養護者による高齢者虐待②
高齢者虐待について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
会社員のAさん(55歳)は、重度の認知症の母親Vさん(83歳)と福岡県春日市内のアパートで二人暮らしでした。Aさんは、10年程前から認知症だった母親を一人で支えてきましたが、日に日に病状が悪化する母親を介護しつづけるのも我慢の限界に達しようとしていました。Aさんは、日頃から母親の介護に対するストレスを抱え込むようになり、趣味のパチンコをする他ストレスを吐き出すはけ口を見失い、母親に対し、殴る、蹴るの暴力を繰り返すようになりました。また、Aさんはケアマネジャーの勧めにかかわらず介護サービスを利用しようともせず、食事も一日一回だけコンビニ弁当を買い与えるだけという生活のため、Vさんの健康状態は寝たきりに近い状態まで悪化してしまいました。そうしたところ、ケアマネジャーがAさんがパチンコに行っている間、Aさん宅を訪問した際、Vさんの異変に気づき、Vさんが高齢者虐待を受けて生命及び身体に危険が生じていると判断し、高齢者虐待防止法により市町村に通報しました。その後、Aさんは立入り調査を受け、事態を重く見られ、春日警察署に保護責任者遺棄罪の容疑で逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
~ はじめに ~
先日の、養護者による高齢者虐待①では、高齢者虐待が増加していることや高齢者虐待の定義、高齢者虐待の中でも「身体的虐待」が多いことなどをご紹介しました。本日は、高齢者虐待の種別(身体的虐待、介護等放棄、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待)ごとにどんな罪に問われうるのかみていきたいと思います。
ところで、高齢者虐待法では、高齢者虐待に当たる行為に対する処罰・罰則を設けていませんから、刑法上の罪に問われることはあっても高齢者虐待防止法で処罰されることはありません。ちなみに、高齢者処罰防止法では、正当な理由なく、地域包括支援センターの職員等の立ち入り調査を拒むなどしたり、職員等の質問に答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした場合などに、30万円以下の罰金に処する旨規定しています。
~ 身体的虐待 ~
身体的虐待とは、高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること、をいいます。
・殴る
・蹴る
・無理矢理食事を口に入れる
・どこかに拘束する・監禁する
などの行為がこれに当たります。
刑法上は、暴行罪(刑法208条、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)、傷害罪(刑法204条、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)、強要罪(刑法223条、3年以下の懲役)、逮捕・監禁罪(刑法220条、3月以上7年以下の懲役)、逮捕・監禁致傷罪(刑法221条、3月以上15年以下の懲役)に問われる可能性があります。さらに、高齢者を死亡させた場合は、傷害致死罪(刑法205条、3年以上の有期懲役)、逮捕・監禁致死罪(刑法221条、3年以上の有期懲役)に問われる可能性があります。
~ 介護等放棄 ~
介護等放棄とは、高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人による身体的虐待、心理的虐待、性的虐待と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること、をいいます。
・食事を与えない
・入浴させない
・オムツを取り替えない
などの行為がこれに当たります。
刑法上は、保護責任者遺棄等罪(刑法218条、3月以上5年以下の懲役)に問われる可能性があります。さらに、介護等放棄によって、高齢者を死傷させた場合は保護責任者遺棄等致死傷罪(刑法219条、死亡の場合、3年以上の有期懲役、傷害の場合、3月以上15年以下の懲役)に問われる可能性があります。また、介護等放棄は、「養護者以外の同居人による身体的虐待、心理的虐待、性的虐待と同様の行為の放置等」も含まれますから、養護者以外の同居人が犯した刑法上の罪の共犯(共同正犯、教唆犯、幇助犯)に問われる可能性もあります。
~ 心理的虐待、性的虐待、経済的虐待 ~
心理的虐待とは、高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと、をいいます。
刑法上は、名誉棄損罪(刑法230条、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金)、侮辱罪(刑法231条、拘留又は科料)、場合によっては脅迫罪(刑法222条、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金)に問われる可能性があります。
性的虐待とは、高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること、をいいます。
刑法上は、強制わいせつ罪(刑法176条、6月以上10年以下の懲役)、準強制わいせつ罪(刑法178条1項、6月以上10年以下の懲役)、強制性交等罪(刑法177条、5年以上の有期懲役)、準強制性交等罪(刑法178条2項、5年以上の有期懲役)に、さらにその際、高齢者に怪我をさせたり、高齢者を死亡させた場合は強制わいせつ致死傷罪(刑法181条1項、無期又は3年以上の懲役)、強制性交等致死傷罪(刑法181条2項、無期又は6年以上の懲役)に問われる可能性があります。
経済的虐待とは、養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること、をいいます。
・高齢者の現金(お金)を勝手に使う
・高齢者のクレジットカードを利用して決済する
などの行為がこれに当たります。
刑法上は、窃盗罪(刑法235条、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)、詐欺罪(刑法246条、10年以下の懲役)、横領罪(刑法252条1項、5年以下の懲役)、業務上横領罪(刑法253条、10年以下の懲役)に問われる可能性があります。
~ 刑事裁判になったら?? ~
高齢者虐待は絶対に許される行為ではありません。しかし、それに至るまでの経緯やそれに至った理由などは人それぞれ異なり、それぞれの事情を詳細にみていくと、一概に、養護者を非難できない事情もあると思います。仮に、上記の罪で刑事裁判に至ってしまった場合は、そうした事情を裁判で明らかにし、適切な量刑を獲得すべく努めなければなりません。
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