今年3月に相次いだ性犯罪の無罪判決について

2019-05-23

今年3月に相次いだ性犯罪の無罪判決について

福岡県久留米市に住むAさんは(48歳)は,妻(46歳)と長女(19歳)の3人暮らしです。ある日,Aさんは,家族3人で外出中,妻には内緒で長女Vさんをホテルへ誘い,Vさんと性交しました。そして,数か月後,Aさんは福岡県久留米警察署に準強制性交等罪で逮捕されました。Aさんは,「Vとは同意の上だった」と話していましたが,結局は,同じ罪で起訴されてしまいました。
(フィクションです)

~ はじめに ~

平成31年3月28日、名古屋地方裁判所岡崎支部で、準強制性交等罪で起訴され裁判にかけられた男性に対し無罪判決が宣告されました。すでにマスコミ等で大きく報道され、ご存知の方も多いのではないでしょうか?今年3月に出された性犯罪関連の無罪判決は以下のとおりです。

* 今年3月の性犯罪無罪判決 *

3月12日 福岡地裁久留米支部 準強姦罪        女性が抵抗できない状態だったが男性が同意していると誤信する状況にあった 控訴中
3月19日 静岡地裁浜松支部  強制性交致傷罪・傷害罪 男性から見て明らかにわかる形で女性が抵抗していないので男性に故意がなかった 確定
3月26日 名古屋地裁岡崎支部 準強制性交等罪     長女は同意しておらず抵抗できない精神状態であったが、恐怖で拒めなかったとはいえない 控訴中
3月28日 静岡地裁      強姦罪         長女の証言が変遷。家族が気づかなかったのは不自然で不合理        控訴中

これらの判決を受けて、5月13日には、性被害者当事者を中心とした団体が、法務省と最高裁に刑法やその運用の見直しなどを求める要望書を提出しました。なお、数年前に成立した「刑法の一部を改正する法律(以下、改正刑法)」の附則第9条では

この法律の施行後3年を目途として、性犯罪における被害の実情、この法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案し、性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講じるものとする

とされています。改正刑法が施行されたのが

平成29年7月13日

でしたから、来年の7月13日頃を目途にさらに法改正の動きが高まる可能性があります。

~ 準強制性交等罪とは ~ 

ところで、名古屋地裁岡崎支部の裁判で問われた準強制性交等罪とはどんな罪なのでしょうか?同罪は刑法178条2項に規定されていますから,まず,その規定から確認しましょう。

刑法178条2項
 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心身を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,性交等をした者は,前条の例(刑法177条)による。

準強制性交等罪は、物理的あるいは心理的な方法で被害者の抵抗を封じるか、あるいは少なくとも抵抗が困難な状態にして、性交等を行ったり、そのような状態にある被害者に対して性交等を行ったりすることを処罰する規定です。上記の規定では、そのような状態を「抗拒不能」という言葉で表現しています。これまで判例や裁判例で有罪とされた例では

・睡眠薬やアルコールを飲ませて意識を失わせて性交等をした場合
・被害者に治療が必要であると誤信させて姦淫(性交)をした場合
・姦淫を拒めば身近な者に危難が生じると誤信させて姦淫した場合

などがあります。

~ なぜ無罪? ~

では,なぜ,名古屋地裁岡崎支部は無罪判決を下したのでしょうか?
裁判所は、心理的な「抗拒不能」の程度に関し、

性交に応じなければ生命・身体等に重大な危険を加えられるおそれがあるという恐怖心から抵抗できなかった場合や、相手方の言葉を全面的に信じこれに盲従する状況にあったことから性交に応じるほかには選択肢がないと思い込まされていたような場合

と判示しています。そして、

以前に性交を拒んだ際に受けた暴力は恐怖心を抱くようなものではなく,抵抗を続けて拒んだり,弟らの協力で回避したりした経験もあり,抗拒不能な状態だったとは認められない

として無罪としています。

しかし、過去の判例や裁判例の基準からして、名古屋地裁岡崎支部の「抗拒不能」の程度に関する解釈はあまりにもハードルが高いとして、異論を唱える専門家の方もおられます。名古屋地裁岡崎支部の裁判を含め3つの裁判が現在控訴中です。今後の経過を注視していきたいと思います。

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