政治家ポスターへの落書きと器物損壊罪

2019-05-24

政治家ポスターへの落書きと器物損壊罪

福岡県飯塚市に住むAさん(70歳)は、政治信条として現在の政権与党の政策に強い反対を示しており、その意思表示のため、同市内にある党事務所前に設置されていた首相や党員ポスターの顔に落書きしました。ちょうどそのとき、Aさんは、落書きを警戒していた党事務職員に犯行を目撃され、通報を受け駆け付けた飯塚警察署の警察官に器物損壊罪で現行犯逮捕されました。逮捕の通知を受けたAさんの妻はショックを隠し切れず、早急にAさんを釈放してもらいたいと思い、Aさんとの接見を弁護士に依頼しました。
(フィクションです。)

~ ポスターへの落書きは器物損壊罪 ~

器物損壊罪は刑法261条に規定されています。

刑法261条
 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。

首相や党員のポスターが「他人の物」であることは明らかでしょう。
また、「損壊」とは、物の本来の効用を失わせることをいうとされています。したがって、ポスターの場合、「破った」だけではなく、ポスター落書きした場合も「損壊」に当たる可能性があるのです。

~ 政治的意図は関係ある? ~

よくこの種の事案が話題となった場合、

ポスターへの落書きは政治的意思の表明の一環だ
・政治的意思の表明は憲法で保障されている「表現の自由(憲法19条)」の一部だ
・これを取り締まることは、権力の横暴だ、憲法違反だ

などという声を目にすることがあります。確かに、一般的に、形式的には罪に当たる行為であっても、それが正当防衛(刑法36条)、緊急避難(刑法37条)、正当行為(刑法35条)などに当たるのであれば違法性が阻却され(違法性が「ない」ということになり)、罪に問われることはありません。しかし、当該行為が政治的意思表明の一環で、それが憲法の保障する表現の自由の一部だったとしても違法性は阻却されないと考えられます。なぜなら、表現の自由が憲法21条で保障されているといっても、

公共の福祉(憲法12条、13条)による制約があり、他人の権利を侵してまで表現することが認められているわけではない

からです。

憲法12条
 この憲法が国民に保障する事由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又は、これを濫用してはならないのであって、公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う。

憲法13条
 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

表現の自由といっても全く無制約や権利ではなく「公共の福祉」による制約を受けるということになるのです。

* 公共の福祉とは *

「公共の福祉」の意味については、様々な説がありますが、通説は、憲法上の規定にかかわらずすべての人権に論理必然的に内在している、人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理としています。
本件の場合、Aさんの「表現の自由」と党事務所のポスターへの「財産権」が衝突している場面ですが、本件では「財産権」が優先されるでしょう。なぜなら、Aさんとすれば、当事務所に直接意見を言う、手紙等を郵送する、電話をするなど政治的意思を表明するため他に取り得る手段はいくらでもあったからです。

~ 器物損壊罪は親告罪 ~

器物損壊罪は、刑事告訴がなければ検察官が起訴することができない「親告罪」です。したがって、すでに刑事告訴されたという場合、起訴を回避する(不起訴処分を獲得する)ためには、被害者(本件の場合、党ポスターを管理する管理者)に告訴を取消していただく必要があります。被害者に告訴を取消していただくには、まずは被害者に誠心誠意謝罪し、示談交渉を始めて示談を締結させることが必要でしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,器物損壊罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。弊所には示談交渉を得意とする弁護士が所属しております。お困りの方は,0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間受け付けております。

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