玄関ドアに落書きで建造物損壊罪

玄関ドアに落書きで建造物損壊罪

福岡県糸島市に住むAさんは,飲み会の帰り,酒に酔った勢いで,同市内に住むVさん方の玄関ドアに,持っていたラッカースプレーを用いて,赤色及び黒色のペンキを吹き付けて,「××××」,「△△△△」などと大書きしました。Vさんによると,玄関ドアの取り換え費用に約15万円かかったとのことです。Aさんは,後日,福岡県糸島警察署から建造物損壊罪で呼び出しを受けました。今後のことが不安になったAさんは,弁護士に無料法律相談を申込みました。
(フィクションです)

~ 建造物損壊罪 ~

建造物損壊罪は刑法260条に規定されています。

刑法260条
 他人の建造物又は艦船を損壊した者は,5年以下の懲役に処する。

以下,ご説明いたします。

= 他人の建造物 =

「他人の」とは,他人所有のという意味です。「建造物」とは,屋蓋を有し,障壁又は柱材で支持されて土地に定着し,その内部に人が出入りできる構造を持つ家屋その他これに類する工作物をいうとされています。

* 「建造物」と「器物」の区別 *

「建造物」と器物損壊罪(刑法261条)の器物(規定上は「他人の物」)との区別は,分離に毀損を要するかによって決定されるとするのが通説・判例です。壁板などは,これを毀棄しなければ取り外すことはできないことから「建造物」です。他方,容易に取り外すことができる雨戸,畳,建具などは「建造物」ではなく,器物損壊罪の「他人の物」となります。

では,本件の玄関ドアはどうでしょうか?
確かに,玄関ドアは取り外しが可能ですから「建造物」ではなく器物損壊罪の「他人の物」に当たるような気がします。しかし,判例(平成19年3月20日
)は,玄関ドアの外界との遮断,防犯,防風,防音という玄関ドアの機能に鑑みて,玄関ドアを「建造物」であると判示しています。このように,近年では,「建造物」と「器物」との区別につき,単に分離に毀損を要するか,取り外しが可能か,といった点のみならず,その物の機能的側面も考慮して建造物と一体化しているかどうかという点も基準として加えるようになってきています。

= 損壊 =

「損壊」とは,建造物・艦船の実質を毀損すること,又はその他の方法で,それらの使用価値を滅却し,あるいは減損することをいいます。物理的に形態を変更又は滅却させる場合だけでなく,事実上その本来の用法・効用に従い使用することができない状態に至らせる場合も含まれます。最高裁は,落書き(平成18年1月18日),ビラ張り行為(昭和41年6月10日)も「損壊」に当たると判示しています。

~ 器物損壊罪との違い ~

上記で見たように,まず,「建造物」と「その他の物」の意味内容に違いがあります。その他,次の違いに注意が必要です。

= 罰則 =

器物損壊罪の法定刑は「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」であるのに対し,建造物損壊罪は「5年以下の懲役」と罰金刑以下の刑の記載がありません。つまり,起訴されてしまえば正式裁判を受けなければなりませんし,逮捕・勾留されれば身柄拘束期間が長引くことも予想されます(他方,略式裁判によって罰金刑の命令を受けた場合,命令の告知と同時に釈放される)。

= 親告罪,非親告罪 =

器物損壊罪は,起訴するにあたり,告訴を必要とする親告罪です。他方,建造物損壊罪は非親告罪です。つまり,建造物損壊罪の場合,被害届や告発状によっても捜査を受けたり,起訴されたりする可能性があります。

~ いたずらでも罪に! ~

街中を歩いていると,壁などにスプレーで落書きされてあるのを見かけます。また,テレビやネットでは,学校の壁や重要な文化財などに落書きして逮捕されたというニュースを見たり聞いたりします。ちょっとしたいらずか感覚が重大事件に発展しかねませんから十分注意する必要がります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,建造物損壊罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件・少年事件でお困りの方は,まずは,0120-631-881までお気軽にお電話ください。

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