医師の業務上堕胎罪

医師の業務上堕胎罪

医師であるAさんは,妊娠9か月のBさん(22歳・女性)の依頼を受けて堕胎手術を行いました。
これにより胎児Vが母体から排出されましたが,この時Vは生命機能を有していた(=生きていた)ため,やむをえずAさんはVを窒息死させました。
この件についてAさんは,福岡県東警察署の警察官から業務上堕胎罪や殺人罪の容疑で取調べをしたいから警察署まで来てほしいという連絡を受けました。
警察官の取調べ対してどのように対応すればよいのか分からなくなったAさんは,刑事事件に強い弁護士に無料法律相談することにしました。
(フィクションです)

~ 業務上堕胎罪(刑法第214条) ~

医師や医薬品販売者が女子の依頼・承諾を受けて堕胎させた場合には,業務上堕胎罪が成立します。
堕胎」とは,胎児を母体内で殺すか,または,自然の分娩期に先立って人工的に胎児を母体から分離・排出することをいいます。
上の事案のAさんが行った,いわゆる人工妊娠中絶手術は人工的に胎児VをBさんから排出するものだとして,業務上堕胎罪にあたるでしょうか。

~ 母体保護法 ~

人工妊娠中絶は,人工的に胎児を母体外に排出するものであるため,医師による人工妊娠中絶も業務上堕胎罪にあたりそうです。
しかしながら,母体の健康等という理由から,一定の要件のもとで人工妊娠中絶を認める必要があり,母体保護法という法律が,その要件について定めています。
母体保護法によれば、①妊娠の継続や分娩が身体的・経済的理由により母体の健康を著しくおそれのある場合、または、強姦等による妊娠の場合であること,②胎児が受胎後満22週未満であること,③医師会の指定する医師(=指定医師)が本人及び配偶者の同意を得て行うこと(配偶者が不明の場合や死亡した場合等には本人の同意のみで可)という3つの要件を満たす場合には,人工妊娠中絶が認められることになります。

上の事案のBさんは妊娠9か月であり,②の要件を満たさないことになります。
したがって,Aさんの行為は適法な人工妊娠中絶とはいえず,業務上堕胎罪にあたる可能性があります。
業務上堕胎罪が成立した場合,3月以上5年以下の懲役に処せられることがあります。

~ 殺人罪(刑法第199条) ~

人を殺した場合には,殺人罪が成立します。
人工妊娠中絶手術を行って胎児が排出され,その胎児が生きていた場合に殺害することは殺人罪にあたるでしょうか。
殺人罪における「人」に,母体から排出された胎児が含まれるかが問題となります。

法律上,胎児とは,受精卵が母体に着床した後,人になるまでの生命体をいいます。
胎児が人になるのは,胎児の身体の一部が露出したときなのか,あるいは全部が露出したときなのかという争いがありますが,全部が露出した場合に「胎児」ではなく「人」に当たることに争いはありません。
そうすると,上のVはBさんから排出され,全部が露出した時点で胎児ではなく人となりますから,これを殺すことは殺人罪に当たる可能性があります。
殺人罪が成立した場合,死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処せられることがあります。

では,堕胎罪と殺人罪との関係はどうなるでしょうか。
上の事案と似た裁判例では,堕胎罪と殺人罪の両方を成立させ,併合罪(確定裁判を経ていない2個以上の罪)としました。
併合罪となると,有期の懲役・禁錮刑を科す場合には,重い刑の1,5倍が長期となります。
業務上堕胎罪の有期懲役の最長は5年であり,殺人罪の有期懲役の最長は20年ですので殺人罪の方が重いです。
もっとも,それぞれの罪の長期の合計を超えることはできないため,20年の1,5倍の30年ではなく,25年の懲役が最長刑となります。

業務上堕胎罪と殺人罪を犯してしまった場合には,このような重い刑罰が科されることがあります。
このような重い刑罰を少しでも軽減することをお考えの方は,刑事事件に強い弁護士に相談することをお勧めします。
早い段階での弁護活動が,刑罰の軽減につながることがあります。
業務上堕胎事件や殺人事件でお困りの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までお電話ください。

(初回法律相談無料

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