玄関ドアをバットで叩いて建造物損壊罪
建造物損壊罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
福岡県小郡市に住むAさんは伯父の葬式に参列しましたが、かねてから不仲であった実父Vさんが葬式に参列していないことに不満を募らせていました。そこで、AさんはVさんを葬式に連れてこようと思い、葬式を途中で抜け出し、車を運転取り外してVさんが住む市営住宅まで行きました。Aさんは駐車場に車を停め、5階建て市営住宅の1階「101号室」の玄関ドア前に立って玄関ベルを鳴らしたもののVさんは出てきませんでした。Aさんは部屋の明かりが点いていることから「居留守をつかわれている」と思ってますます腹が立ち、車のトランクに載せていた鉄製の野球バットを持ってきて再度玄関ベルを鳴らしましたが、やはりVさんは出てきませんでした。そこで、Aさんは右手に持っていた野球バットを振り上げ、Vさん宅の玄関ドアに向かって勢いよく振りかざしました。すると、ドスンという音が辺りに鳴り響きました。しかし、Aさんはこれにかまわず、同様の行為を3、4回繰り返し、玄関ドアを凹損させました。結局、Vさんは玄関に出てきませんでしたが、Aさんは110番通報を受け現場に駆け付けた福岡県小郡警察署の警察官に建造物損壊罪の疑いで準現行犯逮捕されてしまいました。逮捕の知らせを受けたAさんの妻が、弁護士にAさんとの接見を依頼しました。
(フィクションです。)
~ 建造物損壊罪 ~
建造物損壊罪は刑法260条に規定されています。
刑法260条
他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処する。よって、人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処する。
「他人の」とは、他人所有のという意味です。「建造物」とは、屋蓋を有し、障壁又は柱材で支持されて土地に定着し、その内部に人が出入りできる構造を持つ家屋その他これに類する工作物をいうとされています。
もちろん、建造物の一部を損壊した場合でも本罪に問われますが、そのものが建造物の一部なのか、あるいは器物損壊罪(刑法261条)の「器物」なのか問題となることがあります。本件では、玄関ドアが建造物の一部なのか「器物」なのか問題となりえるところです。
この点、「建造物」と「器物」とは、容易に取り外しが可能か否かで区別するのが通説・判例です。壁板は毀棄しなければならず、取り外しが容易でないことから「建造物」に当たります。。他方、雨戸、畳、建具は工具等を使えば容易に取り外しが可能であることから「建造物」ではなく「器物」に当たります。
では、本件の玄関ドアはどうでしょうか?
同様の事案で、弁護人は、
玄関ドアは、適切な工具を使用すれば容易に取り外しが可能であって、損壊しなければ取り外すことができないような状態にあったとはいえないから、器物損壊罪が成立するに過ぎない
と主張したのに対し、最高裁判所は、
建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体に当たるか否かは、当該物と建造物との接合の程度のほか、当該物の建造部における機能上の重要性をも総合考慮して決すべきものであるところ、(略)、本件ドアは、住居の玄関ドアとして外壁と接続し、外界との遮断、防犯、防風、防音等の重要な役割を果たしているから、建造物損壊罪の客体に当たるものと認められ、適切な工具を使用すれば損壊せずに同ドアの取り外しが可能であるとしても、この結論は左右されない
と判示しています(建造物損壊罪の成立を認めています)。
そのほか、「損壊」とは、建造物・艦船の実質を毀損すること、又はその他の方法で、それらの使用価値を滅却し、あるいは減損することをいいます。物理的に形態を変更又は滅却させる場合だけでなく、事実上その本来の用法・効用に従い使用することができない状態に至らせる場合も含まれます。
~ 器物損壊罪 ~
すでに出てきた器物損壊罪は刑法261条に規定されています。
刑法261条
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
器物損壊罪の法定刑は「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」であるのに対し、建造物損壊罪は「5年以下の懲役」と罰金刑以下の刑の規定がありません。
器物損壊罪は、起訴するにあたり、告訴を必要とする親告罪です。
他方、建造物損壊罪は非親告罪です。つまり、建造物損壊罪の場合、被害届や告発状によっても捜査を受けたり、起訴されたりする可能性があります。
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