Archive for the ‘刑事事件’ Category
福岡市中央区での風営法違反
福岡市中央区での風営法違反
福岡市中央区でキャバクラを営む店長Aさんは,お店で18歳未満の女性Vさん(17歳)に客の側につかせ,継続的に客の談笑の相手とさせたり,酒類等の提供をさせた(接待させた)として,風営法違反の罪で福岡県中央警察署に逮捕されました。Aさんは,接見に来た弁護士に,「18歳未満とは知らなかった」などと話しています。
(フィクションです)
~ 風営法について ~
風営法は,正式名称,
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「法律」)
といいます。
その名のとおり,法律では「風俗営業等」に関する必要な規制等を定めています。
= 風俗営業とは =
まず,「風俗営業」については,以下の営業を意味します(法律2条1項各号)。
1号営業:社交飲食店,料理店(キャバレー,スナック,パブ,キャバクラ,ラウンジなど)
2号営業:低照度飲食店(カップル喫茶など)
3号営業:区画席飲食店(ネットカフェなど)
4号営業:マージャン店,パチンコ店など
5号営業:ゲームセンター,ダーツバーなど
= 風俗営業等の「等」とは =
法律では,上記の「風俗営業」の他に「性風俗関連特殊営業」(法律2条5項),「特定遊興飲食店営業」(法律2条11項),「接待業務委託営業」(法律,「酒類提供飲食店営業」に対する規制等を定めていることから「風俗営業等」とされています。
ちなみに,「性風俗関連特殊営業」は店舗型性風俗特殊営業(=ソープランド,ファッションヘルスなど),無店舗型性風俗特殊営業(=デリヘル,アダルトグッズ販売など),映像送信型性風俗特殊営業(アダルトサイト),店舗型性風俗特殊営業,無店舗型電話異性紹介営業に分類されています。
~ 風俗営業の禁止行為 ~
法律22条1項各号には,以下のとおり,「風俗営業」における禁止行為が定められています。
風俗営業を営むものは,次に掲げる行為をしてはならない。
1号:客引きをすること
2号:客引きのための立ちふさがり,つきまといをすること
3号:営業所で18歳未満の者に客の接待をさせること
4号:営業所で18歳未満の者を客に接する業務に従事させること(午後10時から午前6時までの間)
5号:18歳未満の者を営業所に客として立入らせること
6号:営業所で20歳未満の者に酒類又はたばこを提供すること
~ 「接待」の意義 ~
以上からすると,Aさんの行為は法律22条1項3号に当たりそうです。
ところで「接待」とは,法律2条3項で
歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすことをいう
と定義されています。具体的には,平成30年1月30日,警視庁生活安全局が発出している
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準
の「第4 接待について」という項目が参考になるかと思います。
これによると「接待」とは,
営業者,従業者等との会話やサービス等慰安や歓楽を期待して来客する客に対して,その気持ちに応えるため営業者側の積極的な行為として相手を特定して3の各号に掲げるような興趣を添える会話やサービス等を行うことをいう。言い換えれば,特定の客又は客のグループに対して単なる飲食行為に通常伴う提供を超える程度の会話やサービス行為等を行うこと
とされています。具体例として,「談笑,お酌等」,「ショー等」,「歌唱等」,「ダンス」,「遊戯等」,「その他」の項目が挙げられています。それぞれの具体的な解釈基準については,上記運用基準を参照されてください。
~ 罰則など ~
法律22条1項3号に違反した場合は,法律50条1項4号により
1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処せられ,場合によっては,懲役刑と罰金刑を併科(両方の刑を受ける)
されるおそれがあります。
なお,この罪に関しては,営業者に過失がない場合以外は,当該18歳未満の者の年齢を知らないことを理由として処罰を免れることはできません(法律50条2項)。
「過失がない」とされるためには,本人の陳述,身体的発育状況等の外観的事情を覚知しただけでは足りず,運転免許証や戸籍謄本等の信用性のある公的資料等で確認するとか,家族等に事情を聴いて調査するなど年齢確認につき万全を期さなければならないと考えられています。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,風営法等をはじめとする刑事事件,少年事件専門の法律事務所です。刑事事件,少年事件でお困りの方は,まずはお気軽に0120-631-881までお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間体制で受け付けております。
(福岡県中央警察署までの初回接見費用:35,000円)
統計で見る公然わいせつの検挙率,身柄率
統計で見る公然わいせつの検挙率,身柄率
会社員のAさんは,福岡県福津市内にある誰もいない公園のベンチに座っていた際,性欲を満たすために着ていたズボンから自己の陰茎を出したところ,たまたま近くを通りかかったVさんにその場面を見られてしまいました。その後,Aさんは自宅へ帰りましたが,通行人から福岡県宗像警察署に通報され逮捕されるかもしれないと不安になり,公然わいせつに詳しい弁護士に無料法律相談を申込みました。
(フィクションです)
~ 公然わいせつ罪(刑法174条) ~
公然わいせつ罪は刑法174条に規定されています。
刑法174条
公然とわいせつな行為をした者は,6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
= 公然 =
「公然」とは,不特定又は多数の者が認識することができる状態をいいます。現実に不特定又は多数の者に認識される必要はなく,その可能性があれば足りるとされています。したがって,公園や道路に,仮に誰もいなかったとしても,いつ不特定の者である通行人の目に触れるとも限りませんから,公園や道路は公然性が認められる場所です。また,屋内や車内であっても,容易に第三者の目に触れるような場所であれば公然性は認められます。
= わいせつな行為 =
判例によれば,「わいせつな行為」とは,行為者又はその他の者の性欲を刺激興奮又は満足させる行為であって,普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するものをいうとされています。性器の露出はその典型ですが,衣服を着用していても性的部位を殊更に強調する衣服を着用したまま公共の場所を歩くといった行為も「わいせつな行為」に含まれることがあります。
~ 公然わいせつ罪の検挙率は? ~
平成30年版犯罪白書によると,平成29年の公然わいせつ罪の「事件認知件数」は
2721件
でした。平成26年の「3143件」をピークに減少傾向にあるものの,平成初期が1000件代で推移していたことに比べれば依然として高い数字といます。
次に,平成29年の公然わいせつ罪の「事件検挙件数」は
1723件
でした。
よって,平成29年の公然わいせつ罪の「検挙率」は
1723÷2721= 約63%
ということになります。
~ 公然わいせつ罪の身柄率は? ~
ここで,身柄率とは,平成29年内に①検察庁で処理した件数のうち,②逮捕され,検察官の元へ身柄送致された件数(逮捕期間中に釈放された件数は含まない)の割合のことを意味します。平成30年版犯罪白書によれば,平成29年の公然わいせつ,わいせつ物頒布等罪の「身柄率(②÷①)」は
32.7%
でした。
同じ性犯罪の中でも強制わいせつ罪の身柄率が「63.5%」,強制性交等罪の身柄率が「58.2%」に比べると,公然わいせつ罪等の身柄率は「低い」ことが分かります。このことは,
公然わいせつ罪で検挙されても,逮捕されないか,あるいは逮捕されたとしても逮捕期間中に釈放される可能性が比較的高い
ことを意味しています。しかし,まったく逮捕されないという保証はありませんので安心はできません。
~ その他 ~
その他,逮捕され,検察官の元へ送致された後はどうなのでしょうか?
この点につき,平成30年版犯罪白書によれば,平成29年の公然わいせつ,わいせつ物頒布等罪における①逮捕されたまま検察官の元へ送致された件数のうち,②検察官が勾留請求した件数の割合(「勾留請求率(②÷①)」)は,
76.4%
でした。
他の刑法犯が軒並み,90%代,あるいはそれに近い数字をたたき出しているのに対し,公然わいせつ罪等の「勾留請求率」は比較的「低い」ことが分かります。このことは,
他の刑法犯に比べて,検察官の判断で逮捕された方を釈放している割合が比較的高い
ことを意味しています。
しかし,76.4%という数字も決して低い数字ではありません。なお,勾留請求された件数のうち,勾留請求が認容された件数が
516件
却下された件数が
74件
でしたので,
勾留請求されてしまえば,比較的高い確率で勾留(10日間の身柄拘束)されてしまうことが分かります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,公然わいせつ罪をはじめとする刑事事件専門の法律事務所です。公然わいせつ罪やその他の刑事事件でお困りの方は,0120-631-881までお気軽にお電話ください。24時間,無料法律相談,初回接見サービスを受け付けております。
リベンジポルノで告訴取下げ
リベンジポルノで告訴取下げ
福岡県豊前市に住むAさんは,長年交際していたVさんから別れ話を切り出されました。Aさんは,Vさんと寄りを戻そうと,Vさんに何度も説得を試みましたがVさんの気持ちが変わることはありませんでした。そこで,Aさんは,交際時に密かに撮影し,自宅のパソコンに保存していたVさんとの性交時の動画データ(顔などからVさんと分かるもの)を,ツイッター上に複数回に渡り投稿しました。この事実を知ったVさんは,福岡県豊前警察署に告訴状を提出しました。そして,後日,Aさんは豊前警察署から呼び出しを受けました。今後のことが不安になったAさんは,リベンジポルノに詳しい弁護士に無料法律相談を申込みました。
(フィクションです)
~ リベンジポルノ被害防止法 ~
リベンジポルノ被害防止法は,正式名称「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(以下,法律)」といいます。
= 私事性的画像記録(リベンジポルノ)とは =
「私事性的画像記録(リベンジポルノ)」とは,法律2条1項各号に掲げられた撮影対象者(Vさん)の姿態(姿など)が撮影された画像に係る電磁的記録その他の記録をいいます(ただし,撮影対象者が,第三者がそれを閲覧することを認識した上で,任意に撮影を承諾し又は撮影したものは除きます)。
●法律2条1項各号
1号 性交又は性交類似行為に係る人の姿態
2号 他人が人の性器等(性器,肛門又は乳首をいう)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
3号 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって,殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部,臀部又は胸部をいう)が露出され又は強調されているもの であり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するもの
●電磁的記録その他の記録
画像・動画データなどを指します。「画像に係る電磁的記録」とありますから,音声データは含まれません。
●但書
撮影対象者が,第三者がそれを閲覧することを認識した上で,任意に撮影を承諾し又は撮影したものは除かれます。つまり,グラビアの画像データは「私事性的画像記録」には当たりません。
●本件では?
性交時のVさんの姿態は法律2条1項1号に当たりますし,電磁的記録である動画データにその姿態が記録されています。また,Aさんはひそかにこの動画データを撮影していたということですから,Vさんが撮影に承諾していたものとは考えられません。
したがって,本件動画データは「私事性的画像記録(リベンジポルノ)」に当たり得ます。
= どんな行為が処罰されるのか?罰則は? =
私事性的画像記録(リベンジポルノ)について,どんな行為が罰せられるのか,どんな罰則が設けられているかについては法律3条に規定があります。
●公表罪(法律3条1項)
行為:第三者が撮影対象者を特定することができる方法で,私事性的画像記録(リベンジポルノ)を不特定又は多数の者に提供すること
→「第三者が撮影対象者を特定することができる方法」での提供が必要ですがので,本人しかわからないというのでは公表罪は成立しません。また,「提供」とありますが,その概念は広く,LINEグループに送信する,FacebookやTwitterなどのSNSに投稿する行為も「提供」に当たります。
罰則:3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
●公表目的提供罪(法律3条3項)
行為:法律3条1項の行為をさせる目的で,私事性的画像記録(リベンジポルノ)を提供すること
→たとえば,知人に拡散させる目的で,その知人に私事性的画像記録(リベンジポルノ)をLINEなどで送信することなどがあります。上記と異なり,「不特定又は多数の者」との文言がありませんから,本項では特定人から特定人への「提供」行為が処罰の対象となります。
罰則:1年以下の懲役又は30万円以下の罰金
●本件では?
Aさんの行為は法律3条1項の公表罪に当たるでしょう。
~ 公表罪も公表目的提供罪も親告罪 ~
公表罪も公表目的提供罪も,被害者の告訴がなければ公訴を提起できない(起訴できない)親告罪です。したがって,既に捜査機関に告訴状が提出されている場合でも,被害者が公訴提起前に告訴を取消せば,刑事処分は必然的に「不起訴」となります。被害者に告訴を取消していただくには,まずは真摯に謝罪し,示談交渉をはじめることが有用です。また,既に拡散してしまった画像データをどう消去するのかなどといった点も大切となるでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,リベンジポルノ事案をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。お困りの方は,まずはお気軽に0120-631-881までご連絡ください。24時間,無料法律相談,初回接見サービスを受け付けております。
他人名義のクレジットカード使用で詐欺罪
他人名義のクレジットカード使用で詐欺罪
Aさんは多額の借金を抱え,返済も滞りがちでした。そのため,自己名義のクレジットカードを使用することができない状態でした。しかし,物欲のあるAさんは,それでも以前から目をつけていた指輪(時価10万円)が欲しいという気持ちを抑えることができず,何とかしてこれを手に入れたいと思っていました。そこで,Aさんは,友人のBさんからBさん名義のクレジットカードを借り,これを使って宝石店Cで指輪を買うことにしました。Aさんからこの話を聞いたBさんは当初は断りましたが,「10万円分だけならいいよ」などと言って,渋々自己名義のクレジットカードをAさんに貸しました。
そして,Aさんは,宝石店Cに行き,Bさん名義のクレジットカードを店員Dに呈示するなどし,店員Dから指輪を受け取りました。ところが後日,Aさんは,福岡県糸島警察署の警察官から呼び出しを受け,詐欺罪で取調べを受けました。今後のことが不安になったAさんは,刑事事件に強い弁護士に無料法律相談を申込みました。
(フィクションです)
~ 詐欺罪(刑法第246条) ~
他人の財物をだまし取った場合には詐欺罪が成立します。
詐欺既遂罪が成立するには,①欺罔行為(=騙すこと)→②錯誤(=騙されること)→③錯誤に基づく処分行為(=財物を交付すること)→④財産的損害の発生,およびこれら①から④が一連の流れとして連結していることが必要です。
Aさんは,Bさん名義のクレジットカードを宝石店Cの店員に呈示して店員から指輪を受け取っていますが詐欺罪は成立するでしょうか。
= 欺罔行為 =
まず,AさんがB名義のクレジットカードを呈示する行為は①「欺罔行為」に当たるでしょうか。
宝石店Cとしては,クレジットカードの呈示さえあれば,それがAさんであろうがBさんであろうが問題はないようにも思えます。
しかしながら,クレジットカードは,その会員規約でカードの名義人以外の者による使用を禁止している場合がほとんどです。
これは,クレジットカードシステムがカードの名義人の支払い能力に対する信用を供与することを制度の根幹とするものであるからです。
そうすると,宝石店Cとしては,名義人以外の者によるクレジットカードの利用行為には応じないこととなっているのがほとんどですので,AさんがBさん名義のクレジットカードを呈示する行為は①「欺罔行為」に当たるでしょう。
= 錯誤,錯誤に基づく処分行為 =
Aさんの欺罔行為によって,結果的に,店員Dは指輪をAさんに渡しているわけですから,店員Dに②「錯誤」があったといえます。また,店員Dは,AさんがBさんではないと分かっていたならばAさんに指輪を渡すことはなかったと言えますから,③「錯誤に基づく処分行為」もあったといえます。
= 財産的損害の発生 =
宝石店Cは指輪をAさんに渡しているのですが,これにより④「財産的損害」が発生したといえるでしょうか。
そもそもクレジットカードシステムは,カード会社が利用者にカードを発行し,利用者は欲しい商品をクレジット加盟店(宝石店C)からカードで購入し,この代金をカード会社がクレジット加盟店に立替払いし,カード会社は利用者から立て替え払いした代金を受け取るという流れで商品・代金のやり取りが行われるものです。
そうすると,クレジット加盟店は,カード会社から商品代金の立替払いを受けられるわけですから,財産的損害は発生していないとも考えられそうです。
この財産的損害の考え方については諸説ありますが,裁判例は,
・クレジット加盟店が商品そのものを引き渡したことが財産的損害であると考える説
に立っているようです(福高昭和56年9月21日など)。
この考え方からすると,宝石店CはAさんに指輪を交付していますから,宝石店Cに④「財産的損害が発生」したということになります。
= まとめ =
以上より,Aさんには詐欺既遂罪が成立する可能性が高そうです。また,クレジットカード名義人(Bさん)からカードの利用を承諾されていたとしても,詐欺既遂罪が成立に影響はないものと思われます。この点につき,平成16年2月9日の最高裁判例が参考となります。
ご家族が刑事事件で逮捕されてお困りの方、詐欺事件で取調べを受けており対応にお悩みの方は、刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
初回法律相談は無料です。
詳しくは、フリーダイアル0120-631-881までお問い合わせください。
住居侵入罪で緊急避難
住居侵入罪で緊急避難
Aさんは,Bさんら複数人の者から突然因縁をつけられ,殴る蹴るの暴行を受けたので逃げようとしましたが,他に逃げ場がなかったことから,近くのVさんの家の敷地内に無断で立ち入りました。Vさんは,見知らぬAさんが無断で自分の家の敷地内に立ち入ったことに驚き,とっさに110番通報をしたので,Aさんは駆けつけた福岡県柳川警察署の警察官により住居侵入罪で逮捕されてしまいました。Aさんが逮捕されたことを知ったAさんの家族は,刑事事件に強い弁護士に初回接見を依頼することにしました。
(事実を基にしたフィクションです)
~ 住居侵入罪とは ~
刑法130条
正当な理由がないのに,人の住居若しくは人の看守する邸宅,建造物若しくは艦船に侵入し,(略)た者は,3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
= 人の住居 =
「人の」とは,自己以外の他人のという意味です。よって,行為者(Aさん)が単独で居住する住居や,他の者と共同生活を営んでいる住居は,人の住居とは言えません。次に,「住居」とは,日常生活に使用するため人が占有する場所をいい,起臥寝食に使用されていることを必要とすると解されています。「住居」である以上,居住者が常に居住していることを要しないとされており,一時旅行に出て家人不在の留守宅も「住居」です。ただし,空き家や建築中の家,オフシーズンの別荘は後記の「邸宅」あるいは「建造物」に当たります。
= 邸宅 =
「邸宅」とは「住居」として使用する目的で造られた家屋で「住居」に使用されていないものをいい,空き家やオフシーズンの別荘などがこれに当たります。
= 建造物 =
「建造物」とは,一般に屋根を有し,障壁又は支柱によって支えられた土地の定着物であって,その内部に出入りできる構造を有するものとされており,官公署の庁舎,,学校,工場,倉庫,駅舎などがこれに当たります。
「建造物」については,建物の周りを囲む塀が建造物に当たるかどうかが争われた裁判例があり,裁判所は,塀が建物とその敷地を外部からの干渉を排除するという建物利用の工作物であるということを指摘して,塀が「建造物」に当たると判断しました。
= 人の敷地内に立ち入ったら? =
人の敷地が「囲繞地」の場合は,敷地も「住居」,「邸宅」に当たります。その敷地が「囲繞地」というためには様々な要件をクリアすることが必要ですが,要は,外観的にも機能的にも住居の一部と言えるかどうかがいちおうの基準となるものと思います。
= 侵入 =
「侵入」とは,住居等の平穏を害する形で立ち入ること,すなわち,住居者・看守者の意思又は推定的意思に反して立ち入ることをいいます。
= まとめ =
以上を踏まえると,AさんがVさんの敷地内に立ち入ったという行為は,敷地が「囲繞地」であれば住居侵入罪あるいは邸宅侵入罪に当たる可能性があります。
~ 緊急避難とは ~
刑法37条1項
自己又は他人の生命,身体,自由又は財産に対する現在の危難を避けるため,やむを得ずにした行為は,これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り,罰しない。ただし,その程度を超えた行為は,情状により,その刑を減軽し,又は免除することができる。
= 正対正の関係 =
緊急避難は,正当防衛(刑法36条1項)と似ていますが,正当防衛が悪いことをしようとする人に対する反撃(正対不正の関係)であるのに対し,緊急避難は何ら悪いことをしていない人に対する反撃(正対正の関係)です。そのため,緊急避難では正当防衛と異なり,「やむを得ずにした行為より生じた害」が「避けようとした害」の程度を超えないことが必要とされています。
上の事案でいうと,「やむを得ずにした行為より生じた害」とは,「住居」や「邸宅」に誰を立ち入らせるのかというVさんの住居権です。他方,「避けようとした害」とは,AさんがBさんらからの暴行から身を守ろうという身体の安全に対する権利です。一般的に,前者よりも後者の方が重要だと考えられますので,本件では,「やむを得ずにした行為より生じた害」が「避けようとした害」の程度を超えないといえそうです。
= 緊急避難の効果 =
ある行為が緊急避難に当たる場合,その行為が罰せられることはありません。つまり,本件では,3年以下の懲役刑や10万円以下の罰金刑を受けることはありません。ただし,そうであるからといって,逮捕や起訴されないという保証はありません。仮に起訴された場合は裁判で緊急避難の成立を主張し,無罪判決獲得に努める必要があります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,住居侵入罪,邸宅侵入罪などをはじめとする刑事事件専門の法律事務所です。お困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。24時間,無料法律相談,初回接見サービスの受付を行っています。
ラーメン店主の名誉棄損罪で示談
ラーメン店主の名誉棄損罪で示談
福岡県久留米市で長年ラーメン店を経営してきたベテランのAさんは近年の経営難に悩みを抱えていました。Aさんの個人としては,経営難に陥った原因の1つとして,約1年前に,Aさんの店から約100メートル離れた場所に新種のラーメンを提供するラーメンB店が進出し,従来からAさんのお店に足を運んでいたお客さんを奪われ,客足が遠のき売上が減少したことにあると考えていました。そこで,Aさんは,なんとかこの経営難を乗り切ろうと,B店に対する悪評を流すことを思いつきました。Aさんは,グルメサイトのB店に対する口コミ欄に「ここは(B店は)お客の残した麺,スープを使いまわしている」「ラーメンだけではない,ご飯や餃子など全てだ」などと書き込みました。すると,ある日,Aさんは,福岡県久留米警察署から名誉棄損罪で呼び出しを受けました。そこで,Aさんは,今後のことが不安になって刑事事件専門の弁護士に無料相談を申込みました。
(フィクションです)
~ 名誉棄損罪(刑法230条) ~
刑法230条1項
公然と事実を摘示し,人の名誉を毀損した者は,その事実の有無にかかわらず,3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
= 公然と事実を摘示 =
公然とは,不特定又は多数人が認識し得る状態と解されています。そして,不特定又は多数人が認識し得る状態は,不特定又は多数人の視聴に達し得べき状態であれば足り,現実に,人々が覚知したことを要しないとされています。
事実を摘示するとは,人の社会的評価を低下させるおそれのある具体的事実を指摘,表示することをいいます。例えば,Aさんのように「ここは(B店は)お客の残した麺,スープを使いまわしている」「その人は不倫している」などと言った場合です。他方で,「B店のラーメンはまずい」「店主は愛想が悪い」と言った場合,これは事実を摘示したことにはならず,単なる意見・憶測に過ぎませんから,侮辱罪(刑法231条)に当たることはあっても名誉棄損罪に当たることはありません。
ところで,グルメサイトの口コミ欄などはインターネットを経由して,誰でも,いつでも閲覧することが可能です。よって,Aさんが口コミ欄に上記内容を書き込む行為は「公然と事実を摘示した」ことに当たる可能性が高いです。もっとも,口コミ欄には,様々な感想・意見が書き込まれることが予定されています。しかし,その許容限度を超えた場合は侮辱罪となったり,Aさんのように悪評を流す目的で事実を書き込んだ場合は名誉棄損罪となることがあるので注意が必要です。
= 事実,名誉 =
ところで,上記で出てきた「事実」とは,それが真実か否かを問いません。これは考えてみれば当然のことですが,よく誤解されやすいため注意が必要です。「名誉」とは,人の社会的評価又は価値と解されています。そのため名誉棄損罪は,人の社会的評価又は価値の保護を目的として作られた罪名です。そして,事実が真実である場合よりもむしろ根も葉もない虚偽,嘘の場合の方が人の社会的評価又は価値を失墜させるおそれは大きい場合もあります。ですから,後者の場合にも,名誉棄損罪で処罰され得ることになります。
Aさんの例でいうと,ラーメン店が麺,スープなどを使いまわしするというのはほとんど稀なケースです。ですから,根も葉もない事実の可能性が高いですが,それでも名誉棄損罪の「事実」に当たることになります。
= 毀損 =
毀損とは,人の社会的評価又は価値を低下させることをいいます。ただし,その評価が現実に害されたことを必要とするものではなく,これが害されるおそれのある状態が発生したことで足りるとされています。
= 名誉毀損罪が成立しない場合 =
刑法230条の2第1項では,摘示された事実が
1 「公共の利害に関する事実」であって,
2 摘示行為の目的が公益を図ることにあったと認められ,
3 摘示された真実であったことの証明があったとき
は罰しないと規定しています。例えば,政治家や公務員などのスキャンダルと公表し,上記の要件を満たした場合などがこれに当たります。また,3に関しては,真実であることの証明ができなかったとしても,当時の状況から真実であると信じるに足りる根拠があった場合には名誉棄損罪の故意がなく,名誉棄損罪は成立しないとされています。
ただし,Aさんについては,上記1から3の要件には該当しがたいと思われます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では,名誉棄損罪等の刑事事件でお悩みの方のための無料法律相談等を随時受け付けています。まずはフリーダイヤル0120-631-881までお電話ください。
福岡市南区の放火事件
福岡市南区の放火事件
福岡市南区に住むAさん(45歳)は,自己所有の木造一軒家(地震保険有り,火災保険なし)に妻(43歳)と二人暮らしをしていましたが,まともに働かないAさんに愛想を尽かしたAさんの妻は,二度と戻らない決意で一人家を出て所在不明となってしまいました。一人になったAさんは,前途を悲観し,家に火を付けて自殺しようと考えました。Aさんは,かねて買い置いていたガソリン約6.4リットルを居間,廊下,台所等の床面に満遍なく散布したところで,最後に大好きなタバコを一服してから,家に火をつけ自殺しようと考え,タバコに火をつけようとライターを点火しました。そして,タバコを吸い終え,これを和室の畳の上に投げ入れて畳を燃え上がらせました。ところが,偶然,Aさん方を訪ねてきた隣人がこれに気づき,直ちに消火したことから畳一枚を焼損するにとどまりました。
(フィクションです)
~ 放火の罪 ~
放火及び失火の罪は刑法第9章の刑法109条から118条に規定があります。その中でも,今回は,主に
・現住建造物等放火罪(刑法108条)
・非現住建造物等放火罪(刑法109条)
などが関係しそうです。
刑法108条
放火して,現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物(略)を焼損した者は,死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
刑法109条1項
放火して,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない建造物(略)を焼損した者は,2年以上の有期懲役に処する。
刑法109条2項
前項の物が自己の所有に係るときは,6月以上7年以下の懲役に処する。ただし,公共の危険を生じなかったときは,罰しない。
刑法112条
第108条及び第109条1項の罪の未遂は,罰する。
刑法115条
第109条1項(略)に規定する物が自己所有に係るものであっても,(略),又は保険に付したものである場合において,これを焼損したときは,他人の物を焼損した者の例による。
~ 現住建造物か非現住建造物か ~
Aさんは妻と暮らしていましたので,本件家屋は現住建造物でしょうか?この点,まず,Aさんの妻は二度と家に戻らない決意で家出をしていますから,Aさんは一人暮らしであると考えられます。そして,現住建造物における「人」とは,犯人以外の者のことを指しますから,Aさんが一人で暮らしている本件家屋は現住建造物ではなく,非現住建造物に当たります(刑法109条が適用されます)。
~ 刑法109条1項か刑法109条2項か ~
では,非現住建造物であるとして,刑法109条2項の適用となるのでしょうか?この点,Aさんは,本件家屋に地震保険をかけていました。刑法115条にいう「保険」とは,物の滅失,損傷に対する保険をいい,火災保険に限らず,海上保険,運送保険も含まれるとされているので,地震保険も「保険」に含まれると解されます。そして,刑法115条によれば,自己所有の非現住建造物を焼損した場合であっても他人の物を焼損したことにする,というのですから,本件では刑法109条2項ではなく刑法109条1項が適用されることになります。ちなみに,刑法115条の「例による」というのは,法定刑を刑法109条1項と同様,「2年以上の有期懲役にする」という意味です。
~ 既遂か未遂か ~
Aさんは,本件家屋に放火しようと火をつけたものの,畳一枚を焼損するに止まったというのですから,これが「焼損」といえるかが問題となります。この点,判例は,火が媒介物(火をつけた新聞紙等)を離れ目的物に燃え移り,目的物が独立して燃焼を継続し得る状態に達すれば焼損になるとしています。ところが,本件で燃やしたものは「畳」です。判例は,取り外し自由な雨戸,板戸,畳等は建造物の一部とは言えないと解しており,建造物を焼損する目的でこれらの物を焼損したにとどまったときは,建造物そのものを焼損したことにはなりません。よって,本件は未遂となります。
~ 未遂罪の刑の減軽 ~
刑法43条では未遂罪の減軽等につき規定しています。
刑法43条
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は,その刑を減軽することができる。ただし,自己の意思により犯罪を中止したときは,その刑を減軽し,又は免除する。
前段は障害未遂,後段は中止未遂と呼ばれます。また,障害未遂は任意的減軽(裁判官の裁量による減軽)であるのに対し,中止未遂は必要的減軽(裁判官の裁量の余地のない減軽)である点が異なります。本件は非現住建造物放火罪の障害未遂で,「2年以下の有期懲役」が減軽されるかどうかは裁判官の裁量のよることになります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,放火の罪をはじめとする刑事事件専門の法律事務所です。放火の罪等でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。
(福岡県南警察署までの初回接見費用:35,900円)
刑事事件と示談
刑事事件と示談
弁護活動の一つに示談交渉があります。示談とは,辞書で意味を調べると「話し合いで解決すること,民事上の紛争を裁判によらずに当事者の間で解決することと」と書かれています。通常は,示談交渉の中で,被害弁償金の額・支払方法,その他の約束事に関する合意がなされ,合意内容を示談書にまとめます。示談は,民事上の問題でしかありません。しかし,刑事上でも,様々な段階で考慮されることがあります。以下,段階別に,示談の効果や注意点等についてご説明いたします。
(フィクションです)
~ 示談の効果 ~
= 捜査着手前 =
警察などの捜査機関が事件を認知し,捜査に着手する前にも示談を成立させることができます。捜査機関の認知のきかっけは,捜査機関自身が事件を現認した場合などや,被害届や告訴・告発状の捜査機関への提出による場合です。前者の場合は,示談をする暇がありませんから捜査機関の認知を阻むことはできませんが,後者の場合は,通常,犯罪発生から認知まである程度の日数がありますから,その間に示談交渉を行うことが可能といえます。そして,示談を成立させることができれば,被害者らに被害届,告訴・告発状の提出を取り止めていただくことができるかもしれませんし,仮にそうなれば,捜査機関が事件を認知すること自体を阻止することができます。
= 警察の捜査着手後,検察庁への送致前 =
警察が捜査に着手した後も示談交渉を行うことは可能です。示談を成立させることができれば,被害者らに被害届,告訴・告発状を取消していただくことができるかもしれません。仮に,そうなれば,警察としては捜査を継続,あるいは検察庁へ事件を送致する意味がなくなりますから,事件不送致という結果を獲得できる可能性も高まります。また,一部の事件では,示談や被害弁償をすれば警察の微罪処分となる可能性もあります。微罪処分となれば,事件自体は検察官へ「報告」されますが,刑事罰や前科を受けることはありません。
= 検察庁送致後,刑事処分前 =
検察庁へ事件送致後も示談交渉を行うことは可能です。示談を成立させることができれば,被害者らに被害届,告訴・告発状を取消していただくことができるかもしれません。また,検察官が起訴という刑事処分をするにあたって告訴を必要とする犯罪を親告罪(例:器物損壊罪(刑法261条),過失傷害罪(刑法209条),未成年者略取・誘拐罪(刑法224条)など)と言いますが,起訴前に告訴が取消されていれば,検察官は親告罪につき自動的に不起訴処分にせざるをえません。不起訴となれば前科は付きません。また,親告罪以外の事件でも,示談は刑事処分を決める上で重要な考慮事情になります。示談が成立し,被害者の許しを得ていれば不起訴を獲得できる可能性は高くなります。ただし,検察官が示談成立を待つ義務はありません。中には示談交渉中に刑事処分を出す検察官もいます。
= 刑事処分(起訴)後 =
刑事処分前に示談を成立させたも,その他の事情により起訴されてしまう場合もあります。しかし,示談が無意味となるわけではありません。裁判官が量刑を決める上で重要な考慮事情になります。また,起訴後も引き続き示談交渉を行うことは可能です。示談の内容などによって,執行猶予判決を獲得できたり,刑の重さそのものが軽くなります。
~ 弁護士に示談交渉を依頼する際の注意点 ~
1 そもそも示談が可能な犯罪か?
示談が可能な犯罪とは,示談交渉が可能な被害者が存在する犯罪です。したがって,被害者の存在しない覚せい剤などの薬物事件,公務執行妨害罪など相手方が国家機関である事件などではそもそも示談交渉を行えません。また,被害額が数千万円,数憶万円を超える事件,被害者が重度の後遺症を負った事件など難解な事件に なればなるほど示談交渉の難易度はあがります。
2 連絡先が入手できなければ終わり
示談交渉は被害者側から連絡先を入手できてはじめてスタートできるものです。しかし,被害者側が連絡先を教えることを拒否した場合は,示談交渉に入るまでも なく弁護活動は終わってしまいます。
3 示談交渉の相手は「人」
示談交渉は相手方があってのことです。したがって,相手方が示談に応じてくれなければ,弁護士がいくら努力しても示談を成立させることはできません。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件専門の法律事務所です。刑事事件における示談でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談等を24時間受け付けております。
未成年者誘拐罪で告訴取消し
未成年者誘拐罪で告訴取消し
福岡県久留米市内に住むAさん(女性)は,交際相手である高校生のV君(16歳)の承諾を得た上で,V君を自宅に連れ込んだところ,福岡県久留米警察署の警察官に未成年者誘拐罪で逮捕されました。Vさんの母親が帰宅しないV君のことを心配し,警察に相談したところ本件が発覚したようです。Aさんの家族は,警察官からV君側から告訴状が出ていると聞かされました。Aさんの家族は何とか告訴を取消してもらえないか,刑事事件に強い弁護士に相談しました。
(フィクションです)
~ 未成年者誘拐罪(刑法224条) ~
未成年者略取誘拐罪は刑法224条に規定されています。関連する規定をご紹介します
刑法224条
未成年者を略取し,又は誘拐した者は,3月以上7年以下の懲役に処する。
刑法229条
第224条の罪(略)は,告訴がなければ公訴を提起することができない。
「略取」とは,略取された者の意思に反する方法,すなわち暴行,脅迫を手段とする場合や,誘惑に当たらない場合でしかも相手方の真意に反する方法を手段として,未成年者を自分や第三者の支配下に置くこと,「誘拐」とは,欺罔(騙すこと)や誘惑を手段として,他人を自分や第三者の支配下に置くことをいいます。「誘拐」と「略取」とをあわせて「拐取」ということもあります。
この暴行や脅迫,欺罔や誘惑は,必ずしも誘拐される未成年者に向けられる必要はありません。また,未成年者略取・誘拐罪の主体に制限はないため,未成年者の親族であっても未成年者誘拐罪の犯人となり得ます。ですから,例えば,未成年者の祖父が,その母親に対して,「ちょっと一緒に出掛けてくるから」などと言って,そのまま自宅に連れ去って家に帰さなかった,という場合にも未成年者誘拐罪が成立する可能性があるのです(もっとも,このような連れ去り行為が,例えば母親から虐待されている未成年者を保護するためであった場合など,子の利益に合致するという例外的な場合であれば,当該連れ去り行為は違法性を欠くとして,未成年者誘拐罪が成立しないこともあります。)
~ 未成年者が同意しても犯罪成立? ~
本件では,「未成年者のV君が同意しているのに,未成年者誘拐罪が成立するのはおかしいじゃないか」と疑問に思われる方もいらっしゃると思います。事実,家出少女を未成年者と知りながら自宅に住まわせていたとして未成年者誘拐罪の容疑で逮捕されたというニュースは物議を醸しました。
この点については,未成年者誘拐罪が何を保護しよう(守ろう)としているのかと関係があります。すなわち,未成年者誘拐罪は,未成年者の自由のほか,親権者・貢献者など保護監督者の監護権をも保護しようとしている,と考えるのが通説,判例です。よって,未成年者を誘拐した場合には,未成年者の行動の自由・権利を侵害するだけでなく,保護監督者が未成年を保護監督する自由・権利をも侵害したということになるのです。そのため,未成年者が同意をしていたとしても,その保護監督者が同意しない以上は未成年者誘拐罪が成立し得るということになります。
~ その他の犯罪 ~
誘拐の目的がわいせつ目的であったり,あるいは結婚目的であったと認められる場合は,わいせつ目的誘拐罪や結婚目的誘拐罪(刑法225条,1年以上10年以下の懲役)が成立することもあります。また,人を誘拐した者が,近親者その他誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて,その財物を交付させ,又はこれを要求する行為をした場合には,誘拐者身代金要求罪(刑法第225条の2第2項,無期又は3年以上の懲役)が成立することがあります。
~ 未成年者誘拐罪は親告罪 ~
冒頭でご紹介したように,未成年者誘拐罪は告訴がなければ公訴提起(起訴)できない親告罪です(刑法229条)。よって,すでに捜査機関に告訴が提出されている場合,告訴を取消してもらうことによって公訴提起(起訴)及びその後の刑事裁判を回避することができます。告訴を取消してもらうには,未成年者の保護監督者と折り合いがつくまで話し合い,適切な形式,内容で示談する必要が大きいと言えます。
弁護士あいち刑事事件総合法律事務所は,未成年者誘拐罪等をはじめとする刑事事件専門の法律事務所です。被害者側に告訴を取消してもらいたい,起訴を回避したいなどという方,その他でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。24時間,無料法律相談,初回接見サービスを受け付けております。
(福岡県久留米警察署までの初回接見費用:弊所までお問い合わせください)
医師の業務上堕胎罪
医師の業務上堕胎罪
医師であるAさんは,妊娠9か月のBさん(22歳・女性)の依頼を受けて堕胎手術を行いました。
これにより胎児Vが母体から排出されましたが,この時Vは生命機能を有していた(=生きていた)ため,やむをえずAさんはVを窒息死させました。
この件についてAさんは,福岡県東警察署の警察官から業務上堕胎罪や殺人罪の容疑で取調べをしたいから警察署まで来てほしいという連絡を受けました。
警察官の取調べ対してどのように対応すればよいのか分からなくなったAさんは,刑事事件に強い弁護士に無料法律相談することにしました。
(フィクションです)
~ 業務上堕胎罪(刑法第214条) ~
医師や医薬品販売者が女子の依頼・承諾を受けて堕胎させた場合には,業務上堕胎罪が成立します。
「堕胎」とは,胎児を母体内で殺すか,または,自然の分娩期に先立って人工的に胎児を母体から分離・排出することをいいます。
上の事案のAさんが行った,いわゆる人工妊娠中絶手術は人工的に胎児VをBさんから排出するものだとして,業務上堕胎罪にあたるでしょうか。
~ 母体保護法 ~
人工妊娠中絶は,人工的に胎児を母体外に排出するものであるため,医師による人工妊娠中絶も業務上堕胎罪にあたりそうです。
しかしながら,母体の健康等という理由から,一定の要件のもとで人工妊娠中絶を認める必要があり,母体保護法という法律が,その要件について定めています。
母体保護法によれば、①妊娠の継続や分娩が身体的・経済的理由により母体の健康を著しくおそれのある場合、または、強姦等による妊娠の場合であること,②胎児が受胎後満22週未満であること,③医師会の指定する医師(=指定医師)が本人及び配偶者の同意を得て行うこと(配偶者が不明の場合や死亡した場合等には本人の同意のみで可)という3つの要件を満たす場合には,人工妊娠中絶が認められることになります。
上の事案のBさんは妊娠9か月であり,②の要件を満たさないことになります。
したがって,Aさんの行為は適法な人工妊娠中絶とはいえず,業務上堕胎罪にあたる可能性があります。
業務上堕胎罪が成立した場合,3月以上5年以下の懲役に処せられることがあります。
~ 殺人罪(刑法第199条) ~
人を殺した場合には,殺人罪が成立します。
人工妊娠中絶手術を行って胎児が排出され,その胎児が生きていた場合に殺害することは殺人罪にあたるでしょうか。
殺人罪における「人」に,母体から排出された胎児が含まれるかが問題となります。
法律上,胎児とは,受精卵が母体に着床した後,人になるまでの生命体をいいます。
胎児が人になるのは,胎児の身体の一部が露出したときなのか,あるいは全部が露出したときなのかという争いがありますが,全部が露出した場合に「胎児」ではなく「人」に当たることに争いはありません。
そうすると,上のVはBさんから排出され,全部が露出した時点で胎児ではなく人となりますから,これを殺すことは殺人罪に当たる可能性があります。
殺人罪が成立した場合,死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処せられることがあります。
では,堕胎罪と殺人罪との関係はどうなるでしょうか。
上の事案と似た裁判例では,堕胎罪と殺人罪の両方を成立させ,併合罪(確定裁判を経ていない2個以上の罪)としました。
併合罪となると,有期の懲役・禁錮刑を科す場合には,重い刑の1,5倍が長期となります。
業務上堕胎罪の有期懲役の最長は5年であり,殺人罪の有期懲役の最長は20年ですので殺人罪の方が重いです。
もっとも,それぞれの罪の長期の合計を超えることはできないため,20年の1,5倍の30年ではなく,25年の懲役が最長刑となります。
業務上堕胎罪と殺人罪を犯してしまった場合には,このような重い刑罰が科されることがあります。
このような重い刑罰を少しでも軽減することをお考えの方は,刑事事件に強い弁護士に相談することをお勧めします。
早い段階での弁護活動が,刑罰の軽減につながることがあります。
業務上堕胎事件や殺人事件でお困りの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までお電話ください。
(初回法律相談:無料)
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