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DV法と保護命令②

2019-04-08

DV法と保護命令②

~ 先日の続き ~

北九州市小倉北区に住むAさんは,妻Vさんと口論となり,Vさんの顔面や腹部等を足蹴にするなどの暴行を加え,Vさんに加療約1か月間を要する傷害を負わせた傷害罪で福岡県小倉北警察署に逮捕されてしまいました。その後,Aさんは勾留期間中に,VさんからDV法に基づき保護命令の申し立てをされました。
(フィクションです)

~ はじめに ~

先日の「DV法保護命令①」のコラムでは,Aさんから暴力を加えられた妻Vさんが申し立てた「保護命令」の解説をいたしました。では,申し立てられた側のAさんは,それに対し,不服を申し立てることはできないのでしょうか?また,Aさんが保護命令に違反した場合はどんな刑罰が科されるのでしょうか?

~ 保護命令に対する不服申し立て ~

保護命令に対して不服がある場合は,高等裁判所に対して不服申し立て(即時抗告)をすることができます。即時抗告は決定があった日から1週間以内に,抗告状という書面を原裁判所(保護命令を出した裁判所)に提出しなければなりません。ただし,即時抗告をしただけでは保護命令の効力が失われるわけではありませんから注意が必要です。

~ 保護命令に違反した場合の刑罰 ~

保護命令に違反した場合は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に処せられます。
ここで保護命令とは,

①接近禁止命令
②退去,はいかい禁止命令
③電話等禁止命令
④子への接近禁止命令
⑤親族等への接近禁止命令

のことをいいます(ただし,③から⑤については,①の接近禁止命令が発令されている場合のみ発令されます)。

* ①接近禁止命令 *

接近禁止命令は,命令の効力が生じた日から起算して6か月間,被害者(※)の住居その他の場所において被害者の身辺につきまとい,又は被害者の住居,勤務先その他のその通常所在する場所の付近をはいかいしてはならない旨の命令を指します。

※ 被害者

DV法では,被害者を「配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた者」と定義しています。

* ②退去命令 *

②退去命令は,命令の効力が生じた日から2か月間,被害者と生活の本拠としている住居から退去すること及び当該住居の付近をはいかいしてはならない旨の命令を指します。

* ③電話等禁止命令 *

③電話等禁止命令は,命令の効力が生じた日から6か月間,電話などをかけてはならない旨の命令を指します。電話の他にしてはならないことの代表として,面会要求,著しく粗野又は乱暴な言動,メールの送信などがあります。

* ④子への接近禁止命令 *

④子への接近禁止命令は,命令の効力が生じた日から6か月間,当該子の住居,就学する学校その他の場所において当該子の身辺につきまとい,又は当該子の住居,就学する学校その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならない旨の命令を指します。
当該命令の発布には,次の要件が必要となります。

・被害者が子と同居していること
・配偶者が子を連れ戻すと疑うに足りる言動を行っていることその他の事情があること
・被害者がその同居している子に関しては配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があると認めること

* ⑤親族等への接近禁止命令 *

⑤親族等への接近禁止命令は,命令の効力が生じた日から6か月間,当該親族等の住居,その他の場所において当該親族等の身辺につきまとい,又は当該親族等の住居,勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならない旨の命令を指します。
当該命令の発布には,次の要件が必要となります。

・配偶者が被害者の親族その他被害者と社会生活において密接な関係を有する者の住居に押し掛けて著しく粗野又は乱暴な言動を行っていることその他の事情があること
・被害者がその親族等に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があると認めること

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,傷害罪をはじめとする刑事事件専門の法律事務所です。傷害罪でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。24時間,無料法律相談初回接見サービスを受け付けております。

DV法と保護命令①

2019-04-05

DV法と保護命令①

北九州市小倉北区に住むAさんは,妻Vさんと口論となり,Vさんの顔面や腹部等を足蹴にするなどの暴行を加え,Vさんに加療約1か月間を要する傷害を負わせた傷害罪で福岡県小倉北警察署に逮捕されてしまいました。その後,Aさんは勾留期間中に,VさんからDV法に基づき保護命令の申し立てをされました。
(フィクションです)

~ DV法とは ~

DV法とは,正式名称,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律といいます。
DV法では,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図ることを目的として,配偶者からの暴力に係る通報,相談,保護,自立支援等に関する規定を設けており,平成26年1月3日から施行されています。

夫婦間での暴力・傷害事件では,相手方から保護命令というものを申し立てられることがあります。そこで,今回は,DV法に基づく保護命令に関しご紹介いたします。

~ 保護命令とは ~

DV法では「保護命令」に関する規定を設けています。
保護命令とは,相手方(Aさん)からの申立人(Vさん)に対する身体への暴力を防ぐため,裁判所が相手方に対し,申立人に近寄らないよう命じる決定のことをいいます。

= どんな決定が出るの? =

まずは,①接近禁止命令,②退去命令を受けることが考えられます。
①接近禁止命令とは,6か月間,申立人の身辺につきまとったり,申立人の住居(同居する住居は除く。)や勤務先等の付近をうろつくことを禁止する命令です。②退去命令とは,申立人と相手方とが同居している場合で,申立人が同居する住居から引越しをする準備等のために,相手方に対して,2か月間家から出ていくことを命じ,かつ同期間その家の付近をうろつくことを禁止する命令です。

= その他の命令は? =

その他の命令として③子へ接近禁止命令,④親族等への接近禁止命令,⑤電話等禁止命令があります。③から⑤の命令は,必要な場面に応じて被害者本人への接近禁止命令の実効性を確保する付随的な制度ですから,単独で発令されることはなく,申立人に対する接近禁止命令が同時に出る場合か,既に出ている場合のみ発令されます。

③子への接近禁止命令とは,子を幼稚園から連れ去られるなど子に関して申立人が相手方に会わざるを得なくなる状態を防ぐため必要があると認められるときに,6か月間,申立人と同居している子の身辺につきまとったり,住居や学校等その通常いる場所の付近をうろつくことを禁止する命令です。
④親族等への接近禁止命令とは,相手方が申立人の実家など密接な関係にある親族等の住居に押し掛けて暴れるなどその親族等に関して申立人が相手方に会わざるを得なくなる状態を防ぐため必要があると認められるときに,6か月間,その親族等の身辺につきまとったり,住居(その親族等が相手方と同居する住居は除く。)や勤務先等の付近をうろつくことを禁止する命令です。
⑤電話等禁止命令とは,6か月間,相手方から申立人に対する面会の要求,深夜の電話やFAX送信,メール送信など一定の迷惑行為を禁止する命令です。

= 誰が申立てできるのか? =

被害者です。ここでいう「被害者」とは,配偶者(Aさん)からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫(被害者の生命又は身体に対し害を加える旨を告知してする脅迫)を受けた者のことをいいます。

= どのような場合に申立される(できる)のか? =

基本的には申立て現在において婚姻関係にあることが必要ですが,離婚をし,婚姻関係が解消された場合でも申立てされることがあります。

* 婚姻関係にある場合 *

身体への暴力(性的暴力・精神的暴力はこれに含まれません。)又は生命・身体に対する脅迫を受けた申立人が,今後,身体に対する暴力を受けて生命や身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき。

* 婚姻関係が解消されている場合 *

暴力・脅迫を受けた申立人が,離婚をし,又はその婚姻が取り消された場合にあっては,当該配偶者であった者から引き続き身体に対する暴力を受けて生命や身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき。つまり,この場合,以前に受けた暴力・脅迫を基に保護命令を申し立てられるのであって,婚姻関係解消後の暴力・脅迫を基に保護命令を申し立てられることはありません。

次回は,DV法に規定されている罪などについてご紹介いたします。

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脅迫罪と強要罪

2019-03-31

脅迫罪と強要罪

Aさんは,自動車を運転して久留米市内の道路を走行していたところ,後方から走行してきたVさん運転の自動車に煽り運転を受けました。
これに腹を立てたAさんは,信号待ちの際に車から降り,Vさんの車の窓を叩いて降りるよう要求しました。そして,Aさんは,Vさんが車から降りたため,Vさんに「なに煽り運転してんだよ!」「オレには,バックに〇〇組(暴力団組員)が付いているからな」「車のナンバーも写メしたし,命が欲しいならでここで土下座しろ」などと言いました。Vさんは,「煽り運転はしていない」「車間距離が短かったのであれば謝罪する」などと言いましたが,Aさんの怒りはいっこうに収まることはありませんでした。そうしたところ,後続車が通報したのか,Aさんは,現場に駆け付けた福岡県久留米警察署の警察官から,脅迫罪強要罪で事情を聴かれることとなりました。
(フィクションです。)

~ 脅迫罪 ~

脅迫罪は刑法222条に規定されています。

1項 生命,身体,自由,名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は,2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2項 親族の生命,身体,自由,名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も,前項と同様とする。

= 害を加える旨の告知(害悪の告知) =

害悪の告知は,一般に人を畏怖させるに足りる程度のものでなければならないとされています。
人を畏怖させるに足りるものであったか否かは,害悪の告知の内容を四囲の状況に照らして判断されます。
この点,Aさんの「〇〇組(暴力団組員)が付いているからな」,「車のナンバーも写メしたし,命が欲しいなら~」という行為は,Aさん,もしくは暴力団組員がVさん,もしくはVさんの車に何らかの危害を加える旨を想起させる言葉であり,生命,身体,財産に対する害悪の告知といえそうです。

* 脅迫行為に関する特別法 *

「暴力行為等処罰に関する法律」という法律に,脅迫行為に関する特別規定が設けられています。すなわち,その1条には,「団体」若しくは「多衆」の威力を示すなどして刑法222条の罪などを犯した場合は「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処する旨の規定が設けられているのです。本件では,「〇〇組」が「団体」若しくは「多衆」に当たるかどうかがポイントとなるでしょう。

~ 強要罪 ~

強要罪は刑法223条に規定されています。

1項 生命,身体,自由,名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し,又は暴行を用いて,人に義務のないことを行わせ,又は権利の行使を妨害  した者は,3年以下の懲役に処する。

強要罪でも「害悪の告知」が必要とされています。ただし,強要罪は,結果として相手方に義務のないことを行わせ,又は権利の行使を妨害したことが必要ですから,強要罪の「害悪の告知」はその程度のものであることが必要とされています。

* 土下座の要求は強要罪に当たるのか? *

まず,単に土下座を要求しただけでは強要罪には当たりません(「人に義務のないことを行わせ」たとはいえません)。強要罪の成立には,あくまで「暴行」「脅迫」が必要だからです。また,行為者の言い分が正当な場合など「ここで土下座を要求されても仕方がない」といえる状況の場合も同様です。結局は,社会通念に照らし,ケースバイケースで判断されるものと思われます。本件の場合,道路上で土下座を要求している点を重く見られて(他の交通の妨げになるため),強要罪に当たると判断される可能性があります。

~ 本件の行方 ~

Aさんの土下座要求行為が強要罪に当たると判断されればAさんは強要罪に問われることになります。その際,脅迫罪強要罪に吸収され,別個に脅迫罪を問われることはありません。強要罪に当たらないとされた場合は,刑法もしくは暴力行為等処罰に関する法律の脅迫罪に問われます。

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暴行罪と微罪処分

2019-03-29

暴行罪と微罪処分

福岡県直方市に住むのAさんは会社の送別会の席で,Vさんから陰口を言われたことに憤慨し,Vさんを店の外に呼び出し,いきなり左拳でVさんの左頬を1回殴りました。ちょうどそのとき,二人のことが心配になって後をついてきたAさんとVさんの上司が二人の間に入り,事はいったん収まりました。ところが,Vさんが福岡県直方警察署に電話し,被害届を提出したいなどと言ったため,Aさんは警察官から事情を聴かれることになりました。その数日後,事件のことを振り返り反省したAさんは,Vさんと示談したいと考えています。Aさん微罪処分獲得を目指し,示談交渉を弁護士に依頼しました。
(フィクションです)

~ 傷害未遂罪って存在するの? ~

人の物を盗もうとして盗めなかったら窃盗未遂罪,人を殺すつもりでナイフで刺そうとしたところ失敗して人を殺すことができなかった場合は殺人未遂罪となります。では,人に怪我させるつもりで人に暴行を加えたところ怪我させることができなかった場合はどうでしょうか?

この点,未遂罪を処罰するには,その罪について「未遂罪を処罰する」旨の規定を設けられていなければならないところ(刑法44条),傷害罪には「未遂罪を処罰する」旨の規定が設けられていません。したがって,傷害未遂罪という罪は存在しません。では,Aさんは無罪放免かというとそうではありません。
実は,暴行罪を規定する刑法208条に,傷害未遂罪的な文言が取り込まれています。

刑法208条
 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは,2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかった」という文言が,まさに傷害未遂罪的な文言です。つまり,人に怪我させるつもりで人に暴行を加えたところ怪我させることができなかった場合は刑法208条により「暴行罪」に問われることになります。

~ 微罪処分 ~

微罪処分とは,警察が事件を検察庁を送致せず,被疑者への厳重注意,訓戒等で終了させる手続きのことをいいます。微罪処分と聞けば,万引きなどの窃盗罪
を最初に思い浮かべる方も多いかもしれませんが,実は,暴行罪も対象事件に含まれていることが多いです。どんな罪を,どんな要件に従って微罪処分とするかは各都道府県の検察庁の検事正という方が決め,それを各警察本部を通じて警察官に指示しています。暴行罪については,概ね,

・示談が成立していること
・被害者が処罰を望んでいないこと
・犯行態様が軽微であること(武器を使用していないことなど)
・粗暴歴(前科,前歴)がないこと

が要件として考えられます。
最終的には,警察官が,検察官から指示さた要件を満たしているかどうかを確認し微罪処分を下します。「処分」と言われていますが,何らかの刑罰がくだるというわけではありません。警察署に呼び出され,警察官から注意,訓戒を受け,二度と再犯をしない旨の誓約書を書いて終わり,というケースが多いです。事件は検察庁へ送致されませんから,検察庁から呼び出しを受けたり,刑事処分(起訴,不起訴)を受けたり,裁判を受ける必要がなくなります。裁判を受ける必要がないということは,刑罰を科されることはありまえせんし,前科が付くこともありません。

~ 微罪処分を受けるには? ~

上記要件のところでご紹介したように,微罪処分を受けるには,

被害者と示談を成立させること

が重要だということがお分かりいただけるかと思います。ただし,暴行事件の場合,当事者同士で示談交渉をすることは,感情の縺れなどから決裂する可能性が高いですから避けた方が無難です。これはたとえ顔見知り,同僚等関係が近い場合であっても同様です。最初は,「知っている人だからこのくらいで示談してくれるだろう」と軽い気持ちで交渉したつもりが,その過程で思わぬ方向へと話が縺れ,結局示談を締結できなかったということがあります。また,微罪処分の獲得を目指すには,警察官が事件を検察庁へ送致する前に示談を締結させ,その結果を警察へ報告しなければなりません。つまり,警察の捜査状況も確認しながら示談交渉を進めていく必要があるのです。
このように,対被害者の面でも,対警察の面でも,ご自身一人で示談交渉を進めていくことには限界がありますから,示談交渉は法律の専門家である弁護士に任せた方が安心,安全です。

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玄関ドアに落書きで建造物損壊罪

2019-03-24

玄関ドアに落書きで建造物損壊罪

福岡県糸島市に住むAさんは,飲み会の帰り,酒に酔った勢いで,同市内に住むVさん方の玄関ドアに,持っていたラッカースプレーを用いて,赤色及び黒色のペンキを吹き付けて,「××××」,「△△△△」などと大書きしました。Vさんによると,玄関ドアの取り換え費用に約15万円かかったとのことです。Aさんは,後日,福岡県糸島警察署から建造物損壊罪で呼び出しを受けました。今後のことが不安になったAさんは,弁護士に無料法律相談を申込みました。
(フィクションです)

~ 建造物損壊罪 ~

建造物損壊罪は刑法260条に規定されています。

刑法260条
 他人の建造物又は艦船を損壊した者は,5年以下の懲役に処する。

以下,ご説明いたします。

= 他人の建造物 =

「他人の」とは,他人所有のという意味です。「建造物」とは,屋蓋を有し,障壁又は柱材で支持されて土地に定着し,その内部に人が出入りできる構造を持つ家屋その他これに類する工作物をいうとされています。

* 「建造物」と「器物」の区別 *

「建造物」と器物損壊罪(刑法261条)の器物(規定上は「他人の物」)との区別は,分離に毀損を要するかによって決定されるとするのが通説・判例です。壁板などは,これを毀棄しなければ取り外すことはできないことから「建造物」です。他方,容易に取り外すことができる雨戸,畳,建具などは「建造物」ではなく,器物損壊罪の「他人の物」となります。

では,本件の玄関ドアはどうでしょうか?
確かに,玄関ドアは取り外しが可能ですから「建造物」ではなく器物損壊罪の「他人の物」に当たるような気がします。しかし,判例(平成19年3月20日
)は,玄関ドアの外界との遮断,防犯,防風,防音という玄関ドアの機能に鑑みて,玄関ドアを「建造物」であると判示しています。このように,近年では,「建造物」と「器物」との区別につき,単に分離に毀損を要するか,取り外しが可能か,といった点のみならず,その物の機能的側面も考慮して建造物と一体化しているかどうかという点も基準として加えるようになってきています。

= 損壊 =

「損壊」とは,建造物・艦船の実質を毀損すること,又はその他の方法で,それらの使用価値を滅却し,あるいは減損することをいいます。物理的に形態を変更又は滅却させる場合だけでなく,事実上その本来の用法・効用に従い使用することができない状態に至らせる場合も含まれます。最高裁は,落書き(平成18年1月18日),ビラ張り行為(昭和41年6月10日)も「損壊」に当たると判示しています。

~ 器物損壊罪との違い ~

上記で見たように,まず,「建造物」と「その他の物」の意味内容に違いがあります。その他,次の違いに注意が必要です。

= 罰則 =

器物損壊罪の法定刑は「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」であるのに対し,建造物損壊罪は「5年以下の懲役」と罰金刑以下の刑の記載がありません。つまり,起訴されてしまえば正式裁判を受けなければなりませんし,逮捕・勾留されれば身柄拘束期間が長引くことも予想されます(他方,略式裁判によって罰金刑の命令を受けた場合,命令の告知と同時に釈放される)。

= 親告罪,非親告罪 =

器物損壊罪は,起訴するにあたり,告訴を必要とする親告罪です。他方,建造物損壊罪は非親告罪です。つまり,建造物損壊罪の場合,被害届や告発状によっても捜査を受けたり,起訴されたりする可能性があります。

~ いたずらでも罪に! ~

街中を歩いていると,壁などにスプレーで落書きされてあるのを見かけます。また,テレビやネットでは,学校の壁や重要な文化財などに落書きして逮捕されたというニュースを見たり聞いたりします。ちょっとしたいらずか感覚が重大事件に発展しかねませんから十分注意する必要がります。

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職務質問と公務執行妨害罪

2019-03-22

職務質問と公務執行妨害罪

福岡市博多区の路上を歩いていたAさんは,福岡県博多警察署の警察官から職務質問を受けました。
Aさんはその際,警察官から所持品検査を求められました。Aさんは,上衣の右ポケット内に大麻を隠匿していたことから,前方に立っていた警察官に体当たりしてその場から逃げ出しました。しかし,Aさんは追いかけてきた警察官数名に捕獲され,公務執行妨害罪の現行犯で逮捕されました。その後,Aさんは,大麻取締法違反(所持罪)でも逮捕されてしまいました。
(フィクションです)

~ 職務質問 ~

警察官職務質問執行法(以下,警職法)2条1項では

警察官は,異常な挙動その他の周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し,若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について,若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる

と規定されています。この規定に基づいて行う質問を職務質問といいます。

= 職務質問は拒否できる!? =

職務質問は任意で行われることが原則です。したがって,職務質問を拒否することはできます。しかし,警察官は拒否されたからといって「あっそうですか」などとあっさり拒否を認めてくれるわけではありません。なぜなら,警察官は,

拒否するからには,何か疑わしい事情・理由があるからだろう

と疑ってかかるからです。こう疑われたからには,警察官の質問から容易に逃げ出すことはできません。しかも,判例は,

職務質問の必要性,緊急性なども考慮した上,具体的状況の下で相当と認められる限度内での有形力の行使

を認めています。判例で許容された有形力の行使として

職務質問中突然逃げ出した者を130メートル追跡し,背後から腕に手をかけて停止させた行為
・酒気帯び運転の疑いのある者が運転する車両のエンジンキーを回転してスイッチを切った行為

などがあります。これからすると,

・警察官が一定時間,職務質問対象者の前に立ちふさがる行為
・現場から離れる対象者について行くなどの行為

などは判例の許容する有形力の行使の範囲内であり適法と考えられます。これらの行為が許容されるならば,警察官の職務質問から容易に抜け出すことは簡単ではないでしょう。つまり,職務質問は,建前としては「拒否できる」とはいっても,実際上は「拒否できない」のが実情です。

= 違法な職務質問 =

しかし,違法な職務質問についてはきちんと異議を唱えていくべきです。例えば,あまり考えられませんが,

・手錠をかけて警察署に連行する行為
・数人で引っ張って警察署に連行する行為
・対象者の住居,敷地内に無断で立ち入る行為

はもはや職務質問の許容限度を超え,裁判官の令状を必要とするほどの行為ですから職務質問の行為としては違法と考えられます。

~ 職務質問と公務執行妨害罪 ~

職務質問の際,警察官に暴行などを加えて公務執行妨害罪で逮捕されるケースをよく見かけます。公務執行妨害罪は,公務員(警察官など)が職務の執行中,公務員に対して暴行又は脅迫を加えた場合に成立する犯罪です。法定刑は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」です。

刑法95条1項 
 公務員が職務を執行するに当たり,これに対して暴行又は脅迫を加えた者は,3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

ただし,公務員の職務は適法であることが条件とされています。違法な公務については保護する必要がないからです。職務質問の場面でも,仮に,警察官に違法行為が認められる場合には,たとえ警察官に暴行・脅迫を加えていたとしても公務執行妨害罪は成立しません。

職務質問時の警察官の対応に不満がある,納得いかないという方は,一度,弊所の弁護士にご相談ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,職務質問の対応など刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間体制で受け付けております。

過失傷害罪で告訴取消し

2019-03-19

過失傷害罪で告訴取消し

北九州市若松区に住むAさん(31歳)は,交際中のVさん(28歳)と居酒屋へ行きました。AさんとVさんはお座敷の小さなテーブルを挟んで対面して座りました。Aさんは,そこで突然,Vさんから別れ話を突き付けられました。驚いたAさんは,Vさんに理由を聞きましたが納得できず,Vさんと口論となりました。そして,タバコを吸っていたAさんは,テーブルの上に置いてあったガラス製の灰皿を机の上に向けて叩きつけたところ,ガラスコップが割れ,破片の一部をVさんの顔面部に飛散させてしまいました。Vさんは,それにより,加療約10日間の前額部切創の傷害を負いました。後日,Aさんは,Vさんから福岡県若松警察署宛に告訴状が提出され,過失傷害罪で取調べを受けることになりました。
(フィクションです)

~ 過失傷害罪(刑法209条) ~

過失傷害罪は,刑法209条1項に規定されています。

刑法209条1項
 過失により人を傷害した者は,30万円以下の罰金又は科料に処する。

同罪の「過失」とは,不注意により,人を傷害することに対する認識,認容(そうなっても構わない,仕方がないという意図)を欠いていることをいいます。「不注意」があったというためには,①傷害の発生を認識,予見することができ,②傷害の発生を回避するために必要な措置を講ずることができた,といえることが必要です。

まず,①についてですが,AさんとVさんは小さなテーブルを挟んで座っていたのですから,ガラスコップをテーブルに叩きつければガラスコップが割れ,破片が飛散してVさんに危害を与えるであろうことは容易に認識,予見できたと考えられます。また,②ガラスコップを叩きつけなければ,ガラスコップは割れなかったですし,ガラスコップを叩きつけないという行為は容易に取ることができます。
つまり,今回のケースでは,Aさんには「過失」ありと判断されるおそれが極めて高いです。

* 故意ありとされた場合は? *

過失ではなく故意がある(人の傷害に対する認識,認容がある)と判断された場合は傷害罪に問われるおそれがあります。傷害罪の法定刑は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。傷害罪は過失傷害罪と異なり親告罪(検察官の公訴提起(起訴)に告訴を必要とする罪)ではありません。

~ 過失傷害罪は親告罪 ~

検察官が公訴を提起(起訴)するにあたって被害者等の告訴を必要とする犯罪を親告罪といいます。そもそも,告訴とは,被害者等が捜査機関に対し,犯罪事実を申告して犯人の処罰を求める意思表示をいいます。よって,親告罪が設けられたのは「被害者の処罰を求める意思」を尊重するためにあるとも考えられるのです。

刑法209条2項
 前項の罪(過失傷害罪)は,告訴がなければ公訴を提起することができない。

* 刑法に規定される親告罪 *

刑法に規定される親告罪は,過失傷害罪の他にも,未成年者略取・誘拐罪(刑法224条),名誉棄損罪(刑法230条),侮辱罪(刑法231条),器物損壊罪(刑法261条)などがあります。

~ 親告罪で不起訴を目指すなら ~

先ほどもご説明したとおり,親告罪は被害者等の処罰意思を尊重する制度ですから,検察官が公訴を提起する前に被害者等が「処罰は望まない」「許してほしい」などといって告訴取消すことができます。被害者等が告訴取消せば,刑事処分は自動的に「不起訴(親告罪の告訴取消し)」となります。
このように,被害者の方々の処罰感情を緩和させ,告訴取消していただくには,まずは被害者の方々に誠心誠意謝罪した上で,示談交渉を開始し,お互い納得のいく条件で示談を成立させることが肝要かと考えます。交渉には様々な困難が伴いますし,のちのちのトラブルを防ぐには適切な内容・形式で示談を成立させる必要があります。そのためには弁護士の力が必要です。

* 起訴後を告訴を取消すことは可能か? *

起訴後に告訴取消すことはできません(刑事訴訟法237条1項)。よって,示談による告訴取消しを目指す場合は,検察官の公訴提起(起訴)前に示談を成立させる必要があります。

刑事訴訟法237条1項
 告訴は,公訴の提起があるまでにこれを取り消すことができる。

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少年事件と逆送の流れ(少年法20条の場合)

2019-03-15

少年事件と逆送の流れ(少年法20条の場合)

福岡県柳川市に住むA君(17歳)は,傷害致死罪で福岡県柳川警察署に逮捕,検察庁に送致された後勾留されました。その後,A君の事件は家庭裁判所に送致されましたが,少年審判で「刑事処分相当」であるとして「逆送決定」が出てしまいました。A君は,現在,柳川警察署に収容されているようです。A君のご両親は今後のことが不安になって少年事件に詳しい弁護士に相談を申込みました。
(フィクションです)

~ 逆送とは ~

逆送とは,家庭裁判所の調査の過程,あるいは少年審判で本人が20歳以上であることが判明したとき(少年法19条2項,23条3項),又は,家庭裁判所の審判において,刑事処分が相当であると判断されたとき(少年法20条1項),あるいは,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件(※)であって,その罪を犯したときに少年が16歳以上だったとき(少年法20条2項)に,事件を家庭裁判所から検察官に送致される手続のことをいいます。手続的には,検察官から家庭裁判所へ送られた事件が,再度,家庭裁判所から検察官の元へ送られるわけですから「逆」送と呼ばれています。

逆送されれば,成人と同様の刑事手続に移行します。正式起訴されれば,成人同様,正式裁判を受けなければなりませんし,裁判で有罪となり裁判が確定すれば刑に服さなければなりません。前科も付きます。

※ 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件

 原則的に検察官への送致を義務付ける事件で「原則逆送事件」とも呼ばれています。1997年に少年が起こした「神戸児童連続殺傷事件」を受け,平成 12年の少年法改正により新設された規定です。故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件とは,殺人罪(刑法199条),傷害致死罪(205条),強盗致死罪,強盗殺人罪(刑法240条)などがあります。

~ 逆送後の流れ(少年法20条の場合) ~

逆送後の流れを図にすると以下のとおりです。

家庭裁判所による逆送決定(①)

検察官送致(②)

強制起訴(③)(※)

裁判(④)

判決(⑤)

= ①~②について =

少年法20条の場合,少年の身柄は拘束されている場合がほとんどでしょう。①の段階では,まだ「少年鑑別所」にいます。しかし,②の段階になると,少年の身柄の措置は「観護措置」から「勾留」に変わります(呼称も少年から被疑者に変わる)。そして,被疑者(少年)の身柄は,捜査の便宜上,「少年鑑別所」から警察の留置施設(留置場)へ移されることもあります。勾留の期間は,検察官が事件の送致を受けた日から数えて10日間です。期間の延長(最大10日間)はほとんど認められないでしょう。

= ②~③について =

②の段階に入ると,検察,警察による連日の取調べなどを受けます。そして,嫌疑が固まりしだい起訴されます(③)。

※ 強制起訴と呼ばれていますが,次の場合は,起訴しないこともできるとされています(少年法45条5号但書)。

・送致を受けた事件の一部について公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑がないとき
・犯罪の情状等に影響を及ぼすべき新たな事情を発見したため,訴追を相当でないと思料するとき
・送致後の情況により訴追を相当でないと思料するとき

= ④~⑤について =

起訴されれば,成人と同様の刑事手続で刑事裁判を受けなければなりません。事件が裁判員裁判対象事件である場合は,一般市民である裁判員6名の参加する合議体によって裁判が行われます。ただし,少年に対する刑事事件の審理は,少年のプライバシー等に配慮して行わなければならないとされています(少年法50条)。また,マスコミ等に対しては,刑事被告人が本人であることを推知させる記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならないことを求めている(少年法61条)など,一定の配慮をしています。

~ 本件における弁護活動 ~

逆送決定自体に対する不服申し立ては認められないと解されています。そこで,まずは,逆送決定が出る前に,少年の環境調整を行うなどして家庭裁判所(あるいは調査官に)に逆送決定は相当でない旨の意見書を提出します。
次に,②段階での勾留に対する不服申し立て(準抗告)をすることが考えられます。不服申し立てが認められた場合は釈放されます。
起訴された場合は,裁判で,懲役刑や禁錮刑などの刑事罰ではなく,保護観察や少年院送致などの保護処分が相当である旨の主張を行います。この主張を行う前提として,当然,少年の環境調整を行っておく必要があることはいうまでもありません。この主張が認められた場合は,事件は再び家庭裁判所へ移送されます(55条移送)。

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殺人罪と傷害致死罪  

2019-03-05

殺人罪と傷害致死罪  

北九州市若松区に住むAさんは,福岡県若松警察署殺人罪で逮捕されました。Aさんと接見しAさんから細かく話を聴いた弁護士は,Aさんに殺意が認められず傷害致死罪の成立を主張していこうかと検討しています。
(フィクションです)

~ はじめに ~

殺人罪傷害致死罪は,同じ「死」という結果を発生させた点では同じです。では,殺人罪傷害致死罪はどこで区別されるのか?殺意はどのような要素から認定されるのかご紹介したいと思います。

~ 殺人罪,傷害致死罪とは? ~

殺人罪は刑法199条に規定があります。

刑法199条
 人を殺した者は,死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

非常に簡素な規定です。これからすると「人」を「殺す行為」があれば殺人罪が成立しそうです。

次に,傷害致死罪は刑法205条に規定があります。

刑法205条
 身体を傷害し,よって人を死亡させた者は,3年以上の有期懲役に処する。

これもまた簡素な規定です。「傷害」とは,要は怪我をさせた,ということです。ただし,怪我をさせる過程には次の2パターンがあります。つまり

・傷害の故意(怪我をさせる意図)で怪我をさせた場合(1パターン) 
・暴行の故意(怪我をさせる意図はなく)で怪我をさせた場合(2パターン)

です。2パターンの場合でも,結果的に傷害の結果が生じ,それが原因で死亡させた場合は傷害致死罪に問われることになります。

~ 殺人罪と傷害致死罪の分水嶺 ~

傷害致死罪は,人に怪我させる意図(1パターン),暴行を加える意図(2パターン)で結果的に「死」という結果を発生させた場合に成立する罪です。ですから,殺人罪との区別は

人を殺す意図があったかなかったか(殺意の有無)

で区別されます。

包丁を持ち出し,「殺してやる」などと思って人の心臓を刺して死亡させた場合は殺人罪が成立します。他方,包丁は持ち出しても,腕を切り付ける意図しかなかったものの,偶然,心臓に突き刺してしまったというような場合は傷害致死罪が成立します。

~ 殺意の認定要素 ~

殺意とは,要は「人の内心」ですから,本人が語らなければ殺意があったかどうか認定することは難しくなります。しかし,本人が語らないからといって全て傷害致死罪とすることは,真実発見を目的とした刑事手続,刑事裁判の存在意義にも反します。そこで,刑事実務では,概ね次の要素から殺意を推認することとしています。

・被害者の受傷の部位(死に至る危険性が高い部位であればあるほど殺人罪に傾く)
・受傷の程度(例えば,包丁の場合,どの程度まで体内に入り組んでいるか。深ければ深いほど殺人罪に傾く)
・犯行道具の有無(包丁,日本刀,拳銃など死の結果を発生させる危険度の高い道具を使った場合は殺人罪に傾く)
・犯行に至るまでの経緯(計画性が高い場合は殺人罪,偶然性・突発性が高い場合は傷害致死罪に傾く)
・犯行時の加害者の言動(「殺すぞ」「死ね」などと言っていた場合は殺人罪に傾く)
・犯行後の言動(現場から逃走した場合は殺人罪に傾きますし,救護措置を取っていた場合は傷害致死罪に傾きます)

もちろん,以上の要素が全てではありませんし,特定の要素がそろったからといって殺人罪あるいは傷害致死罪になると決められているわけでもありません。刑事裁判では,最終的には,これらの要素を総合考慮して裁判官が判断します。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,殺人未遂罪をはじめとする刑事事件専門の法律事務所です。刑事事件でお悩みの方は,まずは0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間受け付けております。

強要罪と執行猶予

2019-02-25

強要罪と執行猶予  

福岡県大川市に住むAさんは,福岡県筑後警察署強要罪で逮捕され,その後起訴されました。まさか起訴されるとは思っていなかったAさんのご両親でしたが,Aさんが5年前に犯した暴行罪で罰金刑を受けていることから,今度は裁判で執行猶予を獲得できるのか,刑事事件に強い弁護士に相談しました。
(フィクションです)

~ 執行猶予とは ~

皆さんもご存知のように,執行猶予とは,その罪で有罪ではあるが,言い渡された刑(懲役刑,罰金刑)の執行を一定期間猶予する(見送る)ことをいいます。たとえば,懲役刑を受けた方であれば,刑の確定後,猶予期間中に犯罪などしなければ刑務所に入らなくて済みますし,罰金刑を受けた方であれば,罰金を納付する必要はありません。

= 執行猶予を受けるための要件 =

執行猶予を受けるための要件は,刑法25条1項に規定されています。

刑法25条1項
 
 次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは,情状により,裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間,その刑の全部の執行を猶予することができる

1号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を受けた日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

つまり,執行猶予を受けるには

1 3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けること
2 上記1号,あるいは2号に該当すること
3 (執行猶予付き判決を言い渡すのが相当と認められる)情状があること

が必要ということになります。

= 強要罪ではどうか? =

* 上記1の点 *

まず,上記1からすると,執行猶予を獲得する可能性があるかどうか,その可能性はどの程度のものかどうか知るには,犯した罪について定められている刑(法定刑)を確認する必要があります。

この点,強要罪は刑法223条に規定があります。

刑法223条1項
 生命,身体,自由,名誉若しくは財産に対して害を加える旨を告知して脅迫し,又は暴行を用いて,人に義務のないことを行わせ,又は権利の行使を妨害した者は,3年以下の懲役に処する。

これからすると,強要罪だけで処罰される場合は,3年以上の懲役に処せられることはありませんから,上記1の要件を満たすことになります。

* 上記2の点 *

「前に」とは,執行猶予判決を言い渡される前にという意味です。「禁錮以上の刑に処せられた」とは,禁錮以上の刑を言い渡した判決確定したことをいうのであって,その確定判決の執行を受けたことを意味しませんから,刑の執行を猶予された場合も含まれます。つまり,刑法25条1項1号の「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」とは,

・なんら前科のない人
・前科があっても罰金刑(実刑,執行猶予付きを含む)以下の前科を有する人

を意味することになります。なお,裁判を受けたものの無罪判決を獲得し,その裁判が確定した人も「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」に含まれることはいうまでもありません。Aさんの場合,前科こそ有するものの,その内容とは罰金刑ということですから,刑法25条1項1号の「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」に当たります。

* 上記3について *

「情状」は,犯罪そのものに関する情状(犯情)とその他の一般情状に区別されます。犯情とは,犯行動機・態様,被害結果などの要素があり,犯行が終わった後ではいかんともしがたい事実です。他方,一般情状とは,

・被害弁償(示談)の有無,被害感情
・被告人の反省の有無
・反省の態度,更生可能性(被告人の更生意欲や家族等の支援,就職先の確保等),再犯可能性(前科前歴の有無,常習性の有無,犯行原因の消滅等)

などの要素があります。

~ 執行猶予を獲得するためには? ~

執行猶予を獲得するためには,上記1から3の要件を満たさなければならないことはお分かりいただけたと思いますが,上記1,2については弁護活動によってもどうすることもできません(前科があったことをなかったとすることはできません)。他方で,上記3の情状,特に一般情状に関する事実については,犯行後,逮捕後,起訴後でも弁護活動によって有利にもっていくことが可能です。

例えば,被害者との示談交渉がその一例でしょう。示談交渉によって,上手く示談を成立させることができれば,被告人に有利な情状として認められ(上記3の要件に該当し),執行猶予を獲得できる可能性は高まるといえるでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,強要罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件での執行猶予獲得をお考えの方は,フリーダイヤル0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間受け付けております。

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