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【事例解説】他人の漫画上のキャラクターを使用した著作権法違反事件

2023-11-10

 他人が描いた漫画に出てくるキャラクターを使用した架空の著作権法違反事件を参考に、著作権法違反とその弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

参考事件

 福岡市に住むAは、SNS上で知り合ったVが描いたオリジナルの漫画を読んでいたところ、その漫画に出てくるキャラクターを商品化すれば売れるだろうと考えました。
 そこで、Aは、Vが描いた漫画の一部を使用し、Tシャツやマグカップにプリントした上で、SNS上で販売する旨の投稿をしたところ、警察より連絡が来て、著作権法違反として取調べを受けることになりました。
(事例はフィクションです。)

著作権法違反について

 人が思想や感情を創作的に表現したものであって、文芸、芸術、美術、音楽の範囲に属するものを著作物といいます(著作権法2条1項1号)。
 著作権法は、著作物を創作した人(著作者といいます。同項2号)などの権利を保護することを目的とした法律です。

 著作権法では、「著作権」(同法17条1項)の一つとして、著作者に、その著作物を複製する権利を与えています(この権利を複製権といいます。同法21条)。
 「複製」とは、作品を複写したり、録画・録音したり、印刷や写真にしたり、模写(書き写し)したりすることをいいます。

 Vが描いた漫画は、著作物にあたります。そして、Aの行為は、Vが描いた漫画の一部を使用し、Tシャツやマグカップにプリントしたというものであり、著作物の「複製」に当たります。
 そこで、そうしたAの行為は、Vが「複製」に同意していない限り、著作権を侵害するものといえます。

 著作権法119条1項は、「著作権…を侵害した者」は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処する(又はこれを併科する)とされており、Aはその範囲で刑事責任を問われる可能性があります。

著作権法違反事件における弁護活動

 たとえば、Aは、商品を作成する当時、Vから使用の許可をもらっていたが、その後、Vとの関係性が悪化したことから、Vに通報されたような場合、Vから許可をもらっていたことに関する証拠に基づき、著作権法違反の罪に問われないことを主張していく必要があります。

 また、今回の事例とは異なりますが、一定の場合、著作物が自由に使えることになっています。仮に、そうした事情があった場合、著作物が自由に使える場合であることを、捜査機関や裁判所に主張していくことも考えられます。

 これに対して、Aの行為が著作権法違反の罪に問われる場合においても、著作権法は著作者などの権利の保護を目的とした法律であるため、被害者である著作者が処罰を望んでいるか重要となってきます。
 そこで、Aとしては、著作権者であるVとの間で示談をし、今回の件を許してもらうことを目指す必要があります。

福岡県の刑事事件に関するご相談は

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件に強く、著作権法違反事件における刑事弁護の実績も多数あります。
 著作権法違反の罪として警察から取調べを受けるなどし、今後の対応についてお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部へご相談ください。

【事例解説】樹木に対する器物損壊罪の成立と事件化阻止の弁護活動

2023-11-07

 隣人トラブルから、隣家の樹木を枯らすため除草剤を散布した事件を参考に、樹木に対する器物損壊罪の成立と刑事事件化を阻止するための弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

参考事件

 福岡市内に居住する男性Aは、隣人Vの庭の樹木の枝が自宅の庭まで伸びていることをVに注意したものの、何も対応しないVに腹を立て、Vの外出時を狙って、樹木を枯らす目的で、自宅の庭から樹木の根元へ除草剤を繰り返し散布しました。
 ある日のこと、Aは、除草剤を散布するところをVに目撃され、警察に通報すると訴えられてしまい、刑事事件に強い弁護士に対応を相談しました。
(事例はフィクションです。)

樹木に対する器物損壊罪の成立について

 他人の物を損壊した者は、器物損壊罪として、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料を科される可能性があります(刑法第261条)。

 器物損壊罪における「物」とは、広く財産権の目的となり得る一切の物をいい、動物や植物もこれに含まれます。

 また、同罪における「損壊」とは、物理的な損傷に限らず、心理的な抵抗感から事実上使用不可となるなど、その物の本来の効用を失わせることも含むとされます。
 そのため、物理的な損傷に至っていないため未遂にとどまり、器物損壊罪は未遂犯の処罰規定がないから処罰されない、と単純に考えることはできません。

 本件で、除草剤の散布により樹木の枯死や変色などの物理的な損傷に至っていないとしても、除草剤の影響で生育に何らかの害が生じ得ることによる取引価値の低下など、樹木の本来の効用を失わせ「損壊」したとして、器物損壊罪の成立が認められる可能性もあると考えられます。

器物損壊で刑事事件化を阻止するための弁護活動

 器物損壊罪は、被害者の告訴(犯罪事実を申告し、加害者の処罰を求める意思表示)がなければ起訴されない親告罪であることから、被害届が出される前に被害者と示談が成立し、示談書の中に宥恕条項(加害者の処罰を求めない旨の条項)を入れてもらえれば、警察の介入による刑事事件化を防げる可能性が高いと考えられます。

 また、示談書の中に宥恕条項まで入れてもらうことができなかったとしても、器物損壊罪の法定刑は比較的軽微であるため、被害弁償が済んでいることが示談書で確認できれば、不起訴処分となる可能性を高めることが期待できます。

 そのため、器物損壊罪が成立し得る行為を行った場合、被害者との示談の成立が特に重要と言えますが、当事者同士では、被害者の被害感情などから、示談交渉がうまくいかない可能性が考えられます。
 また、法律の専門家ではない当事者同士による示談の場合、内容に不備があることで、一旦示談が成立したにも関わらず、後日紛争が蒸し返される恐れがでてきます。

 そのため、被害者との示談交渉は、弁護士に依頼して行うことをお勧めします。刑事事件における示談交渉の経験が豊富な弁護士に依頼することで、適切な示談金を算定した上で、十分な内容の示談が成立する可能性を高めることができます。

福岡県の刑事事件に関するご相談は

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件に強く、様々な刑事事件において、被害届が出される前に被害者と示談を成立させることで、刑事事件化を阻止した実績が多数あります。
 自身やご家族が、器物損壊罪が成立し得る行為を行ってしまい、刑事事件化を防ぎたいとお考えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部にご相談ください。

【少年事件解説】わいせつ行為を行った13歳の少年に警察から呼出し(後編)

2023-11-04

 前回に引き続き、13歳の少年が女児にわいせつ行為を行った架空の事件を参考に、14歳に満たない者が犯罪に該当する行為をした場合の弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

参考事件

 福岡県大野城市内在住の少年A(13歳)が、小学校から帰宅途中の女児V(8歳)の陰部を下着の上から触るわいせつな行為を行いました。
 帰宅したVから事件の話を聞いた母親が警察に通報し、後日、Aは、福岡県大野城警察署から本事件の調査のための呼出しを受けました。
(事例はフィクションです。)

前回の前編では、14歳に満たない者が犯罪に該当する行為をした場合の取扱いと警察・児童相談所の調査について、解説しました。

家庭裁判所の調査・審判について

 事件が家庭裁判所に送致されると、少年が非行に至ってしまった原因を探り、どうすれば再非行をせずに立ち直ることができるかなどを探るため、家庭裁判所調査官による調査が行われます。
 調査は在宅で行われることもありますが、少年の心身の状況等の鑑別などのために、「観護措置」として、原則4週間、少年鑑別所に収容される場合もあります(少年法第17条第1項、3項、4項)。

 調査の結果、少年審判が開始され、少年の非行事実があると認められた場合、非行内容や少年の抱える問題性(「要保護性」といいます。)に応じて、処分を決定します(保護処分又は不処分の決定)。

 保護処分は、重い順に、少年院送致、児童自立支援施設・児童養護施設送致、保護観察処分、となっていますが、決定の時に14歳に満たない者の場合、少年院送致は、特に必要と認める場合に限り行われます(少年法第24条第1項)。
 保護観察処分は前2者と異なり、少年を家庭等に置いたまま、保護観察官による指導監督という社会内処遇によって、少年の更生を目指すものです。

触法事件における弁護活動

 事件に関する調査が開始された場合、弁護士は、警察や児童相談所の調査への対応に関するアドバイスを行います。特に、触法少年の場合は、自分が思っていることを上手く表現することができない場合もあるため、警察などへの対応は、慎重に行う必要があります。
 児童裁判所に送致された後、一時保護される可能性のある事案においては、一時保護の必要性があるのかを検討し、回避に向けた取組みを行う必要がある場合も考えられます。

 少年法は、「少年の更生を図る」ことを目的としていることから、少年事件では、「要保護性」をいかに解消できるかが問題となるため、事件が家庭裁判所に送られた後は、弁護士が付添人(少年法第10条)として、少年の更生に向けた活動をし、家庭裁判所に対し適切な処分を求めることが考えられます。
 具体的には、少年の家庭や学校での普段の素行を踏まえ、少年本人への働き掛けや、ご家族と協力して、少年を取り巻く環境を整えるなどし、少年が再び非行を行う危険性がない事情などを説明していくことになります。

 これまで述べたとおり、少年事件、特に触法事件は、児童相談所の関与など成人事件とは異なる点が多く、どのような段階で、どのような対応をしていくべきか専門的な判断を必要としますので、できるだけ早期の段階で、触法事件の弁護活動の経験が豊富な弁護士に相談することをお勧めします。

福岡県の少年事件に関するご相談は

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、主に刑事事件や少年事件を取り扱っており、触法事件における弁護活動の豊富な実績があります。
 ご家族が少年事件の加害者となるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部にご相談ください。

【少年事件解説】わいせつ行為を行った13歳の少年に警察から呼出し(前編)

2023-11-01

 13歳の少年が女児にわいせつ行為を行った架空の事件を参考に、14歳に満たない者が犯罪に該当する行為をした場合の弁護活動について、前編・後編に分けて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

参考事件

 福岡県大野城市内在住の少年A(13歳)が、小学校から帰宅途中の女児V(8歳)の陰部を下着の上から触るわいせつな行為を行いました。
 帰宅したVから事件の話を聞いた母親が警察に通報し、後日、Aは、福岡県大野城警察署から本事件の調査のための呼出しを受けました。
(事例はフィクションです。)

14歳に満たない者が犯罪に該当する行為をした場合の取扱い

 刑法第41条で、14歳に満たない者の行為は罰しない、と定めています。
 これは、14歳未満の者については、一律に責任能力を否定し、罪を犯し得ないとされているためです。
 本件Aの行為は、Aが14歳以上であればVに対する不同意わいせつ罪に該当し得るものですが、Aは行為時において13歳のため、犯罪は成立せず、Aに刑罰が科されることはありません。

 しかし、14歳未満の者で、刑罰法令に触れる行為(つまり、犯罪に該当する行為)をした少年(以下、「触法少年」といいます。)は、児童福祉法及び少年法の手続きにより、調査や家庭裁判所の審判(以下、「少年審判」といいます。)の対象となることがあります(少年法第3条など)。

警察・児童相談所の調査について

 触法少年が起こした事件(以下、「触法事件」といいます。)の場合、警察は刑事事件として捜査を行うことができず、逮捕・勾留といった身体拘束を行うこともありません。
 警察は、事件について調査を行い、少年の行為が一定の重大な罪に係る刑罰法令に触れる場合など、事件を児童相談所に送致します(少年法第6条の2、6条の6)。

 事件が送致されると、児童相談所は、少年が再び同じ非行を行わないために、どういった処遇が必要かなどを判断するための調査を行います。
 調査は在宅で行われることもありますが、児童の安全の確保や行動観察などのために、児童相談所等に「一時保護」される場合もあります(児童福祉法第33条)。

 調査の結果、少年や保護者への訓戒や児童福祉士らによる指導継続、又は児童養護施設等入所といった福祉的措置で終わることもありますが、少年審判に付することが適当と認められる場合は、事件は家庭裁判所に送致されます(児童福祉法第27条、少年法第6条の7)。

次回の後編では、家庭裁判所の調査・審判と触法事件における弁護活動について、解説します。

福岡県の少年事件に関するご相談は

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、主に刑事事件や少年事件を取り扱っており、触法事件における弁護活動の豊富な実績があります。
 ご家族が少年事件の加害者となるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部にご相談ください。

【事例解説】道路交通法違反(酒酔い運転)事件の弁護活動

2023-10-29

 酒に酔って蛇行運転した架空の道路交通法違反(酒酔い運転)事件を参考に、酒気帯び運転と酒酔い運転の違いや道路交通法違反(酒酔い運転)事件の弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

参考事件

 酒に酔った状態で車を運転したとして、糸島市在住の自営業の男性Aが、道路交通法違反(酒酔い運転)の容疑で、福岡県糸島警察署の警察官に現行犯逮捕されました。
 深夜、パトカーで警ら中の警察官が、蛇行運転するAの車を停車させ、Aの呼気を検査したところ、基準値を超える0.8mg/ℓのアルコールが検出されたとのことです。
 Aは「仕事帰りに飲酒し、運転した」と供述し、道路交通法違反(酒酔い運転)の容疑を認めています。
(事例はフィクションです。)

「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」の違い

 酒を飲んで運転することを一般的に「飲酒運転」と呼びますが、飲酒運転は法律上の用語ではなく、道路交通法では、「酒気帯び運転」又は「酒酔い運転」として処罰の対象となります。

 「酒気帯び運転」とは、身体に政令で定める基準(呼気0.15mg/ℓ以上又は血中0.3mg/mℓ)以上にアルコールを保有する状態で車両等を運転することをいいます(法第65条第1項、117条の2の2第1項3号)。

 一方、「酒酔い運転」とは、酒に酔った状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態)で車両等を運転することをいいます(法第117条の2第1項1号)。
 酒気帯び運転のように、法令上の数値基準はなく、飲酒の影響により、直進歩行ができない、呂律が回っていない、質疑に対して正常な受け答えができない、といった状態になっている場合、「酒に酔った状態」と認定されることが多いとされます。
 そのため、酒に弱い人が、少量の飲酒で上記のような状態になった場合、仮に身体に保有するアルコールの量が酒気帯び運転の基準以下であっても、酒酔い運転として処罰される可能性があります。

 なお、法定刑は、酒気帯び運転は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金、酒酔い運転は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金となっています(法第117条の2、117条の2の2)。

 本件Aは、基準値を超える0.8mg/ℓアルコールが検出されたことから、少なくとも酒気帯び運転が成立し、飲酒の影響で蛇行運転を行うほどの状態にあり、アルコール検出量が基準値の5倍を超えたことも事実上相まって、「酒に酔った状態」にあったとして、酒酔い運転が成立する可能性があると考えられます。

道路交通法違反(酒酔い運転)事件の刑事弁護

 酒酔い運転の場合、事故を起こしていなくても、酒酔いの程度や運転の態様、運転の動機・経緯や前科前歴の有無などの事情から、起訴され正式裁判となり、懲役刑となる可能性が十分にあります。
 そのため、早い段階で、刑事事件に強く、道路交通法違反事件での弁護活動の経験豊富な弁護士への依頼をお勧めします。

 罪を認める場合の弁護活動としては、上記事情を十分に精査し、被疑者に対し取調べ対応のアドバイスを行った上で、例えば、動機に酌むべき事情があったこと、常習性がなかったことなど、被疑者(被告人)に有利に働き得る事情を検察官や裁判官に的確に主張して、略式命令(罰金刑)、執行猶予付き判決を目指すことが考えられます。

 また、被疑者(被告人)が真摯に反省し、被疑者(被告人)が運転しなくても生活を送れるという再犯防止の環境を整えているかという点も、刑の減軽等を目指すために重要です。
 例えば、運転免許を自主的に返納したり、車を売却すること、家族等に送迎の協力を得たり、職場の近くに転居するなど、弁護士は、被疑者(被告人)の反省や再犯防止の環境整備がなされていることを客観的に示す取組みを、被疑者(被告人)やご家族にアドバイスすることも可能です。

福岡県の刑事事件に関するご相談は

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件に強く、飲酒運転などの道路交通法違反事件において、刑の減軽等を獲得した実績があります。
 福岡県での道路交通法違反(酒酔い運転)事件でご家族が逮捕されるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部へご相談ください。

【事例解説】「撮り鉄」で列車が緊急停止 電汽車往来危険罪で捜査開始(後編)

2023-10-26

 前回に引き続き、列車を撮影するために線路脇に立ち入った「撮り鉄」行為により、列車が緊急停止した架空の事件を参考に、電汽車往来危険罪と自首の成立する要件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

参考事件

 久留米市在住の鉄道ファンAは、鉄道会社Vが運行する特急列車Wを至近距離で撮影するため、同市内の線路脇に立ち入ったところ、Wの運転士が線路脇に立ち入ったAを確認し、Wは緊急停止しました。Wの乗客に怪我はありませんでしたが、停止の影響で運行が大幅に遅延しました。
 Aは後日の報道で、本件について、電汽車往来危険などの容疑で福岡県久留米警察署の捜査が開始されたことを知り、自首すべきか刑事事件に強い弁護士に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)

前回の前編では、電汽車往来危険罪について、解説しました。

自首の成立する要件について

 本件Aは、事件について捜査が開始されたことをされたことを報道で知り、自首すべきか悩んでいます。

 刑法第42条第1項では、罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる、と規定されています。
 「自首」とは、犯罪行為を行った者が、捜査機関に発覚する前に自ら進んで捜査機関に自己の犯罪事実を申告し、その処分に委ねる意思表示、とされます。

 「捜査機関に発覚する前」とは、(1)犯罪自体が捜査機関に発覚していない場合と、(2)犯罪自体は捜査機関に発覚しているが犯人が誰であるかが発覚していない場合を指します。
 そのため、捜査機関が、犯罪の事実と犯人が誰であるかについては既に把握しているものの、犯人の居場所だけが分からないという状況で警察などに出頭したとしても、「捜査機関に発覚する前」に自首したことにはなりません。
 例えば、本件Aの犯行が防犯カメラなどの映像で残っていたことなどから、Aが警察に出頭した時点で、捜査の進展によりAが犯人であることが特定されていた場合は、自首は成立しないこととなります。

 その反面、自首が成立しないとしても、自ら進んで自己の犯罪事実を申告したことは、事件の内容などにもよりますが、逃亡や証拠隠滅等のおそれがないとして逮捕を回避できる要因となり得るほか、自首による刑の減軽が適用されなくても、被疑者の反省を示す有利な情状として、不起訴処分や刑の減軽を得られる可能性を高めることができます。

 自己の犯罪事実について自首を検討している場合は、自首のメリット・デメリットや自首が成立する見込みの有無、自首した後に予想される刑事手続きなどについて、刑事事件に強い弁護士に事前に相談し、身体拘束回避の可能性を高めるための弁護士による同伴等も検討した上で、慎重に対応することをお勧めします。

福岡県の刑事事件に関するご相談は

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件に強く、様々な刑事事件における弁護活動の豊富な実績があります。
 自身やご家族が電汽車往来危険罪に該当する可能性がある行為をしてしまい、取るべき対応のことなどでお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部にご相談ください。

【事例解説】「撮り鉄」で列車が緊急停止 電汽車往来危険罪で捜査開始(前編)

2023-10-23

 列車を撮影するために線路脇に立ち入った「撮り鉄」行為により、列車が緊急停止した架空の事件を参考に、電汽車往来危険罪と自首の成立する要件について、前編・後編に分けて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

参考事件

 鳥取市在住の鉄道ファンAは、鉄道会社Vが運行する特急列車Wを至近距離で撮影するため、同市内の線路脇に立ち入ったところ、Wの運転士が線路脇に立ち入ったAを確認し、Wは緊急停止しました。Wの乗客に怪我はありませんでしたが、停止の影響で運行が大幅に遅延しました。
 Aは後日の報道で、本件について、電汽車往来危険などの容疑で福岡県久留米警察署の捜査が開始されたことを知り、自首すべきか刑事事件に強い弁護士に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)

電汽車往来危険罪とは

 鉄道若しくはその標識を損壊し、又はその他の方法により、汽車又は電車の往来の危険を生じさせた者は、2年以上の有期懲役に処する、と定められています(電汽車往来危険罪、刑法第125条第1項)。

 電汽車往来危険罪における「往来の危険」とは、衝突・脱線など、電車等の往来に危険な結果を生ずるおそれのある状態とされます。
 具体的には、単に電車等の交通の妨害を生じさせた程度では足りないが、脱線等の実害の発生が必然的ないし蓋然的であることまで必要とするものではなく、上記実害の発生する一般的可能性があれば足りる、とされます。
 つまり、その行為により、電車等の衝突・脱線などの危険が生じる可能性があれば、「往来の危険」を生じさせたと認められる可能性があると考えられます。

 本件Aは、特急列車Wを至近距離で撮影するため、線路脇への立ち入りという、衝突・脱線などの危険が生じる可能性のある行為を行っています。
 そのため、「その他の方法」により、電車の「往来の危険」を生じさせたとして、電汽車往来危険罪が成立し得ると考えられます。

 なお、電汽車往来危険罪が成立しない場合でも、鉄道地内にみだりに立ち入ったとして、鉄道営業法(第37条)違反により処罰される可能性があります。

 その他、Wは停止の影響で運行が大幅に遅延したことから、Aの立ち入り行為により鉄道会社V の業務が妨害されたといえるため、Aは、「威力を用いて人の業務を妨害」として、威力業務妨害罪(刑法第234条)が別途成立する可能性もあります。

次回の後編では、自首の成立する要件について、解説します。

福岡県の刑事事件に関するご相談は

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件に強く、様々な刑事事件における弁護活動の豊富な実績があります。
 自身やご家族が電汽車往来危険罪に該当する可能性がある行為をしてしまい、取るべき対応のことなどでお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部にご相談ください。

【事件解説】陸上大会で女子選手の下半身を撮影し逮捕(後編)

2023-10-20

 前回に引き続き、高校生の陸上競技大会で女子選手の下半身を撮影したとして、福岡県迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)で逮捕された事件とその弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

事件概要

 福岡市内であった高校生の陸上競技大会で女子選手の下半身を撮影したとして、同市内在住の男性Aが、福岡県迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)の容疑で逮捕されました。
 福岡県中央警察署の調べによると、Aは、福岡市内であった高校生の陸上競技大会で、10代の女子選手の下半身をデジタルカメラでズーム撮影していたところ、それに気付いた選手の保護者が警察に通報しました。
 Aは、「服の上から撮影するだけでは罪にならないと思っていた」と、供述しているとのことです。
(実際の事件に基づき作成したフィクションです。)

前回の前編では、性的姿態等撮影罪の成立について、解説しました。

福岡県迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)とは

 盗撮行為につき性的姿態等撮影罪が成立しない場合であっても、各都道府県が定める迷惑行為防止条例において規定されている「卑わいな言動」として、処罰の対象になる可能性があります。

 福岡県迷惑行為防止条例では、何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、「卑わいな言動」を行ってはならない、と規定されています(第6条第1項2号)。

 そのため、本件Aのように、「公共の場所」といえる陸上競技場で、女子選手の下半身をデジタルカメラでズーム撮影したという場合、その女子選手に恥ずかしい思いをさせたり、不安を覚えさせる「卑わいな言動」を行ったとして、福岡県迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)が成立する可能性があります。

 なお、Aは、「服の上から撮影するだけでは罪にならないと思っていた」と供述していますが、刑法第38条第3項で、法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない、と規定されているため、罪の成立は妨げられないこととなります。

盗撮行為を罪に問われた場合の刑事弁護

 福岡県迷惑行為防止条例違反(盗撮、卑わいな言動)の法定刑は、常習でない場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金ですが、性的姿態等撮影罪の法定刑は、未遂犯を含めて、3年以下の拘禁刑(施行までは懲役刑)又は300万円以下の罰金と、大きな開きがあります。

 福岡県迷惑行為防止条例違反(盗撮、卑わいな言動)で逮捕された場合、初犯であり、被害者との示談が成立すれば、不起訴処分を獲得できる可能性が高かったのですが、厳罰化された性的姿態等撮影罪においては、同様に不起訴処分を獲得できるとは必ずしも限らない可能性があります。

 盗撮行為に関する処罰規定は大幅に改正されたばかりということもあるため、盗撮行為を罪に問われた場合、今後どのような手続で事件が進み、どの程度の刑罰が科される可能性があるのか、刑事事件に強い弁護士に相談されることをお勧めします。

福岡県の刑事事件に関するご相談は

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、性犯罪を含む刑事事件を多数取り扱い、新法制定前の福岡県迷惑防止条例違反事件において、身体拘束からの解放示談成立による不起訴処分を獲得している実績が多数あります。

 盗撮行為を行ったとして、ご家族が逮捕されるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部へご相談ください。

【事件解説】陸上大会で女子選手の下半身を撮影し逮捕(前編)

2023-10-17

 高校生の陸上競技大会で女子選手の下半身を撮影したとして、福岡県迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)で逮捕された事件とその弁護活動について、前編・後編に分けて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

事件概要

 福岡市内であった高校生の陸上競技大会で女子選手の下半身を撮影したとして、同市内在住の男性Aが、福岡県迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)の容疑で逮捕されました。
 福岡県中央警察署の調べによると、Aは、福岡市内であった高校生の陸上競技大会で、10代の女子選手の下半身をデジタルカメラでズーム撮影していたところ、それに気付いた選手の保護者が警察に通報しました。
 Aは、「服の上から撮影するだけでは罪にならないと思っていた」と、供述しているとのことです。
(実際の事件に基づき作成したフィクションです。)

性的姿態等撮影罪の成立について

 令和5年7月13日に施行された「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(「性的姿態撮影等処罰法」)により、従来、各都道府県の迷惑行為防止条例違反として処罰されていた盗撮行為は基本的に、「性的姿態等撮影罪」(同法2条1項)として、全国一律での処罰の対象となりました。

 本件Aの盗撮行為につき、性的姿態等撮影罪が成立するでしょうか。

 同罪では、「性的姿態等」正当な理由がなくひそかに撮影する行為を、一定の例外を除き処罰すると定めています。
 この「性的姿態等」の対象として、(1)人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部)、又は(2)人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を覆っている部分、と規定されています(同法2条1項1号イ参照)。
 スカートの中の下着を盗撮するような、性的姿態等撮影罪が成立し得る典型的な例とは異なり、衣服の上からの撮影にとどまる場合は、通常、「性的姿態等」の撮影に該当しないと考えられます。

 本件Aは、陸上競技のユニフォームを着た女子選手の下半身の撮影ということであり、透視機能付きカメラでもなく、大腿部の撮影とユニフォームの上からの臀部の撮影にとどまるものであれば、性的姿態等撮影罪が成立する可能性は低いと考えられます。

 なお、性的姿態等撮影罪には未遂犯の処罰規定があるため、「性的姿態等」を撮影しようとしていたと認められる場合は、未遂犯として処罰される可能性があります(同法2条2項)。

次回の後編では、福岡県迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)について、解説します。

盗撮行為を罪に問われた場合の刑事弁護

 福岡県迷惑行為防止条例違反(盗撮、卑わいな言動)の法定刑は、常習でない場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金ですが、性的姿態等撮影罪の法定刑は、未遂犯を含めて、3年以下の拘禁刑(施行までは懲役刑)又は300万円以下の罰金と、大きな開きがあります。

 福岡県迷惑行為防止条例違反(盗撮、卑わいな言動)で逮捕された場合、初犯であり、被害者との示談が成立すれば、不起訴処分を獲得できる可能性が高かったのですが、厳罰化された性的姿態等撮影罪においては、同様に不起訴処分を獲得できるとは必ずしも限らない可能性があります。

 盗撮行為に関する処罰規定は大幅に改正されたばかりということもあるため、盗撮行為を罪に問われた場合、今後どのような手続で事件が進み、どの程度の刑罰が科される可能性があるのか、刑事事件に強い弁護士に相談されることをお勧めします。

福岡県の刑事事件に関するご相談は

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、性犯罪を含む刑事事件を多数取り扱い、新法制定前の福岡県迷惑防止条例違反事件において、身体拘束からの解放示談成立による不起訴処分を獲得している実績が多数あります。

 盗撮行為を行ったとして、ご家族が逮捕されるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部へご相談ください。

【事例解説】覚醒剤使用事件における別件逮捕の違法性(後編)

2023-10-14

 前回に引き続き、軽犯罪法違反(凶器携帯)の容疑で逮捕中に行われた強制採尿により、覚醒剤取締法違反(使用)の容疑で逮捕された架空の事件を参考に、覚醒剤使用事件における別件逮捕の違法性とその弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

参考事件

 福岡市在住の自営業男性A(32歳)が深夜、同市中央区中洲の路地に佇んでいたところ、巡回中の福岡県中央警察署の警察官Pに気づき慌てた様子で立ち去ろうとしました
 PはAを呼び止め、Aの様子から覚醒剤使用の疑いがあると考え、職務質問を行ったところ、Aは氏名や住所を明らかにしませんでした。
 また、PはAの承諾を得て所持品を検査したところ、覚醒剤などの薬物は発見できませんでしたが、ポケットに刃渡り5.5センチメートルのカッターナイフを所持していたことから、軽犯罪法違反(凶器携帯)の容疑でAを現行犯逮捕しました。
 警察署で取調べを行ったPは、Aに任意での尿検査を提案しましたが応じなかったため、令状により強制採尿したところ、覚醒剤の陽性反応が出たことにより、Aは覚醒剤取締法違反(使用)の容疑で逮捕されました。
(事例はフィクションです。)

前回の前編では、軽犯罪法違反での逮捕について解説しました。

別件逮捕の違法性について

 別件逮捕とは、警察等の捜査機関が本来目的としている事件(「本件」)の取調べなどを行うことを狙いとして、逮捕の要件を充たす、別の軽微な事件(「別件」)で被疑者を逮捕することとされます。
別件逮捕の問題点として、(1)身体拘束に関する令状主義(憲法第33条、刑事訴訟法第199条)を実質的に犯すものであること、(2)厳格な定めのある身体拘束期間(刑事訴訟法第203条以下)を潜脱するものであること、が指摘されます。

 (1)について、逮捕による身体拘束は被疑者の人権の重大な制約であることとの均衡から、逮捕の要件を充たすかは、被疑事実ごとに裁判官の逮捕状発付の手続き(司法審査)を受けなければならないにも関わらず、別件逮捕によれば、本件について全く司法審査を経ることなく、実質的に本件による逮捕を行うことができるという問題があります。

 (2)について、再逮捕・再勾留による例外を除き、1つの被疑事実における逮捕・勾留による身体拘束期間は、最長23日間と厳格に定められているにもかかわらず、別件逮捕によれば、実質本件のために、最長46日間の身体拘束を行うことができるという問題があります。

 よって、本件取調べ目的での別件逮捕は違法と解すべきですが、本件取調べ目的の有無は、捜査機関の主観の問題であるため、(ア)別件での逮捕の必要性の程度、(イ)本件と別件との関連性(被害者、犯行日、犯行態様、法定刑の軽重等)、(ウ)逮捕後の取調状況(取調べ時間の比率等)、(エ)本件についての捜査状況、などの客観的資料から事後的に判断することになると考えられます。

覚醒剤使用事件で別件逮捕が行われた場合の弁護活動

 覚醒剤使用が疑われる事件においては、被疑者が任意採尿に応じない場合、裁判官の強制採尿令状を得られるまでの間、被疑者を身体拘束する法的な根拠がないことなどから、被疑者を実質的に拘束する手段として別件逮捕が行われ、別件逮捕の違法性が争われる事例が見受けられます。

 別件逮捕の違法性が認定されたことにより、違法な別件逮捕による身体拘束を利用して得られた証拠の証拠能力が否定された結果、無罪となった裁判例が数多くあります。

 他方で、別件逮捕の違法性を認定しつつも、得られた証拠の証拠能力までは否定せず有罪とされた裁判例もあるため、公判で別件逮捕の違法性を主張することにより無罪を争うことは容易ではありませんが、弁護人が、起訴される前の段階で検察官に対し、別件逮捕の違法性を十分な説得力をもって主張することで、検察官が不起訴処分を選択する可能性を高めることができると考えられます。

福岡県の刑事事件に関するご相談は

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件に強く、覚醒剤使用などの薬物事件で、不起訴処分を獲得した実績があります。
 ご家族が覚醒剤使用の容疑で逮捕されるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部にご相談ください。

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