Archive for the ‘財産事件’ Category

刑事事件の罪数問題

2019-08-29

刑事事件の罪数問題

刑事事件罪数問題について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

福岡県直方市に住むAさん(30歳)は,強盗目的でBさん(78歳)の自宅に立ち入り,自宅にいたBさんの顔面を力いっぱい殴りつけ,Bさんが怯んだ隙にBさんの財布を奪いました。また、Aさんが逃走しようとしたところ,Bさんの妻であるCさん(75歳)が携帯電話で警察に通報しようとしていたため,Aさんはこれを止めようとCさんを力いっぱい殴りつけ、携帯電話を破壊してその場からと逃走しました。病院での診察の結果、Bさんは加療約1か月の、Cさんは加療約3週間の怪我を負ったことが判明しました。そして、後日、Aさんは、福岡県直方警察署により住居侵入・強盗致傷罪、器物損器罪の容疑で逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)

~ Aさんに対する罪 ~

Aさんは、強盗目的でBさん宅へ立ち入っていますから住居侵入罪(刑法130条前段)が成立することは明らかです。

刑法130条前段
 正当な理由がにないのに、人の住居(略)に侵入し、(略)た者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

次に、強盗致傷罪(刑法240条前段)です。

刑法240条前段
 強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、(略)。

強盗致傷罪は、Aさんのように相手を力いっぱい殴るという行為のように相手方の犯行を抑圧するに足りる「暴行」を加えて財布などの「財物」を奪い、結果として相手に怪我をさせた場合に成立する罪です。このことから、まずBさんに対する強盗致傷罪が成立することは明らかです。
また、強盗致傷罪の「人(被害者)」は、財物を奪われた直接の被害者に限られるものではありません。Cさんのように、警察に通報しようとしている人、強盗犯人を追いかけてきている人なども当然含まれます。AさんはBさんから財物を強取した時点で「強盗」なのですから、Cさんのような人を怪我させた場合でもやはり強盗致傷罪は成立するのです。

~ 刑事事件における罪数問題   ~

ところで、刑事事件において科刑(被告人に刑を科す)上で罪数問題は避けては通れない問題です。
罪数問題とは、簡単にいえば、事件が一罪として処理されるのか、複数の罪(併合罪)として処理されるのか、という問題です。そして、一罪として処理される場合は、併合罪で処理される場合よりかは刑の重さが軽くなる、ということは何となく想像が付くのではないでしょうか?

では、本件は一罪として処理されるのでしょうか?併合罪として処理されるのでしょうか?
まず、Bさんに対する住居侵入・強盗致傷罪は「手段」と「結果」の関係にあることから科刑上は「一罪」として扱われます。これを牽連犯といいます。Cさんに対する罪についても同様の考え方でやはり牽連犯となります。牽連犯の場合、「最も重い刑」、つまり本件では強盗致傷罪の法定刑の範囲内で処断されます。

刑法54条後段
 (略)犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。

~ かすがい現象 ~

次に、「Bさんに対する住居侵入・強盗致傷罪」と「Cさんに対する住居侵入・強盗致傷罪」との罪数関係はどうなるのでしょうか?
この点、「Bさんに対する住居侵入・強盗致傷罪」と「Cさんに対する住居侵入・強盗致傷罪」の2つの罪が成立し「併合罪」となる、とする考え方もあります。
ところが、裁判所(最判昭29年5月27日)は、このような住居侵入罪によって2つの強盗致傷罪が結ばれている

Bさんに対する強盗致傷罪-住居侵入罪-Cさんに対する強盗致傷罪

のような、いわゆる「かすがい現象」においては

科刑上一罪

となることを認めています。
強盗致傷罪の最高刑は「無期懲役」であり、併合罪による刑の長期の引き上げは行われないため、併合罪の場合と科刑上一罪の場合とで法定刑に違いはありません。
ただ、今回は、罪数問題を知っていただくべくご紹介したしだいです。

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誤認逮捕について~防犯ビデオ映像の落とし穴~

2019-08-25

誤認逮捕について~防犯ビデオ映像の落とし穴~

福岡県新宮町に住むAさんは、同町内の大型スーパーで商品8点を万引きしたとして福岡県粕屋警察署に窃盗罪で通常逮捕されてしまいました。Aさんは、取調べを担当した警察官に、「確かに、そのスーパーは私も利用しますが、逮捕事実に記載されている日にはそのスーパーにはいっていません。」「その日は、自宅でごろごろしていました。」「万引きなどしていません。」などと言いました。すると、Aさんは警察官から、「スーパーの防犯カメラにあんたの顔が映っているの。」「これは動かぬ証拠だよ。」「正直にいいなさない。」と言われてしまいました。その後、Aさんに対しては、犯行を否認しているなどという理由で勾留決定が出されてしまいました。ところが、その後、勾留期間3日間が経過した後、粕屋警察署の裏付け捜査によって、万引きをしたのはAさんとよく似たBさんで、犯人はAさんでないことが判明しAさんは釈放されました。
(フィクションです)

~ 誤認逮捕とその特徴 ~

誤認逮捕に関する法律上の定義があるわけではありませんが、誤認逮捕とは、簡単にいえば

白であることが明らかである人を、犯罪の関わった疑いがあるとして逮捕すること

ではないでしょうか?これに対し、「黒か白か分からない人(程度の差こそありますが、いわゆるグレーな人)を逮捕すること」は誤認逮捕とは言わないでしょう。なぜなら、逮捕は犯罪に関わった「疑い」がある人を対象としているからです。だからこそ、誤認逮捕かどうかは逮捕した直後に判明することは稀で、事例のように数日経ってから、あるいは最悪の場合、数年、何十年も経た裁判の結果が出てから(冤罪事件)「あれは誤認逮捕だった」と判明することが大多数です。

~ 繰り返される誤認逮捕 ~

このブログを書こうと思ったのは、先日、「愛媛県で女性が誤認逮捕された(逮捕は今年7月8日)」とのニュースを見たことがきっかけでした。
女性が疑われた事実は、「今年の1月9日、松山市清水町の路上で、タクシーから降りる際に、売上金などが入ったセカンドバックを盗んだ」というものでした。女性は逮捕されその後勾留請求されていますが、請求が却下されたことから釈放されていますが、逮捕後約2日間は社会と隔離された生活を強いられたことは事実ですし、仮に、勾留請求が許可されていたならばもっとさらに拘束期間は伸びていましたし、最悪、裁判で有罪の烙印を押されていたかもしれません。昨年10月には、男性が、東京都中野区内のコインランドリーで女性の衣服を盗んだとして逮捕、勾留され、約3日間、身柄を拘束されています。

~ なぜ、誤認逮捕は繰り返されるのか? ~

一つ目に、ビデオカメラの性能が上がったことによる、捜査官の先入観です。
愛媛の事件ではドライブレコーダーが、東京の事件では防犯ビデオカメラが逮捕の証拠となっていることは明らかです。確かに、防犯ビデオ映像はそこに記録されている状況を客観的に映し出す鏡であり「動かぬ証拠」とも言われています。しかし、その映像を見て、確認するのは捜査員である「人」であり、そこにはどうしても先入観が入り込んでしまうおそれがあるのです。愛媛の事件でも東京の事件でも、捜査員の「この映像に映っている人が犯人だ」という先入観が誤認逮捕の一因となっているのではないでしょうか?(またそのような先入観が、取調べ官の、逮捕された方の話に耳を傾けないという態度に現れてしまいます。)

二つ目に、犯行を裏付ける証拠が不十分であることです。
愛媛の事件では、犯人が犯行時に着ていたとされる服や被害品は、誤認逮捕された女性の近辺からは出てこなかったそうです。また、ドライブレコーダーに映っていた他の同乗者も特定できず、どの同乗者から話を聴くことすらできていなかったようです(誤認逮捕なのですから、同乗者が特定できないのも自然なことで、この時点で警察は「おかしいな」とは思わなかったのでしょうか?)。このように、犯行を裏付ける証拠が不十分なまま逮捕に踏み切ったことが誤認逮捕の原因となっています。警察は「ドライブレコーダーに女性らしき人が映っているから」と安心してしまったのでしょうか?

~ あなたも誤認逮捕の対象に? ~

最近は、以前に比べ、市民の防犯意識が高まり、街中のいたるところで防犯カメラが設置されてあるのをみかけます。しかし、防犯ビデオ映像には、上でご紹介した危険も孕んでおり、よって、あなたもいつ、どこで誤認逮捕の対象とされてしまうか分かりません。もし、逮捕されてしまい困ったという場合(誤認逮捕以外の場合も含め)は、はやめに弊所の弁護士まで弁護活動をご依頼ください。

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自販機のお釣りを盗んで窃盗罪

2019-08-13

自販機のお釣りを盗んで窃盗罪

自販機のつり銭窃盗について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

福岡県遠賀町に住むAさんは、自動販売機で缶コーヒーを買った後、「お釣りが残っていないかな」などと思って左隣の自動販売機の釣り受けを見たところ、100円硬貨数枚が入っているのに気が付きました。そこで、Aさんは、「タバコ代の足しにしよう」「誰も見ていないから盗んでも構わない」などと思って、その釣り受けに右手を入れ、中から硬貨を取り出しました。そして、Aさんは、そのまま持ち去ろうとしたところ、お釣りの取り忘れに気づいて戻ってきたVさんに行動の一部始終を目撃されており、Vさんから「釣りを返せ。」などと言われました。しかし、Aさんは怖くなってその場から逃走し、右手に持っていた硬貨を川に投げ捨てました。その後、AさんはVさんから被害届の提出のあった福岡県折尾警察署から窃盗罪で呼び出しを受けてしまいました。警察によると、Vさんは1000円札を投入して130円の缶コーヒーを購入し、釣り受けに硬貨は残されていなかったとのことだったので、被害金額を870円と特定したとのことでした。
(フィクションです。)

~ はじめに ~

子どもの頃、学校の帰りなどに「お金はないか」と自動販売機の釣り受けに手を入れ、何度か釣銭を手に入れた記憶があります。ですが、子どもだから見逃されていたからもしれませんが、その行為は窃盗罪に当たり得る行為ですから十分注意する必要があります。

~ 窃盗罪 ~

窃盗罪は刑法235条に規定されています。

刑法235条
 
 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

ここで「他人の財物」とは、他人の占有する他人の物のことをいいます。「占有」とは。簡単にいうとその物(本件でいえば釣銭硬貨)に対する支配のことをいいます。この「占有」というためには、現実にその物を把持・監視している必要はなく、社会通念上支配力が認められるという場合ではあれば「占有」が認められます。
「窃取」とは、暴行・脅迫によることなく、占有者(本件の場合Vさん)の意思に反してその占有を排除し、目的物を自己又は第三者の占有に移すことをいいます。なお、自己の占有に移した時点で窃盗の「既遂」となります。本件では、Aさんが右手で硬貨を把持した時点で目的物を自己の占有に移したとみなされ既遂に達します。Aさんは、硬貨を川に投棄していますが、硬貨が現実に使用されたかどうかは窃盗罪の既遂、未遂には関係ありません。

~ 「占有」は誰の元に? ~

先ほど「占有」の話をしましたが、本件では、誰に「占有」が認められるのでしょか?
この点、本件では、釣り受けの硬貨は、Vさんが1000円札で130円の缶コーヒーを購入したお釣りであり、いったんは釣銭を取るのを忘れてその場を立ち去ったものの、その後、取り忘れたことに気づいて取りに帰っていることからすると、硬貨に対するVさんの「占有」はいまだ失われていないものと解されます。そこで、本件の「占有」はVさんにあるものと考えます。

では、Vさんが釣銭の存在に気づかず、その後も取りに戻らなかった場合はどうでしょうか?
その場合は、その自動販売機を管理する会社、所有者に硬貨の「占有」が移転するものと考えられます。そこで、この場合に硬貨を勝手に持ち帰った場合でもやはり窃盗罪が成立しますから注意が必要です。

~ 占有離脱物横領罪は? ~

なお、後者の場合(Vさんが釣銭の存在に気づかず、その後も取りに戻らなかった場合)、占有離脱物横領罪(1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料)が成立するとお考えになる方もおられるかもしれません。しかし、同罪は、あくまで、「占有」が離れた他人の物、を領得した行為を処罰する犯罪です。先ほどもご説明したとおり、後者の場合でもやはり「占有」は失われていませんから窃盗罪が成立します。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は、刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件で逮捕されるなどしてお困りの方は、まずはお気軽に、0120-631-881までお電話ください。専門のスタッフが24時間体制で、初回接見無料法律相談の予約を受け付けております。

飲み代踏み倒しで強盗致傷

2019-08-11

飲み代踏み倒しで強盗致傷

飲み代踏み倒しと強盗致傷について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

福岡県新宮町に住むAさんは、ある日、福岡市中央区内のガールズバーへと飲みに行きました。その後、Aさんは飲み終わって代金を支払おうとしたところ、提示された金額があまりにも高額であったことから、これを不服として店員と口論となりました。口論はますますヒートアップし、Aさんは、店員Vささんの左頬を右拳で1回殴った上、右脇腹付近を左足で数回蹴る暴行を加え、料金を支払わず、そのまま店外へ出て行きました。その後、Aさんは、通報により店付近を警戒していた福岡市中央警察署の警察官に強盗罪で緊急逮捕されてしまいました。また、捜査の結果、Vさんが加療1週間の怪我をしたことが判明したことから、Aさんに対する容疑は強盗罪から強盗致傷罪へ切り替わりました。
(フィクションです。)

~ 2項強盗罪 ~

強盗罪といえば、コンビニ強盗などに代表されるように、ナイフなどで相手方を脅すなどして(暴行、脅迫を用いて)、現金(財物)などを奪う行為が想像されるかと思います。しかし、強盗の態様はそれだけに限られるわけではありません。暴行、脅迫を用いて、現金などの財物に限らず、何らかの利益(債権)を得た、あるいは債務を免れた、サービスの提供をさせたなどという場合はもちろん強盗罪が成立します。

強盗罪の規定されている刑法236条を確認しましょう。

刑法第236条 
1項
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する
2項
前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする

上記で例として挙げたコンビニ強盗の例で適用されるのが1項、暴行・脅迫を用いて何らかの利益、あるいは債務を免れた、サービスを提供させたという場合が2項が適用されます。2項が適用される強盗罪であることから「2項強盗」とも呼ばれています。

2項強盗罪の「前項の方法により」とは、もちろん、「暴行・脅迫」を用いて、という意味です。この暴行・脅迫の程度は、相手方(Vさん)の反抗を抑圧するに足りる程度のものでなければならないとされています。相手方を殴る、蹴るなどすれば、通常、この程度はあるとされるでしょう。
「財産上不法の利益を得」とは、利益が不法であること、ではなく、利益を獲得するための手段が不法であることを意味します。また、「利益を得」とは、利益を得ることのみならず、債務を免れることも含まれます。Aさんとしては、お店側に代金支払債務を負っているにもかかわらず、暴行・脅迫を用いてこの債務を免れているわけですから、「財産上不法の利益を得」たということができるでしょう。

~ 2項強盗罪から強盗致傷罪に ~

本件のように、強盗時の暴行によって相手方が怪我をしたことが判明すると強盗致傷罪が適用されてしまう可能性があります。強盗致傷罪は刑法240条に規定されています。

刑法240条
 強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。

なお、強盗致傷罪は結果的加重犯と呼ばれ、相手方が怪我することにつき認識は不要とされています。したがって、「怪我させるつもりはなかった」などと言っても通用せず、強盗致傷罪で処罰されてしまう可能性がありますから注意が必要です。規定からもわかるとおり、強盗致傷罪は非常に重たい罪です。

~ 弁護活動 ~

事実を認める場合は、まずは相手方に謝罪した上で示談交渉を始めることが先決です。示談交渉によって、相手方から宥恕をいただき、不起訴処分や執行猶予付き判決の獲得を目指します。ただし、示談交渉は弁護士に任せましょう。逮捕されている場合は物理的に不可能ですし、逮捕されていない場合でも、直接交渉しようとしても、相手方の処罰感情が厳しいことが通常ですからうまく交渉を運ぶことはできないでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は、刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件で逮捕されるなどしてお困りの方は、まずはお気軽に、0120-631-881までお電話ください。専門のスタッフが24時間体制で、初回接見無料法律相談の予約を受け付けております。

口座開設で詐欺、キャッシュカード売却で犯収法違反

2019-07-26

口座開設で詐欺、キャッシュカード売却で犯収法違反

詐欺、犯収法について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

Aさんは、とある特殊詐欺グループの一員であるBさんから(AさんはBさんがそのグループに所属しているとは知らない)、「Aの名義で銀行口座をいくつか開設して、それを俺に売ってほしい。高値で買い取るから。」という申し入れを受けました。Aさんはいけないことだとは分かっていながらも、お金に困っていたためこれを承諾しました。AさんはV銀行へ行き、行員に「光熱費などの引き落としのため。」などと自分で使用するかのような嘘を言うなどして銀行口座開設を申込み、それをすっかり信用した行員から同口座に係るキャッシュカード1枚及び通帳1通の交付を受けました。その後、Aさんは郵便局へ行き、レターパックを購入してレターパックにキャッシュカード1枚、通帳1通及び暗証番号を記載したメモ用紙を入れ、Bさんに指定された住所宛に郵送し、Bさんから現金1万円の振込みを受けました。そうしたところ、後日、同口座は特殊詐欺グループの振込み用の専用口座だったことが判明し、凍結処置を受けました。そして、Aさんは、福岡県門司警察署の捜査により、詐欺罪、犯収法違反の疑いで逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)

~ 自分名義の口座を開設しても詐欺罪? ~

詐欺罪は刑法246条に規定されています。

刑法246条
1項 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2項 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人に得させた者も、同項と同様とする。

本件のような通帳詐欺で適用されるのは専ら「1項」です。

1項を分かりやすくすると、詐欺罪は、客観的には、①欺罔行為(騙す行為)→②錯誤(被害者が騙されること=被害者の認識が客観的事実と一致しない状態)→③処分行為による財物の移転(交付行為=被害者が現金等を郵送するなど)→④財産上の損害、の一連の流れがあり、主観的には、犯人の①~④までの「故意(認識)」

が必要ということになります。

上記のように、詐欺罪の成立には「騙す意図(故意)」と「騙す行為(欺罔行為)」が必要です。つまり、本件に関していえば、本来、他人に使用させるつもり、すなわち、自ら使用する意図がないにも関わらず、これがあるように装う(嘘を言うなど)行為が「欺罔行為」とされます。また、そのような意図(故意)があったか否かは、外部からではなかなか判断しずらいですが、例えば、

・短期間に複数の銀行口座開設している
・複数の預金通帳を所持している
口座開設後、短期間で他人に譲渡等している
・複数の通帳等を譲渡等している
・生活口座として利用した形跡がない

などの事実が認められれば「騙す意図(故意)」ありと推認されてしまうおそれがあります。すなわち、上記のような事実が認められれば、いくらあなたが「実は自分で使うつもりだった」
などと弁解しても通用しないおそれがありますから注意が必要です。

~ キャッシュカード等を売った場合 ~

キャッシュカード等を売却した場合は、犯罪による収益の移転防止に関する法律(略して「犯収法」とも呼ばれます(以下、犯収法といいます))に問われるおそれもあります。
犯収法の目的は、マネーロンダリングとテロ資金供与の防止を図ることにあります。

犯収法28条2項では、

キャッシュカード等を譲り受ける相手方に、Aさんが契約した預貯金契約のサービス(現金の払い戻し等)を受ける意思等があることを知りながら、キャッシュカード等を譲渡、交付、提供すること

あるいは、

正当な理由がなく、有償で、キャッシュカード等を譲渡、交付、提供すること

を禁じており、罰則は、

1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又は併科

とされています。

いうまでもありませんが、はじめは自分で使うつもりで開設した口座に係るキャッシュカード等を譲り渡すなどした場合でも犯収法違反とされるおそれがあります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。刑事事件・少年事件でお悩みの方は、まずは、0120-631-881までお気軽にお電話ください。24時間、無料法律相談初回接見サービスの受け付けを行っております。

高齢受刑者と再犯

2019-07-19

高齢受刑者と再犯

高齢受刑者と再犯について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

福岡県太宰府市に住むAさん(80歳)は年金生活で、何とか年金で生活費を賄っていましたが、今月は好きなギャンブルにお金を費やしてしまいお金が足りませんでした。Aさんは息子、娘に援助を求めることも思いつきましたが、迷惑をかけてはならないと思い諦めました。そこで、Aさんは悪いとは思いつつも、近所のスーパーで食料品を万引きしました。しかし、Aさんは保安員に万引きを見つけられてしまい、逮捕されてしまいました。そして、Aさんは、窃盗罪で起訴され、裁判で懲役1年の実刑判決を受けてしまいました。実は、Aさんは、昨年10月に刑務所から出所してきたばかりでした。
(フィクションです。)

~ 刑の執行に変わりはあるのか? ~

高齢者の方が犯罪を犯し、刑務所に収容されるおそれがあるとき、

高齢者だから特別扱いされるのではないか?

などと疑問を持たれる方もおられるのではないでしょうか?

確かに、受刑者などの処遇などに関して規定した刑事収容施設被収容者法30条では

受刑者の処遇は、その者の資質及び環境に応じ、その自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを旨として行うものとする

とされていますから、高齢者に限らず、受刑者間の個別具体的事情に応じて処遇が異なるということはあるでしょう。しかし、だからとって、決められた刑期の種類が変わったり、期間が短くなったりするということはありません。ただし、刑事訴訟法482条では、

・刑の執行によって、著しく健康を害するとき、又は生命を保つことのできない虞があるとき
・年齢70年以上であるとき

などは、検察官の指揮により、一時的に刑の執行を停止することができるとされています。

~ 高齢者と再入率 ~

高齢者(65歳以上)の2年以内の再犯入所率が高いようです。

平成30年度版犯罪白書(以下、犯罪白書)によると、

平成25年度内に出所した高齢出所受刑者(満期釈放者、仮釈放者)

再入率(各年の出所受刑者人員のうち、出所後の犯罪により、受刑のため刑事施設に再入所した者の人員の比率)

を、満期釈放者、仮釈放者別で区分すると以下のとおりとなっています。

【満期釈放者】      【仮釈放者】

出所時  11・9%    3.0% 
2年以内 30.1%   15.5%
3年以内 37.8%   22.4%
4年以内 42.5%   27.4%
5年以内 44.2%   31.3%

これからすると、高齢者間では、

仮釈放者より満期釈放者の方が再入率が高い

ことがわかります。また、高齢者と非高齢者(65歳未満)を比べると、5年以内の再入率は変わりはないとのことですが、

2年以内の再入率が高齢者の方が、満期釈放者、仮釈放者とも高い

とされています(非高齢者の満期釈放者の再入率→1年以内 7.5%、2年以内 26.1%、仮釈放者の再入率→1年以内 1.4%、2年以内 10.8%)。

~ 再犯期間も短い ~

上記の数字は、

5年以内に刑務所に再入所した高齢出所受刑者の比率

ですが、刑務所に入所する前の再犯期間も短いようです。

犯罪白書によれば、高齢者の5年以内再入者のうち、1年未満に再犯に及んだ高齢者は全体の

60.8%(非高齢者は47.3%)

だったとのことです。さらに、1年未満を細かくみると、3月未満に再犯に及んだ高齢者は全体の

21.6%(非高齢者は12.8%)

だったとのことでした。

~ 高齢受刑者に対する出口支援 ~

高齢受刑者等の中には、高齢又は障害のために自立した生活をすることが困難であるのに、身寄りがなく、福祉的支援が必要な状況にありながら、適切な支援体制が確保されないまま出所し、社会復帰を果たす上で困難な状況に陥っている者が少なからず存在します。そこで、矯正施設及び保護観察所においては、厚生労働省の地域生活定着促進事業により設置された地域生活定着支援センターを始めとする多くの機関と連携し、平成21年4月から、高齢者又は障害を有する者で、かつ、適当な帰住先がない受刑者等について、釈放後速やかに、必要な介護、医療、年金等の福祉サービスを受けることができるようにするための取組として、特別調整を実施しています。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は、性犯罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。性犯罪でお悩みの方、ご家族が性犯罪で逮捕されお困りの方などは、お気軽に弊所の弁護士にご相談ください。弊所では、24時間、専門のスタッフが無料法律相談初回接見のご予約を電話で受け付けております。

逮捕前の業務上横領罪なら弁護士

2019-07-11

逮捕前の業務上横領罪なら弁護士

福岡市中央区にある小売店で働く店長のAさんは、ギャンブル等の遊興費に多額のお金を費やした上に、住宅ローンなどの支払いも3か月間滞り、銀行から支払いの催促を求められていました。Aさんは、親や妻から消費者金融や闇金にだけは手を出すな、と言われていたことからお金の宛がなく、最終的に、会社のお金を横領して何とか現状を乗り切ろうと考えました。Aさんはお店の売上金集計して会社に報告することになっていたところ、売上金を少なく申告してその差額を自分の懐にいれてるということを繰り返し、9か月間で合計約120万円を横領しました。そうしたところ、Aさんは、不審に感じた会社の会計監査から突然、事情を聴かれ、売上金を横領したことを認めました。Aさんは全額、一括で返済しなければ福岡県中央警察署業務上横領罪で刑事告訴すると言われています。
(フィクションです。)

~ 業務上横領罪 ~

業務上横領罪は刑法253条に規定されています。

刑法253条 
 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。

単純な横領罪との違いは「業務上」の横領かどうかという点と、法定刑が異なることです(単純横領罪は5年以下の懲役)。
「業務」とは、「社会生活上の地位に基づいて反復・継続して行われる事務」をいうとされています。なお、「業務」は報酬、利益を目的とする事務でなくてもよいとされています。
横領罪は、物の所有者と占有者(Aさん)との間にある信頼関係(委託信任関係)を破った点を非難される罪であるところ、業務上横領罪は、物の占有が業務上の信頼関係に基づくものであるため、横領罪よりもさらに刑が加重されているのです。

~ 窃盗罪との違い ~

窃盗罪と横領罪との違いは、その物に対する支配が及んでいるのか及んでいないのか、という点にあります。及んでいる場合が横領罪、及んでいない場合が窃盗罪です。
例えば、店の金庫の中に100万円が置いてあったとします。

そのお金の管理を任せれている(つまり、お金に対する支配を及ぼしている)人(例えば店の店長)が勝手に現金を持ち出したなどという場合は横領罪が成立します。
反対に、お金の管理を任せれていない(つまり、お金に対する支配がない、権利がない)人(例えば店の従業員)が勝手に現金を持ち出したなどという場合は窃盗罪が成立します。

なお、窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。

~ 難しい横領の意義、既遂時期 ~

一言で「横領」といっても、個別具体的事案や証拠関係によって、何を横領行為ととらえるのか、どの時点で横領したと認めるのか、つまり、横領の既遂時期を確定するのかは、事案が複雑になればなるほど難しくなってきます。ちなみに、「横領」とは不法領得の意思を実現する行為といわれています。そして、不法領得の意思が客観化されたときに既遂に達すると言われていますが、この判断も、やはり個別具体的事案やその証拠関係によって異なるでしょう。今回の事例の詳細は不明ですが、少なくとも、Aさんが売上金を他に費消した時点(例えば、住宅ローンの支払いに使った時点(それが証拠上認められた場合))が横領となり、かつ横領の既遂に達するものと考えられます。

~ 逮捕を回避するなら ~

なによりもまず、示談交渉をすることが先決です。そして、円滑、円満に示談を成立させるためには弁護士に示談交渉を依頼されることをお勧めいたします。
確かに、弁護士費用は安いものではありませんし、弁護士費用とは別に示談金を準備しなければならず、特にお金に困っている方にとっては弁護士に依頼するかどうか悩まれるところではないでしょうか?

しかし、弁護士に示談交渉を依頼すれば、交渉しだいでは支払期限に関して先延ばししてもらったり、支払い方法に関して分割を認めてもらうなど、様々な条件について少しでも有利に交渉を進めてくれます。そして何より、示談が成立させ相手方から刑事告訴しないと約束してもらえれば、

逮捕されない

という安心感を得ることが最大のメリットではないでしょうか?
まずは、こうしたことを踏まえて、弁護士に依頼されるかどうか判断されてみてください。

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高齢者と万引き

2019-07-01

高齢者と万引き

福岡県福津市に住む高齢女性のAさん(75歳)は、4年前に夫と死別し、現在、一人暮らしです。Aさんは普段、自宅で過ごすことが多く、近所付き合いもめったにありません。ところが、ある日、Aさんは東京都内に住む息子(40歳)から、「休みが取れたので実家に帰ってくる」との連絡を受けました。Aさんは喜び、息子や孫たちのために肉をご馳走してやろうと思いました。そして、Aさんは、近所のスーパーへ買い物に出かけました。Aさんは商品かごに次々と食料品など入れていきましたが、「もしかしたら肉を買うお金が足りないかもしれない」「しかし、せっかく久しぶりに息子や孫たちの顔を見るので諦めるわけにはいかない」と思い、高級肉1パック(販売価格3000円)を持ってきた買い物袋の中に入れました。Aさんはレジで商品かごに入れた食料品などの精算を済ませ店外に出たところ、Aさんの万引きを一部終始見ていた保安員に声をかけられました。Aさんは、事務室に連れていかれ、福岡県宗像警察署の警察官に事情を聴かれることになりました。その後、Aさんの息子が今後の対応について弁護士に無料相談を申込みました。
(フィクションです。)

~ はじめに ~

平成30年度版犯罪白書(以下、犯罪白書といいます)によると、平成29年度に刑法犯で検挙された高齢者(65歳以上の者)の数は

4万6264人

で、平成10年の1万3739人から約3.4倍増加したとのことです。高齢者による犯罪の増加の背景には、日本の総人口に占める高齢者の割合が増加したことはもちろんですが、犯罪白書では、将来の貯蓄や社会保障に不安抱えるている高齢者が多く、ご近所付き合いに関する高齢者の意識が薄れ、高齢者が社会的に孤立していることも要因ではないかと指摘されています。

* 高齢者に対する意識調査 *

内閣府が全国の60歳以上の男女を対象に実施した「高齢者の経済・生活環境に関する調査」によりますと、経済的な暮らし向きに心配ないと感じている高齢者の割合(「家計にゆとりがあり,まったく心配なく暮らしている」及び「家計にあまりゆとりはないが,それほど心配なく暮らしている」に回答した者)は,全体の6割以上を占めています(平成28年度)。他方で、「現在の貯蓄や資産は老後の備えとして十分か」という質問に対しては、「社会保障で基本的な生活は満たされているので,資産保有の必要性がない」,「十分だと思う」及び「まあ十分だと思う」と回答した高齢者の割合は、ドイツ及び米国と比べ顕著に低い割合となっており、老後の備えについて不安を感じている高齢者が多くいると思われます。

~ 窃盗罪が圧倒的に多い ~

最近では、東京池袋、福岡市早良区などでの交通事故がマスコミ等で大きく取り上げられていますが、実は、万引きをはじめとする

窃盗罪

高齢者犯罪の割合を大きく占めています。
犯罪白書によると、

① 窃盗罪    50.8% (うち万引きが30.8%、万引き以外が20%)
② 傷害、暴行罪 21.7%
③ 横領罪     8.3%
④ 詐欺罪     4.6%
⑤ その他    14.6%

とのことです。これは高齢者全体の統計で、男女別でみると、女性の高齢者に関しては、

65歳から69歳 86.7%(うち万引きが69.5%、万引き以外が17.2%)
70歳以上    93.1%(うち万引きが82.5%、万引き以外が10.6%)

が窃盗罪を占めています。特に、70歳以上の女性高齢者の82.5%が万引きという点が目を引きます。

* 万引きを犯すと?繰り返すと? *

窃盗罪は刑法235条に規定されており、法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」とされています。また、万引きを繰り返すと(服役前科が多数あると)、常習累犯窃盗罪という別の罪に問われることもあります。法定刑は「3年以上の懲役」とされています。

* 高齢者の窃盗罪再犯率は高い? *

犯罪白書によれば、法務総合研究所が調査したところによりますと、平成23年6月中に、窃盗罪で有罪の裁判が確定した高齢者を対象に調査を行ったところ、354人いた高齢者のうち、判決時に、前科(罰金以上の前科に限り、交通関係4法令違反のみによる前科を除く)がなかった高齢者は96人(全体の27.1%)だったのに対し、前科持ち(罰金刑、懲役刑を含む)の高齢者は258人(全体の72.8%)いたそうです。これからすると、窃盗罪に関する高齢者の再犯率は高いのではないかと思われます。

~ 万引きで検挙されたら微罪処分を目指そう ~

微罪処分とは、簡単にいうと、警察で検挙されても事件が検察庁へ送致されない手続、のことをいいます。検察庁へ送致されないわけですから、微罪処分となれば

・起訴、不起訴の刑事処分を受けない
・懲役刑、罰金刑の処罰を受けない
・前科が付かない

というメリットを受けることができます。犯罪白書によれば、平成29年における高齢者の微罪処分人員2万3965人のうち8割を窃盗罪(うち万引きは65.2%)が占めたとのことです。

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共同正犯と幇助犯との区別②

2019-06-30

共同正犯と幇助犯との区別②

北九州市戸畑区に住むAさんは,ある牛丼チェーン店で店長をしていました。Aさんは、休日、パチンコ店でパチンコをしていると中学の同級生Bさんに会いました。お互い十数年ぶりの再開だったことから会話が弾み、AさんとBさんはパチンコ店を出て居酒屋へ行きました。そして、Aさんは、居酒屋で酒を飲んでいると、Bさんから「最近どう?」「うさわでは戸畑店の店長をしているんだって?」と言われました。Aさんは、「そうだよ。」「でも、残業代も丸々出してくれないわりに仕事は忙しい。」「正直やってやれないよ。」と言いました。すると、Aさんは、Bさんから「俺は先日、会社をクビになったばかりでお金に困っている。」「お前のところのお店の売上金でも一ついただかないかい?」と言われました。Aさんは、はじめ聞いて驚きましたが、「どうせ辞めようと思っていたし、お店に未練はない」と気持ちを切り替え、Bさんに「わかった。」「店の裏口と金庫の鍵を開けておくよ。」「おれが犯行に加担したことが分からないように出入口のガラス戸をバールで壊しといてな。」と言いました。その後、Bさんは、Aさんから指定された日時に戸畑店へ行き、店の裏口から中へ入って金庫から現金50万円を盗りました。しかし、AさんとBさんは、福岡県戸畑警察署に建造物侵入、窃盗罪で通常逮捕されてしまいました。 
(フィクションです。)

~ はじめに ~

前回は共同正犯幇助犯の内容や両者を区別する実益についてみていきました。今回は、共同正犯幇助犯とを区別する基準について解説した上で、上記事例にその基準を当てはめてAさんに共同正犯が成立するのか、幇助犯が成立するのか検討していきたいと思います。

~ 共同正犯と幇助犯とを区別する基準 ~

共同正犯幇助犯の区別は、一般的に、

特定の犯罪を自己の犯罪として実現する意思があるか→共同正犯

それとも、

他人の犯罪を手助けする意思に過ぎないのか→幇助犯

で判断されることになります。

そして、これらの意思があるかどうかは、

① 犯罪に加担する動機があるか
② 犯罪に加担することで得る利益(分け前)の大きさ
③ 犯罪に加担することになった経緯
④ 正犯者との関係性(上下関係であるか同等の関係であるか)
⑤ 犯罪への主体的関与の程度
⑥ 犯罪を実行するための役割の重要性
⑦ 犯罪計画立案の中での主導性

という事情を考慮して判断されます。

~ 事例への当てはめ ~

では、上記の基準を事例に当てはめてみようと思います。

= ①について =

犯罪に加担する動機があれば共同正犯の認定に傾きやすくなります。この点、Aさんはが「残業代が出ない。」など愚痴をこぼしていることからすると、Aさんは、給料の面で不満を抱いている→お金を欲している、という考え方もできそうです。とすれば、犯罪に加担する動機があるとも言えそうです。

= ②について =

分け前が大きければ大きいほど共同正犯の認定に傾きやすくなります。この点、AさんはBさんから被害金額の半分の額の25万円を受け取っています。10万円以下ならともかく、全体の半分の額は決して安い金額とはいえないでしょう。

= ④について =

上下、支配服従関係にある場合は幇助犯の認定に傾きやすくなります。しかし、AさんとBさんは同級生で対等な立場だったと推測されます(同級生であっても対等な立場でない場合もありますが。)

= ⑥について =

犯罪を実行するために重要な役割を担っていたという場合は共同正犯の認定に傾きやすくなります。この点、お店の裏口や金庫はAさんが所持しており、それがBさんの犯行にとって重要だったと推測されますから、Aさんの役割は大きかったといえます。

以上を総合すれば、Aさんには、建造物侵入、窃盗罪の共同正犯が成立するものと考えられます。

~ おわりに ~

このように、刑事事件では、事案に現れた「事実」を判例などで示された「要件」「基準」に当てはめて結論を導くという作業が必要となります。そのためには、当事者から「事実」を聞き出す能力、判例などに関する知識等が必要不可欠です。刑事事件に慣れた弁護士であれば、これらの能力に長けていますから、刑事事件でお悩みの際はお気軽に弁護士までご相談ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,窃盗事件をはじめとする刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間受け付けております。

共同正犯と幇助犯との区別①

2019-06-29

共同正犯と幇助犯との区別①

北九州市戸畑区に住むAさんは,ある牛丼チェーン店で店長をしていました。Aさんは、休日、パチンコ店でパチンコをしていると中学の同級生Bさんに会いました。お互い十数年ぶりの再開だったことから会話が弾み、AさんとBさんはパチンコ店を出て居酒屋へ行きました。そして、Aさんは、居酒屋で酒を飲んでいると、Bさんから「最近どう?」「うさわでは戸畑店の店長をしているんだって?」と言われました。Aさんは、「そうだよ。」「でも、残業代も丸々出してくれないわりに仕事は忙しい。」「正直やってやれないよ。」と言いました。すると、Aさんは、Bさんから「俺は先日、会社をクビになったばかりでお金に困っている。」「お前のところのお店の売上金でも一ついただかないかい?」と言われました。Aさんは、はじめ聞いて驚きましたが、「どうせ辞めようと思っていたし、お店に未練はない」と気持ちを切り替え、Bさんに「わかった。」「店の裏口と金庫の鍵を開けておくよ。」「おれが犯行に加担したことが分からないように出入口のガラス戸をバールで壊しといてな。」と言いました。その後、Bさんは、Aさんから指定された日時に戸畑店へ行き、店の裏口から中へ入って金庫から現金50万円を盗りました。Aさんは、逃げてきたBさんと落ち合い、「お礼」として半分の25万円を受け取りました。しかし、AさんとBさんは、福岡県戸畑警察署に建造物侵入、窃盗罪で通常逮捕されてしまいました。 
(フィクションです。)

~ はじめに ~

共犯の刑事事件において、共同正犯が成立するのか幇助犯が成立するのか争われることがよくあります。
今回は、建造物侵入、窃盗罪の事例を取り上げ、Aさんに同罪の共同正犯が成立するのか幇助犯が成立するのか検討していきたいと思います。

~ 共同正犯とは ~

共同正犯は刑法60条に規定されています。

刑法60条
 2人以上共同して犯罪を実行した者は,すべて正犯とする。

共同正犯が成立するためには,主観的要件としての「共同実行の意思(意思の連絡=共謀)」,客観的要件としての「共同実行の事実」が必要です。「共同実行の意思」とは,共同して実行行為をしようという意思のことをいいます。共同加功の意思ともいわれます。「共同実行の意思」は,2人以上の行為者全員が相互に持たなければなりません。したがって,甲がVに暴行を加えている間,甲の知らない間に乙がVの財布を盗んだという場合,窃盗罪(あるいは暴行罪)の共同正犯は成立しません。「共同実行の事実」とは,共謀した行為者が実行行為を分担することであり,共同加功とか行為の分担ともいわれています。

* 正犯とは *

犯罪(基本的構成要件)に該当する行為(実行行為)を行う者

* 共謀共同正犯 *

ところで,共同正犯の場合、役割分担が決められており、一部の者は犯罪に当たる行為(実行行為)を分担しない、という場合もよくあります。しかし、共犯者間で特定の犯罪を犯す意思があり、自己の犯罪を実現する意思で他者の行為を利用した(または他者から利用された)という関係が認められる場合には、実行行為を分担しない者も同様に正犯とされます。これ共謀共同正犯といいます。

~ 幇助犯とは ~

幇助犯に関しては刑法62条、刑法63条に規定されています。

刑法62条1項
 正犯を幇助した者は、従犯とする。
刑法63条 
 従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。

幇助犯が成立するには、「人を幇助すること」、「被幇助者が犯罪を実行すること」の2つの要件がそろうことが必要です。

* 幇助とは *

幇助とは実行行為以外の行為をもって正犯を援助し、その実行行為を容易にすることをいいます。上でご説明いたしましたが、幇助は、すでに犯罪実行の決意のある者の犯行を容易にする点が教唆と異なるところです。そのため、正犯者より責任が軽いと考えられており、幇助犯の刑は正犯の刑を減軽する(必要的減軽)とされています(刑法63条)。

~ 共同正犯と幇助犯を区別する利益 ~

共同正犯は全て「正犯」とされる一方、幇助犯は「従犯」とされ、

必ず減軽される

という点が両者を区別する利益となります。本件でBさんに建造物侵入、窃盗罪(10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が科されるとしたら、Aさんはどうなのでしょうか?仮に、Aさんに建造物侵入、窃盗罪の幇助犯が成立したとなれば、5年以下の懲役又は25万円以下の罰金、の範囲で処罰されることになります(刑法68条3号、4号参照)。

~ おわりに ~  

今回は、共同正犯幇助犯の内容などについてみてきました。次回は、具体的にいかなる基準で共同正犯幇助犯が区別されるのかみていきたいと思います。

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