共同正犯と刑事責任②

共同正犯と刑事責任②

福岡県飯塚市に住むAさんは,無職でお金に困っていました。そんな中,Aさんは数年ぶりにあった知人の男Bさんから,「空き巣に入って貴金属を盗ってそれを売って金にしよう」ともちかけられました。Aさんはどうしようか迷いましたが,お金に困っており,借金の返済にも追われていたことから,Bさんの誘いを「承諾」しました。犯行日当日,犯行場所で,AさんはBさんから「俺が中に入ってやるから,誰も来ないかどうか外で見張りをしていてくれ」と言われました。そして,Aさんは外で見張りをしていたところ,被害者宅から貴金属を盗ってきたBさんから「中におばさんがいた。貴金属の在りかを吐かなかったので,ナイフで脅した」と言われました。その後,AさんとBさんは現場から逃走しました。そして,数か月後,AさんとBさんは,福岡県飯塚警察署に住居侵入・強盗罪(共同正犯)で逮捕されました。
(フィクションです)

~ 前回のおさらい ~

前回の「共同正犯刑事責任①」では,共同正犯の意義,共同正犯の成立要件を解説した上で,本件では,共同正犯の成立要件である「共同実行の意思」と「共同実行の事実」が認められることから,本件では共同正犯が成立するという結論に至りました。

~ 本件における疑問点 ~

しかし,Aさんとしては,Bさんから「空き巣に入って貴金属を盗ってそれを売って金にしよう」と窃盗を持ちかけられたのであって,Aさんの認識としては窃盗を犯す認識だったと思います。ところが,Bさんは強盗を犯しています。このように,認識した内容(窃盗)と発生した結果(強盗)との間に食い違いが生じた場合,(Aさんは)いかなる刑事責任を負わされるのかというのが本件の疑問点であり,問題点です。

~ 共犯の錯誤と判例の考え方 ~

学問上は,共犯者(Aさん)が認識していた事実の内容(窃盗罪)と,正犯者(実行行為者)の実行(強盗)との間に食い違いがある場合を「共犯の錯誤」と呼んでいます。
では,「共犯の錯誤」があった場合,実務ではどのように処理,解決されているのでしょうか?

この点,判例は,共同行為者相互間の認識の不一致が同一構成要件内にあるとき,共同正犯の故意は阻却されないとしています。例えば,XさんとYさんが甲さんの殺害を共謀した結果,Yさんが乙さんを甲さんと勘違いして乙さんを殺害したときは殺人罪の共同正犯が成立します。

他方,共同行為者間の認識の不一致が異なる構成要件にまたがるときは,原則として共同正犯の故意は阻却され,ただ,それぞれの構成要件が重なり合うときのみ,その重なりあう限度で共同正犯が認められるとしています。

* 本件への当てはめ *

本件の場合,後者の「共同行為者間の認識の不一致が異なる構成要件にまたがるとき」に当たります。構成要件とは,ここではとりあえず「罪」と理解してください。そして,Aさんは窃盗罪の認識,Bさんは強盗罪の認識であることから両者の認識に不一致が生じています。したがって,強盗罪の共同正犯の故意は阻却されますから,強盗罪の共同正犯は成立しません。次に,窃盗罪と強盗罪の違いは,その手段として暴行,脅迫を用いるか用いないかの違いだけで,後は同じです。つまり,両者は窃盗罪の範囲で重なり合っているといえます。したがって,共同正犯は窃盗罪の範囲でのみ成立することになります

~ Aさん,Bさんの刑事責任 ~

結局,Aさんは窃盗罪(10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)のBさんは強盗罪(5年以上の有期懲役)の刑事責任を負うことになります。逮捕時点では,Aさんは,強盗罪の容疑がかけられていますが,捜査が進展するにしたがって,Aさんの認識(故意)が明らかとなれば,窃盗罪での処分(起訴,不起訴)も十分に考えられます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,窃盗,強盗事件をはじめとする刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間受け付けております。

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