窃盗罪の不法領得の意思とは?

窃盗罪の不法領得の意思とは?

福岡県八女市に住むAさんは,駅構内に掲示されていたポスターをはがした件で,福岡県八女警察署の警察官に窃盗罪で逮捕されました。Aさんと接見した弁護士は,Aさんの不法領得の意思に疑義を抱いたため,器物損壊罪の成立も視野に刑事弁護をしていく方針を固めました。
(フィクション)

~ はじめに ~

窃盗罪の成立には,判例上,犯人の主観的意図として「不法領得の意思」が必要とさされています。今回は,不法領得の意思を中心に解説いたします。

~ 窃盗罪(刑法235条),器物損壊罪(261条) ~

まず,はじめに,窃盗罪と器物損壊罪の規定から確認しましょう。窃盗罪は刑法235条に規定されています。

刑法235条
 他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

次に,器物損壊罪は刑法261条に規定されています。

刑法261条
 (略),他人の物を損壊し,又は傷害した者は,3年以下の懲役又は30万円以下の罰金又は科料に処する。

加えて,器物損壊罪については次の規定が設けられています。

刑法264条
 第259条,第261条及び前条の罪は,告訴がなければ公訴を提起することができない。

つまり,告訴がなければ公訴(つまり起訴)ができない罪を「親告罪」といい,器物損壊罪はまさにこれに当たります。この点が窃盗罪との最大の違いといっても過言ではないでしょう。

~ 不法領得の意思とは ~

では,窃盗罪成立のために必要とされる不法領得の意思とは何でしょうか?判例は

権利者を排除して他人の物を自己の所有物をしてその経済的用法に従ってこれを利用若しくは処分する意思

と定義しています。
前半部分の「権利者を排除して他人の物を自己の所有物をして」を「権利者排除意思」ともいい,後半の「その経済的用法に従ってこれを利用若しくは処分する意思」を「利用処分意思」ともいいます。

~ なぜ不法領得の意思が必要か? ~

「権利者排除意思」は,例えば,一時的に他人の自転車を無断で一時使用した直後に返還した「使用窃盗」との区別,「利用処分意思」は,まさに今回問題となっている器物損壊罪とを区別するためだと考えられています。

要は,「自転車を乗り去る」,「ポスターをはがす」という一見して不可罰なのか,器物損壊罪が成立するのか分からないときのために,「不法領得の意思」要素を加味することによって区別しようというわけです。

* 使用窃盗 *

使用窃盗が不可罰といいましたが,全てのケースにいえるわけではありません。使用窃盗が不可罰かどうかは,返還する意思の有無,使用方法,使用態様,使用時間の長短,場所的移転の範囲などの事情を総合して判断されます。

~ 近年の判決の傾向 ~

不法領得の意思に関する近年の判決の傾向としては,特に「利用処分意思」に関して「毀棄・隠匿の意思(器物損壊の意思)ではない」ことを区別の基準としているようです。その背景としては,社会の発達に従って,「利用処分意思」がないのではないかと疑われる事案であっても,それがイコール「物を毀棄・隠匿する意思」と同じとは限らないことにあります。

このことは,下着泥棒を例にとってみれば分かりやすいと思います。
「下着」を「その経済的用法に従って利用すること」とは「下着を着用すること」に他なりませんが,下着泥棒の全てがその目的で下着を盗んでいるわけではありません。「自慰のため」,「コレクションのため」,「被害者への好意のため」など様々です。しかし,そんな場合に「利用処分意思」がなかったとして窃盗罪が成立しないかというとそうではないことは明らかだと思います。また,そうしていけなならないと思います。

このように,近年「利用処分意思」に関しては,従来の判例の定義を厳格に当てはめることなく,少し緩やかに解する,適用するようになってきています。本件でも,「毀棄,隠匿の意思がない」と認められれば窃盗罪が成立し,「ある」と認められれば器物損壊罪が成立します。

~ 不法領得の意思を検討する意義 ~

不法領得の意思窃盗罪と器物損壊罪を区別するメルクマークであることはご説明いたしました。そして,器物損壊罪は,告訴がなければ公訴を提起されない親告罪であることもご説明いたしました。つまり,本件が器物損壊罪と認定されれば,被害者の告訴がなければ「自動的」に刑事処分は「不起訴」となるのです。この点が,不法領得の意思を検討する一番の意義といっていいでしょう。また,罰則も異なりますから,この点でも窃盗罪が成立するか器物損壊罪が成立するかは重要な検討事項ではないかと考えます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,窃盗罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件を起こしお困りの方は,まずは0120-631-881までお気軽にお電話ください。24時間,無料法律相談初回接見サービスを受け付けております。

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