小倉北区で飲酒運転発覚をおそれ被害者に現金授与②
福岡県小倉北区に住む会社役員の男性は、仕事の関係者が集う立食パーティーに参加し、そこで多量のお酒を飲んだ後、飲酒運転して(のちの捜査で呼気からアルコール濃度0.5mg/lが検出)帰宅しました。その途中、Aさんは信号待ちのVさんが運転する前車に気づかず追突してしまいました(のちに、Vさんは加療約2週間の怪我を負ったことが判明)。Aさんは「大変なことをしてしまった」と思い、車から降りて運転席に乗車したままのVさんの元へ歩いていきました。Aさんは、ドアガラスを開けたVさんに「大丈夫ですか」と声をかけると、Vさんから「何とか」「きちんと賠償してくれるんでしょうよね」と言われました。Aさんは、「怪我だけは大したことなかった」と思い、Vさんに連絡先の電話番号を書いたメモ紙とお見舞金としての5万円を手渡しました。しかし、Aさんは、「ここで現場に留まり、警察を呼ぶと飲酒運転したことがばれる」と思い、Vさんに別れを告げてその場から離れ帰宅しました。後日、Aさんは、福岡県小倉北警察署に、過失運転致傷アルコール等影響発覚免脱罪、道路交通法違反(救護義務違反、報告義務違反)で逮捕されてしまいました。
(令和5月16日に掲載された西日本新聞記事を基に作成したフィクションです。)
~ はじめに ~
前回の「小倉北区で飲酒運転発覚をおそれ被害者に現金授与①」では、過失運転致(死)傷アルコール等影響発覚免脱罪の趣旨や規定の概要、成立要件について解説いたしました。そして、過失運転致(死)傷アルコール等影響発覚免脱罪の成立要件として、
① アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者であること
② 運転上必要な注意義務を怠り、よって人を死傷させたこと
③ アルコール又は薬物の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたこと
が必要ということを解説したと思います。そこで、その成立要件について細かく解説したいと思います。
~ 要件①について ~
「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは、危険運転致傷罪における「正常な運転が困難な状態」と異なります。すなわち、正常な運転が困難な状態には至っていないが、アルコール等の影響で自動車を運転するのに必要な注意力・判断能力や操作能力が相当程度低下して危険な状態のことをいいます。
具体的には、道路交通法上の
酒気帯び運転程度のアルコール(血中アルコール濃度0.3mg/ml以上、呼気中アルコール濃度0.15mg/l以上)
が体内にあれば「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」に当たると思います。
* 主観的には「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」である認識が必要 *
ご本人に(アルコールの影響で)「身体が火照っている」「血の巡りが早い」「ボーっとしている」などの自覚症状がある場合、仮になくても、飲酒から検挙までの時間、千鳥足、脚元がふらついている、顔が赤い、目が充血している、言葉の羅列が回らないなどの客観的状況から認識有りとされます。
~ 要件②について ~
「運転上必要な注意義務を怠り」とは、過失、を意味します。自動車を運転する上では守るべきルールがありますが、そのルールを守るべきとされ、当時の状況から守ることができ、事故を回避することができたのに、守らなかっため事故を回避することができなかった場合に「過失」があるとされます。本件では、Aさんが前をよく見て運転することが当然のルールで、前をよく見て運転することは容易にでき、しかも被害者であるVさんは信号待ちのため停まっていただけですから、事故(追突)は容易に回避できたといえます。
「よって人を死傷させたこと」とは、人の死、傷害(怪我など)という結果を発生させ、かつ、その結果と上記の過失行為との間に因果関係がある場合をいいます。基本的に、追突(過失行為)がなければ怪我が発生しなかったであろうといえる場合は、因果関係が認められます。
~ 要件③について ~
実際にアルコールの影響の有無・程度の発覚を免れる必要はなく、 「免れるべき行為」 といえる程度の行為が行われれば足りるとされています。法律4条では、「免れるべき行為」の例として、「アルコールを摂取する行為」、「その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させる行為」を挙げています。どの時点で、 「免れるべき行為」 といえる程度の行為、といえるのか、つまり行為が既遂に達したかについては、前者については、
事故後にアルコールを摂取した時点
後者については、概ね、現場から立ち去ってから
40分が経過した時点
とされています。
なお、「その他の免れるべき行為」としては、アルコールの分解を促進する薬を服用することが挙げられます。大量の水を飲む行為については、立法時は、, 「その他の免れるべき行為」 に含まれるとの見方が示されていますが、 水を大量に体内に入れたとしても, 体内のアルコール量自体が変化するものではないので,当たらないと指摘する人もいます。
* 主観的には「アルコールの有無又は程度が発覚することを免れる目的」が認識が必要 *
通常は、事故後にアルコールを摂取することが発覚免脱になること、 事故現場を離れて身体のアルコール濃度を減少させる行為をその旨認識して行ったときには, 通常は, 発覚免脱の目的もあったとの認定がなされることになるでしょう。
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