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福岡県の暴力団排除条例
福岡県の暴力団排除条例
暴力団排除条例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
福岡市中央区にある建設会社Xの代表取締約Aさんは、パチンコ店Yとの契約で、ある地域にパチンコ店を建設する予定としていましたが、地元住民の反対から建設の着工には程遠い状況でした。そんなある日、Aさんは、暴力団組員Bから一本の電話を受けました。Aさんは電話に出ると、Bから「〇〇組の者だけど。」「お宅の会社、地元住民の反対でパチンコ店を建設できないって?」「俺たちが住民たちを黙らせてやる。」「その代わりと言っては何だが、仲介料として100万円を〇〇口座に振りんでもらえないかね?」と言われました。Aさんはどうしようか迷いましたが、会社の経営を考えると着工を遅らせるわけにはいかないと思い、指定された口座に100万円を振込みました。そうしたところ、地元住民の反対運動は沈静化し、Aさんは建設に着工することができましたが、後日、福岡県中央警察署に暴力団との癒着が明らかとなって暴力団排除条例違反により逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
~ はじめに ~
お笑い芸人のスリムクラブが、平成28年に、指定暴力団幹部の誕生パーティーに出席するなどしてギャラを受け取っていたことが判明し、無期限の謹慎処分を受けたことはご存知かと思います。スリムクラブ以外にも数々の芸人が反社会的勢力あらギャラを受け取っていたことが明らかとなっています。そこで、本日は、福岡県で制定されている暴力団排除条例についてみていきたいと思います。
~ 暴力団排除条例 ~
福岡県では全国初の暴力団排除条例(以下、条例)が制定され(現在は各地の都道府県で制定されています)、平成22年4月1日から施行されています。
福岡県においては、暴力団が、県民の生活や社会経済活動に介入し、県民や事業者に多大な脅威を与えている現状にあることに鑑みて、安全で平穏な県民生活を確保するとともに、福岡県の社会経済活動の発展のため、暴力団を排除するための条例が制定されたのです。
条例の構成は、
第1章 総則 (第1条~第5条)
第2章 暴力団の排除に関する基本的施策等 (第6条~第12条の2)
第2章の2 暴力団排除通報をした者に対する不利益な取扱いの禁止 (第12条の3)
第3章 青少年の健全な育成を図るための措置 (第13条~第14条)
第3章の2 特定の地域における暴力団の排除を推進するための措置 (第14条の2)
第4章 暴力団員等に対する利益の供与の禁止等 (第15条~ 第17条の3)
第5章 暴力団員等が利益の供与を受けることの禁止等 (第18条 ・ 第18条の2)
第6章 不動産の譲渡等をしようとする者の講ずべき措置等 (第19条 ・ 第20条)
第6章の2 特定の事業者に対する暴力団の不当な影響を排除するための措置 (第20条の2)
第7章 義務違反者に対する措置等 (第21条~第23条 )
第8章 雑則 (第23条の2~第24条)
第9章 罰則 (第25条 ・ 第26条)
となっています。
~ 事業者等に対する罰則 ~
事業者は、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、
・暴力団の威力を利用する目的で、金品その他の財産上の利益の供与(以下単に「利益の供与」という。)をすること。
・暴力団の威力を利用したことに関し、利益の供与をすること
を禁じられており(条例15条1項)、これに違反して利益の供与をした者は
1年以下の懲役又は50万円以下の罰金
に処せられることとなっています(条例25条1項3号)。なお、暴力団員等とは、現に暴力団員の者のみならず、暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者も含まれます(条例2条3号)。
また、暴力団排除特別強化地域で特定接客業を営む者の申出により、暴力団員が当該営業所に立ち入ることを禁止する旨の「標章」を掲げることができます(条例14条の2第2項、3項)が、
・標章を損壊し、若しくは汚損し、又は取り除いた場合
は
30万円以下の罰金
に処せられることになっています(条例25条4項2号)。
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神奈川県愛川町での逃走事件について③~犯人隠避罪~
神奈川県愛川町での逃走事件について③~犯人隠避罪~
犯人隠避罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
Aさんは、福岡地方裁判所で窃盗罪、覚せい剤取締法違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反などで審理を受け、懲役4年の実刑判決を受けました。Aさんは、審理の対象となった事実については全面的に認めていたものの、量刑に不服がありました。そこで、Aさんは、福岡高等裁判所宛に控訴の申し立てをすると同時に、選任されていた国選弁護人に保釈請求してもらったところ、請求が許可されたため、知人の援助を得て保釈保証金を納付し釈放されました。その後、控訴審では、Aさんの控訴申し立ては棄却され、裁判は確定したことから、Aさんは、福岡高等検察庁から、刑(懲役4年)執行のため検察庁へ出頭するよう要請されました。Aさんは刑務所に入所するのが嫌でその要請を無視し続けていたところ、突然、検察庁職員らの訪問を受け、職員から収容状を呈示されながら、「あなたに収容状が出ている。」「今すぐ荷物をまとめて刑務所に行く準備をしてください。」などと言われました。しかし、Aさんは、「なんで突然くっとや。」「心の準備ができとらんばってん。」などと言いながら台所から包丁を取り出し、職員との距離約1メートルのところで職員に包丁を示しながら、「オレに近づくとこれで刺すけんな。」などと言って職員の間を走り抜け、玄関を出てそのまま逃走してしまいました。その後、Aさんは、友人宅Bさん方アパートにいたところ、公務執行妨害罪で逮捕されてしまいました。また、Bさんも、犯人蔵匿罪で逮捕されてしまいました。
(事実を基に作成したフィクションです。)
~ はじめに ~
前回までの「神奈川県愛川町での逃走事件について①」では、Aさんに公務執行妨害罪が成立すること、「神奈川県愛川町での逃走事件について②」では、Aさんに逃走罪が成立しないことをご説明いたしました。今回は、Bさんが逮捕された罪、すなわち犯人蔵匿・隠避罪についてご説明したいと思います(なお、Aさんに逃走罪が成立しにため、Bさんには被拘禁者奪取罪(刑法99条)、逃走援助罪(刑法100条)が成立しないことは前回ご説明したとおりです)。
~ 犯人蔵匿・隠避罪 ~
本罪は刑法103条に規定されています。
刑法103条
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者(略)を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
= 罰金以上の刑に当たる罪 =
「罰金以上の刑に当たる罪」とは、法定刑として罰金刑以上の刑が規定されていればよく、選択刑として拘留・科料が規定されていても構わないとされています。「罰金以上の刑」とは、罰金刑を含む、禁錮刑、懲役刑、死刑のことを指します。
この点、Aさんが疑われている公務執行妨害罪の法定刑は
3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金
ですから、公務執行妨害罪は「罰金以上の刑に当たる罪」に当たります。
= 罪を犯した者 =
「罪を犯した者」については、真犯人に限るという説と、真犯人に限らず、犯罪の嫌疑を受けて捜査又は訴追されている者も含むとする見解がありますが、判例(昭和33年2月18日など)は真犯人であることを要しないとして後者の立場をとっています。
つまり、結果として、Aさんが不起訴処分を受けたり、刑事裁判で無罪判決を受けるなどしても、Bさんの犯罪の成否には影響を与えないということになります。
= 蔵匿・隠避 =
蔵匿とは、犯人に場所を提供してかくまってやることをいいます。隠避とは、蔵匿以外の方法によって官憲による逮捕・発見を免れされる一切の行為をいいます。
この点、Bさんは、自分のアパートでAさんを匿っていたことから蔵匿罪で逮捕されています。
= 故意 =
犯人蔵匿罪の故意としては、Bさんに、Aさん(被蔵匿者)が「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」であることの認識が必要です。この点、判例(昭和29年9月30日)は、罰金以上の刑に当たる罪質の犯罪事実を犯した者であることを知っていれば、その罪の法定刑が罰金以上であることの認識までは必要ないとしています。つまり、Bさんに、Aさんが「公務執行妨害罪に当たる行為を犯して逃げていた人」という認識が認められれば、犯人蔵匿罪の故意が認められるでしょう。
~ まとめ ~
本件では、「故意」以外の外形的事実については容易に認められそうですが、問題は、BさんがAさんを「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」と認識していたかどうかだと思われます。その点は、BさんがAさんから何と説明を受けてAさんをアパートに匿ったのか、BさんとAさんとの間でどんなやり取りが行われたのか、BさんがニュースなどでAさんのことをどこまで認識していたのかにもよるものと思います。
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神奈川県愛川町での逃走事件について②~逃走罪~
神奈川県愛川町での逃走事件について②~逃走罪~
逃走罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
Aさんは、福岡地方裁判所で窃盗罪、覚せい剤取締法違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反などで審理を受け、懲役4年の実刑判決を受けました。Aさんは、審理の対象となった事実については全面的に認めていたものの、量刑に不服がありました。そこで、Aさんは、福岡高等裁判所宛に控訴の申し立てをすると同時に、選任されていた国選弁護人に保釈請求してもらったところ、請求が許可されたため、知人の援助を得て保釈保証金を納付し釈放されました。その後、控訴審では、Aさんの控訴申し立ては棄却され、裁判は確定したことから、Aさんは、福岡高等検察庁から、刑(懲役4年)執行のため検察庁へ出頭するよう要請されました。Aさんは刑務所に入所するのが嫌でその要請を無視し続けていたところ、突然、検察庁職員らの訪問を受け、職員から収容状を呈示されながら、「あなたに収容状が出ている。」「今すぐ荷物をまとめて刑務所に行く準備をしてください。」などと言われました。しかし、Aさんは、「なんで突然くっとや。」「心の準備ができとらんばってん。」などと言いながら台所から包丁を取り出し、職員との距離約1メートルのところで職員に包丁を示しながら、「オレに近づくとこれで刺すけんな。」などと言って職員の間を走り抜け、玄関を出てそのまま逃走してしまいました。Aさんは、検察庁職員などに対する公務執行妨害罪で逮捕状が出て全国に指名手配されてしまいました。
(事実を基に作成したフィクションです。)
~ はじめに ~
上記事例は、先日、神奈川県愛川町で起きた事件を基に作成しています。実際の事件では、男性は控訴審で保釈中であったところ控訴棄却の判決を受け裁判が確定し、検察庁職員の再三の呼び出しにも応じず、職員が男性宅に収容に訪れたところ、台所から包丁を持ち出して自宅から逃走した、とのことでした。
この事件に関するニュースなどを見られて、
・なぜ、公務執行妨害罪で逮捕状?
・なぜ、逃走罪ではないの?
などという疑問を持たれた方も多いかと思います。そこで、先日は「公務執行妨害罪」についてご説明しました。本日は「逃走罪」についてご説明したいと思います。
~ 逃走罪の概要 ~
逃走罪に関する規定については刑法97条から刑法102条まで設けられています。
そのうち、拘束された本人を処罰するための規定は
刑法97条の単純逃走罪及びその未遂罪(刑法102条)
刑法98条の加重逃走罪及びその未遂罪(刑法102条)
で、逃走を援助した人を処罰するための規定は
刑法99条の被拘禁者奪取罪及びその未遂罪(刑法102条)
刑法100条の逃走援助罪及びその未遂罪(刑法102条)
刑法101条の看守者等による逃走援助罪及びその未遂罪(刑法102条)
です。Aさんは保釈される前は拘束されていましたから、以下、単純逃走罪、加重逃走罪についてご説明します。
~ 単純逃走罪 ~
刑法97条
裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走したときは、1年以下の懲役に処する
「裁判の執行により拘禁された」者とは、留置場と呼ばれる「留置施設」、あるいは刑務所、拘置所などの「刑事施設」などに留置、収容(拘束)されている者をいいます。
「既決の者」とは、刑事裁判が確定し、その刑の執行を受ける者(死刑確定者、労役場留置者を含む)をいいます。
「未決の者」とは、刑事裁判が確定する前に勾留されている被疑者・被告人をいいます。なお、逮捕中の者はこれに当たりません。
「逃走」とは、拘束から離脱することをいい、看守者の実力支配を脱したときに既遂となり、その前段階では未遂にとどまります。
~ 加重逃走罪 ~
刑法98条
前条に規定する者又は勾引状の執行を受けた者が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は二人以上通謀して、逃走したときは、3月以上の
「勾引状の執行を受けた者」とは、勾引状により勾引された者のほか、通常逮捕状、緊急逮捕状により逮捕された者も含まれます。
本罪が成立するには、単に逃走しただけでは足りず、
・拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊したこと
・暴行若しくは脅迫をしたこと
・二人以上通謀したこと
が必要です。
~ まとめ ~
以上からすると、保釈中に逃走したAは、
・裁判の執行により拘禁された既決・未決の者(刑法97条)
にも、
・前条に規定する者又は勾引状の執行を受けた者(刑法98条)
にも当たりません(確かに、Aさんは刑事裁判が確定した既決者ではありますが、拘禁(拘束)はされていません)。したがって、Aさんには逃走罪は成立しません。なお、Aさんに逃走罪が成立しませんから、Aさんの逃走を援助した者にも、
・被拘禁者奪取罪(刑法99条)
・逃走援助罪(刑法100条)
などは成立しません。
では、何罪が成立するのかという点を次回ご説明したいと思います。
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養護者による高齢者虐待②
養護者による高齢者虐待②
高齢者虐待について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
会社員のAさん(55歳)は、重度の認知症の母親Vさん(83歳)と福岡県春日市内のアパートで二人暮らしでした。Aさんは、10年程前から認知症だった母親を一人で支えてきましたが、日に日に病状が悪化する母親を介護しつづけるのも我慢の限界に達しようとしていました。Aさんは、日頃から母親の介護に対するストレスを抱え込むようになり、趣味のパチンコをする他ストレスを吐き出すはけ口を見失い、母親に対し、殴る、蹴るの暴力を繰り返すようになりました。また、Aさんはケアマネジャーの勧めにかかわらず介護サービスを利用しようともせず、食事も一日一回だけコンビニ弁当を買い与えるだけという生活のため、Vさんの健康状態は寝たきりに近い状態まで悪化してしまいました。そうしたところ、ケアマネジャーがAさんがパチンコに行っている間、Aさん宅を訪問した際、Vさんの異変に気づき、Vさんが高齢者虐待を受けて生命及び身体に危険が生じていると判断し、高齢者虐待防止法により市町村に通報しました。その後、Aさんは立入り調査を受け、事態を重く見られ、春日警察署に保護責任者遺棄罪の容疑で逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
~ はじめに ~
先日の、養護者による高齢者虐待①では、高齢者虐待が増加していることや高齢者虐待の定義、高齢者虐待の中でも「身体的虐待」が多いことなどをご紹介しました。本日は、高齢者虐待の種別(身体的虐待、介護等放棄、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待)ごとにどんな罪に問われうるのかみていきたいと思います。
ところで、高齢者虐待法では、高齢者虐待に当たる行為に対する処罰・罰則を設けていませんから、刑法上の罪に問われることはあっても高齢者虐待防止法で処罰されることはありません。ちなみに、高齢者処罰防止法では、正当な理由なく、地域包括支援センターの職員等の立ち入り調査を拒むなどしたり、職員等の質問に答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした場合などに、30万円以下の罰金に処する旨規定しています。
~ 身体的虐待 ~
身体的虐待とは、高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること、をいいます。
・殴る
・蹴る
・無理矢理食事を口に入れる
・どこかに拘束する・監禁する
などの行為がこれに当たります。
刑法上は、暴行罪(刑法208条、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)、傷害罪(刑法204条、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)、強要罪(刑法223条、3年以下の懲役)、逮捕・監禁罪(刑法220条、3月以上7年以下の懲役)、逮捕・監禁致傷罪(刑法221条、3月以上15年以下の懲役)に問われる可能性があります。さらに、高齢者を死亡させた場合は、傷害致死罪(刑法205条、3年以上の有期懲役)、逮捕・監禁致死罪(刑法221条、3年以上の有期懲役)に問われる可能性があります。
~ 介護等放棄 ~
介護等放棄とは、高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人による身体的虐待、心理的虐待、性的虐待と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること、をいいます。
・食事を与えない
・入浴させない
・オムツを取り替えない
などの行為がこれに当たります。
刑法上は、保護責任者遺棄等罪(刑法218条、3月以上5年以下の懲役)に問われる可能性があります。さらに、介護等放棄によって、高齢者を死傷させた場合は保護責任者遺棄等致死傷罪(刑法219条、死亡の場合、3年以上の有期懲役、傷害の場合、3月以上15年以下の懲役)に問われる可能性があります。また、介護等放棄は、「養護者以外の同居人による身体的虐待、心理的虐待、性的虐待と同様の行為の放置等」も含まれますから、養護者以外の同居人が犯した刑法上の罪の共犯(共同正犯、教唆犯、幇助犯)に問われる可能性もあります。
~ 心理的虐待、性的虐待、経済的虐待 ~
心理的虐待とは、高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと、をいいます。
刑法上は、名誉棄損罪(刑法230条、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金)、侮辱罪(刑法231条、拘留又は科料)、場合によっては脅迫罪(刑法222条、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金)に問われる可能性があります。
性的虐待とは、高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること、をいいます。
刑法上は、強制わいせつ罪(刑法176条、6月以上10年以下の懲役)、準強制わいせつ罪(刑法178条1項、6月以上10年以下の懲役)、強制性交等罪(刑法177条、5年以上の有期懲役)、準強制性交等罪(刑法178条2項、5年以上の有期懲役)に、さらにその際、高齢者に怪我をさせたり、高齢者を死亡させた場合は強制わいせつ致死傷罪(刑法181条1項、無期又は3年以上の懲役)、強制性交等致死傷罪(刑法181条2項、無期又は6年以上の懲役)に問われる可能性があります。
経済的虐待とは、養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること、をいいます。
・高齢者の現金(お金)を勝手に使う
・高齢者のクレジットカードを利用して決済する
などの行為がこれに当たります。
刑法上は、窃盗罪(刑法235条、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)、詐欺罪(刑法246条、10年以下の懲役)、横領罪(刑法252条1項、5年以下の懲役)、業務上横領罪(刑法253条、10年以下の懲役)に問われる可能性があります。
~ 刑事裁判になったら?? ~
高齢者虐待は絶対に許される行為ではありません。しかし、それに至るまでの経緯やそれに至った理由などは人それぞれ異なり、それぞれの事情を詳細にみていくと、一概に、養護者を非難できない事情もあると思います。仮に、上記の罪で刑事裁判に至ってしまった場合は、そうした事情を裁判で明らかにし、適切な量刑を獲得すべく努めなければなりません。
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歩きタバコと刑事犯罪
歩きタバコと刑事犯罪
歩きたばこについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
会社員のAさんは、1日、2箱分のタバコを吸う無類のタバコ好きでした。Aさんは、喫煙場所が制限されつつある昨今に不満を抱いており、現に、街を歩いている今日もなかなか喫煙場所を見つけることができずにいました。そこで、Aさんは、歩きタバコや受動喫煙をさせることが悪いとはわかってはいながらも、福岡市中央区天神の路上喫煙が禁止されている歩道上で、タバコを右手指に挟みながら歩きタバコをして歩いていました。そうしたところ、Aさんは、Aさんの横を駆け足で通り過ぎた少女Vちゃん(8歳)の顔に火の点いたタバコを当ててしまいました。Vちゃんが「熱いよ~。」などと言って声を上げたことから、Aさんは、すぐ後方を歩いていたVちゃんの母親から「歩きタバコしていましたよね?」などと声をかけられました。その後、Vちゃん側から福岡県中央警察署に「全治1週間の火傷を負った」との診断書が提出され、Aさんは中央警察署で重過失致死傷罪の被疑者としてを事情を聴かれることになりました。
(フィクションです。)
~ はじめに ~
この記事をご覧になっている方の中にも、歩きタバコをして他人に迷惑をかけた、あるいは歩きタバコで受動喫煙などの害を受け迷惑を受けたという方も多数おられるのではないでしょうか?確かに、近年、健康志向や受動喫煙防止に向けた動き(法律、条例等の制定等)の影響から、喫煙スペースは限定的となり、喫煙者の方々にとっては肩身の狭い世中になってきているかもしれません。しかし、自治体によっては、歩きタバコ(路上喫煙)に対する行政罰(過料)を設けるなど、徐々に歩きタバコそのものに対する規制を強化する動きが出てきていることもまた事実です。
~ 歩きタバコと刑事罰 ~
タバコの先端部分は700度から800度に達しているともいわれており、人ごみの中での歩きタバコはとても危険な行為です。特に、子どもに対しては要注意でしょう。タバコを持っている手の位置と子ども顔の位置がちょうど同じ高さ、位置となる可能性が大いにあり、すこし顔に触れただけでも大きな怪我、障害(特に目に当たった場合など)に繋がるおそれがあります。
ところが、こうした危険にもかかわらず、歩きタバコをする方々の罪の意識は低いように思います。しかしながら、歩きタバコをして他人に怪我を負わせると
刑法上の罪
に問われる可能性がありますから注意が必要です。では、どんな罪に問われる可能性があるのでしょうか?
~ 過失傷害罪、重過失致死傷罪 ~
まず、怪我を負わせたという場合、傷害罪(刑法204条)が考えられますが、傷害罪は、相手に怪我をさせてもいい、もしくはそうなっても構わないと認識・認容しつつ(傷害の故意がありつつ)、暴行を加え、相手方に怪我を負わせた場合に成立する犯罪ですから、歩きタバコの場合、このような事態をなかなか想定し得ず、適用されることは少ないでしょう。
次に、相手に怪我を負わせることにつき故意がなかった場合はどうでしょうか?
その場合は、過失傷害罪(刑法209条)、あるいは重過失致傷罪(刑法211条後段)が適用される可能性があります。
過失とは、簡単にいえば、ある一定の行為を取ることを求められているにもかかわらずとらなかった、つまり、注意義務違反のことをいいます。
これを歩きタバコについていえば、路上喫煙が禁止されている区域で歩きタバコをすれば、それ自体注意義務違反とされてしまうおそれがあります。また、仮に、禁止区域以外で歩きタバコをしたとしても、タバコは上記のように危険な物体ですから、他人に接触しないように注意して保持する義務があるといえます。そこで、禁止区域以外で歩きタバコをした場合は、このような義務に違反したとされるおそれは十分にあるのです。
なお、重過失とは、過失の程度、すなわち注意義務違反の程度が著しいことをいいます。路上喫煙の禁止区域で歩きタバコをし、それによって相手方に怪我を負わせた場合は過失傷害罪ではなく重過失致死傷罪で適用されるかもしれません。
~ 罰則は?? ~
過失傷害罪の罰則は、30万円以下の罰金又は科料です。また、同罪は、被害者の告訴がなければ起訴されない親告罪です。起訴を回避したければ、被害者側と示談するなどして告訴を取り消していただく必要があります。
他方、重過失致死傷罪の罰則は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金で、過失傷害罪に比べ非常に重たく、かつ、親告罪ではありません。
~ 福岡県内での路上禁煙地区 ~
福岡県では、
人に優しく安全で快適なまち福岡をつくる条例
で、西鉄天神駅周辺、JR博多駅周辺を路上禁煙地区に定めています。
詳しくは↓↓をご覧ください
http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/26893/1/map.pdf?20190220115021
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。刑事事件・少年事件でお悩みの方は、まずは、0120-631-881までお気軽にお電話ください。24時間、無料法律相談・初回接見サービスの受け付けを行っております。
養護者による高齢者虐待①
養護者による高齢者虐待①
高齢者虐待について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
会社員のAさん(55歳)は、重度の認知症の母親Vさん(83歳)と福岡県春日市内のアパートで二人暮らしでした。Aさんは、10年程前から認知症だった母親を一人で支えてきましたが、日に日に病状が悪化する母親を介護しつづけるのも我慢の限界に達しようとしていました。Aさんは、日頃から母親の介護に対するストレスを抱え込むようになり、趣味のパチンコをする他ストレスを吐き出すはけ口を見失い、母親に対し、殴る、蹴るの暴力を繰り返すようになりました。また、Aさんはケアマネジャーの勧めにかかわらず介護サービスを利用しようともせず、食事も一日一回だけコンビニ弁当を買い与えるだけという生活のため、Vさんの健康状態は寝たきりに近い状態まで悪化してしまいました。そうしたところ、ケアマネジャーがAさんがパチンコに行っている間、Aさん宅を訪問した際、Vさんの異変に気づき、Vさんが高齢者虐待を受けて生命及び身体に危険が生じていると判断し、高齢者虐待防止法により市町村に通報しました。その後、Aさんは立入り調査を受け、事態を重く見られ、春日警察署に保護責任者遺棄罪の容疑で逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
~ 高齢者虐待の増加 ~
高齢化が進み、被介護者の人数が増えるとともに、高齢者虐待の問題が深刻化しています。
そして、近年では、自宅のみならず、高齢者が安心して生活できるはずの養介護施設での高齢者虐待に関するニュースをよく見かけます。
平成18年4月1日に施行された高齢者虐待防止法(正式名称:高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)では、
・養護者による高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等
と、
・養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止等
の2つの章をそれぞれ別に設け、必要な措置、規制に関する規定を設けています。ここで、「養護者」とはAさんのような高齢者の家族、親族、同居人など、高齢者を現に養護する者であって、養介護施設従事者等以外のものをいい、「養介護施設従事者等」とは老人ホームなどの養介護施設の業務に従事する者などをいいます。
~ 養護者による「高齢者虐待」とは ~
ところで、養護者による高齢者虐待とは何かというと、高齢者虐待防止法2条4項では次のように規定しています。
この法律において「養護者による高齢者虐待」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
一 養護者がその養護する高齢者について行う次に掲げる行為
イ 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
ロ 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイ、ハ又はニに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。
ハ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
ニ 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
二 養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
通常、一イは「身体的虐待」、一ロは「介護等放棄」、一ハは「心理的虐待」、一二は「性的虐待」、二は「経済的虐待」と呼ばれています。
~ 養護者による高齢者虐待の増加 ~
養護者による高齢者虐待の件数は増えてきていると言われています。
平成30年度版犯罪白書によると、平成28年度の高齢者虐待に関する市町村への通報・相談件数は
2万7940件
と、高齢者虐待防止法が施行された平成18年度(1万8390件)の
約1.5倍
だったとのことです。また、平成28年度に高齢者虐待と判断された件数は
1万6384件
と、平成18年度(1万2569件)の
約1.3倍
だったとのことです。
虐待種別に見ると(重複計上)、
身体的虐待 1万1383人
心理的虐待 6922人
介護等放棄 3281人
経済的虐待 3041人
の順で、身体的虐待が一番多かったとのことでした。
~ 福岡県でも公表 ~
福岡県のホームページでも高齢者虐待の状況に関して、市町村からの報告を取りまとめた結果を公表しています。
それによると、平成29年度中、福岡県内の市町村が相談・通報を受け対応した件数は「896件(うち、高齢者虐待と判断したものは495件)」だったとのことです。また、虐待種別では、上の順位どおり、身体的虐待が最も多かった(重複計上で332件)とのことでした。
次回は、養護者による高齢者虐待と刑事責任などについてご紹介できたらと思います。
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実刑判決を受けても保釈?
実刑判決を受けても保釈?
実刑判決と保釈について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
福岡県柳川市に住むAさんは、保釈中であった平成30年12月1日に、福岡地方裁判所柳川支部において窃盗罪などで懲役3年6月の実刑判決を受けたことから、裁判所で収容されてしまいました。しかし、Aさんの国選弁護人は、量刑を不服として福岡地方裁判所柳川支部宛に控訴申立書を提出すると同時に、Aさんの保釈を請求しました。保釈請求は許可され、Aさんは家族などの協力を得て保釈保証金を納付して釈放されました。一方、控訴審の福岡高等裁判所は、Aさんの控訴申し立てに理由がないとして控訴を棄却し、判決は確定しました。そこで、検察庁職員が、刑執行のためAさんの身柄を収容しようと、Aさん宅に何度も呼び出し状を発送するもAさんが指定された日時に出頭しなかったことから、収容状をもってAさん宅まで収容にいきました。職員が自宅に上がりこむとAさんは台所から包丁を取り出し、職員に包丁を向けながら「来るな。」「俺に触るもんなら刺すぞ」などと言って、自宅の裏口から逃走しました。
(事実を基に作成したフィクションです。)
~ はじめに ~
神奈川県愛川町で、保釈中の男性が実刑判決が確定していたものの、検察庁職員の収容手続に応じず逃走し、その5日後に、横須賀市のアパートで公務執行妨害罪の容疑で逮捕されました。報道によると、男性は、昨年9月、横浜地方裁判所小田原支部で、窃盗罪、傷害罪、覚せい剤取締法違反などの罪で懲役3年8月の実刑判決を受け、東京高等裁判所に控訴したものの、棄却され、今年2月にその判決が確定していたということです。
この事件に関するニュースをみて、
・実刑判決を受けたのに保釈(請求)できるの?
・なぜ保釈が認められたの?
・どうして逃げることができたの?
などという疑問を持たれた方も多いのではないでしょうか?
~ 実刑判決を受けたのに保釈(請求)できるの? ~
上訴(控訴、上告)する道が残されていれば、保釈請求することは可能です。
上訴する道が残されている、すなわち、言い渡された判決が確定するまでの間(審理前、審理期間中)は、未だ
刑事被告人
としての地位のままです。そして、勾留されている刑事被告人やその弁護人は裁判所に保釈請求をすることができるのです(刑事訴訟法88条1項)。
~ なぜ保釈が認められたの? ~
では、なぜ、保釈が許可されたのでしょうか?
保釈許可の要件は、大きく分けて、「権利保釈」と「裁量保釈」の2つがあります。
「権利保釈」とは、刑事訴訟法89条各号に掲げる事由に該当しない限りは保釈を許可するというものです。「裁量保釈」とは、たとえ、刑事訴訟法89条各号に掲げる事由に該当したとしても、裁判所が、「被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度のその他の事情」を考慮し、保釈を許可するというものです(刑事訴訟法90条)。つまり、たとえ、重大な犯罪を犯したり、実刑判決を受けたとしても、
「裁量保釈」によって保釈が許可される
ことは有り得ることです。
詳細は分かりませんが、今回の神奈川県のケースでも「裁量保釈」で保釈が許可された可能性はあります。
また、今年3月には、東京地裁が殺人罪で実刑判決を受けた刑事被告人に保釈を許可するというケースもありました(その後、東京高裁で検察官の抗告を認容=保釈許可されず)。
近年の裁判所は過去に比べて、刑事被告人の保釈を許可する傾向にあります。一方で、刑事被告人等が保釈中に逃走するケースも増えており、今回の事件をきっかけに、保釈に対する考え方、取扱方に変化があるかもしれません。
~ なぜ、逃走することができたのか? ~
第一審の場合、刑事被告人は法廷に出廷しなければなりません。したがって、判決期日で実刑判決が下れば保釈の効力は失われ(刑事訴訟法343条)、裁判所の法廷内で検察庁職員により収容されてしまいます。他方、控訴審の場合、刑事被告人が法廷に出廷する必要はありません(刑事訴訟法390条)。つまり、本来、保釈中に、控訴審で控訴棄却が言い渡されれば、理論的には
保釈の効力は失われ(勾留の効力が復活し)
て、その日から収容されることになります。しかし、控訴審では、法廷に刑事被告人が出廷していないことが多いことから、実務では、まず、検察庁職員が検察庁へ出頭するよう要請を行い、それでも応じない場合は、収容状を持参して強制的に収容するという手続を取っているようです(控訴審判決が確定している場合)。神奈川県のケースでは、この収容手続中に逃走された、というわけです。
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弁護人接見の重要性と接見指定
弁護人接見の重要性と接見指定
接見について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
福岡県の刑事事件専門の弁護士Aは、福岡県博多区に住むBさんが盗撮で逮捕されたとの連絡を受けたBさんの妻から依頼を受け、Aさんが留置されている博多警察署へ接見に行くことにしました。弁護士Aは博多警察署に接見に行くため接見予約の電話をしたところ、留置管理係から「現在、署内で取調べ中ですよ。」と言われました。そこで、弁護士Aは、盗撮捜査担当の生活安全課に電話をつないでもらい捜査担当者に、本当に取調べ中か、今すぐ接見できないか尋ねたところ、折り返しの電話で、「あと20分程度で取り調べが終わるので、●●時●●分からなら接見が可能です。」との回答を得ました。そこで、弁護士Aは、指定された時間から接見を始めました。
(フィクションです)
~ 弁護人接見の重要性 ~
逮捕、勾留されると、捜査が終わるまでは、通常、警察の留置施設に収容されます。そうすると、生活環境は一変して自分の思い通りの生活を送ることができない上に、連日の厳しい取調べ等により、精神的にも不安定な状態に置かれます。そこで、被疑者・被告人を精神的に支え、あるいは法的な助言をするための接見(面会)が必要となってくるのです。
この接見に関して最高裁判所は、
身体を拘束された被疑者が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに、弁護人からいえばその固有権の最も重要なものの一つである
とし(昭和53年7月10日)、さらに、弁護人接見について規定した刑事訴訟法39条1項について、
身体の拘束を受けている被疑者が弁護人と相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり、その意味で・・・・憲法の保障に由来するものであるということができる
としており(平成11年3月24日)、弁護人の接見は
極めて重要(な権利)である
と言っています。
~ 弁護人接見に対する制限(接見指定) ~
とはいいつつも、刑事訴訟法39条3項では、弁護人接見に対する一定の制限を設けています。すなわち、同項本文は、
捜査機関が、捜査のため必要があるとき、公訴の提起前(すなわち被疑者段階)に限り、接見交通権の行使に関し、「その日時、場所及び時間を指定することができる」
と規定し、捜査機関の判断で接見交通権の行使に一定の制約を加えることを認めています。これを「接見指定」といいます(ただし、接見指定は、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはなりません(同項但書))。
最高裁判所は、「捜査のため必要があるとき」とは、
接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合
をいい、「接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合」の具体例として、
弁護人から接見等の申出を受けた時に、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証等に立ち会わせている場合、また、間近い時に取調べ等をする確実な予定があって、弁護人の申出に沿った接見等を認めたのでは、取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合など
をいうとしています(前掲判例)。
~ 初回接見は大変重要 ~
ただし、最高裁判所は、
そのような捜査のために顕著な支障を生ずる場合であっても、捜査機関は、弁護人と協議してできる限り速やかに接見等のための日時を指定し、被疑者が弁護人と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならない
とし(前掲判例、平成3年5月10日)、さらに、
逮捕後の初回接見は、弁護人の選任を目的とし、かつ取調べを受けるに当たっての助言を得る最初の機会ですから、その重要性は特に高く、一刻も早い接見が実現されるべきで、捜査機関が行う接見指定もより限定的になされるべき
としています(平成12年6月13日)。
最高裁自身が、
初回接見は重要
であるといっています。
弊所でも初回接見サービスをご提供していますから、お困りの方は弊所までお気軽にお電話ください。
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放火と失火の違い
放火と失火の違い
放火と失火について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
会社員のAさんは、妻Bさん、子供2人の4人家族です。AさんはかつてBさんと寝室のベットで一緒に寝ていましたが、現在は不仲でAさんは寝室、Bさんは子供たちの部屋で寝ています。Aさんは大のタバコ好きで、Bさんから健康のためにも止めるように言われていたものの、それでも止めることはできず、寝る前に寝室でタバコを吸うことが日課となっていました。
そして、ある日、Aさんはいつものように寝る前にタバコを吸いました。Aさんはタバコを灰皿に捨てたつもりでしたがタバコは床に落ちており、床のカーペットに引火し、煙が出てきました。Aさんは、火が引火し煙が出ていたことは認識していたものの「Bさんとは近いうちに離婚しよう」と思っていたことから、「家が燃えてしまっても構わない」と思い、消火活動をせず、火が壁に燃え移るなどの光景をただ茫然と眺めていました。そうしたところ、異変に気づいたBさんがAさんの寝室に入り、緊急で119番通報する一方で、水にぬらしたタオルなどを火元に被せるなどして消火活動に努めました。最終的には消防隊員による消火活動の結果、寝室の一部を焼損させるにとどまりました。
その後、Aさんは小倉北警察署に失火罪で逮捕されましたが、捜査の結果、現住建造物等放火罪で起訴されてしまいました。
~ 火を使った犯罪 ~
刑法の第9章の
放火及び失火の罪
に規定される
・現住建造物等放火罪(刑法108条)
・非現住建造物等放火罪(刑法109条)
・建造物等以外放火罪(刑法110条)
では「放火して~」と規定されているのに対し、
・失火罪(刑法116条)
では、「失火して~」と規定されています。
刑法108条
放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船、鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
刑法116条1項
失火により、第108条に規定する物又は他人の所有に係る第109条に規定する物を焼損した者は、50万円以下の罰金に処する。
そこで、まず、はじめに「放火」と「失火」の違いからご説明いたします。
~ 放火と失火の違い ~
「放火」とは、
故意に目的物(家等の建造物)の焼損(燃えること)に原因力を与えること
をいうとされています。
(例)ライターで新聞紙に火をつけ、その新聞紙を家の中に投げ込む
燃えている火の中に油を注ぎこむ など
これに対して、「失火」とは、
過失によって出火させること
をいいます。すなわち、具体的状況下において、一般普通人に要求される注意義務に違反して、目的物の焼損に原因を与えたことをいいます。
(例)油料理で火を使ってる最中、かかってきた電話に夢中になり、油を枯渇させて火を台所壁に燃え移らせた
タバコの不始末 など
~ 失火罪から放火罪への可能性も? ~
放火罪と失火罪の法定刑は大きく異なりますから、いずれの罪が適用となるかは非常に重要です。
実務でも、失火罪から放火罪の適用に変わったり、反対に、放火罪から失火罪に適用されるというケースがあります。後者の場合は刑が軽くなりますが、前者の場合は重くなりますから、いずれが適用になるのかは非常に重要な問題です。
では、どのような場合に失火罪から放火罪に適用されることがあるのでしょうか?
そもそも、失火罪は「~すべきなのに~しなかった」場合に適用される犯罪ですが、判例(昭和33年9月9日)は、同様の場合に放火罪が適用されると判示しています。
判例の事案は、残業中、大量の炭火のおこっている火鉢を可燃物の置いてある事務室の木机の下に置いたまま別室で仮眠していた会社員が、仮眠から覚めて事務室に戻り、火鉢の炭火が木机に燃え移っているのを発見しましたが、宿直員を起こして協力を得れば容易に消火することができたのに、自己の失策の発覚をおそれてそのまま逃走したため、建物を焼損させた
というものでした。
このように「放火」は何もしない(消火活動を行わない)という不作為によっても実現できるとされています。しかし、「何もしない」というだけで罪が適用されてしまえば、人々の行動を制限することになりかねません。そこで、判例は、犯人に
・消火義務
・消火の可能性、容易性
・放火の故意
という要素を吟味して放火罪の不作為かどうかを判断しています。
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準強制性交等罪の発覚前に示談
準強制性交等罪の発覚前に示談
北九州市小倉北区に住むAさんは(43歳)は、同市内で居酒屋を営む経営者です。Aさんは、ある日、店を休業にして、店の従業員と暑気払いを開き、2時間程度飲み食いした後、お開きとしました。Aさんは、店に一人で残って後片付けなどしていました。Aさんは、従業員は皆、店から出たと思っていましたが、ある個室をのぞいてみると、女性Vさんが顔を真っ赤にした状態で寝ていました。Aさんは、Vさんに声をかけましたが反応がありませんでした。AさんはVさんを介抱しようとしたところ、Vさんが薄着だったことから、Vさんの胸元が開いているのに気づきました。Aさんはそれを見て気分高揚し、Vさんが意識のないうちにVさんと性交しようと考えました。そして、Aさんは、Vさんが着ていたパンツや下着を脱がしてVさんと性交しました。ところが、性交中にVさんが意識を取り戻したため、AさんはVさんに突き飛ばされ、Vさんから「何ばしよっと?」「慰謝料払わんと警察に訴えるよ」などと言われました。
(フィクションです)
~ 準強制性交等罪 ~
Aさんの行為は準強制性交等罪に当たる可能性があります。
準強制性交等罪は刑法178条2項に規定されていますから,まず,その規定の内容を確認しましょう。
刑法178条2項
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心身を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,性交等をした者は,前条の例による。
前条とは刑法177条のことを指します。
刑法177条
13歳以上の者に対し,暴行又は脅迫を用いて性交,肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という)をした者は,強制性交等の罪とし,5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し,性交等をした者も,同様とする。
「心神喪失」とは,精神の障害によって正常な判断能力を失っている状態をいいます。例えば,熟睡,泥酔・麻酔状態・高度の精神病などがこれに当たります。
「抗拒不能」とは,心神喪失以外の理由によって心理的・物理的に抵抗することが不可能又は著しく困難な状態をいいます。恐怖,驚愕,錯誤などによって行動の自由を失っている場合などはこれに当たります。
「(心身喪失・抗拒不能に)乗じる」とは既存の当該状態を利用することをいいます。「心神喪失・抗拒不能にさせる」手段には制限はありません。麻酔薬,睡眠薬の投与・使用,催眠術の施用,欺罔などはいずれもその手段となり得るでしょう。
「前条の例よる」の「前条」とは177条のことを指します。「例による」とは,法定刑を177条と同様,「5年以上の有期懲役」とするという意味です。
本件では、まず、Vさんの泥酔の程度が問題となるでしょう。Vさんが泥酔状態だったことが明らかとなれば、Aさんの行為は
人の心神喪失に乗じて性交をした
に当たる可能性が高いといえます。
~ 発覚を回避するなら ~
本件の場合、Vさんが警察に相談に行ったり、被害届を提出しないかぎりは、警察に発覚することは考えられません。:
そこで、警察に発覚することを防ぐためには、何よりもVさんに真摯に謝罪し、示談交渉を進め、示談を成立させて「警察に被害届、告訴状を提出しない」旨の確約を得る必要があります。
しかし、当事者間で示談交渉を進めるのは絶対にやめましょう。性犯罪の場合も、被害者やそのご家族の処罰感情が高い場合が多く、当事者間で示談を成立させるのは現実的に不可能です。それどころか、下手に被害者に接触を試みると、警察に被害届を出された上、罪証隠滅行為を図ったと疑われてしまって逮捕に繋がるおそれもないとはいえません。ですから、性犯罪の示談交渉は弁護士に任せましょう。
弁護士であれば、交渉しだいで、適切な内容、形式で示談を成立させることが可能です。また、適切な内容・形式で示談を成立させることができれば、成立後、被害者から訴えられるというおそれなく安心して生活することができます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,性犯罪事件をはじめとする刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。
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