刑事事件の罪数問題
刑事事件の罪数問題について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
福岡県直方市に住むAさん(30歳)は,強盗目的でBさん(78歳)の自宅に立ち入り,自宅にいたBさんの顔面を力いっぱい殴りつけ,Bさんが怯んだ隙にBさんの財布を奪いました。また、Aさんが逃走しようとしたところ,Bさんの妻であるCさん(75歳)が携帯電話で警察に通報しようとしていたため,Aさんはこれを止めようとCさんを力いっぱい殴りつけ、携帯電話を破壊してその場からと逃走しました。病院での診察の結果、Bさんは加療約1か月の、Cさんは加療約3週間の怪我を負ったことが判明しました。そして、後日、Aさんは、福岡県直方警察署により住居侵入・強盗致傷罪、器物損器罪の容疑で逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
~ Aさんに対する罪 ~
Aさんは、強盗目的でBさん宅へ立ち入っていますから住居侵入罪(刑法130条前段)が成立することは明らかです。
刑法130条前段
正当な理由がにないのに、人の住居(略)に侵入し、(略)た者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
次に、強盗致傷罪(刑法240条前段)です。
刑法240条前段
強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、(略)。
強盗致傷罪は、Aさんのように相手を力いっぱい殴るという行為のように相手方の犯行を抑圧するに足りる「暴行」を加えて財布などの「財物」を奪い、結果として相手に怪我をさせた場合に成立する罪です。このことから、まずBさんに対する強盗致傷罪が成立することは明らかです。
また、強盗致傷罪の「人(被害者)」は、財物を奪われた直接の被害者に限られるものではありません。Cさんのように、警察に通報しようとしている人、強盗犯人を追いかけてきている人なども当然含まれます。AさんはBさんから財物を強取した時点で「強盗」なのですから、Cさんのような人を怪我させた場合でもやはり強盗致傷罪は成立するのです。
~ 刑事事件における罪数問題 ~
ところで、刑事事件において科刑(被告人に刑を科す)上で罪数問題は避けては通れない問題です。
罪数問題とは、簡単にいえば、事件が一罪として処理されるのか、複数の罪(併合罪)として処理されるのか、という問題です。そして、一罪として処理される場合は、併合罪で処理される場合よりかは刑の重さが軽くなる、ということは何となく想像が付くのではないでしょうか?
では、本件は一罪として処理されるのでしょうか?併合罪として処理されるのでしょうか?
まず、Bさんに対する住居侵入・強盗致傷罪は「手段」と「結果」の関係にあることから科刑上は「一罪」として扱われます。これを牽連犯といいます。Cさんに対する罪についても同様の考え方でやはり牽連犯となります。牽連犯の場合、「最も重い刑」、つまり本件では強盗致傷罪の法定刑の範囲内で処断されます。
刑法54条後段
(略)犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
~ かすがい現象 ~
次に、「Bさんに対する住居侵入・強盗致傷罪」と「Cさんに対する住居侵入・強盗致傷罪」との罪数関係はどうなるのでしょうか?
この点、「Bさんに対する住居侵入・強盗致傷罪」と「Cさんに対する住居侵入・強盗致傷罪」の2つの罪が成立し「併合罪」となる、とする考え方もあります。
ところが、裁判所(最判昭29年5月27日)は、このような住居侵入罪によって2つの強盗致傷罪が結ばれている
Bさんに対する強盗致傷罪-住居侵入罪-Cさんに対する強盗致傷罪
のような、いわゆる「かすがい現象」においては
科刑上一罪
となることを認めています。
強盗致傷罪の最高刑は「無期懲役」であり、併合罪による刑の長期の引き上げは行われないため、併合罪の場合と科刑上一罪の場合とで法定刑に違いはありません。
ただ、今回は、罪数問題を知っていただくべくご紹介したしだいです。
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