横領罪と背任罪の区別
福岡市中央区にある信用組合の支店長Aさんは,預金成績の向上を装うため,Aさんが信用組合のために業務上保管する信用組合名義の預金口座から,預金者増加のための預金謝礼金を支出交付し,さらにこれを補填するために正規に貸付を受ける資格のない者に有資格者であるかのように装って正規利息よりも高い利息で貸付を行いました。そうしたところ,Aさんは,信用組合から告発を受けた福岡県中央警察署に業務上横領罪で逮捕されました。
(昭和33年10月10日付け判例を基礎に作成)
~ 業務上横領罪と背任罪 ~
刑法253条
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は,10年以下の懲役に処する。
「占有」には,事実上の支配のみならず法律上の支配をも含むと解されています。
横領罪における,「事実上の支配」は現にその物を持っているということです。例えば,他人から物を預かったなどという場合がこれに当たります。
他方,「法律上の支配」は,現にその物を持っていないということです。また,横領罪における占有が侵害の対象者(本件の場合,信用組合)と侵害者(Aさん)との間の信頼関係を基礎に成り立っているため,「法律上の支配」の本質は「濫用のおそれのある支配力」にあると言われています。本件で,Aさんは実際にお金を持っているわけではなく,信用組合の預金口座(債権)を支配・管理しています。また,その預金債権を自由に行使できる立場にあると言えそうですから,Aさんの「占有」は,濫用のおそれのある「法律上の支配」と言えそうです。
「横領」について,判例及び通説は財産権の侵害を重視する領得行為説を取り,自己の占有する他人の物を不法に領得すること,つまり,「不法領得の意思」を実現するすべての行為を横領行為ととらえています。そして,「不法領得の意思」を,「他人の物の占有者が委託の任務に背いて,その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいう」と解しています。Aさんが預金者謝礼金を支出する行為も高利息で貸付を行う行為も信用組合の委託の任務に背いていると言えそうですし,Aさんにはそのような権限はなさそうです。よって,Aさんの行為は「横領」に当たると言えそうです。
次に,背任罪の規定を見ると
刑法247条
他人のためにその事務を処理する者(Aさん)が,自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で,その任務に背く行為をし,本人に財産上の損害を加えたときは,5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。※()は筆者記入
一見すると,Aさんの行為は横領罪にも背任罪にも当たりそうです。では,両者はいかなる基準で区別されるのでしょうか?
~ 横領罪と背任罪の区別 ~
横領罪と背任罪の区別に関しては諸説あり,判例もどの説に立っているのか明確ではありませんが,基本的には
背任罪と横領罪は一般法と特別法の関係に立ち,特定の財物について「不法領得の意思」を実現する行為が横領罪にあたり,背任罪は横領罪の要件を具備しない行為について成立する
という考え方をとっているものと思われます。
そして,
1 自己の利益を図ることが明らかであれば横領罪
2 それ以外の場合は,本人名義で本人の計算の場合は背任罪,本人名義で自己の計算の場合は横領罪,自己の名義の場合は横領罪
の成立を認める傾向にあります。
ここで「自己の名義」とは,処分行為の当事者は行為者自身(Aさん)だという外観をとって行われることを意味し,「本人の名義」とは,処分行為の当事者が本人だとわかる外観をとって行われることを意味します。「自己の計算」とは,処分行為の法律効果,経済的効果が実質的に行為者自身に帰属することを意味し,「本人の計算」とは処分行為の法律効果,経済的効果が本人に帰属することを意味します。
以上からすれば,Aさんの行為は信用組合の計算においてなされた行為ではなく,Aさんの計算でなされた行為ですから,これからしてもAさんの行為は業務上横領罪に当たるものと思われます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,横領罪,背任罪などの刑事事件・少年事件を専門に取り扱う法律事務所です。お困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。
(福岡県中央警察署までの初回接見費用:35,000円)