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窃盗罪と準現行犯人逮捕①
窃盗罪と準現行犯人逮捕①
Aさんは,福岡県小郡市にある民家に,深夜の午前2時30分頃,窃盗の目的で侵入し,1階リビングのテーブルの上に置かれていた現金5万円入りの財布1個を盗みました(以下,本件)。2階で寝ていたVさん夫婦は1階で何かが壊される音を聞き,慌てて1階に降りたところ,リビングのドアガラスが壊されていました。Vさん夫婦は盗みに入られたと思い,すぐさま110番通報(午前2時40分)しました。
その時,小郡警察署に所属する警察官Kは,Vさん方から約50メートル離れたところで夜間警邏中でした。無線で本件の通報を受けたKは,右手にバールのようなものを所持していた男を認めたことから,男(のちに,Aさんと判明)に職務質問のため停止を求めました(午前2時45分)。そうしたところ,制服姿のKをみたAさんはその場から逃げ出し(その間,バールは川に投棄)たため,Kは追跡し,約50メートルしてAさんに追いつきました。Kの所持品検査の結果,Aさんは財布(Vさんの免許証入り)とペンライトを所持していたため,KはAさんを準現行犯逮捕しました(午前2時47分)。
~ 準現行犯人逮捕とは ~
準現行犯人逮捕とは,現行犯人逮捕の場合のように現に犯罪,犯人を目の前で見てはいないものの,これじ準じる要件があるために,現行犯人逮捕と同様に犯人を無令状で逮捕できるというものです。要件については,刑事訴訟法212条2項に規定されています。
刑事訴訟法212条2項
左(下)の各号の一にあたる者が,罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときは,これを現行犯人とみなす。
1号 犯人とし追呼されているとき。
2号 贓物(ぞうぶつ)又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
3号 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
4号 誰何(すいか)されて逃走しようとするとき。
= 「罪を行い終わってから間がない」 =
「罪を行い終わってから間がない」とは,犯行終了時から時間的に近接した時点をいいます。「間がない」とは,せいぜい数時間であると解するのが通説ですが,場所的に離れれば離れるほど,一般的に犯人であることの明白性(犯人であることが明らかであること)は失われているいくことから,場所的な近接性も無視できないとされています。
= 「追呼」(1号) =
「追呼」とは,犯人として追跡,又は呼称されていることをいいます。声を出して追っていることは必要ではなく,身振り手振りで追いかけている場合でもよいとされています。犯罪終了後継続して追呼されていることを要しますが,一度見失った後,間もなくして発見して追呼した場合でもよいとされています。
= 「贓物」(2号) =
「贓物」とは財産犯によって得られたものをいいます。「財産犯」とは,窃盗罪,強盗罪,恐喝罪,詐欺罪,横領罪,背任罪,盗品等に関する罪のことを指します。
= 「兇器」「その他の物」(2号) =
「兇器」とは,ナイフ・包丁など人を殺傷し得る物をいいます。「その他の物」とは,贓物や兇器以外の物であって,これらの物と同様に犯罪と犯人とを結びつける物をいいます。各種偽造罪の偽造用具,住居侵入に用いた鉄棒,ドライバーなどがその例です。
= 「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡がある」(3号) =
「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡がある」とは,身体に負傷していたり,被服に結婚が付着していたりして殺傷罪が推認される場合や,放火犯人の手に石油が染みついていた場合などを指します。
= 「誰何」(4号) =
「誰何」とは,「誰か」と問う必要は必ずしもなく,制服警察官を見て逃げ出したような場合も含みます。一般市民の方による誰何も4号に該当します。
~ 本件の準現行犯人逮捕は適法か? ~
では,本件の準現行犯人逮捕は要件を満たしているか確認しましょう。
まず,本件は,犯行(午前2時30分)から逮捕(午前2時47分)まで17分ですし,逮捕現場も犯行現場からさほど離れているとはいえないため「罪を行い終わってから間がない」といえるでしょう。Aさんの逃走状況から1号,4号にも当たります。また,Aさんは財布とペンライトを持っていたということでした。財布は「贓物」(2号)に当たりますし,夜間,ペンライトを持って入れば盗みに入ったと疑われますから「ペンライト」は「明らかに犯罪の用に供したと思われるその他の物」(2号)に当たります。
以上より,Kの逮捕は準現行犯人逮捕の要件を満たし適法ということができるでしょう。
明日は,現行犯人逮捕,準現行犯人逮捕された場合のその後の手続(流れ)についてご紹介いたします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,窃盗罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間体制で受け付けております。
(福岡県小郡警察署までの初回接見費用:39,200円)
少年事件と不処分
少年事件と不処分
福岡県大牟田市に住むA君(16歳)は,試験勉強や部活の成績が不調であること等でストレスが溜まっていました。そして,ある日,コンビニ寄った際,誰にも見つからないだろうと思って本棚にあった漫画本1冊を手に取り,お金を支払わず店外へ出ました。そうしたところ,Aさんはコンビニ店長に呼び止められました。Aさんは店内の事務室に連れていかれ,駆け付けた福岡県大牟田警察署の警察官に窃盗罪で事情を聴かれることになりました。捜査の結果,Aさんはこの件以外にも他のコンビニ等で漫画本を万引きしていたことが判明しました。その後,Aさんの事件は,家庭裁判所へ送致されてしまいました。Aさんの両親は少年事件に強い弁護士に無料法律相談を申し込みました。
(フィクションです)
~ はじめに ~
少年(20歳に満たない者)事件では,警察,検察での捜査が終わると,事件は家庭裁判所へ送致されます(送られます)。逮捕,勾留され身柄を拘束されている場合は通常,少年鑑別所に収容され,担当技官による面接や心理検査などを受けます。また,同時に家庭裁判所調査官の調査も受けます。身柄を拘束されていない場合は,稀に少年鑑別所に収容されることもありますが,通常は,収容されないまま家庭裁判所調査官の調査を受けるなどします。調査を受けた結果,結果は家庭裁判所に報告され,少年審判などに活かされます。
ただし,少年審判は必ず開かれるとは限りません(審判不開始決定)。また,仮に開かれたとしても保護処分(保護観察,少年院送致等)が下されない場合もあります(不処分決定)。以下,ご紹介いたします。
~ 審判不開始決定 ~
審判不開始決定とは,少年鑑別所や家庭裁判所調査官による調査の結果,審判に付することができず,又は審判に付するのが相当でないと認めるときに,少年審判を開始しない旨の決定をいいます。
= 「審判に付することができず」 =
「審判に付することができず」とは,非行事実の存在の蓋然性がない場合や少年の所在が不明であり,審判することができない場合などが当たります。「非行事実の存在の蓋然性がない場合」とは,少年の行為が非行の構成要件に該当しない場合や証拠上非行事実の存在の蓋然性すら認められない場合,すなわち,成人でいえば「嫌疑なし」の場合をいいます。この場合は,少年自身を少年事件の手続から解放する必要がありますし,少年に適切な処分を下すことができないからです。
= 「審判に付するのが相当でない場合」 =
「審判に付するのが相当ではない場合」とは,事案が軽微であったり,家庭裁判所に送致された段階では少年が十分に反省しており要保護性(矯正施設による保護の必要性)がなくなったりしている場合をいいます。少年審判の一番の目的は「少年の更生」にありますから,審判開始前に少年が更生していると認められる場合は少年審判を開くことは不要であるからです。
= 審判不開始決定の効果 =
少年審判は開かれません。少年審判が開かれないということは保護処分を受けることはありません。
~ 不処分決定 ~
不処分(決定)とは,家庭裁判所における少年審判の結果,保護処分に付することができないとき,又は保護処分に付するまでの必要がないと認めるときに,保護処分に付さない旨の決定のことをいいます。
= 「保護処分に付することができないとき」 =
「保護処分に付することができないとき」とは,非行事実の存在が認められない場合などが当たります。「非行事実の存在が認められない場合」とは,少年の非行事実の存在について,合理的疑いを超える心証が得られない場合をいいます。成人でいえば「無罪判決」に相当します。
= 「保護処分に付するまでの必要がないと認めるとき」 =
「保護処分に付するまでの必要がないとき」とは,審判までに少年が更生し,要保護性がなくなった場合や試験観察期間中の少年の生活態度からさらに保護処分を行う必要がなくなった場合などが当たります。調査や審判の過程で,調査官などによる教育的な働きかけによって,少年の問題点が改善され,要保護性がなくなった場合をいいます。
= 不処分決定の効果 =
保護処分を受けることはありません。
~ 審判不開始決定,不処分決定を受けるための弁護活動 ~
付添人(弁護人)としては,調査の過程で,少年に対して教育的な働きかけを行っていき,少年の事件に対する反省を深めさせたり,生活環境を整えていったりしていきます。そして,その結果を,家庭裁判所調査官に書面などで報告します。家庭裁判所調査官は,その報告書や自ら調査した結果などをもとに,家庭裁判所に対し,処分に関する意見を上申することができます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。少年事件でお困りの方はフリーダイヤル0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談等を24時間受け付けております。
窃盗罪と微罪処分
窃盗罪と微罪処分
福岡県春日市に住むAさんは,スーパーで万引きし,福岡県春日警察署で事情を聴かれることになりました。Aさんのご両親は,今後のことが不安になって刑事事件に強い弁護士に相談すると,弁護士から微罪処分のことを教えてもらいました。
(フィクションです)
~ 微罪処分とは ~
微罪処分とは,警察が事件を検察庁を送致せず,被疑者への厳重注意,訓戒等で終了させる手続きのことをいいます。本来,警察が立件した事件は警察→検察へと送致することが基本です(刑事訴訟法246条本文)。
刑事訴訟法246条
司法警察員は,犯罪の捜査をしたときは,この法律に特別の定がある場合を除いては,速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し,検察官が指定した事件については,この限りでない。
しかし,刑事訴訟法246条但書では,検察官が指定した事件については,この限りでない,つまり「送致しなくてもよい」とされており,これが微罪処分の根拠規定となっています。
~ どんな事件が対象となるの? ~
なお,「検察官が指定した事件」とありますが,検察官がいちいち事件が立件された都度指定しているのではなく,通常は,各都道府県を管轄する地方検察庁の検事正という役職の人が,各地域の実情に合わせて予め指定しています。一般的に,
・窃盗罪
・横領罪
・占有離脱物横領罪
・暴行罪
などの事件は微罪処分の対象とされていることが多いでしょう。
ただ,微罪処分の対象事件であっても,概ね,次の基準を満たす必要があります。
・ 犯情(犯罪事実そのものの情状)が極めて軽微であること
・ 被害弁償,示談済みであること
・ 被害者が処罰を望んでいないこと
・ 前科,前歴がないこと
~ 微罪処分のメリット ~
微罪処分となれば,どんなメリットがあるのでしょうか?
= 検察庁からの呼び出しがないで済む =
微罪処分となれば,事件が検察官の元に送致されませんから,検察庁から呼び出しを受けることはありません。お勤めの方であれば,休みをとって出頭するという手間が省けます。
= 刑事処分を受けないで済む =
検察庁に送致されないということは,検察官の刑事処分を受けることもありません。一番,不利な刑事処分は「起訴されること」ですが,微罪処分となれば,もちろん,起訴されることはありません。
= 裁判を受けないで済む =
起訴されることがないということは,裁判を受けなくて済むということを意味します。正式裁判されれば,裁判所が指定した日に出廷しなければなりませんが,その手間が省けます。
= 刑事処罰を受けなくて済む =
起訴され,有罪となり,その裁判が確定すれば刑事処罰を受けなくてはなりませんが,微罪処分となれば起訴されませんし,裁判を受ける必要もありませんから,刑事処罰を受けなくて済みます。
= 前科が付かない =
裁判で言い渡された刑事処罰の判断が確定すれば前科となりますが,微罪処分となれば裁判を受ける必要はありませんから,前科が付くこともありません。
~ 微罪処分獲得のための弁護活動 ~
これまで見てきたように,微罪処分となるためには,被害者弁償,被害者との示談が必要であることが分かります。よって,微罪処分獲得に向けた弁護士の弁護活動も,被害弁償や被害者との示談が中心となってきます。そして,微罪処分とするか否かは警察が決めますから,被害弁償,被害者との示談は,警察が事件を検察官へ送る前に済ませ,その結果を警察官へ示す必要があります。
被害弁償,被害者との示談をスピーディーに,かつ適切な内容でまとめるには弁護士の力が必要です。当事者間で行おうとすると,感情の縺れなどから,交渉が難航し,交渉中に事件を検察官の元へ送られてしまう可能性もあります。被害弁償,被害者との示談交渉は弁護士にお任せください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,窃盗罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は,まずは0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間体制で受け付けております。
強盗罪と恐喝罪
強盗罪と恐喝罪
福岡県大牟田市に住むAさんは,ある日の夜中,人通りの少ない路上を歩いていたVさんの背後から,Vさんに対し,左手に持っていた刃物を突き付け,「金を出せ,騒ぐと殺すぞ」などと言いました。Aさんはそのまま刃物を突き付けながら,Vさんから現金2万円入りの財布を右手で受け取り,その場から逃走しました。しかし,後日,Aさんは,福岡県大牟田警察署に強盗罪で通常逮捕されました。
(フィクションです)
~ 強盗罪 ~
刑法236条
1項 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は,強盗の罪とし,5年以上の有期懲役に処する。
2項 前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,前項と同様とする。
= 強盗罪の暴行・脅迫とは =
一般に,「暴行」とは人の身体に対する有形力の行使,「脅迫」とは人に畏怖させるに足りる害悪の告知のことをいいますが,強盗罪の「暴行」「脅迫」の程度は,
相手方の反抗を抑圧する程度
に強いものでなければならないとされています。そして,程度であるか否かは,
・犯行の時刻・場所その他周囲の状況
・凶器使用の有無
・凶器の形状性質
・凶器の用い方など犯行の手段方法
・犯人,相手方の性別,年齢,体力
などを総合的に考慮して判断されます。
= 強取とは =
「強取」とは,上記の「暴行」「脅迫」により,相手方の反抗を抑圧して財物を自己又は第三者に移すことをいいます。
通常は,犯人が被害者自身から直接財物を奪取することが多いと思いますが,必ずしもその必要はなく,反抗を抑圧された被害者から交付を受けてもよいとされています。
= 2項強盗とは? =
2項強盗とは,刑法236条2項に当たる行為をした場合に成立する犯罪です。
典型的ケースが,
タクシー強盗(例:目的地に着き,運転手からタクシー代を請求されたところ,運転手の顔面を殴ってタクシーを降り,代金の支払いを免れた場合など)
です。
「前項の方法により」とは,先ほどご説明した「暴行」「脅迫」の手段を用いてという意味です。「財産上不法の利益を得」とは,利益を得る手段が不法であることを意味し,財産上の利益そのものが不法であることを意味しません。具体的には,支払を免除させる(上記の例),借金の支払の履行を延期させる,被害者に一定の役務(サービスなど)を提供させることなどが挙げられます。「前項と同様とする」とは,1項と同様,5年以上の有期懲役に処せられるという意味です。
= 被害者が怪我した場合,死亡した場合は? =
強盗の機会に,人を負傷させた場合は強盗致傷罪が成立するおそれがあり,法定刑は無期又は6年以上の懲役です。また,死亡させたときは死刑又は無期懲役です。なお,「人」とは必ずしも被害者に限らず,強盗を目撃した目撃者,目撃者から依頼を受けて犯人を捕まえようとした通行人なども含まれます。
~ 恐喝罪 ~
刑法249条
1項 人を恐喝して財物を交付させた者は,10年以下の懲役に処する。
2項 前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,同項と同様とする。
= 恐喝とは =
「恐喝」とは,財物の交付又は財産上不法の利益を得るために行われる「暴行」又は「脅迫」のことをいいますが,恐喝罪の場合,一般的に脅迫行為が行われることが多いと思われます。ただ,その程度は,強盗罪と異なり,
相手方の反抗を抑圧するに至らない程度
であることが必要とされています。つまり,強盗罪よりは,やや程度の落ちる脅迫行為である必要だということです。規定上も,強盗罪と異なり「財物を交付させた」とあります。つまり,相手方に一定の処分行為をする余地を認めているのが恐喝罪ということになり,よって,強盗罪よりも程度の弱い脅迫行為で恐喝罪が成立するとされるのです。
強盗罪の「暴行」「脅迫」か恐喝罪の「恐喝」かは,上記で述べた基準(・犯行の時刻・場所その他周囲の状況,・凶器使用の有無,・凶器の形状性質,・凶器の用い方など犯行の手段方法,・犯人,相手方の性別,年齢,体力,・その他個々の事情など)をもとに判断され,個々の事案の具体的状況により結論は異なります。
~ おわりに ~
刑事事件において,ある犯罪に当たると疑われても,ふたを開けてみると
実は別の犯罪だった
ということがよくあります。強盗罪についても同じことがいえ,「強盗罪で逮捕されたものの恐喝罪で起訴された」,あるいは,「強盗罪で起訴されたが裁判で恐喝罪と認定された」などという場合です。仮に,このような事態となれば,適用される刑罰も異なり,量刑もだいぶことなりますから,
強盗罪が成立するか恐喝罪が成立するかは大きな違い
ということになります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,強盗罪,恐喝罪をはじめとする刑事事件,少年事件専門の法律事務所です。刑事事件,少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。
他人名義のクレジットカード使用で詐欺罪
他人名義のクレジットカード使用で詐欺罪
Aさんは多額の借金を抱え,返済も滞りがちでした。そのため,自己名義のクレジットカードを使用することができない状態でした。しかし,物欲のあるAさんは,それでも以前から目をつけていた指輪(時価10万円)が欲しいという気持ちを抑えることができず,何とかしてこれを手に入れたいと思っていました。そこで,Aさんは,友人のBさんからBさん名義のクレジットカードを借り,これを使って宝石店Cで指輪を買うことにしました。Aさんからこの話を聞いたBさんは当初は断りましたが,「10万円分だけならいいよ」などと言って,渋々自己名義のクレジットカードをAさんに貸しました。
そして,Aさんは,宝石店Cに行き,Bさん名義のクレジットカードを店員Dに呈示するなどし,店員Dから指輪を受け取りました。ところが後日,Aさんは,福岡県糸島警察署の警察官から呼び出しを受け,詐欺罪で取調べを受けました。今後のことが不安になったAさんは,刑事事件に強い弁護士に無料法律相談を申込みました。
(フィクションです)
~ 詐欺罪(刑法第246条) ~
他人の財物をだまし取った場合には詐欺罪が成立します。
詐欺既遂罪が成立するには,①欺罔行為(=騙すこと)→②錯誤(=騙されること)→③錯誤に基づく処分行為(=財物を交付すること)→④財産的損害の発生,およびこれら①から④が一連の流れとして連結していることが必要です。
Aさんは,Bさん名義のクレジットカードを宝石店Cの店員に呈示して店員から指輪を受け取っていますが詐欺罪は成立するでしょうか。
= 欺罔行為 =
まず,AさんがB名義のクレジットカードを呈示する行為は①「欺罔行為」に当たるでしょうか。
宝石店Cとしては,クレジットカードの呈示さえあれば,それがAさんであろうがBさんであろうが問題はないようにも思えます。
しかしながら,クレジットカードは,その会員規約でカードの名義人以外の者による使用を禁止している場合がほとんどです。
これは,クレジットカードシステムがカードの名義人の支払い能力に対する信用を供与することを制度の根幹とするものであるからです。
そうすると,宝石店Cとしては,名義人以外の者によるクレジットカードの利用行為には応じないこととなっているのがほとんどですので,AさんがBさん名義のクレジットカードを呈示する行為は①「欺罔行為」に当たるでしょう。
= 錯誤,錯誤に基づく処分行為 =
Aさんの欺罔行為によって,結果的に,店員Dは指輪をAさんに渡しているわけですから,店員Dに②「錯誤」があったといえます。また,店員Dは,AさんがBさんではないと分かっていたならばAさんに指輪を渡すことはなかったと言えますから,③「錯誤に基づく処分行為」もあったといえます。
= 財産的損害の発生 =
宝石店Cは指輪をAさんに渡しているのですが,これにより④「財産的損害」が発生したといえるでしょうか。
そもそもクレジットカードシステムは,カード会社が利用者にカードを発行し,利用者は欲しい商品をクレジット加盟店(宝石店C)からカードで購入し,この代金をカード会社がクレジット加盟店に立替払いし,カード会社は利用者から立て替え払いした代金を受け取るという流れで商品・代金のやり取りが行われるものです。
そうすると,クレジット加盟店は,カード会社から商品代金の立替払いを受けられるわけですから,財産的損害は発生していないとも考えられそうです。
この財産的損害の考え方については諸説ありますが,裁判例は,
・クレジット加盟店が商品そのものを引き渡したことが財産的損害であると考える説
に立っているようです(福高昭和56年9月21日など)。
この考え方からすると,宝石店CはAさんに指輪を交付していますから,宝石店Cに④「財産的損害が発生」したということになります。
= まとめ =
以上より,Aさんには詐欺既遂罪が成立する可能性が高そうです。また,クレジットカード名義人(Bさん)からカードの利用を承諾されていたとしても,詐欺既遂罪が成立に影響はないものと思われます。この点につき,平成16年2月9日の最高裁判例が参考となります。
ご家族が刑事事件で逮捕されてお困りの方、詐欺事件で取調べを受けており対応にお悩みの方は、刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
初回法律相談は無料です。
詳しくは、フリーダイアル0120-631-881までお問い合わせください。
口座譲渡で逮捕
口座譲渡で逮捕
福岡県北九州市市に住むAさんは,お金に困っていたことから,いわゆる闇金にお金を借りることにしました。
闇金に借りた金額は,30万円とそれほど大きい金額ではなかったのですが,利子が非常に高かったこともあり,最終的には支払いが滞るようになりました。
そのような状況で,Aさんは,闇金の担当者から「今の状況では,いつまでたっても返済できないだろう。銀行で口座を開設してきて,それを郵送してくれたら借金をチャラにしてやる」と言われました。
この話に乗るしかないと考えたAさんは,最寄りのB銀行に行き,A名義で口座を開設し,通帳とキャッシュカードの交付を受けました。
そして,通帳とキャッシュカードを指定された住所に送ると,それから借金の返済の催促がなくなりました。
しばらくすると,福岡県八幡東警察署からAさんのところに連絡があり,「あなたの口座の件で話が聞きたいから一度警察に来てくれ」と言われてしまいました。
不安に思ったAさんは,いそいで刑事事件に強い弁護士に相談することにしました。
(フィクションです)
Aさんに成立する犯罪
Aさんは,最初から自分で口座を使用するつもりがなく,第三者に譲渡するつもりであったにもかかわらず,そのようなことを言わずに銀行口座を開設しています。
キャッシュカードや,通帳の説明文をよく読むと記載がある場合もあるのですが,銀行などでは,銀行の許可がない口座の譲渡等を禁止しています。
そのため,もしAさんが本当のことを銀行の窓口職員に話していれば,銀行の職員は口座開設の手続きを進めなかったということができます。
このような場合には,人をだまして通帳やキャッシュカードを取得したと言えますから,刑法にある詐欺罪が成立することになります。
今回のような事例と異なり,もともとは自分で使用するつもりで口座を開設し,その後Aさんと同じように口座の郵送を求められ,それに応じて郵送したような場合には,犯罪による収益の移転防止に関する法律(通称犯収法)違反の罪が成立する可能性が高くなります。
口座譲渡の取調べ対応
先ほど述べた通り,最初に口座を開設した時点でどのような意図があったかによって成立する罪名が異なる可能性があります。
また,詐欺罪には罰金刑が無いのに対し,犯収法には罰金刑の定めがあります。
罰金刑がある場合には,略式手続が選択される可能性があります。
略式手続とは,罰金刑の前科が必ず付きますが,一般的に想像されるような裁判ではなく,書類のみが裁判官の所へ運ばれ,裁判所から略式命令という書類が郵送され,後日検察庁に罰金を納付しに行くというような,簡単な手続のことをいいます。
口座譲渡は,ほとんどの場合犯罪になることが否定できません。
ただし,どのような罪名で処理されるかは,最終的な処分に大きな影響を与える可能性があります。
そして,先ほど述べた通り,罪名選択のポイントは,口座開設の際の意図ですから,警察や検察といった捜査機関に対して,開設当時の認識等をしっかりと主張していくことが必要になります。
口座譲渡の弁護活動
口座譲渡をしてしまう方の中には,Aさんと同じように闇金などに手を出して,自らも違法な金利等によって苦しんでおられる方もおられます。
検察官が起訴するかどうかを判断する際には,犯罪の動機など,一切の事情を考慮した上で決定されます。
そのため,検察官に対し,今回の事件の動機や,原因,自らの責任の程度など,最終的に処分を決めるにあたって,自分に有利な事情をしっかりと主張できれば,事案の性質によっては,起訴猶予になる可能性も十分感がられます。
口座を他人に譲渡したことで、捜査機関より取調べを受けている、呼び出しを受けた、とお困りであれば、刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
初回の法律相談は無料です。
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特殊詐欺と幇助罪
特殊詐欺と幇助罪
福岡県春日市に住むAさんは、友人のBさんから、いいバイトがあるんだけど、やってくれる人を探していると言われました。
Aさん自身は、その時他のバイトが忙しかったこともあって、Bさんのバイトをすることはできませんでしたので、代わりの人を探すと答えました。
その時AさんがBさんから言われた仕事の内容は、①仕事が入る日は、大体4時間くらい入る②荷物を受け取って、別の人のところに届ける仕事である③1回仕事が終われば、大体3万円くらい報酬を渡すというものでした。
Aさんとしては、時間の割にかなり報酬が良い仕事だと思いましたが、特段不審には思わず、友人のCさんを紹介しました。しかし、実際はいわゆる特殊詐欺での仕事でした。
AさんがCさんをBさんに紹介すると、CさんとBさんは直接連絡をとりあっているようでしたが、時々AさんのところにもBさんから「Cに○日仕事って伝えといて」といったような伝言が来たり、「これCに渡す報酬だから」といってBさんから報酬を渡されたりしました。
また、Aさん自身もCさんを紹介した対価として、Bさんから1万円を受け取りました。
Aさんが、ある日バイトのために家を出ようとすると、家の前に福岡県春日警察署の人がいて、そのまま逮捕されてしまいました。
Aさんの両親は、突然のことに驚き、特殊詐欺事件にも強い弁護士に相談することにしました。
(フィクションです)
~Aさんに何罪が成立するのか~
それでは、Aさんにはどのような罪が成立するのでしょうか。
そもそも、Aさんは、自分が紹介した仕事が詐欺であるという事は知っていたのかが問題となります。
今回であれば、荷物を受け渡すという、典型的な詐欺の手段であることや、仕事の内容からして報酬があまりにも高すぎること等から考えれば、Aさんが詐欺であると知らなかったと主張したとしても、それが認められるとは限らないという可能性もあります。
では、仮にAさんが詐欺であることを知っていたという風に認定されたとして、その場合Aさんに成立する罪はどのような罪でしょうか。
Aさんは、詐欺罪に加担したのですから、詐欺罪になるとも考えられます。
この場合は、10年以下の懲役という刑で処断されることとなります。
これに対し、Aさんの関与の程度が低いと考えられた場合には、詐欺幇助罪という別の罪となります。
詐欺幇助罪は、詐欺には加担したけれども、その関与の程度が低い場合に成立する罪です。
では、詐欺罪か、詐欺幇助罪かは、どのような基準で別れているのでしょうか。
これについて明確な決まりがあるわけではないのですが、「重要な役割を果たした」といえる場合には、詐欺罪が成立し、そこまでではない場合には、詐欺幇助罪が成立すると考えられています。
この場合、刑が半分になり、5年以下の懲役という刑で処断されます。
本件について考えてみましょう。
今回の詐欺事件は、実行犯はCさんですし、特殊詐欺によくある電話(息子を装ってかけるような電話です)も、Aさんがかけたわけではありません。
このような意味では、Aさんは詐欺に当たる行為を特別しているわけではありません。
しかし、Cさんがいなければ詐欺が実行できなかったといえる以上、Aさんがいなければ、BさんにCさんのことが伝わることはなかったといえるのですから、Aさんは、今回の犯行に不可欠な役割を果たしたとも言えそうです。
しかし、AさんがCさんを紹介して以降、BさんとCさんは直接やり取りをしていますから、今回の事件に限れば、Aさんは関係ないとも言えます。
また、Aさんは実際に報酬も受け取っていることからすると、重要な役割を担っていない人物に報酬を渡すとは考えにくいですから、Aさんはそれなりに重要な役割なのかもしれません。
しかし、金額は1万円と、あまり大きな金額ではありませんから、そのような意味では、Aさんは重要な役割とは評価されていなかったのかもしれません。
以上のような事実からすると、今回の場合には、Aさんには詐欺幇助罪が成立するにとどまる可能性があります。
しかし、上で上げた事実の多くは、Aさんの取調べの中で分かってくる事実です(Aさんが逮捕されるとき、Cさんは逮捕されていますが、Bさんは逮捕されていないことが多くあります)。
そのため、取調でどのような事実を話していくのかは重要になります。
Aさんの取調べでの答え方次第で、法定刑を半分にすることが出来る可能性がありますから、早期に弁護士に相談して、取調べにどのように答えるかは大切になります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、特殊詐欺事件を含めた刑事事件を専門に扱う法律事務所です。
ご家族が特殊詐欺事件で逮捕されてお困りの方は、今すぐ弊所の弁護士にご相談ください。
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強盗・強制性交等の罪で逮捕
強盗・強制性交等の罪で逮捕
Aさんは,深夜,福岡県嘉麻市の路上で,Vさん(22歳)の後を付け,Vさんが一人で住んでいるアパートの部屋の鍵を開けようとしたところでVさんの口を右手で抑え,「死にたくなければオレの言う通りにしろ」などと言いました。VさんはAさんに言われるがまま部屋の鍵を開け,AさんはVさんの部屋の中に入り,玄関ドアの鍵を閉めました。そして,予め持ってきていたナイフ(刃体の長さが6センチメートルを超える刃物)をVさんに突きつけながら,Vさんを床に押し倒し,Vさんと性交しました。その後,Aさんは,テーブルの上に財布が置かれてあるのを見つけました。Aさんは「パチンコで負けてしまったし,お金もないので盗ってやろう」と思って,財布の中から1万円札2枚を引き抜き,Vさんの部屋を後にしました。後日,Aさんの犯行であることが判明し,Aさんは福岡県嘉麻警察署に強盗・強制性交等罪で逮捕されました。
(フィクションです)
~ 強盗・強制性交等の罪(刑法241条1項) ~
刑法241条1項
強盗の罪若しくは未遂罪を犯した者が強制性交等の罪(第179条2項の罪を除く。以下この項において同じ。)若しくはその未遂罪をも犯したとき,又は強制性交等の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときは,無期又は7年以上の懲役に処する。
平成29年刑法改正で,従来の強姦罪に代わり強制性交等罪が新設されたことは有名ですが,それに伴って刑法241条(改正前の強盗強姦罪)も改正されました。
改正前の強盗強姦罪では,強姦の後に強盗の犯意(意思)を生じて強盗をした場合,強盗強姦罪(無期又は7年以上の懲役)は成立せず,強姦罪と強盗罪の併合罪として5年以上30年以下の有期懲役にとどまり,強盗強姦罪との法定刑に大きな差がありました。
そこで,改正法では,同一機会に強盗(若しくはその未遂)と強制性交等(若しくはその未遂)が行われた場合には,その先後を問わず,改正前の強盗強姦罪と同じ法定刑で(つまり,強盗・強制性交等の罪=無期又は7年以上の懲役)で処罰できるようになりました。
= 強盗・強制性交等の罪が成立する場合とは? =
刑法241条1項をまとめると,強盗・強制性交等罪は以下の場合に成立します。
1 強盗+強制性交等の罪(ただし,監護者性交等罪(刑法179条2項)を除く)又はその未遂罪
2 強盗未遂+強制性交等の罪又はその未遂罪
3 強制性交等の罪+強盗又はその未遂罪
4 強制性交等の罪の未遂罪+強盗又はその未遂罪
・「強盗」とは
「強盗」には,刑法236条の「強盗」だけでなく,刑法238条の「事後強盗」や刑法239条の「昏睡強盗」も含まれます。
・「強制性交等の罪」とは
「強制性交等の罪」には,刑法177条の「強制性交等の罪」だけでなく,刑法178条2項の「準強制性交等の罪」が含まれます。ただし,規定にもあるように,刑法179条2項の「監護者性交等の罪」は,強盗と同一機会に犯されることが想定しがたいため除かれます。
・「~を犯した者が,~をも犯したとき」とは
これは,強盗行為と強制性交等の行為とが同一の機会になされる必要があることを意味しています。同一機会になされたかどうかは,強盗行為と強制性交等の行為との時間的,場所的関係などから判断されます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,強盗罪,強制性交等の罪をはじめとする刑事事件専門の法律事務所です。ご家族の方などが刑事事件で逮捕された,今すぐ接見して欲しい,被害者と示談して欲しいなどという方,その他でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。専門のスタッフが24時間,無料法律相談,初回接見サービスの受付を行っております。弁護士の都合がつくかぎり,速やかに対応させていただきます。
横領罪と背任罪の区別
横領罪と背任罪の区別
福岡市中央区にある信用組合の支店長Aさんは,預金成績の向上を装うため,Aさんが信用組合のために業務上保管する信用組合名義の預金口座から,預金者増加のための預金謝礼金を支出交付し,さらにこれを補填するために正規に貸付を受ける資格のない者に有資格者であるかのように装って正規利息よりも高い利息で貸付を行いました。そうしたところ,Aさんは,信用組合から告発を受けた福岡県中央警察署に業務上横領罪で逮捕されました。
(昭和33年10月10日付け判例を基礎に作成)
~ 業務上横領罪と背任罪 ~
刑法253条
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は,10年以下の懲役に処する。
「占有」には,事実上の支配のみならず法律上の支配をも含むと解されています。
横領罪における,「事実上の支配」は現にその物を持っているということです。例えば,他人から物を預かったなどという場合がこれに当たります。
他方,「法律上の支配」は,現にその物を持っていないということです。また,横領罪における占有が侵害の対象者(本件の場合,信用組合)と侵害者(Aさん)との間の信頼関係を基礎に成り立っているため,「法律上の支配」の本質は「濫用のおそれのある支配力」にあると言われています。本件で,Aさんは実際にお金を持っているわけではなく,信用組合の預金口座(債権)を支配・管理しています。また,その預金債権を自由に行使できる立場にあると言えそうですから,Aさんの「占有」は,濫用のおそれのある「法律上の支配」と言えそうです。
「横領」について,判例及び通説は財産権の侵害を重視する領得行為説を取り,自己の占有する他人の物を不法に領得すること,つまり,「不法領得の意思」を実現するすべての行為を横領行為ととらえています。そして,「不法領得の意思」を,「他人の物の占有者が委託の任務に背いて,その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいう」と解しています。Aさんが預金者謝礼金を支出する行為も高利息で貸付を行う行為も信用組合の委託の任務に背いていると言えそうですし,Aさんにはそのような権限はなさそうです。よって,Aさんの行為は「横領」に当たると言えそうです。
次に,背任罪の規定を見ると
刑法247条
他人のためにその事務を処理する者(Aさん)が,自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で,その任務に背く行為をし,本人に財産上の損害を加えたときは,5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。※()は筆者記入
一見すると,Aさんの行為は横領罪にも背任罪にも当たりそうです。では,両者はいかなる基準で区別されるのでしょうか?
~ 横領罪と背任罪の区別 ~
横領罪と背任罪の区別に関しては諸説あり,判例もどの説に立っているのか明確ではありませんが,基本的には
背任罪と横領罪は一般法と特別法の関係に立ち,特定の財物について「不法領得の意思」を実現する行為が横領罪にあたり,背任罪は横領罪の要件を具備しない行為について成立する
という考え方をとっているものと思われます。
そして,
1 自己の利益を図ることが明らかであれば横領罪
2 それ以外の場合は,本人名義で本人の計算の場合は背任罪,本人名義で自己の計算の場合は横領罪,自己の名義の場合は横領罪
の成立を認める傾向にあります。
ここで「自己の名義」とは,処分行為の当事者は行為者自身(Aさん)だという外観をとって行われることを意味し,「本人の名義」とは,処分行為の当事者が本人だとわかる外観をとって行われることを意味します。「自己の計算」とは,処分行為の法律効果,経済的効果が実質的に行為者自身に帰属することを意味し,「本人の計算」とは処分行為の法律効果,経済的効果が本人に帰属することを意味します。
以上からすれば,Aさんの行為は信用組合の計算においてなされた行為ではなく,Aさんの計算でなされた行為ですから,これからしてもAさんの行為は業務上横領罪に当たるものと思われます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,横領罪,背任罪などの刑事事件・少年事件を専門に取り扱う法律事務所です。お困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。
(福岡県中央警察署までの初回接見費用:35,000円)
【柳川市】での窃盗事件
【柳川市】での窃盗事件
福岡県柳川市に住むAさんは,知人Vさんから鍵がかかっていないVさん所有のカバンを預りましたが,その際カバンの中に入っていたVさん所有の財布を抜き取りました。Aさんは財布から現金2万円を抜き取った後,財布を近くの川に投棄しました。Aさんからカバンを受け取ったVさんは,カバンの中から財布がなくなっていることに気づき,福岡県柳川警察署に被害届を提出しました。柳川警察署は,VさんがAさんにカバンを預けた後に財布がなくなった事実などからAさんを窃盗罪の被疑者と認めました。Aさんは,Vさんから柳川警察署に被害届を提出したと言われ,柳川警察署から呼び出しを受けたので,刑事事件に強い弁護士に今後の対応や見通しなどを相談すべく,弊所の無料法律相談を申込みました。
(フィクションです)
~ はじめに ~
本件で犯罪となりうるAさんの行為は
1 Vさんのカバンの中からVさんの財布を抜き取ったこと
2 Vさんの財布から現金2万円を抜き取ったこと
3 Vさんの財布を川に投棄したこと
です。
それぞれ犯罪として成立し,成立するとしてどんな罪が成立するのでしょうか?Aさんは警察から窃盗罪の容疑をかけられています。また,その他にも,横領罪(刑法252条1項)の成立が考えられますので,まずはそれぞれの条文から確認することにします。
窃盗罪(刑法235条)
他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
横領罪(252条1項)
自己の占有する他人の物を横領した者は,5年以下の懲役に処する。
~ 行為1について(窃盗罪か横領罪か) ~
行為1については,窃盗罪が成立するのか,横領罪が成立するのかが問題となります。なぜなら,Vさんの財布は「他人の財物」とも「自己の占有する他人の物」とも言えそうだからです。VさんがAさんにカバンを預けた時点で,財物(財布)の占有がAさんに移ったといえる場合は,Aさんは「自己の占有する他人の物」を横領したとして横領罪が,そうではなく,以前として財物(財布)の占有はVさんにあるといえる場合は,Aさんは「他人の財物」を窃取したとして窃盗罪が成立します。
この点,似たような事例で判例(大判明治44.12.15など)は,包装物全体についてはAさんが占有を有するが,その在中物については,Aさんがこれを自由に支配し得る状態にないから,依然として占有はVさんにあると解してAさんに窃盗罪の成立を認めています。これからすると,Aさんがカバン自体をVさんに勝手に持ち去った場合は横領罪が成立することになります。
~ 行為2,3(不可罰的事後行為) ~
行為2,3は不可罰的事後行為に当たります。不可罰的事後行為とは,
ある犯罪終了(行為1)後の行為で,それだけで別罪を構成するように見えても,元の犯罪の違法評価に包含されているために別罪を構成(成立)しない行為をいいます
= 行為2について =
確かに,財布から現金2万円を抜き取るという行為だけみれば窃盗罪が成立しそうです。しかし,Aさんとすればお金が欲しいから,Vさんのカバンから財布を抜き取った(行為1)のであって,行為2は行為1からの自然的な流れと言え,行為2の違法性(悪いこと)は行為1によってすでに評価しつくされていると言えそうです。よって,行為2は不可罰的事後行為であり,窃盗罪は成立しません。
= 行為3について =
行為3は器物損壊罪に当たりそうです。器物損壊罪の「損壊」には隠匿することも含まれるからです。しかし,Vさんの財布の占有が害された(財布が隠匿された)という違法性は,行為1,つまり,他人の財物を窃取することによってすでに評価しつくされていると言えます。よって,行為3も不可罰的事後行為として器物損壊罪は成立しません。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,窃盗罪,横領罪をはじめとする刑事事件専門の法律事務所です。上記のように,事案によって成立する犯罪が異なりますから,どの犯罪が成立するか不安な方,お困りの方は,まずは弊所の無料法律相談のご利用をご検討ください。
(初回法律相談:無料)