共同正犯と刑事責任①

共同正犯と刑事責任①

福岡県飯塚市に住むAさんは,無職でお金に困っていました。そんな中,Aさんは数年ぶりにあった知人の男Bさんから,「空き巣に入って貴金属を盗ってそれを売って金にしよう」ともちかけられました。Aさんはどうしようか迷いましたが,お金に困っており,借金の返済にも追われていたことから,Bさんの誘いを「承諾」しました。犯行日当日,犯行場所で,AさんはBさんから「俺が中に入ってやるから,誰も来ないかどうか外で見張りをしていてくれ」と言われました。そして,Aさんは外で見張りをしていたところ,被害者宅から貴金属を盗ってきたBさんから「中におばさんがいた。貴金属の在りかを吐かなかったので,ナイフで脅した」と言われました。その後,AさんとBさんは現場から逃走しました。そして,数か月後,AさんとBさんは,福岡県飯塚警察署に住居侵入・強盗罪(共同正犯)で逮捕されました。
(フィクションです)

~ 共同正犯とは? ~

2以上共同して犯罪を実行した場合を「共同正犯」といいます。

刑法60条
 2人以上共同して犯罪を実行した者は,すべて正犯とする。

正犯あるいは正犯者とは,犯罪(基本的構成要件)に該当する行為(実行行為)を行う者のことをいいます。刑法60条は,意思の連絡(共謀)の下に複数の者が関与した事案において,自己の犯罪を犯したと評価し得る重要な関与者を正犯とし,他人(Bさん)の実行行為及び結果につき,共同して行えば全て帰責される(刑事責任を負わされる)とう「一部行為の全部責任の原則」を認める規定です。

~ 共同正犯の成立要件 ~

それでは,共同正犯が成立するためにはいかなる要件が必要なのでしょうか?言い換えれば,他人が行った行為及びそれによって作出された結果を仲間内である共犯者にも帰責させるための要件とはいかなるものなのでしょうか?
共同正犯が成立するためには,主観的要件としての「共同実行の意思(意思の連絡=共謀)」,客観的要件としての「共同実行の事実」が必要です。

= 共同実行の意思 =

共同実行の意思とは,共同して実行行為をしようという意思のことをいいます。共同加工の意思ともいわれます。共同実行の意思は,2人以上の行為者全員が相互に持たなければなりません。したがって,甲がVに暴行を加えている間,甲の知らない間に乙がVの財布を盗んだという場合,窃盗罪(あるいは暴行罪)の共同正犯は成立しません。

= 共同実行の事実 =

共同実行の事実とは,共謀した行為者が実行行為を分担することであり,共同加功とか行為の分担ともいわれています。

* 共謀共同正犯 *

ところで,共同して犯罪を行う場合,一部の者が指示役,残りの者が実行役というように,役割分担が決められている場合があります(近年,はやりの特殊詐欺がまさにこれに当たります)。しかし,指示役は,実際に犯罪を実行していませんから「共同実行の事実」が認められず,刑事責任を問えないかのようにも思えます。そこで,判例は,共謀共同正犯という理論を用いて,指示役にも共同正犯としての刑事責任を負わせています。共謀共同正犯とは,2人以上の者が犯罪の共謀をし,そのうちある者が実行をすれば,実行を分担しなかった者の含めて共謀者の全員が共同正犯となるとする理論です。

~ 本件への当てはめ ~

では,上記要件を本件に当てはめてみましょう。
まず,「共同実行の意思」ですが,AさんはBさんから「空き巣に入って貴金属を盗ってそれを売って金にしよう」ともちかけられ,Aさんはそれに対し「承諾」しています。Bさんの誘いは要は,住居侵入罪あるいは邸宅侵入罪及び窃盗罪の誘いで,相互に意思連絡があると認められます。ですから「共同実行の意思」の要件は満たします。

次に,「共同実行の事実」ですが,本件の実行行為を行っているのはBさんです。しかし,上記でご説明したとおり,実行行為を分担していなくても共同正犯の成立を認めるのが現在の実務です。しかも,Aさんは,現場周辺で見張りをしています。したがって,「共同実行の事実」の要件も満たしそうです。

~ 本件の疑問点 ~

しかし,ここで一つの疑問がわきます。それは,

・Aさんとしては窃盗罪を犯すつもりでBさんに協力したのに,Bさんは強盗の罪を犯した
・その場合,Aさんも強盗の罪の責任を負うのか

という点です。この点については次回解説いたします。

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