Archive for the ‘刑事事件’ Category

スピード違反で逮捕

2019-03-27

スピード違反で逮捕

会社員のAさんは,福岡県朝倉郡筑前町の一般市道で,指定速度(40キロメートル)を60キロメートル超える時速100キロメートルで普通乗用自動車を運転していました。そうしたところ,Aさんは,一般市道でスピード違反の取り締まりを実施していた朝倉警察署の警察官に検挙され,道路交通法違反(速度違反の罪)で逮捕されてしまいました。逮捕の連絡を受けたAさんの家族は驚き,まずは,刑事事件に強い弁護士にAさんとの接見を依頼しました。
(フィクションです)

~ 道路交通法違反(速度違反の罪)~

速度違反の罪といっても2種類あります。一つは指定最高速度違反の罪,もう一つは法定最高速度違反の罪です。Aさんは前者の罪で検挙されたようです。

= 指定最高速度違反が成立する場合 =

指定最高速度違反の故意犯が成立するには,

①当該日時に,公安委員会によって適式な道路標識等による最高速度の指定がなされていること
②指定最高速度を超えて走行したこと

に加えて,運転者が上記①,②を認識していることが必要です。故意による速度違反の罪の罰則は「6月以下の懲役又は10万円以下の罰金」です(道路交通法118条1項1号)。

* 過失による速度違反の罪 *

仮に,運転者に①,②につき認識がないと認められる場合は,過失による速度違反の罪に問われることになります。罰則は「3月以下の禁錮又は10万円以下の罰金」です(道路交通法118条2項)。

* 速度違反の罪を錯誤 *

本件道路のように,法定最高速度(60キロメートル)を下回る最高速度指定(40キロメートル)がなされている道路において,Aさんが最高速度の道路標識を看過して(つまり,上記①の認識がなく),法定最高速度(60キロメートル)を超える速度(100キロメートル)で運転した場合の罪責はどうなるのでしょうか?

この点については,次の3つの考え方があります。

ア 法定最高速度違反の故意犯が成立
イ 指定最高速度違反の過失犯が成立
ウ 指定最高速度違反の故意犯が成立

裁判例の多くはウ説を採っています。

= 法定最高速度違反が成立する場合 =

法定最高速度違反が成立するのは,

・当該区域,区間等において公安委員会による速度指定がなされていないこと
・当該車両について定められている法定最高速度を超えて進行したこと

が必要です。なお,法定最高速度を知らなかったといっても,それは理由とはならず,速度違反の故意を阻却する(故意がなかった)ものではありません。法定最高速度違反の場合の罰則も指定最高速度違反の罰則と同じです。

~ 検挙されたその後 ~

速度違反の場合,一般道なら30キロ未満,高速道なら40キロ未満の速度超過であれば,交通反則通告制度(青切符)によって処理されます。それ以上を超過すると,通常の刑事手続(赤切符)で処理されます。
Aさんは,後者の手続で処理されたようです。あまりにも悪質,逃亡のおそれがある場合などはその場で逮捕されることもあります。また,すでにご紹介したように,速度違反の罪についても懲役刑が規定されていますから,起訴されれば正式裁判を受けなければならない場合もあります。初犯であれば執行猶予が付く可能性が高いと思われますが,執行猶予期間中である場合,常習性が認められ悪質な場合などは実刑となる可能性もないわけではありません。

* 交通反則通告制度 *

この制度は,数ある交通違反の中でも比較的軽微な交通違反を「反則行為」とし,ある一定の場合を除いて,「反則行為」をした者を「反則者」として(道路交通法125条1項,2項),反則者に反則金(罰金ではない)を科す制度です。あくまで刑罰に先行する行政上の措置です。ですから,反則金を納付すれば,交通違反(反則行為)の件が検察庁へ送致されることはなく,検察官の起訴(公訴提起)を受け,刑事裁判にかけられることもありません。また,反則金を納付したからといって前科は付きません。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。お困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間受け付けております。

詐欺罪の受け子と接見等禁止

2019-03-26

詐欺罪の受け子と接見等禁止

大学生のAさん(20歳)は親と喧嘩をしたことで家出をし,全国各地のネットカフェで寝泊まりしながら生活していました。そして,その間の生活費等は,特殊詐欺組織の受け子役で得た報酬等で賄っていました。
そして,ある日,Aさんが所属する特殊詐欺組織が組織が福岡県中間市に住むお年寄りVさんに対しオレオレ詐欺を実行しました。Aさんは指示されたとおり,Vさん方へ行き,Vさんからお金を受け取ろうとしたところ,現場に張り込んでいた福岡県折尾警察署の警察官に詐欺未遂罪の現行犯人として逮捕されました。その後,Aさんは勾留され,接見等禁止決定が出ました。勾留の通知を受けたAさんのご両親はAさんと面会しようとしましたが,接見等禁止が付いていたので面会することができませんでした。そこで,Aさんのご両親は,接見等禁止の解除を弁護士に依頼しました。
(フィクションです)

~ オレオレ詐欺(特殊詐欺) ~

オレオレ詐欺とは,特殊詐欺の犯行態様の一つです。特殊詐欺には,オレオレ詐欺のほか,架空請求詐欺,還付金等詐欺などがあります。特殊詐欺は捜査機関の摘発を免れるため,複数の者が役割を分担して組織的に行われています。オレオレ詐欺の場合,Vさんのような被害者に電話をかける役割のことを「かけ子」,Aさんのように実際に被害者から現金等を受け取る役割のことを「受け子」と呼ばれています。

~ 特殊詐欺と詐欺罪 ~

特殊詐欺は,申すまでもなく刑法246条1項の詐欺罪に当たります。

刑法246条1項 
 人を欺いて財物を交付させた者は,10年以下の懲役に処する。

オレオレ詐欺の場合,「欺く」行為をする役割を担うのは,Aさんのような「受け子」ではなく「かけ子」です。しかし,詐欺罪の成立には「欺く」行為の他に財物を「受け取る」行為(その裏の意味として「交付させる」行為)が必要です。Aさんは,この「受け取る」行為を担ったとして詐欺未遂罪に問われています。このように,犯罪の一部の行為しか担っていない場合でも,その罪の全部の責任を問われることを「一部実行全部責任」と呼ばれています。

* 「受け子」の刑の重さは? *

受け子」は主犯格から指示を受けているなど従属的な立場に立たされている場合が多いと思われます。また,主犯格に比べ報酬は低いでしょう。したがって,主犯格よりかは刑は軽くなると思われます。ただし,事案にもよりますが,必ず執行猶予が約束されているわけではありません。組織との関係が深い場合,常習性が認められる場合などは実刑となることも十分予想されます。

~ 被疑者段階における接見等禁止 ~

被疑者段階における接見等禁止とは,原則として検察官の請求を受けた裁判官が,被疑者が逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認めた場合に,勾留されている被疑者と弁護人又は弁護人となろうとする者以外の者との接見等を禁じることをいいます。裁判官が「公訴の提起があるときまで」と接見等禁止の期間を決めて禁じることが通常のようです。このような裁判官の決定が出てしまうと,ご家族の方は被疑者と面会することができません。

* 一刻でも早く面会したい場合は? *

弁護人であれば,接見等禁止が出されても自由に面会することができます。したがって,間接的にはなりますが,まずは弁護人に被疑者の方との面会を依頼することが考えられます。
直接の面会をご希望の場合は,接見等禁止を解除するしかありません。接見等禁止を解除するには,その判断が間違っていたとして不服申し立てをするか,検察官あるいは裁判官に意見書などを提出するなどして接見等禁止を解除してもらうよう促すしかありません。その場合でも,手続は弁護人に依頼しましょう。

* 起訴後の接見等禁止もあり得る *

先ほど,通常,接見等禁止の期間は検察官の「公訴の提起があるまで」つまり,起訴されるまでという話をしましたが,起訴後でも接見等禁止が出される可能性はあります。特に,特殊詐欺などの組織性の高い犯罪,余罪が多数認められる犯罪などは注意が必要です。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,詐欺罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。ご家族の方が詐欺事件などで逮捕され,面会できない等お悩みの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。初回接見無料法律相談のご予約を24時間受け付けております。

弊所の初回接見

2019-03-25

弊所の初回接見

ある日突然,福岡市西区に住む主婦Aさんのもとに,福岡県西警察署の警察官から「旦那さんを痴漢で逮捕しました。」と電話がかかってきました。Aさんは,これからどうしていいか分からず,痴漢事件・刑事事件に強い弁護士に初回接見を依頼しました。
(フィクションです)

~ 初回接見とは ~

弊所の初回接見とは,正式なご契約の前に,弊所の弁護士が警察署などの留置施設に出張して,身柄拘束を受けた方と接見をさせていただくサービスのことをいいます。事例では,逮捕直後にご依頼を受けておりますが,初回接見のタイミングとしては何も「逮捕直後」に限らず,

・捜査中
・公判中
・裁判中
・判決後

のどの段階であっても可能です。刑事訴訟法39条1項は「弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者」の接見を認める規定であり,初回接見では未だ正式な契約を結んでいない段階ですから,「弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者」との接見ということになります。

* 弁護人を選任することができる者 *

まず,「被告人」又は「被疑者」は何時でも弁護人を選任することができます(刑事訴訟法30条1項)。また,被告人又は被疑者の「法定代理人」,「保佐人」,「配偶者」,「直系の親族及び兄弟姉妹」は独立して弁護人を選任することができます(刑事訴訟法30条2項)。「独立して」とは,被告人,被疑者の意思に反してでも選任することができるという意味ですが,被告人・被疑者は,その選任された弁護人をいつでも解任することができると解されています。

~ 初回接見のメリット ~

初回接見(あるいは弁護人接見)を受けたことによるメリットとはどんな点が挙げられるのでしょうか?

= 逮捕期間中から接見可能 =

逮捕期間中とは「逮捕されてから検察官の元に送致されるまでの間」のことを指します。この間,時間で換算すると概ね72時間(=3日間)ありますが,弁護人であれば接見可能です。他方,ご家族など弁護人以外の方との接見は,通常認められません。

= 接見の曜日,時間に制限がない =

弁護人との接見であれば,土日・祝日関係ありませんし,早朝,深夜を問わず接見できます。また,一回の接見時間の制限もありません。他方,弁護人以外の方との接見は,通常,平日の決まった時間に限られており,一日につき,一回の接見時間は15分から20分と決められています。

= 立会人が付かない =

弁護人接見であれば立会人が付きません(刑事訴訟法39条1項)。ですから,弁護人と気兼ねなくなんでも話せます。他方,弁護人以外の方との接見では立会人が付きます。そうすると,「こんなこと話していいのだろうか」などと迷いが生じてしまい,なかなか話したくても話しづらい状況となります。

= 接見禁止決定が出ても接見ができる =

弁護人であれば接見禁止決定が出ても接見することができます。他方,弁護人以外の方との接見については,接見禁止が出ると解除されるまでは接見することができません。接見禁止決定は起訴後も出ることがあり,その場合でも同様です。

= 事件の内容(逮捕・勾留事実)を詳しく知ることができる =

接見では,弁護人が身柄拘束された方から,事件の概要をお聴きします。そして,接見後に,依頼者様に事件の概要をご報告させていただきます。

= 事件の見通し,対応(弁護方針,弁護活動)を知ることができる =

弁護人は,身柄拘束された方からお聴きした話の内容を基に,今後の弁護方針,弁護活動を決めます。例えば,罪を認める場合は,早期釈放,被害者様との示談交渉などに向けた弁護活動を始めることが肝要です。これらについても,依頼者様にご報告させていただきます。

= ご家族等からのご伝言をお伝えすることができる =

弁護人が接見に行く前に,ご家族様からご伝言を預かることが可能です。また,接見後のご報告では,身柄を拘束された方からお預かりしたご伝言をお伝えさせていただくことも可能です。

~ 初回接見後について ~

接見後は,依頼者様に接見のご報告をさせていただきます。遠方にお住まいの方であれば電話によるご報告も可能です。その後,ご希望であれば正式な契約を結ばさせていただきます。

護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,痴漢をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は,まずはお気軽に0120-631-881までご連絡いただければと思います。専門のスタッフが初回接見のためのご案内をさせていただきます。

玄関ドアに落書きで建造物損壊罪

2019-03-24

玄関ドアに落書きで建造物損壊罪

福岡県糸島市に住むAさんは,飲み会の帰り,酒に酔った勢いで,同市内に住むVさん方の玄関ドアに,持っていたラッカースプレーを用いて,赤色及び黒色のペンキを吹き付けて,「××××」,「△△△△」などと大書きしました。Vさんによると,玄関ドアの取り換え費用に約15万円かかったとのことです。Aさんは,後日,福岡県糸島警察署から建造物損壊罪で呼び出しを受けました。今後のことが不安になったAさんは,弁護士に無料法律相談を申込みました。
(フィクションです)

~ 建造物損壊罪 ~

建造物損壊罪は刑法260条に規定されています。

刑法260条
 他人の建造物又は艦船を損壊した者は,5年以下の懲役に処する。

以下,ご説明いたします。

= 他人の建造物 =

「他人の」とは,他人所有のという意味です。「建造物」とは,屋蓋を有し,障壁又は柱材で支持されて土地に定着し,その内部に人が出入りできる構造を持つ家屋その他これに類する工作物をいうとされています。

* 「建造物」と「器物」の区別 *

「建造物」と器物損壊罪(刑法261条)の器物(規定上は「他人の物」)との区別は,分離に毀損を要するかによって決定されるとするのが通説・判例です。壁板などは,これを毀棄しなければ取り外すことはできないことから「建造物」です。他方,容易に取り外すことができる雨戸,畳,建具などは「建造物」ではなく,器物損壊罪の「他人の物」となります。

では,本件の玄関ドアはどうでしょうか?
確かに,玄関ドアは取り外しが可能ですから「建造物」ではなく器物損壊罪の「他人の物」に当たるような気がします。しかし,判例(平成19年3月20日
)は,玄関ドアの外界との遮断,防犯,防風,防音という玄関ドアの機能に鑑みて,玄関ドアを「建造物」であると判示しています。このように,近年では,「建造物」と「器物」との区別につき,単に分離に毀損を要するか,取り外しが可能か,といった点のみならず,その物の機能的側面も考慮して建造物と一体化しているかどうかという点も基準として加えるようになってきています。

= 損壊 =

「損壊」とは,建造物・艦船の実質を毀損すること,又はその他の方法で,それらの使用価値を滅却し,あるいは減損することをいいます。物理的に形態を変更又は滅却させる場合だけでなく,事実上その本来の用法・効用に従い使用することができない状態に至らせる場合も含まれます。最高裁は,落書き(平成18年1月18日),ビラ張り行為(昭和41年6月10日)も「損壊」に当たると判示しています。

~ 器物損壊罪との違い ~

上記で見たように,まず,「建造物」と「その他の物」の意味内容に違いがあります。その他,次の違いに注意が必要です。

= 罰則 =

器物損壊罪の法定刑は「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」であるのに対し,建造物損壊罪は「5年以下の懲役」と罰金刑以下の刑の記載がありません。つまり,起訴されてしまえば正式裁判を受けなければなりませんし,逮捕・勾留されれば身柄拘束期間が長引くことも予想されます(他方,略式裁判によって罰金刑の命令を受けた場合,命令の告知と同時に釈放される)。

= 親告罪,非親告罪 =

器物損壊罪は,起訴するにあたり,告訴を必要とする親告罪です。他方,建造物損壊罪は非親告罪です。つまり,建造物損壊罪の場合,被害届や告発状によっても捜査を受けたり,起訴されたりする可能性があります。

~ いたずらでも罪に! ~

街中を歩いていると,壁などにスプレーで落書きされてあるのを見かけます。また,テレビやネットでは,学校の壁や重要な文化財などに落書きして逮捕されたというニュースを見たり聞いたりします。ちょっとしたいらずか感覚が重大事件に発展しかねませんから十分注意する必要がります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,建造物損壊罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は,まずは,0120-631-881までお気軽にお電話ください。

麻薬特例法とコントロールド・デリバリー

2019-03-23

麻薬特例法とコントロールド・デリバリー

Aさんが常習的に覚せい剤の取引に関与しているとの情報を得た福岡県博多臨港警察署の警察官は,港で押収され,箱の中に隠匿されていた覚せい剤(100キログラム)を抜き取って同量の砂袋と取り換え,これを宅急便でAさん宅まで運ぶ手続きをしました。そして,Aさんがこの箱を受領したところをを,麻薬特例法違反(規制薬物としての薬物等の所持)で現行犯逮捕しました。        
(フィクションです)

~ 麻薬特例法とは ~

麻薬特例法は,正式名称「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(以下,法律)といいます。
薬物犯罪による薬物犯罪収益等のはく奪,規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図ることなどを目的としており(法律1条),平成4年7月1日から施行されています。

= 「規制薬物」「薬物犯罪」とは? =

「規制薬物」とは,麻薬,向精神薬,大麻,あへん,けしがら,覚せい剤をいいます(法律2条1項)。
また,「薬物犯罪」とは,覚せい剤に限っていえば,覚せい剤の輸出入,製造の罪(営利目的を含む),又はこれらの未遂罪,所持,譲渡し及び譲受けの罪(営利目的を含む),又はこれらの未遂罪,譲渡しと譲受け(営利目的を含む)の周旋の罪をいいます(法律2条2項5号)。

= どんな行為が処罰されるの? =

法律は以下の行為を処罰の対象としています。

1 業として行う不法輸入等(法律5条)
→ビジネスとして行われる薬物等の不正取引行為を加重処罰するとともに,そのビジネスとして行われた期間内に犯人が得た一定の財産についてこれを薬物犯罪収益(法律2条3項)と推定する規定(法律14条)を設けるなどして薬物犯罪収益等のはく奪を徹底することを狙いとして設けられた規定です。

2 薬物犯罪収益等隠匿(法律6条)
→いわゆるマネー・ロンダリング行為を処罰するために設けられた規定です。マネー・ロンダリングは「資金洗浄」とも言われています。同条では,薬物犯罪によって得た利益を口座を転々とすることなどによって,あたかも合法な活動によって得られたクリーンな財産であるかのような外観を有する財産に変えて,薬物犯罪との関連を隠し,あるいはこれらの財産を隠匿する行為を処罰しています。

3 薬物犯罪収益等収受(法律7条)
→薬物犯罪から生じた不法な収益を収受する行為を処罰するために設けられた規定です。薬物犯罪収益等を収受する行為は,薬物犯人の不法な利益の保持,イ運用を助ける効果をもたらし,そのような行為の存在が薬物犯罪を助長することにもなり,また,薬物犯罪収益等を収受する行為は薬物犯罪収益等隠匿罪い結び付きやすい行為でもあることから処罰されることとされています。

4 規制薬物としての物品の輸入等(法律8条)
→薬物犯罪を犯す意思で,規制薬物として薬物その他の物品を輸入する等の行為を薬物濫用を助長する危険性のある行為だとして処罰する規定です。また,本条は,麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約で規定する「コントロールド・デリバリー」を実施するための規定ともいわれています。

5 あおり又は唆し(法律9条)
→これも薬物犯罪を助長する行為として処罰するため設けられた規定です。

* コントロールド・デリバリー *

コントロールド・デリバリーとは,捜査機関が覚せい剤などの禁制品であることを知りつつその場では押収せず,監視下の下に禁制品を流通させ,不正取引の関係者を特定する捜査手法をいいます。その中でも,禁制品を無害の物品に入れ替えて流通させる方法をクリーン・コントロールド・デリバリーといいます。
コントロールド・デリバリーは任意捜査(刑事訴訟法197条1項)として許容されています。

~ 法律8条2項について ~

Aさんの行為は,上記4の「規制薬物としての物品の輸入等」に当たりそうです。また,法律8条1項は輸出入,2項は譲り渡し,譲り受けなどを処罰するための規定ですから,今回は法律8条2項を確認しましょう。

法律8条2項
 薬物犯罪(規制薬物の譲渡,譲受け,又は所持に係るものに限る。)を犯す意思をもって,薬物その他の物品を規制薬物として譲り渡し,又は譲り受け,又は規制薬物として交付を受け,若しくは取得した薬物その他の物品を所持した者は,2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

* 薬物を受け取っていなくても処罰される!? *

仮に,本件のように,クリーン・コントロールド・デリバリーが実施された場合,その受け取った中身は薬物ではありません。しかし,先ほど,法律8条はコントロールド・デリバリー(あるいはクリーン・コントロールド・デリバリー)を実施するための規定でもあるとご説明いたしました。そのため,法律8条2項では「薬物その他の物品」と規定して,薬物でない物を受け取った場合でも処罰としているのです。

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職務質問と公務執行妨害罪

2019-03-22

職務質問と公務執行妨害罪

福岡市博多区の路上を歩いていたAさんは,福岡県博多警察署の警察官から職務質問を受けました。
Aさんはその際,警察官から所持品検査を求められました。Aさんは,上衣の右ポケット内に大麻を隠匿していたことから,前方に立っていた警察官に体当たりしてその場から逃げ出しました。しかし,Aさんは追いかけてきた警察官数名に捕獲され,公務執行妨害罪の現行犯で逮捕されました。その後,Aさんは,大麻取締法違反(所持罪)でも逮捕されてしまいました。
(フィクションです)

~ 職務質問 ~

警察官職務質問執行法(以下,警職法)2条1項では

警察官は,異常な挙動その他の周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し,若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について,若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる

と規定されています。この規定に基づいて行う質問を職務質問といいます。

= 職務質問は拒否できる!? =

職務質問は任意で行われることが原則です。したがって,職務質問を拒否することはできます。しかし,警察官は拒否されたからといって「あっそうですか」などとあっさり拒否を認めてくれるわけではありません。なぜなら,警察官は,

拒否するからには,何か疑わしい事情・理由があるからだろう

と疑ってかかるからです。こう疑われたからには,警察官の質問から容易に逃げ出すことはできません。しかも,判例は,

職務質問の必要性,緊急性なども考慮した上,具体的状況の下で相当と認められる限度内での有形力の行使

を認めています。判例で許容された有形力の行使として

職務質問中突然逃げ出した者を130メートル追跡し,背後から腕に手をかけて停止させた行為
・酒気帯び運転の疑いのある者が運転する車両のエンジンキーを回転してスイッチを切った行為

などがあります。これからすると,

・警察官が一定時間,職務質問対象者の前に立ちふさがる行為
・現場から離れる対象者について行くなどの行為

などは判例の許容する有形力の行使の範囲内であり適法と考えられます。これらの行為が許容されるならば,警察官の職務質問から容易に抜け出すことは簡単ではないでしょう。つまり,職務質問は,建前としては「拒否できる」とはいっても,実際上は「拒否できない」のが実情です。

= 違法な職務質問 =

しかし,違法な職務質問についてはきちんと異議を唱えていくべきです。例えば,あまり考えられませんが,

・手錠をかけて警察署に連行する行為
・数人で引っ張って警察署に連行する行為
・対象者の住居,敷地内に無断で立ち入る行為

はもはや職務質問の許容限度を超え,裁判官の令状を必要とするほどの行為ですから職務質問の行為としては違法と考えられます。

~ 職務質問と公務執行妨害罪 ~

職務質問の際,警察官に暴行などを加えて公務執行妨害罪で逮捕されるケースをよく見かけます。公務執行妨害罪は,公務員(警察官など)が職務の執行中,公務員に対して暴行又は脅迫を加えた場合に成立する犯罪です。法定刑は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」です。

刑法95条1項 
 公務員が職務を執行するに当たり,これに対して暴行又は脅迫を加えた者は,3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

ただし,公務員の職務は適法であることが条件とされています。違法な公務については保護する必要がないからです。職務質問の場面でも,仮に,警察官に違法行為が認められる場合には,たとえ警察官に暴行・脅迫を加えていたとしても公務執行妨害罪は成立しません。

職務質問時の警察官の対応に不満がある,納得いかないという方は,一度,弊所の弁護士にご相談ください。

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美人局?と恐喝・詐欺罪

2019-03-21

美人局?と恐喝・詐欺罪

福岡県久留米市の風俗店で働く風俗嬢のAさんは,お金に困っていました。ある日,Aさんが,お金に困っていることを店長(Aとは婚姻関係にはない)に相談したところ,店長から「俺に暴力団組員の知り合いがいる」「お前は客と本番しろ」「本番した後に,俺が客から金を巻き上げるから」などと言われました。そして,Aさんが,風俗店を利用したVさんの接客中,店長から言われたとおりにしたところ,店長がいきなり部屋に入ってきて,Vさんに「お前,おれの妻(A)と本番したやろ!」「罰金として50万払え」「俺は〇〇組の組員だからな」「はらわんとどうなるかわかっとるやろうな」などと言い,Vさんから5万円を受けとり,そのうち1万円をAさんに渡しました。そうしたところ,Aさんと店長は,福岡県中央警察署恐喝罪で逮捕されました。
(フィクションです。)

~ 美人局とは ~

美人局とは,夫婦が共謀し,妻が「かも」になる男性を誘って性交等をし,行為の最中または終わった瞬間に夫が現れて,妻と性交等をしたことに因縁をつけ,法外な金銭を脅し取る行為のことをいうとされています。
しかし,実際には,婚姻関係にないにもかかわらず,それがあるかのように装ったり,交際中の女性を利用するなどして美人局に似た手口で金銭を脅し取ったり,騙し取ったりする行為も美人局と呼ばれていることがあります。

~ 美人局と刑事責任 ~

それでは,美人局ではどんな刑事責任に問われうるのかご紹介したいと思います。

= 恐喝罪 =

恐喝罪は刑法249条に規定されています。

刑法249条
1項 人を恐喝して財物を交付させた者は,10年以下の懲役に処する。
2項 前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,同項と同様とする。

恐喝」とは,財物の交付又は財産上不法の利益を得るために行われる「暴行」又は「脅迫」のことをいいますが,恐喝罪の場合,一般的に「脅迫」行為が行われることが多いと思われます。「脅迫」とは,人を畏怖させる足りる害悪の告知をいいます。具体的には,相手方(Vさん)またはこれと密接な連帯感情にある者の生命,身体,自由,財産に対する危害を加える旨を言うことをいいます。Aさんが,Vさんに,

「俺は〇〇組の組員だからな」「はらわんとどうなるかわかっとるやろうな」

という行為は,それを受け取った側からすれば,

「殺されるかもしれない」「家を焼かれるかもしれない」

という思いを想起させるものであり,「人を畏怖させる足りる害悪の告知(脅迫)」ということができるでしょう。

= 詐欺罪 =

AさんがVさんに何を言ったによって,詐欺罪に問われることもあります。
詐欺罪は刑法246条に規定されています。

刑法246条
1項 人を欺いて財物を交付させた者は,10年以下の懲役に処する。
2項 前項の方法により,財産上不法の利益を得,又は他人にこれを得させた者も,同項と同様とする。

例えば,店長が,Aさんが性病にかかっていないにもかかわらず,Vさんに,

「うちの妻(Aさん)が性病にかかった」「慰謝料として○○万円払え」

などと言った場合は詐欺罪(又は詐欺未遂罪)に問われる可能性があります。

~ 美人局と共犯 ~

本件で,恐喝行為(脅迫行為)を行っているのはAさんではなく店長です。しかし,Aさんも店長と同じように恐喝罪で逮捕されています。このように犯罪にかかる行為を行っていなくても全部の責任を問われることを

共謀共同正犯あるいは一部行為の全部責任の原則

と呼ばれます。この犯罪に問われるためには,共犯者間(Aさんと店長との間)での「意思の連絡(共謀)=話し合い,打合せ」があることが必要です。本件では,Aさんと店長との間で,話し合い,打合せが行われていたことが認められ,Aさんも逮捕されるに至ったのだと考えられます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,恐喝罪,詐欺罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は,まずは,0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間受け付けております。

勾留と釈放

2019-03-20

勾留と釈放

福岡県久山町に住むAさん(28歳)は,Vさんと二人きりになったカラオケボックスの内で,Vさんに無理やりキスをしたり,直接Vさんの胸を揉むなどの行為をした強制わいせつ罪で福岡県粕屋警察署に逮捕されました。その後,Aさんは勾留され,20日間拘束された後起訴されました。Aさんは,起訴後も勾留されています。Aさんのご両親は,Aさんの身柄を釈放してもらうべく刑事事件に強い弁護士に刑事弁護を依頼しました。
(フィクションです)

~ 勾留 ~

勾留」とは,被疑者または被告人の身体の自由を拘束する裁判及び執行のことをいいます。読みは同じですが刑罰の「拘留」(刑法9条)とは異なります。
勾留は,起訴される前の被疑者勾留と起訴された後の被告人勾留に分けられます。

= 被疑者勾留 =

被疑者勾留の場合,捜査の必要性の要素が色濃く出ます。

つまり,被疑者勾留は被告人勾留と異なり,裁判所(あるいは裁判官)の独自の判断での勾留は認められず,事件の全容を把握している「検察官の請求」を前提とします。そして,請求を受けた裁判官が勾留の許否を判断するのです。また,弁護人は勾留されている方と自由に接見できる(刑事訴訟法39条1項)のですが,公訴の提起(起訴)前に限り,弁護人接見に関し条件を付けられることがあります。これを接見指定といいます(刑事訴訟法39条3項)。

* 勾留期間 *

勾留期間は,検察官の請求のあった日から数えて10日間です。例えば,平成31年3月11日に勾留請求があった場合の勾留満了日(勾留が終わる日)は同月20日です。ただし,検察官が勾留期間を延長することにつき「やむを得ない事情」があると判断した場合は,勾留期間の延長を請求されることがあります。請求期間は原則として10日間で,請求を受けた裁判官は独自の裁量で延長期間を決めることができます(例えば,検察官が10日間の延長請求しても,裁判官の判断で8日間に短縮されることがあります)。

* 接見指定と接見等禁止 *

接見指定とは上記のように,弁護人あるいは弁護人となろうとする者が勾留されている方と接見するにあたって指定される条件のことです。他方,接見等禁止とは,弁護人「以外」の者と勾留されている方との接見等を禁止することで(刑事訴訟法81条),法的には接見指定と別個のものと考えられています。なお,接見指定は公訴の提起(起訴)前だけにしかすることができないのに対し,接見等禁止は,必要があれば公訴の提起後にも付けられることがあります。

= 被告人勾留 =

被疑者から被告人となった場合,捜査の必要性は減退します。

よって,被告人の勾留は,裁判所(あるいは裁判官)の職権により行われます。通常,公訴の提起があったのと同時に勾留されますが,検察官が敢えて勾留をしたいという意思表示をしたい場合は,裁判官に職権の発動を促します。被告人勾留の場合,接見指定は認められません。

* 勾留期間 *

勾留期間は,公訴の提起があった日から2か月です。その後は,特に継続の必要がある場合に,決定をもって1か月ごとに更新されます。

~ 勾留と釈放 ~

勾留を解く(釈放する)ために,様々な対抗手段を講じることが必要です。ここでも,被疑者勾留と被告人勾留の場合にわけてご紹介いたします。

= 被疑者勾留 =

被疑者勾留の場合,まず,検察官に勾留請求しないよう働きかけたり,裁判官に勾留の決定を出さないよう働きかけることができます。ただし,これは法的な手段ではありません。法的な手段としては,勾留決定が出た後に勾留裁判に対する不服申し立て(準抗告)をすることが考えられます。なお,被疑者勾留の場合,被告人勾留と比べ身柄拘束期間が短いことから保釈請求は認められていません。

= 被告人勾留 =

被告人勾留の場合の主な対抗手段としては保釈請求でしょう。その他,勾留更新決定に対する準抗告,抗告の手段なども考えられますが,あまり例がないようです。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。ご家族などが勾留されお困りの方は0120-631-881までご連絡ください。24時間,無料法律相談初回接見サービスを受け付けております

過失傷害罪で告訴取消し

2019-03-19

過失傷害罪で告訴取消し

北九州市若松区に住むAさん(31歳)は,交際中のVさん(28歳)と居酒屋へ行きました。AさんとVさんはお座敷の小さなテーブルを挟んで対面して座りました。Aさんは,そこで突然,Vさんから別れ話を突き付けられました。驚いたAさんは,Vさんに理由を聞きましたが納得できず,Vさんと口論となりました。そして,タバコを吸っていたAさんは,テーブルの上に置いてあったガラス製の灰皿を机の上に向けて叩きつけたところ,ガラスコップが割れ,破片の一部をVさんの顔面部に飛散させてしまいました。Vさんは,それにより,加療約10日間の前額部切創の傷害を負いました。後日,Aさんは,Vさんから福岡県若松警察署宛に告訴状が提出され,過失傷害罪で取調べを受けることになりました。
(フィクションです)

~ 過失傷害罪(刑法209条) ~

過失傷害罪は,刑法209条1項に規定されています。

刑法209条1項
 過失により人を傷害した者は,30万円以下の罰金又は科料に処する。

同罪の「過失」とは,不注意により,人を傷害することに対する認識,認容(そうなっても構わない,仕方がないという意図)を欠いていることをいいます。「不注意」があったというためには,①傷害の発生を認識,予見することができ,②傷害の発生を回避するために必要な措置を講ずることができた,といえることが必要です。

まず,①についてですが,AさんとVさんは小さなテーブルを挟んで座っていたのですから,ガラスコップをテーブルに叩きつければガラスコップが割れ,破片が飛散してVさんに危害を与えるであろうことは容易に認識,予見できたと考えられます。また,②ガラスコップを叩きつけなければ,ガラスコップは割れなかったですし,ガラスコップを叩きつけないという行為は容易に取ることができます。
つまり,今回のケースでは,Aさんには「過失」ありと判断されるおそれが極めて高いです。

* 故意ありとされた場合は? *

過失ではなく故意がある(人の傷害に対する認識,認容がある)と判断された場合は傷害罪に問われるおそれがあります。傷害罪の法定刑は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。傷害罪は過失傷害罪と異なり親告罪(検察官の公訴提起(起訴)に告訴を必要とする罪)ではありません。

~ 過失傷害罪は親告罪 ~

検察官が公訴を提起(起訴)するにあたって被害者等の告訴を必要とする犯罪を親告罪といいます。そもそも,告訴とは,被害者等が捜査機関に対し,犯罪事実を申告して犯人の処罰を求める意思表示をいいます。よって,親告罪が設けられたのは「被害者の処罰を求める意思」を尊重するためにあるとも考えられるのです。

刑法209条2項
 前項の罪(過失傷害罪)は,告訴がなければ公訴を提起することができない。

* 刑法に規定される親告罪 *

刑法に規定される親告罪は,過失傷害罪の他にも,未成年者略取・誘拐罪(刑法224条),名誉棄損罪(刑法230条),侮辱罪(刑法231条),器物損壊罪(刑法261条)などがあります。

~ 親告罪で不起訴を目指すなら ~

先ほどもご説明したとおり,親告罪は被害者等の処罰意思を尊重する制度ですから,検察官が公訴を提起する前に被害者等が「処罰は望まない」「許してほしい」などといって告訴取消すことができます。被害者等が告訴取消せば,刑事処分は自動的に「不起訴(親告罪の告訴取消し)」となります。
このように,被害者の方々の処罰感情を緩和させ,告訴取消していただくには,まずは被害者の方々に誠心誠意謝罪した上で,示談交渉を開始し,お互い納得のいく条件で示談を成立させることが肝要かと考えます。交渉には様々な困難が伴いますし,のちのちのトラブルを防ぐには適切な内容・形式で示談を成立させる必要があります。そのためには弁護士の力が必要です。

* 起訴後を告訴を取消すことは可能か? *

起訴後に告訴取消すことはできません(刑事訴訟法237条1項)。よって,示談による告訴取消しを目指す場合は,検察官の公訴提起(起訴)前に示談を成立させる必要があります。

刑事訴訟法237条1項
 告訴は,公訴の提起があるまでにこれを取り消すことができる。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,過失傷害罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は,まずはお気軽に,「0120-631-881」までお電話ください。初回接見サービス無料法律相談を24時間受け付けております。

令状なしでシャブ押収

2019-03-18

令状なしでシャブ押収

福岡県北九州市小倉南区に住むAさん(34歳)は,自宅玄関で,福岡県小倉南警察署の警察官により暴行罪で逮捕されました。その際,Aさんは,家屋内を捜索され,リビングの食器棚引き出し内から覚せい剤粉末を発見,差押え(以下,本件押収手続という)られてしまいました。Aさんは,暴行罪では処分保留で釈放されましたが,その直後,覚せい剤取締法違反(所持罪)で再逮捕・勾留され,起訴されてしまいました。起訴後,私選で依頼を受けた弁護人は,Aさんと接見した際,覚せい剤の押収手続に疑義を感じ,裁判でその違法性を主張しようと考えています。
(フィクションです)

~ 本件押収手続は違法か? ~

弁護人が検討するように,警察官の覚せい剤の押収手続は違法でしょうか?以下,検討したいと思います。

= 捜索,差押えの原則 =

人・物の発見(捜索),物の取得(差押え)は,個人のプライバシー侵害のおそれが大きいことから,裁判官が予め発する令状を取得して行わなければなりません(令状主義)。この点は,憲法35条に明記されていることからも非常に大きな決まり事であることが分かります。また,これを受けて刑事訴訟法218条1項にも同様の規定が設けられています。

憲法35条
1項 何人も,その住居,書類及び所持品について,侵入,捜索及び押収を受けることがない権利は,第33条の場合を除いては,正当な理由に基づいて発せられ,且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ,侵されない。
2項 捜索又は押収は,権限を有する司法官憲が発する各別の令状により,これを行ふ。

刑事訴訟法218条1項
 (略)司法警察職員は,犯罪の捜査をするについて必要があるときは,裁判官の発する令状により,差押え,(略),捜索又は検証をすることができる。

以上からすれば,警察官は,本件押収手続は無令状(令状なし)により行われていることから,令状主義に反し「違法」との評価を受けそうです。

= 令状によらない捜索,差押え =

ところが,上の憲法35条1項は令状主義の例外を認めています。つまり,憲法第33条の場合(逮捕状により逮捕する場合,現行犯逮捕の場合)は無令状でも,捜索,差押えができる,としているのです。これを受けて,刑事訴訟法220条1項,3項で次の規定が設けられています。

刑事訴訟法220条1項 
 (略)司法警察職員は,(略)被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは,左の処分をすることができる。(略)。

2号 逮捕の現場で差押,捜索又は検証をすること。

刑事訴訟法220条3項
 第1項の処分をするには,令状は,これを必要としない。

* 「逮捕の現場」とは? *

2号の「逮捕の現場」とは,現実に逮捕した場所のみならず,これと直接接続する範囲の空間を含むとされています。逮捕の現場が「住居」である場合は,住居管理者の同一の管理権が及ぶ範囲内が基準とされているようです。Aさんのように家屋で逮捕された場合は,その家屋全体が「逮捕の現場」ということになるでしょう。

* 捜索,差押えできる物は? *

しかし,「逮捕の現場」だけらといって,何から何まで差し押さえてもいいというわけではありません。あくまで捜索,差押えできる物は,直接逮捕事実を立証できる物のほか,犯行の動機,手口,背景事情など逮捕事実に関連する情状に関する物に限られると解されます。もし,逮捕事実を関連のない物まで捜索,差押えたというのであれば,それは別件捜索,差押えであり違法だとするのが通説です。

本件での逮捕事実は「暴行」です。にもかかわらず,差し押さえた物は「覚せい剤」です。一般的に,「暴行」と「覚せい剤」は結び付かず,関連性はないと考えられますから,本件押収手続は「違法」と評価される可能性が高いでしょう。

~ 本件における弁護活動 ~

本件における弁護活動としては,まず,裁判で,本件押収手続が「違法」であることを主張する必要があります。そのためには,検察官が手持ちの証拠をすべて公開させ,公開された書類,証拠物を検討しなければなりません。
さらに,裁判では無罪判決の獲得を目指しますが,本件押収手続が「違法」であるからといって直ちに無罪判決を獲得できるわけではありません。判例はあくまで「違法で得られた証拠(本件の場合,覚せい剤)を証拠として許容することが,将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合」は覚せい剤を証拠物として認めないとしています(その場合は,無罪判決を獲得できる可能性が高い)。判例が示す基準を満たすには,本件押収手続がどの程度違法だったのかなどを検討する必要があります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。覚せい剤事件などの薬物事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間受け付けております。

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