共同正犯と幇助犯との区別②
北九州市戸畑区に住むAさんは,ある牛丼チェーン店で店長をしていました。Aさんは、休日、パチンコ店でパチンコをしていると中学の同級生Bさんに会いました。お互い十数年ぶりの再開だったことから会話が弾み、AさんとBさんはパチンコ店を出て居酒屋へ行きました。そして、Aさんは、居酒屋で酒を飲んでいると、Bさんから「最近どう?」「うさわでは戸畑店の店長をしているんだって?」と言われました。Aさんは、「そうだよ。」「でも、残業代も丸々出してくれないわりに仕事は忙しい。」「正直やってやれないよ。」と言いました。すると、Aさんは、Bさんから「俺は先日、会社をクビになったばかりでお金に困っている。」「お前のところのお店の売上金でも一ついただかないかい?」と言われました。Aさんは、はじめ聞いて驚きましたが、「どうせ辞めようと思っていたし、お店に未練はない」と気持ちを切り替え、Bさんに「わかった。」「店の裏口と金庫の鍵を開けておくよ。」「おれが犯行に加担したことが分からないように出入口のガラス戸をバールで壊しといてな。」と言いました。その後、Bさんは、Aさんから指定された日時に戸畑店へ行き、店の裏口から中へ入って金庫から現金50万円を盗りました。しかし、AさんとBさんは、福岡県戸畑警察署に建造物侵入、窃盗罪で通常逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
~ はじめに ~
前回は共同正犯、幇助犯の内容や両者を区別する実益についてみていきました。今回は、共同正犯と幇助犯とを区別する基準について解説した上で、上記事例にその基準を当てはめてAさんに共同正犯が成立するのか、幇助犯が成立するのか検討していきたいと思います。
~ 共同正犯と幇助犯とを区別する基準 ~
共同正犯と幇助犯の区別は、一般的に、
特定の犯罪を自己の犯罪として実現する意思があるか→共同正犯
それとも、
他人の犯罪を手助けする意思に過ぎないのか→幇助犯
で判断されることになります。
そして、これらの意思があるかどうかは、
① 犯罪に加担する動機があるか
② 犯罪に加担することで得る利益(分け前)の大きさ
③ 犯罪に加担することになった経緯
④ 正犯者との関係性(上下関係であるか同等の関係であるか)
⑤ 犯罪への主体的関与の程度
⑥ 犯罪を実行するための役割の重要性
⑦ 犯罪計画立案の中での主導性
という事情を考慮して判断されます。
~ 事例への当てはめ ~
では、上記の基準を事例に当てはめてみようと思います。
= ①について =
犯罪に加担する動機があれば共同正犯の認定に傾きやすくなります。この点、Aさんはが「残業代が出ない。」など愚痴をこぼしていることからすると、Aさんは、給料の面で不満を抱いている→お金を欲している、という考え方もできそうです。とすれば、犯罪に加担する動機があるとも言えそうです。
= ②について =
分け前が大きければ大きいほど共同正犯の認定に傾きやすくなります。この点、AさんはBさんから被害金額の半分の額の25万円を受け取っています。10万円以下ならともかく、全体の半分の額は決して安い金額とはいえないでしょう。
= ④について =
上下、支配服従関係にある場合は幇助犯の認定に傾きやすくなります。しかし、AさんとBさんは同級生で対等な立場だったと推測されます(同級生であっても対等な立場でない場合もありますが。)
= ⑥について =
犯罪を実行するために重要な役割を担っていたという場合は共同正犯の認定に傾きやすくなります。この点、お店の裏口や金庫はAさんが所持しており、それがBさんの犯行にとって重要だったと推測されますから、Aさんの役割は大きかったといえます。
以上を総合すれば、Aさんには、建造物侵入、窃盗罪の共同正犯が成立するものと考えられます。
~ おわりに ~
このように、刑事事件では、事案に現れた「事実」を判例などで示された「要件」「基準」に当てはめて結論を導くという作業が必要となります。そのためには、当事者から「事実」を聞き出す能力、判例などに関する知識等が必要不可欠です。刑事事件に慣れた弁護士であれば、これらの能力に長けていますから、刑事事件でお悩みの際はお気軽に弁護士までご相談ください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,窃盗事件をはじめとする刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。