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福岡県薬物の濫用防止に関する条例①
福岡県薬物の濫用防止に関する条例①
福岡県みやま市に住むAさんは、特定危険薬物を使用しないよう福岡県知事から警告を受けていたにもかかわらず特定危険薬物を使用したとして、福岡県から福岡県薬物の濫用防止に関する条例違反の件で呼び出しを受けました。今後のことが不安になったAさんは、弁護士に無料法律相談を申込みました。
(フィクションです。)
~ 福岡県薬物の濫用防止に関する条例 ~
薬物の規制といえば、「覚せい剤取締法」、「大麻取締法」、「医療品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、医薬品法)」などが有名かと思いますが、条例で薬物規制されていることはご存知でしょうか?
福岡県では
福岡県薬物の濫用に関する条例(以下、条例)
という条例に薬物の規制等に関する規定を設けています。
~ 条例の特徴 ~
条例の特徴としては、その2条7号で
大麻、覚せい剤、麻薬等に掲げるもののほか、これらと同等以上に興奮、抑制、幻覚その他これらに類する作用を人の精神に及ぼす物で、それを濫用することにより人の健康に被害が生じると認められるもの
を「危険薬物」とし、通常、私たちが想定する薬物以外の薬物も危険であると宣言していることです。また、条例13条1項では、
(福岡県)知事は、危険薬物である疑いがある物品が大臣指定薬物として指定されるか否かが確定する前に、当該物品の濫用による県民の生命、健康又は安全に対する危害を防止するため緊急を要すると認めるときは、当該危険薬物である疑いがある物品又はこれを含有する物品を特定危険薬物として指定することができる
としていることも挙げられます。大臣指定薬物とは、医薬品法に基づいて厚生労働大臣が指定した薬物のことをいいますから、
医薬品法でひっかからない薬物であっても条例ではひっかかる(規制の対象となる)可能性がある
ということになります。
~ 条例の罰則 ~
条例17条5号では、特定危険薬物の使用を禁止しています。しかし、条例では特定危険薬物を使用したからといって、直ちに処罰する旨の規定を設けているわけではありません。条例19条1項では
知事は、特定危険薬物に関し次の各号のいずれかに該当する者に対し、第17条各号に規定する行為(特定危険薬物の使用など)をしないよう警告を発することができる
とし、条例19条1項5号で
第17条第5号の規定に違反して特定危険薬物を使用した者
としています。
そして、ここからが罰則に関する規定なのですが、条例26条で
第19条第1項の警告に従わず、第17条第1号から第5号までのいずれかの規定に該当する行為をした者は、5万円以下の過料に処する
としています。
~ 過料とは?? ~
過料とは行政上の義務に違反した場合にその制裁として科される金銭罰のことで、刑罰ではありません。刑罰とは、あくまでも
死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料
のことをいいます。
一番最後の科料(かりょう)と読み方は同じですが、科料は刑事罰(刑罰)であるのに対し過料はそうでない点が大きく異なります。実務では両者を区別するため、科料を「とがりょう」と呼ぶこともあります。
過料は刑罰ではありませんから、違反行為をしたとしても逮捕されたり、過料を科されたとしても前科が付くことはありません。
しかし、条例では懲役刑、罰金刑を設けている規定もあります。この点に関しては次回解説いたします。また、特定危険薬物を使用することはあなた自身の身体だけではなく、社会的にも害悪です。絶対にやめましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、薬物事件をはじめとする刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。
覚せい剤所持の罪、薬物事件の特徴
覚せい剤所持の罪、薬物事件の特徴
密売人のAさんは、休日、自宅にいたところ、突然、福岡県小倉北警察署の捜索(ガサ)を受け、自宅から覚せい剤約30グラムを押収されてしまいました。そして、Aさんは覚せい剤取締法違反(営利目的所持の罪)で逮捕されてしまいました。Aさんから依頼を受けた弁護士がAさんと接見しました。
(フィクションです。)
~ 覚せい剤取締法 ~
覚せい剤取締法で禁止している覚せい剤の所持には、①単純(非営利目的)所持と②営利目的所持の2種類があります。
①の法定刑は「10年以下の懲役」です。他方、②の法定刑は「1年以上の有期懲役又は情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金」で、①より非常に重たい罪であることが分かります。
* 所持とは *
「所持」とは、「事実上の実力支配関係」とも言われています。すなわち、自分が直接手にしている必要はなく、社会通念上本人の実力支配、管理の及ぶ場所に保管していればいいとされています。ある日、突然、警察のガサが入り、自宅部屋のタンス内から覚せい剤を押収されたとき、覚せい剤(所持の罪)で逮捕されるのはこのためです。
* 営利目的とは *
営利目的とは、覚せい剤を所持する動機が財産上の利益を得る、ないしはこれを確保する目的に出たことをいうとされています。本人が営利目的を有していたかどうかは、専ら本人の内心に関わる事情ですから、以下のような客観的事情から推認されます。
① 覚せい剤を所持する量
覚せい剤を所持する量が多ければ、それだけ他人に売っている疑いが高くなり、営利目的が疑われます。
② 所持の態様
ガサ時に、多量のチャック付きポリ袋(パケ)に入った覚せい剤が押収されたなどという場合も、他人に売っている疑いが高くなり、営利目的が疑われます。
③ 覚せい剤以外の押収品
通常、覚せい剤はパケに2~3回分の使用量を入れて売られます。また、その際、使用道具である注射器も付けれれることがあります。そのため、多量のパケ、注射 器(未使用のもの)が押収された場合は、営利目柄が疑われます。その他、覚せい剤を小分けする量を計るなどする電子計り、小分けに使うピンセット、スプーン等が 押収された場合も同様です。その他、密売事実を裏付ける購入者リスト、メモ、メール・電話履歴等が押収され、そこに密売の形跡が認められる場合は営利目的を疑われるでしょう。
~ 薬物事件の特徴 ~
覚せい剤事件をはじめとする薬物事件の場合、他の刑事事件と異なり、以下の特徴があると言われています。
= 示談できる相手がいない =
覚せい剤事件をはじめとする薬物事件にかかる犯罪は被害者不在の犯罪です。被害者がいる刑事事件では被害者との示談→不起訴処分・執行猶予獲得という絵を描きやすいのですが、薬物事件の場合は被害者が存在しないためそうはいきません。
= 高い確率で逮捕・勾留される =
薬物事件の場合、覚せい剤の入手(輸入等)→売却→譲り受け(譲り渡し)→使用という一連の流れを踏み、その過程には多くの関係者が関与しています。にもかかわらず、その関与者全員が検挙されることは稀です。したがって、たとえ特定の犯人を検挙できたとしても、他の未検挙者と通謀するなどして罪証隠滅行為をすると疑われてしまい、逮捕・勾留される可能性が高いのです。
= 高い確率で接見禁止も =
そのため、薬物事件では、勾留によっては罪証隠滅行為を防止できないとして接見禁止決定を出されることが多いと思われます。接見禁止決定とは、弁護人あるいは弁護人となろうとする者以外の者との接見を禁止する決定を言います。
~ 薬物事件における弁護活動 ~
上記の特徴から、示談交渉は無意味です。そこで、釈放に向けた弁護活動(保釈請求等)が主となります。その他、執行猶予や一部執行猶予・減軽獲得のため、再犯防止に向けた対策を立案して実行に移せるよう手助けを行います。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,薬物事件をはじめとする刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。
薬物事件(使用の罪)で保釈なら
薬物事件(使用の罪)で保釈なら
福岡市東区のAさんは、同区内の自宅アパートで、覚せい剤を注射する方法で使用しました。しかし、翌日、Aさん宅に福岡県東警察署の捜索が入り、尿の任意提出を求められ提出したところ、尿から覚せい剤成分が検出されたことから、Aさんは覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕されてしまいました。Aさんは勾留され、国選弁護人が選任されましたが、国選弁護人の弁護活動には満足していませんでした。そして、10日間の勾留期間を経た後、Aさんは覚せい剤取締法違反で起訴されてしまいました。そこで、Aさんの父親は、国選弁護人から私選弁護人への切り替えを検討しており、Aさんを保釈してもらいたいと考えています。
(フィクションです)
~ 保釈とは ~
保釈とは、被告人(裁判にかけられた人)に対する勾留の執行(効力)を停止して、その身柄拘束を解くことをいいます。「被告人」とは起訴され、刑事裁判にかけられた人をいいますから、あくまで保釈請求は
起訴後
しかすることができません。
~ 保釈のメリットと保釈されないデメリット ~
保釈のメリットとしては以下の点が挙げられます。
① 精神的,肉体的負担の軽減
留置場,拘置所暮らしの生活は,多大な精神的,肉体的負担を伴います。保釈されれば,これらの負担から解放されます。
② 様々な処分を免れる
早期に釈放されることにより,会社の懲戒処分(解雇,減給等),学校の退学処分等を免れることができるかもしれません。
③ 家族が安心する
何より,ご家族が安心されます。ご家族が留置場等へ面会に行く手間も省けます。
④ 裁判に向けた十分な打合せができる
釈放されていますからいつでも弁護士に相談できるわけですし,何より落ち着いて、時間をかけて打合せを行うことができます。
他方で、保釈されないデメリットとしては、上記の真逆のことがいえるでしょう。①精神的、肉体的負担は継続しますし、②身柄拘束が継続すれば職場や学校への復帰も難しくなるかもしれません。よって、仮に、裁判で執行猶予判決を得たとしても、その後の社会復帰が難しくなるかもしれません。また、③ご家族の不安・負担は継続します。④裁判に向けた打合せも、保釈された場合よりは不十分なものとなるでしょう。
~ 保釈の注意点 ~
保釈は、あくまで勾留の停止にすぎません(勾留の効力が消滅したわけではない)。また、メリットだけではありません。以下の点に注意する必要があります。
① 多額の保釈保証金が必要となる
保釈保証金の額は、被告人の認否、事案の内容等に鑑みて裁判官(裁判所)が決めます(日産のカルロスゴーン社長が保釈保証金1億円を納付したことはニュースになりました)。決して安い金額ではなく、通常の簡易な事件でさえ100万円~150万円を準備する必要があります。
② 保釈条件を遵守する必要がある
保釈を許可するにあたっては
・裁判所から呼び出された場合は必ず出頭する
・住居地を変更するには裁判所の許可を受ける
・被害者への連絡は弁護人を介する
・被害者、目撃者、共犯者などの事件関係者と接触しない
・薬物に近寄らない
などの条件を付けられます。全くフリーな状態で釈放されるわけではありません。
③ 保釈保証金は没収され、収容されるおそれがある
決められた条件を守らなければ納付した保釈保証金は没収され、再び留置施設等に収容されるおそれがあります。
~ 薬物事件(使用の罪)で保釈を目指すなら ~
薬物事件の使用の罪の場合、主要となる証拠は主に被疑者・被告人の尿と尿に関する鑑定書です。しかし、尿はすでに起訴前に押収されていることが通常ですし、鑑定書は警察(科捜研)が作成しますから、保釈後ともに罪証隠滅の対象とはなり得ません。つまり、薬物事件の使用の罪の場合、起訴後の罪証隠滅のおそれはほとんどないと言っても過言ではありません。したがって、薬物事件の使用の罪で保釈を目指すなら、
逃亡のおそれ
をどう担保するかがまず鍵となりそうです。そのためには、
適切な身柄引受人を確保する
ことが必要ですが、薬物に対する依存度の程度によっては
専門の施設に入所、入院する
ことも検討した方がいい場合もあります。
あとは、薬物事件に限らず、保釈を許可すべき必要性を裁判所に訴えていく必要があるでしょう。たとえば、
・持病があり、特定の病院へ通院・入院する必要があること
・要介護者がおり、被告人の援助が必要なこと
・家族にとって被告人の経済的支援が必要なこと
などが挙げられます。
こうした事情を効果的に主張していくためには、弁護士の力が不可欠です。お困りの方は弊所の弁護士にご相談ください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は、まずはお気軽に0120-631-881までお電話ください。24時間、無料法律相談、初回接見サービスの予約受付を承っております。
覚せい剤と全部執行猶予・一部執行猶予
覚せい剤と全部執行猶予・一部執行猶予
福岡県福津市に住むAさんは、福岡県宗像警察署の家宅捜索を受け、覚せい剤を所持していたとして覚せい剤取締法(所持罪)で逮捕され、その後起訴されました。そして、Aさんの判決期日は、平成31年4月26日と指定されました。実は、Aさんは、平成30年8月1日に、刑務所を出所(覚せい剤取締法違反(使用)で(懲役)1年6か月間服役)したばかりでした。Aさんと接見した弁護士は、再犯防止の観点からも、一部執行猶予判決を獲得できないか検討しています。
(フィクションです)
~ 執行猶予とは ~
執行猶予とは、その罪で有罪ではあるが、言い渡された刑(懲役刑、罰金刑)の執行を一定期間猶予する(見送る)ことをいいます。そして、執行猶予には「全部執行猶予」と「一部執行猶予」の2種類があります。
~ 全部執行猶予を受けるための要件(基本形) ~
全部執行猶予を受けるための要件は、刑法25条1項に規定されています。
刑法25条1項
次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる
1号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を受けた日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
つまり、執行猶予を受けるには
1 3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けること
2 上記1号、あるいは2号に該当すること
3 (執行猶予付き判決を言い渡すのが相当と認められる)情状があること
が必要ということになります。
* Aさんは全部執行猶予を受けられる? *
1号の「前に禁錮以上の刑に処せられた」とは、判決前に、禁錮以上の刑の言渡しを受け、その刑が確定したことをいうところ、Aさんは判決前に懲役2年の実刑判決を受け服役していますから、1号には当たりません。また、2号に当たるか検討するに、「執行を終わった日」とは刑の服役期間が満了した日をいい、Aさんの場合「平成31年7月31日」ですから、判決時にはまだ5年を経過していません。したがって、2号にも当たりません。
以上から、Aさんは全部執行猶予判決を受けることはできません。
~ 一部執行猶予判決を受けるための要件 ~
薬物事件を犯した者に対する一部執行猶予については、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(以下「法律」)」に規定があります。一部執行猶予判決を受けるには次の要件が必要です(法律3条)。
1 薬物使用等の罪を犯したこと
2 本件で、1の罪又は1の罪及び他の罪について3年以下の懲役又禁錮の判決の言い渡しを受けること
3 刑事施設における処遇に引き続き社会内において規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが、再び犯罪をすることを防ぐために「必要」であり、かつ、「相当」であること
なお、薬物使用等の罪については、他の犯罪と異なり、前科の要件は必要とされていません。つまり、Aさんのような累犯前科を持つ方であっても、一部執行猶予判決の対象となり得ます。
* 薬物使用等の罪とは? *
法律2条2項には次の罪が挙げられています。
同項2号 大麻の所持又はその未遂罪
同項4号 覚せい剤の所持、使用等又はこれらの罪の未遂罪
同項5号 麻薬及び向精神薬取締法の所持罪等
* 全部執行猶予との違いは? *
一部執行猶予判決がついてもあくまで「実刑判決」の一部であることに変わりはありません。執行猶予を猶予された期間以外は刑務所に服役しなければなりません。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、覚せい剤事件をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件で全部執行猶予、一部執行猶予獲得をお考えの方は、フリーダイヤル0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談、初回接見サービスを24時間受け付けております。
覚せい剤事案とおとり捜査
覚せい剤事案とおとり捜査
博多警察署の警察官Xが覚せい剤取締法違反(譲り受けの罪)で逮捕されたBさんを取調べ中,Bさんから「博多に住むAから譲り受けた」との供述を得ました。その後,Xは,Aさんの覚せい剤密売に関する証拠の収集に努めましたが,決定的な証拠を得ることはできませんでした。そこで,Xは,Bさんの知人になりすまし,Aさんに「Bさんから紹介してもらった」「覚せい剤を売ってくれないか」と持ちかけました。Aさんは一度断ったものの,Xから執拗に覚せい剤を要求され,取引の値段も上げられたことからこれに応じることにしました。そして,Aさんは待ち合わせ場所に行ったところ,Xが現れ,Xから「シャブは?」と言われたため約束通り覚せい剤をXに渡したところ,Xから「警察だ」と言われ,その場で覚せい剤取締法違反(譲り渡しの罪)で逮捕されてしまいました。
(フィクションです)
~ 覚せい剤取締法違反 ~
覚せい取締法41条の2第1項では,
覚せい剤を,みだりに,所持し,譲り渡し,譲り受けた者
を「10年以下の懲役」に処するとしています。また,その第2項では営利の目的でこれらの行為をした者を「1年以上の有期懲役」に処し,又は情状により「1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金」に処するとしてます。
~ おとり捜査 ~
おとり捜査とは,捜査機関(警察など)又はその依頼を受けた捜査協力者が,その身分や意図を相手方に秘し(隠し)て犯罪を実行するよう働きかけ,相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙する捜査手法をいいます。
~ おとり捜査の根拠は? ~
ところで,刑事手続について定めた刑事訴訟法にはおとり捜査についての規定がありません。取調べ,捜索,差押え,逮捕など何らかの捜査をするにあたっては必ずその法的根拠が必要です。では,おとり捜査はどうでしょうか?
この点,最高裁判所(最判平16.7.12)は,
「少なくとも,直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において,通常の捜査方法のみでは犯罪の摘発が困難である場合に,機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象にして行われるおとり捜査は,刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容される。」
としています。
※刑事訴訟法197条1項
捜査については,その目的を達成するために必要な取調をすることができる。但し,強制の処分は,この法律に定めのある場合でなければ,これをすることができない。
~ 任意捜査であれば無制約に認められるか? ~
おとり捜査が任意捜査であることはお分かりいただけたと思います。しかし,任意捜査であるからといって無制約に何でもかんでも許されるわけではありません。任意捜査であっても,強制捜査の場合と同様,人々の人権を侵害するおそれは十分あるのです。そこで,最高裁は,「必要性」と「相当性」という基準を用いて任意捜査にも歯止めをかけようとしています。
~ おとり捜査の「必要性」とは ~
おとり捜査の「必要性」は認められると考えられています。それは,特に覚せい剤事犯の場合,密行性が高いため(被害者,目撃者がおらず密室で行われることが多い),通常の捜査手法では摘発は困難と考えられるからです。
~ おとり捜査の「相当性」とは ~
この点,おとり捜査は「犯意誘発型」と「機会提供型」に分かれ,犯意誘発型は「相当性」が認められるが,「機会提供型」は認められないと考えられています。
「犯意誘発型」とは,もとから犯罪を犯す意思のない者に対して積極的に働きかけを行って犯意を誘発するおとり捜査,「機会提供型」は,もともと犯罪を犯す意思のある者に犯行の機会を提供するおとり捜査のことをいいます。
「犯意誘発型」の場合,犯罪を防止するべき国家(捜査機関)が犯罪を作りだしている点,適正手続きの原則を侵害している点から「相当性」が認められず違法とされているのに対し,「機会提供型」の場合は,犯罪を犯す意思のある者に機会を提供したにすぎず,国家が犯罪を作出したとはいえないことから「相当性」が認められ適法と考えられています。
~ 本件は何型? ~
本件は,Aさんが取引を断っているにもかかわらず,警察官Xから執拗に取引を持ちかけられていることに鑑みれば「犯意誘発型」に当たるとも考えられます。
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(福岡県博多警察署までの初回接見費用:34,300円)
刑事裁判の確定とは
刑事裁判の確定とは
北九州市八幡西区に住むAさんは,覚せい剤取締法違反を犯した罪で懲役2年の実刑判決を受けてしまいました。Aさんとしては,有罪であることは認めつつも,刑の重さ(量刑)に不満を抱いており,控訴したいと考えています。Aさんは刑が確定してしまう前に控訴しなければなりません。
~ 刑事裁判のその後 ~
日本では三審制がとられており,第一審が終わっても,不服があれば「第一審→第二審→第三審」と続いていくことはご存知かと思います。第一審において「有罪」とされた場合,その後,どのような経過を辿るのかご存知でしょうか?事例では「控訴」「確定」という言葉が出てきましたから,その言葉の意味を中心に解説していきたいと思います。
~ 控訴とは ~
控訴とは,簡易裁判所や地方裁判所から上級の高等裁判所へ上訴することをいいます。自分は無罪と考えているが有罪と認定された(事実誤認),有罪であることは認めるが刑の種類や重さに不満があること(量刑不当)などを理由に控訴することができます。なお,控訴できるのは裁判を受けた被告人だけと思われている方もおられるかもしれませんが,訴追する側の検察官も控訴することができます。したがって,被告人側,検察側双方が控訴するというケースもよくあることです。
* 控訴期間には期限がある *
控訴期間は14日間です。そして,その期間の起算日は,判決言い渡し日の翌日です。
たとえば,平成31年4月1日に「懲役3年」との判決の言い渡しがあったとします。すると,控訴期間の起算日は4月2日ですからその日を含めた14日間が控訴期間ということになります。したがって,4月15日が控訴期限日で,その翌日の4月16日が確定日ということになります。
では,4月15日が土曜日だった場合はどうなるでしょうか?この場合,控訴期間の末日が土日祝日,12月29日から31日,1月2日,3日の場合は期間に算入しないとうい決まりがありますので,翌月曜日の4月17日が控訴期限日で,その翌日の4月18日が確定日となります。
~ 確定とは ~
確定とは,判決の内容に対しこれ以上不服申し立てをすることができなくなった状態のことをいいます。被告側,検察側が上訴することなく,上訴期間(14日間)が経過して裁判が確定した場合を「自然確定」といいます。なぜ,自然というのかといいますと,自然確定以外の事由,すなわち,当事者(被告人,検察官)の意思で確定することができるからです。つまり,被告人,検察官は上訴権を放棄したり,すでにした上訴を「取り下げ」たりすることができます。一方が上訴権を放棄したり,上訴を取り下げれば,他方が上訴権を放棄したり,上訴を取り下げた時点で裁判が確定します。
* 確定したらどうなるの? *
刑が確定すると,刑の執行がはじまります。死刑,懲役,禁錮,拘留の場合,身柄を拘束されている方は,そのまま収容施設で刑に服することになります。他方,在宅のまま刑が確定した場合は,検察庁から出頭の要請を受けます。そして,検察庁に出頭したのち,拘置所などに収容されます。ここで出頭しなかった場合は,収容状という令状によって強制的に身柄を拘束されます。執行猶予付き判決を受けた方は,確定日から刑の猶予期間がはじまります。
罰金,科料(1万円未満)の場合は,判決の言い渡しと同時に釈放されています。そして,刑が確定すると罰金,科料を納付しなければなりません。ただし,仮納付の裁判がついた場合は,刑の確定を待たずとも,罰金,科料を納付することができます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。刑事事件・少年事件でお悩みの方は,まずは,0120-631-881までお気軽にお電話ください。24時間,無料法律相談,初回接見サービスの受け付けを行っております。
覚せい剤営利目的輸入罪と関税法違反②
覚せい剤営利目的輸入罪と関税法違反②
ドイツ国籍を有するAさんは,中国上海市において,氏名不詳者から紙箱等が入った茶色ソフトケースを日本へ運ぶことを依頼されてこれを引受けました。そして,Aさんは,受け取った同スーツケース内の紙箱に覚せい剤などの違法薬物が隠されているかもしれないと認識しつつ,営利の目的で,これを本邦に輸入しようと企てました。Aさんは,上海空港において,同スーツケースを機内預託手荷物として福岡空港行きの航空機に搭乗しました。その後,Aさんは福岡空港で航空機を降りた後,同空港内の税関検査場において手荷物検査を受けていたところ,同スーツケースの紙箱内から覚せい剤約5000グラムを発見されてしまいました。そこで,Aさんは,福岡空港警察署の警察官に,覚せい剤取締法違反(営利目的輸入罪)及び関税法違反(禁制品輸入未遂罪)で逮捕されてしまいました。
(フィクションです)
~ 前回の内容 ~
前回の覚せい剤営利目的輸入罪と関税法違反①では,覚せい剤取締法(営利目的輸入の罪)と関税法(禁制品輸入未遂罪)の内容,また,それぞれの輸入の既遂時期,刑の内容などについてご説明いたしました。それでは,両罪が成立するとして,量刑(刑の種類,刑の重さ)はどの程度になるのでしょうか??
~ 実際は1個の行為として処罰される ~
まず,覚せい剤取締法(営利目的輸入の罪)と関税法(禁制品輸入未遂罪)が成立するとして,両方の刑を同時に合算して科されるのでしょうか?つまり,覚せい剤取締法(営利目的輸入の罪)の法定刑は「無期若しくは3年以上の懲役に処し,又は情状により無期若しくは3年以上の懲役及び1000万円以下の罰金」,関税法(禁制品輸入未遂罪)は「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し,又はこれらの併科」でしたが,例えば,懲役刑については最高で30年,罰金刑については最高で2000万円の刑が科されることになるのでしょうか?
この点,最高裁判所(昭和58年9月29日)は,
外国から航空機によって覚せい剤を(日本国内)に持ち込み,これを携帯して通関線を突破しようとする一連の動態は,(略)自然的観察のものとにおいては,社会見解上一個の覚せい剤輸入行為と評価すべきものであり,(略)それが両罪に同時に該当するのであるから,両罪は刑法54条1項前段の観念的競合の関係にあると解するのが相当である
としています。
* 観念的競合とは *
観念的競合とは,1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合をいいます。そして,観念的競合となれば,科刑の上は1個の行為と評価され,触れる罪名のうち最も重い刑により処断されます。どの刑が「最も重い刑」かは刑法10条によって決められます。
* 刑法10条 *
まず,①刑の重さは刑種(死刑→懲役刑→罰金刑→拘留→過料(刑法9条))で決められます(刑法10条1項)。②刑種が同じ場合は,長期の長いもの又は多額の多いものを重い刑とし,長期又は多額が同じであるときは,短期の長いもの又は寡額の多いものを重い刑とします。
これを本件に当てはめてみましょう。まず,刑種(懲役刑,罰金刑)については同じですが,覚せい剤取締法(営利目的輸入の罪)には無期懲役の定めがあり,かつ,有期懲役の刑の上限は20年(3年以上の刑)と関税法(禁制品輸入未遂罪)よりも重い刑であることが分かります。したがって,本件では,「無期若しくは3年以上の懲役に処し,又は情状により無期若しくは3年以上の懲役及び1000万円以下の罰金」の範囲内で処断される(科刑される,刑を受ける)ことになります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,薬物事件をはじめとする刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。
(福岡空港警察署までの初回接見費用:34,500円)
覚せい剤営利目的輸入罪と関税法違反①
覚せい剤営利目的輸入罪と関税法違反①
ドイツ国籍を有するAさんは,中国上海市において,氏名不詳者から紙箱等が入った茶色ソフトケースを日本へ運ぶことを依頼されてこれを引受けました。そして,Aさんは,受け取った同スーツケース内の紙箱に覚せい剤などの違法薬物が隠されているかもしれないと認識しつつ,営利の目的で,これを本邦に輸入しようと企てました。Aさんは,上海空港において,同スーツケースを機内預託手荷物として福岡空港行きの航空機に搭乗しました。その後,Aさんは福岡空港で航空機を降りた後,同空港内の税関検査場において手荷物検査を受けていたところ,同スーツケースの紙箱内から覚せい剤約5000グラムを発見されてしまいました。そこで,Aさんは,福岡空港警察署の警察官に,覚せい剤取締法違反(営利目的輸入罪)及び関税法違反(禁制品輸入未遂罪)で逮捕されてしまいました。
(フィクションです)
~ はじめに ~
今回は,覚せい剤密輸事件に関するコラムです。覚せい剤密輸の大半が航空機を利用して行われていると言われています。そして,国際都市福岡市には福岡空港があります。また,福岡空港の年間乗降客数は年々増加しており,平成27年は約2097万人だったそうです(福岡県経済観光文化局空港対策課)。このことからすれば,福岡空港も覚せい剤をはじめとする薬物の密輸事件とは無縁ではありません。
~ 覚せい剤取締法(営利目的輸入の罪) ~
覚せい剤の営利目的輸入の罪は,覚せい剤取締法41条2項に規定されています。
41条2項
営利の目的で前項の罪を犯した者は,無期若しくは3年以上の懲役に処し,又は情状により無期若しくは3年以上の懲役及び1000万円以下の罰金に処する。
= 営利の目的 =
営利の目的とは,犯人が自ら財産上の利益を得,又は第三者に得させることを動機,目的とする場合をいいます。
営利目的の存否は,犯人の主観にかかわるものですから,これを裏付ける証拠は犯人の自白しかありません。そこで,自白がない場合は,覚せい剤の数量,価格,犯行の手口,態様のほか,犯人が犯罪行為に高額の資金を出捐していること,犯人が犯罪行為を近接した時期に同種薬物を販売していた事実があること,小分け道具等の薬物の密売に用いられる器具等を所持していたことなどの間接証拠(情況)を総合的に勘案して判断されるものと思われます。
= 前項の罪 =
前項とは41条1項のことをいいます。同項は,覚せい剤の輸入,輸出,製造の罪を定めた規定です。
* 輸入の意義と既遂時期 *
一般的に輸入とは,国外から国内へ物品を搬入することをいうと思われますが,41条1項は外国への輸入も処罰の対象としています。そして,輸入の既遂時期について最高裁(昭和58年9月29日)は,「税関空港に着陸した航空機から覚せい剤を取り下ろすことによって既遂となる」(陸揚げ説)と判示しています。なお,覚せい剤の輸入,輸出,製造の罪は,所持,譲り渡し,譲り受けと同様,未遂罪も設けられています。
~ 関税法(禁制品輸入未遂罪) ~
関税法69条の11条1項1号では,覚せい剤などの薬物を輸入してはならない旨定め,同法109条1国で,覚せい剤などを輸入した者は,10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し,又はこれらを併科すると定めています。なお,関税法の輸入の既遂は「覚せい剤を携帯して通関線を突破したとき」と解されいます。したがって,事例のAさんの態様で,本邦に薬物を持ち込んだときは,覚せい剤取締法については既遂罪,関税法違反については未遂罪となります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,薬物事件をはじめとする刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。
(福岡空港警察署までの初回接見費用:34,500円)
少年と大麻
少年と大麻
福岡県大野城市に住む高校生のAさん(17歳)は,知人から勧められて大麻を吸引していたところ,福岡県春日警察署の警察官から職務質問,所持品検査を受けてしまいました。Aさんは,ズボンの右ポケットの内に大麻入りのチャック付きポリ袋を入れていたため,警察官に大麻取締法違反(所持の罪)で逮捕されてしまいました。逮捕の通知を受けたAさんの両親は驚き,弁護士により接見を依頼しました。
~ 少年と大麻 ~
先日,3月25日,京都府の中学3年生の女子生徒が大麻を所持していた大麻取締法違反(所持の罪)で逮捕され,ネットのなどでもニュースとなりました。
女子生徒は,入手経路について「インターネットで大麻を購入した」などと話しているとのことです。大麻はインターネットでも購入できる時代です。また,未成年であってもスマートフォンやパソコンを利用でき,容易にインターネットの世界へ飛び込める時代となっています。このようなことから,未成年であっても,一歩間違えれば大麻をはじめとする薬物に汚染されてしまう危険を有しています。
そして,少年と大麻に関して,注目していただきたい数字が出ています。平成30年版犯罪白書によると,少年の覚せい剤取締法違反における検挙人員は平成10年から減少傾向にありますが,大麻取締法違反については平成25年まで減少傾向にあったものの,以下のとおり,その後,急激に増加しています。あくまでも検挙された人員ですから,すでに大麻に手を出している少年を含めるとさらに数は増えるものと思われます。
平成25年 58人
平成26年 77人
平成27年 144人
平成28年 206人
平成29年 292人
~ 大麻・薬物と縁を切るには ~
大麻・薬物と縁を切るには以下のことが大切かと考えます。また,刑事弁護の世界でも,以下のことを中心に少年の更生を促していきます。
= 大麻・薬物の危険を知る,「縁を切る」という固い決意を持つ =
薬物犯罪に手を染めてしまった少年が更生するための第一歩は,少年自身が大麻・薬物に関する正しい知識を持ち,薬物の危険性を十分に理解することです。
インターネットの情報では,誰が,いつ,どんな意図をもって書いたのか不明なことがあります。できる限り,県・市の精神保険福祉センターなどが開くセミナーなどに参加して情報を取得しましょう。
= 大麻関係者と縁を切る =
大麻関係者と縁を切るためには,まずは少年自身が入手経路について包み隠さず話す必要があります。その上で,Aさんの場合,スマートフォン,パソコンの使用をどうするかご両親を話し合う必要があります。また,スマートフォンに関係者の情報が登録してある場合は全て削除する必要があるでしょう。
= 家族も勉強する,サポートする =
大麻を止めるには,ご家族などの周囲の協力,サポートが必要不可欠です。ただし,ここで注意しなければならないことがあります。それは,本人だけでなく,ご家族も大麻について学び,大麻を止めるための対応方法について学習するということです。ご家族が不勉強なままサポートすると,そのことが本人のため役に立たないどころか,却って回復を遅らせてしまうことがあります。
= 専門機関を利用する =
ご家族のサポートと並行して,県・市の精神保険福祉センターが開く「薬物依存回復支援プログラム」や「薬物依存家族教室」に参加してみるのも一つです。ただ,治療が必要なほど依存度が高い場合は,専門の病院やダルク等の回復支援施設への入院・入所も検討しましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,大麻取締法違反をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。
麻薬特例法とコントロールド・デリバリー
麻薬特例法とコントロールド・デリバリー
Aさんが常習的に覚せい剤の取引に関与しているとの情報を得た福岡県博多臨港警察署の警察官は,港で押収され,箱の中に隠匿されていた覚せい剤(100キログラム)を抜き取って同量の砂袋と取り換え,これを宅急便でAさん宅まで運ぶ手続きをしました。そして,Aさんがこの箱を受領したところをを,麻薬特例法違反(規制薬物としての薬物等の所持)で現行犯逮捕しました。
(フィクションです)
~ 麻薬特例法とは ~
麻薬特例法は,正式名称「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(以下,法律)といいます。
薬物犯罪による薬物犯罪収益等のはく奪,規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図ることなどを目的としており(法律1条),平成4年7月1日から施行されています。
= 「規制薬物」「薬物犯罪」とは? =
「規制薬物」とは,麻薬,向精神薬,大麻,あへん,けしがら,覚せい剤をいいます(法律2条1項)。
また,「薬物犯罪」とは,覚せい剤に限っていえば,覚せい剤の輸出入,製造の罪(営利目的を含む),又はこれらの未遂罪,所持,譲渡し及び譲受けの罪(営利目的を含む),又はこれらの未遂罪,譲渡しと譲受け(営利目的を含む)の周旋の罪をいいます(法律2条2項5号)。
= どんな行為が処罰されるの? =
法律は以下の行為を処罰の対象としています。
1 業として行う不法輸入等(法律5条)
→ビジネスとして行われる薬物等の不正取引行為を加重処罰するとともに,そのビジネスとして行われた期間内に犯人が得た一定の財産についてこれを薬物犯罪収益(法律2条3項)と推定する規定(法律14条)を設けるなどして薬物犯罪収益等のはく奪を徹底することを狙いとして設けられた規定です。
2 薬物犯罪収益等隠匿(法律6条)
→いわゆるマネー・ロンダリング行為を処罰するために設けられた規定です。マネー・ロンダリングは「資金洗浄」とも言われています。同条では,薬物犯罪によって得た利益を口座を転々とすることなどによって,あたかも合法な活動によって得られたクリーンな財産であるかのような外観を有する財産に変えて,薬物犯罪との関連を隠し,あるいはこれらの財産を隠匿する行為を処罰しています。
3 薬物犯罪収益等収受(法律7条)
→薬物犯罪から生じた不法な収益を収受する行為を処罰するために設けられた規定です。薬物犯罪収益等を収受する行為は,薬物犯人の不法な利益の保持,イ運用を助ける効果をもたらし,そのような行為の存在が薬物犯罪を助長することにもなり,また,薬物犯罪収益等を収受する行為は薬物犯罪収益等隠匿罪い結び付きやすい行為でもあることから処罰されることとされています。
4 規制薬物としての物品の輸入等(法律8条)
→薬物犯罪を犯す意思で,規制薬物として薬物その他の物品を輸入する等の行為を薬物濫用を助長する危険性のある行為だとして処罰する規定です。また,本条は,麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約で規定する「コントロールド・デリバリー」を実施するための規定ともいわれています。
5 あおり又は唆し(法律9条)
→これも薬物犯罪を助長する行為として処罰するため設けられた規定です。
* コントロールド・デリバリー *
コントロールド・デリバリーとは,捜査機関が覚せい剤などの禁制品であることを知りつつその場では押収せず,監視下の下に禁制品を流通させ,不正取引の関係者を特定する捜査手法をいいます。その中でも,禁制品を無害の物品に入れ替えて流通させる方法をクリーン・コントロールド・デリバリーといいます。
コントロールド・デリバリーは任意捜査(刑事訴訟法197条1項)として許容されています。
~ 法律8条2項について ~
Aさんの行為は,上記4の「規制薬物としての物品の輸入等」に当たりそうです。また,法律8条1項は輸出入,2項は譲り渡し,譲り受けなどを処罰するための規定ですから,今回は法律8条2項を確認しましょう。
法律8条2項
薬物犯罪(規制薬物の譲渡,譲受け,又は所持に係るものに限る。)を犯す意思をもって,薬物その他の物品を規制薬物として譲り渡し,又は譲り受け,又は規制薬物として交付を受け,若しくは取得した薬物その他の物品を所持した者は,2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
* 薬物を受け取っていなくても処罰される!? *
仮に,本件のように,クリーン・コントロールド・デリバリーが実施された場合,その受け取った中身は薬物ではありません。しかし,先ほど,法律8条はコントロールド・デリバリー(あるいはクリーン・コントロールド・デリバリー)を実施するための規定でもあるとご説明いたしました。そのため,法律8条2項では「薬物その他の物品」と規定して,薬物でない物を受け取った場合でも処罰としているのです。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,麻薬特例法をはじめとする薬物事件・刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。お困りの方は,0120-631-881までお気軽のお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。
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