裁判員裁判で性犯罪は厳罰化傾向
Aさんは,北九州市八幡東区内の路上で,帰宅途中のVさんの背後からVさんの胸に両手をまわし,Vさんの胸を揉もうとしましたが,Vさんから両手を払いのけられてしまいました。Aさんは、逃げるVさんを追いかけました。そして、Aさんは、逃げるVさんが転倒したため、さらにわいせつな行為をしようと思いましたが、ちょうど近くを人が通りかかったため、顔を見られたと思い、その場から逃げました。Vさんは転倒した際,左腕に加療約1週間の打撲の怪我を負ったようです。Aさんは,後日,福岡県八幡東警察署に強制わいせつ致傷罪で通常逮捕され、検察に、同罪で起訴されてしまいました。Aさんは裁判員裁判を受けなければなりません。
(フィクション。)
~ 裁判員裁判 ~
裁判員制度は、国民が裁判員として刑事事件の裁判に参加し、裁判官とともに①被告人がの有罪か・無罪かや、②有罪とした場合にどの程度のの場合にどのような量刑刑罰(刑の種類とその重さ)がふさわしいのかを決める考える制度のことをいいます。2009年5月21日から始まり、先日、5月21日で10年を経過しました。
~ 性犯罪は厳罰化傾向 ~
報道によれば、裁判員裁判で審理される強姦罪(現在、強制性交等罪)や準強姦罪(現在、準強制性交等罪)を犯し、人を死傷させた場合に成立する強姦致死傷罪(現在、強制性交等致死傷罪)の裁判員裁判では厳罰化の傾向にあるといわれています。
裁判官だけの裁判(2008年から2012年3月)では、
懲役3年以上、5年以下
の量刑が全体の35.4%と最も多かったのですが、裁判員裁判(2012年6月から2018年12月末)では、
懲役5年以上、7年以下
の量刑が全体の26.4%と最も多かったそうです。2年前の、強姦罪(現在、強制性交等罪)、準強姦罪(現在、準強制性交等罪)の法定刑の引き上げ、同罪や強制わいせつ罪などの非親告罪化など、法改正の面でも性犯罪に対する厳罰化の傾向は顕著であるように思えます。そこで、今回は、裁判員裁判において、どんな性犯罪が審理されるのかご紹介したいと思います。
~ 裁判員裁判対象事件 ~
裁判員裁判は刑事事件の審判を対象とする制度ですが、全ての刑事事件を対象としているわけではありません。どの刑事事件が裁判員裁判の対象となるのかは、
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下、裁判員法)の2条1項
によって決められています。
裁判員法2条1項
1号 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
2号 裁判所法第26条第2項第2号に掲げる事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。)
= 1号について =
性犯罪で無期に当たる罪といえば、
・強制わいせつ致死傷罪(刑法181条1項、176条)
・準強制わいせつ致死傷罪(刑法181条1項、178条1項)
・監護者わいせつ致死傷罪(刑法181条1項、179条1項)
・強制性交等致死傷罪(刑法181条2項、177条)
・準強制性交等致死傷罪(刑法181条2項、178条2項)
・監護者性交等致死傷罪(刑法181条2項、179条2項)
などがあります。いずれも、基本罪(たとえば、強制わいせつ罪でいえば、暴行・脅迫を用いてわいせつな行為をすること)が未遂に終わった場合でも、相手方が怪我をしたり、死亡すれば、上記の罪に問われ得ることになりますから注意が必要です。
= 2号について =
「裁判所法第26条第2項第2号に掲げる事件」とは、死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪に係る事件、をいいます。これにあたる直接的な性犯罪はありませんが、たとえば、性交、わいせつ行為目的で被害者を監禁し、監禁によって人を死傷させた場合は監禁致死傷罪(刑法221条、220条)に問われることになり、同罪は2号に当たります。
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