔行為」に当たるでしょうか。
宝石店Cとしては,クレジットカードの呈示さえあれば,それがAさんであろうがBさんであろうが問題はないようにも思えます。

しかしながら,クレジットカードは,その会員規約でカードの名義人以外の者による使用を禁止している場合がほとんどです。
これは,クレジットカードシステムがカードの名義人の支払い能力に対する信用を供与することを制度の根幹とするものであるからです。
そうすると,宝石店Cとしては,名義人以外の者によるクレジットカードの利用行為には応じないこととなっているのがほとんどですので,AさんがBさん名義クレジットカードを呈示する行為は①「欺罔行為」に当たるでしょう。

= 錯誤,錯誤に基づく処分行為 =

Aさんの欺罔行為によって,結果的に,店員Dは指輪をAさんに渡しているわけですから,店員Dに②「錯誤」があったといえます。また,店員Dは,AさんがBさんではないと分かっていたならばAさんに指輪を渡すことはなかったと言えますから,③「錯誤に基づく処分行為」もあったといえます。

= 財産的損害の発生 =

宝石店Cは指輪をAさんに渡しているのですが,これにより④「財産的損害」が発生したといえるでしょうか。

そもそもクレジットカードシステムは,カード会社が利用者にカードを発行し,利用者は欲しい商品をクレジット加盟店(宝石店C)からカードで購入し,この代金をカード会社がクレジット加盟店に立替払いし,カード会社は利用者から立て替え払いした代金を受け取るという流れで商品・代金のやり取りが行われるものです。
そうすると,クレジット加盟店は,カード会社から商品代金の立替払いを受けられるわけですから,財産的損害は発生していないとも考えられそうです。

この財産的損害の考え方については諸説ありますが,裁判例は,

・クレジット加盟店が商品そのものを引き渡したことが財産的損害であると考える説

に立っているようです(福高昭和56年9月21日など)。
この考え方からすると,宝石店CはAさんに指輪を交付していますから,宝石店Cに④「財産的損害が発生」したということになります。

= まとめ =

以上より,Aさんには詐欺既遂罪が成立する可能性が高そうです。また,クレジットカード名義人(Bさん)からカードの利用を承諾されていたとしても,詐欺既遂罪が成立に影響はないものと思われます。この点につき,平成16年2月9日の最高裁判例が参考となります。

ご家族が刑事事件で逮捕されてお困りの方、詐欺事件で取調べを受けており対応にお悩みの方は、刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
初回法律相談無料です。
詳しくは、フリーダイアル0120-631-881までお問い合わせください。

口座譲渡で逮捕

2019-02-03

口座譲渡で逮捕

福岡県北九州市市に住むAさんは,お金に困っていたことから,いわゆる闇金にお金を借りることにしました。
闇金に借りた金額は,30万円とそれほど大きい金額ではなかったのですが,利子が非常に高かったこともあり,最終的には支払いが滞るようになりました。
そのような状況で,Aさんは,闇金の担当者から「今の状況では,いつまでたっても返済できないだろう。銀行で口座を開設してきて,それを郵送してくれたら借金をチャラにしてやる」と言われました。
この話に乗るしかないと考えたAさんは,最寄りのB銀行に行き,A名義で口座を開設し,通帳とキャッシュカードの交付を受けました。
そして,通帳とキャッシュカードを指定された住所に送ると,それから借金の返済の催促がなくなりました。
しばらくすると,福岡県八幡東警察署からAさんのところに連絡があり,「あなたの口座の件で話が聞きたいから一度警察に来てくれ」と言われてしまいました。
不安に思ったAさんは,いそいで刑事事件に強い弁護士に相談することにしました。
(フィクションです)

Aさんに成立する犯罪

Aさんは,最初から自分で口座を使用するつもりがなく,第三者に譲渡するつもりであったにもかかわらず,そのようなことを言わずに銀行口座を開設しています。
キャッシュカードや,通帳の説明文をよく読むと記載がある場合もあるのですが,銀行などでは,銀行の許可がない口座譲渡等を禁止しています。
そのため,もしAさんが本当のことを銀行の窓口職員に話していれば,銀行の職員は口座開設の手続きを進めなかったということができます。
このような場合には,人をだまして通帳やキャッシュカードを取得したと言えますから,刑法にある詐欺罪が成立することになります。

今回のような事例と異なり,もともとは自分で使用するつもりで口座を開設し,その後Aさんと同じように口座の郵送を求められ,それに応じて郵送したような場合には,犯罪による収益の移転防止に関する法律(通称犯収法)違反の罪が成立する可能性が高くなります。

口座譲渡の取調べ対応

先ほど述べた通り,最初に口座を開設した時点でどのような意図があったかによって成立する罪名が異なる可能性があります。
また,詐欺罪には罰金刑が無いのに対し,犯収法には罰金刑の定めがあります。
罰金刑がある場合には,略式手続が選択される可能性があります。
略式手続とは,罰金刑の前科が必ず付きますが,一般的に想像されるような裁判ではなく,書類のみが裁判官の所へ運ばれ,裁判所から略式命令という書類が郵送され,後日検察庁に罰金を納付しに行くというような,簡単な手続のことをいいます。
口座譲渡は,ほとんどの場合犯罪になることが否定できません。
ただし,どのような罪名で処理されるかは,最終的な処分に大きな影響を与える可能性があります。
そして,先ほど述べた通り,罪名選択のポイントは,口座開設の際の意図ですから,警察や検察といった捜査機関に対して,開設当時の認識等をしっかりと主張していくことが必要になります。

口座譲渡の弁護活動

口座譲渡をしてしまう方の中には,Aさんと同じように闇金などに手を出して,自らも違法な金利等によって苦しんでおられる方もおられます。
検察官が起訴するかどうかを判断する際には,犯罪の動機など,一切の事情を考慮した上で決定されます。
そのため,検察官に対し,今回の事件の動機や,原因,自らの責任の程度など,最終的に処分を決めるにあたって,自分に有利な事情をしっかりと主張できれば,事案の性質によっては,起訴猶予になる可能性も十分感がられます。

口座を他人に譲渡したことで、捜査機関より取調べを受けている、呼び出しを受けた、とお困りであれば、刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
初回の法律相談無料です。
詳しくは、フリーダイアル0120-631-881までお問い合わせください。

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