受水槽の中で泳ぎ偽計業務妨害罪
偽計業務妨害罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
福岡県志免町に住むAさんは、アパート施工業者の委託を受けた水道設備設置会社に所属し、同町内にあるアパートの受水槽設置等の作業に従事していたところ、その作業中、「他の従業員を笑わせよう」「インターネットに投稿すると面白い」との思いから、受水槽の中を泳ぎその場面を撮影した動画をSNSで公開しました。そうしたところ、その動画がアパート施行業者の担当者の目にとまり、福岡県粕屋警察署に被害届を提出されてしまいました。そして、Aさんは、偽計業務妨害罪の被疑者として粕屋警察署で事情を聴かれ、その後、福岡地方検察庁へ事件を送検されてしまいました。今後のことが不安になったAさんは刑事事件に詳しい弁護士に無料法律相談を申込みました。
(事実を基に作成したフィクションです。)
~ はじめに ~
上記事例は、マスコミでも大きく報じられたニュースを基に作成しています。このような事例は「●●テロ」と言われ、今年に入ってから急速に拡散しているような気がします。これまでマスコミで報じられた一例を挙げると、
・関東地方の牛丼チェーン店で、店員が、従業時間内に氷のようなもの投げ合っている動画を投稿
・大阪府内の回転ずしチェーン店で、店員が、食材の魚をゴミ箱に捨てた後、まな板に乗せる動画を投稿
・横浜市内のコンビニエンスストアで、店員が、おでんの具を口の中に入れ、吐き出すなどの動画を投稿
などがあります(この他にも数えきれないほどあります)。
注意しなければならないのは、こららの行為で問題となっているのは「店舗内における行為」であって、動画をSNS等にアップした行為ではありません。つまり、店舗内での悪質な行為によって、その店舗のみならず、その店舗を利用する、あるいは利用しようとする人にまで影響を与え、結果、様々な損失を及ぼしてしまうことになるのです。動画をSNSにアップする行為はあくまで、その行為のきっかけ、あるいは発覚のきっかけにしかすぎません。
~ 受水槽とは ~
そもそも、今回、Aさんが泳いだ受水槽とは、ビル・マンション・学校・病院など多量の水を使用する建物などで、水道局から供給された水をいったんためておく容器のことをいいます。
高層建築物で屋上等に高架水槽がある場合、地階もしくは1階に設けられている受水槽に水をため、高架水槽にポンプで水をくみ上げ、これにより、配水管の水圧が変動しても給水圧・給水量を一定に保持できること、一時に多量の水使用が可能であること、断水時や災害時にも給水が確保できること等の効果があると言われています。受水槽から各入居者の蛇口までは、建物所有者の責任の下で管理されています。
したがって、受水槽の中で泳ぐということは、建物所有者(アパート施工業者)のみならず、抽象的にも、そのアパートに住む住民にも影響を与えることになるのです。
~ 偽計業務妨害罪とは ~
そして、今回、「受水槽の中で泳ぐという行為」は偽計業務妨害罪に当たる行為だとして立件、送検されています。
偽計業務妨害罪(信用棄損罪も含む)は刑法233に規定されています。
刑法233条
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
今回、Aさんは、「偽計を用いて」、「人の業務を妨害」した者として立件されています。
「偽計を用いて」とは、ごく簡単にいえば、
ひっそりとこっそりと
という意味です。
お店のパンなどの食材に針を混入する行為
も「偽計」に当たるといえばお分かりいただけるでしょうか?
「人の業務を妨害」の「人」とはある特定の個人(自然人)のみならず、会社(法人)、団体であってもよいとされています。本件ではアパート施工業者が「人」に当たるでしょう。「業務」とはアパート施工業者の受水槽に対する維持・管理業務といったことでしょうか。「妨害」したとは、
現実に妨害が発生している必要はなく、業務を妨害しうるような行為をすれば足りる(犯罪は成立する)
とされています。
~ おわりに ~
以上が、本件における「刑事責任」についてのお話ですが、本件によってアパート施工業者に損失を与えたとすれば、不法行為責任に基づく損害賠償義務(民事責任)を負わなければならなくなる可能性も出てきます。そうすると、ご自身が所属している会社にも迷惑をかけることになりかねませんので、くれぐれも注意する必要があります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は、刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件で逮捕されるなどしてお困りの方は、まずはお気軽に、0120-631-881までお電話ください。専門のスタッフが24時間体制で、初回接見、無料法律相談の予約を受け付けております。