【財産事件】占有の概念②
財産事件における占有の概念について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
福岡県新宮町に住むAさんは、自宅まで帰る脚に困っていたため、道端に放置されてあった自転車に乗って自宅に帰宅し、自転車はとりあえず自宅の庭に停めておきました。すると、翌日、Aさんは自宅に福岡県粕屋警察署の警察官の訪問を受け、警察官から「庭に停めてある自転車はあなたのものかい?」と尋ねられました。Aさんは、警察官に「すみません、勝手に乗って帰ったものです。」と言ったところ、窃盗罪の被疑者として警察署で事情を聴かれることになりました。Aさんは逮捕されることはありませんでしたが、今後のことが不安になったため、今後の対応などについて弁護士に相談することにしました。
(フィクションです。)
~ 前回のおさらい ~
前回の「刑法における占有の概念」では
・刑法における「占有」の概念の重要性
・占有の意義(物に対する事実上の支配力)
・占有が認められる具体例(被害者が現実に把持している場合、被害者が現実に把持していない場合(自宅内))
についてご紹介しました。
今回は、
・占有が認められる具体例
の続きからご紹介します。
~ 具体例③(被害者が現実に把持していない場合(自宅外)) ~
たとえば、駅構内のトイレ内に置き忘れられている財布を盗んだ、という場合です。
財布の持ち主は置き忘れてから約3分後、トイレに戻りましたがそのときすでに盗まれていました。
ただ、このように、被害者の自宅、その他被害者が排他的に管理・支配する場所以外でも、支配力が及ぶと認められる財物については、意識して財物を置いた場合であると、一時的にそこに置き忘れた場合であるとを問わず占有が認められるのが一般です。
この点、確かに、駅のトイレは被害者が排他的に管理・支配する場所、とはいえませんが、被害者は置き忘れてから約3分後という短時間で財布を置き忘れたことに気づきトイレに取りに戻っていることからすると、財布に対する被害者の支配力はいまだ失われていない、というべきでしょう。
したがって、この財布を盗った場合は窃盗罪に問われる可能性があります。
また、もともとの被害者の支配力が失われたとしても、別の者の排他的な管理・支配下に置かれたと認められる場合は、その別の者に占有が認められます。
たとえば、上記の財布が駅の落とし物係に届けられた場合は、その落とし物係の責任者に占有が移ります。
~ 死者の占有 ~
では、死者には占有は認められるでしょうか?
死者には占有の意思も事実も認められず、物に対する支配力は認められなさそうです。
= 物を盗る目的で人を殺害し物を盗った場合 =
この場合は被害者の生前有していた占有を殺害=奪取という一連の行為によって侵害し、これを自己の占有に移すものであると解し、死者の占有を認め、強盗殺人罪(刑法240条後段、死刑又は無期懲役)の既遂を認めるのが通説・判例(大判大2年10月21日など)。
= 人を死亡させた後に、物を盗る意思が生じ物を盗った場合 =
この点については様々な説がありますが、
被害者の生前有していた占有は、死亡と時間的・場所的に近接した範囲内である限り、なお継続している
と考えるのが妥当ですし、判例(最判昭41年4月8日)も同様の考え方をしています。
= 人の死亡と無関係な人が物を盗った場合 =
この者との関係では、死者の占有は失われているといえます。
したがって、この場合、窃盗罪ではなく占有離脱物横領罪(刑法254条、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料)が成立します。
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