少年事件と国選弁護人,国選付添人
少年A君(19歳)は,オレオレ詐欺によって騙されたお年寄りからお金を受取り,それを指定されたところに持って行くという「受け子」のアルバイトをしていました。ところが,ある日,A君は受け渡し現場で,福岡県柳川警察署の警察官に詐欺罪で逮捕されてしまいました。その後,A君には勾留決定が出て,柳川警察署の留置施設へ収容されました。勾留の間,A君には国選弁護人が選任されました。そして,20日間が経過した後,事件は検察庁から家庭裁判所へ送致されました。その際,家庭裁判所の観護措置決定が出て,A君の身柄は柳川警察署から大阪少年鑑別所に移されました。通知を受けたA君の両親は,引き続き国選弁護人が弁護を担当してくれるだろうと思っていましたが,どうやら国選では弁護人(付添人)が選任されていないようでした。そこで,A君の両親は,息子の刑事弁護を担当してくれる少年事件に強い弁護士を探すことにしました。
(フィクション)
~ はじめに ~
身柄拘束は肉体的にも,精神的にも大きな負担となるものです。特に,精神的に未熟な少年(少年法では20歳未満の者)にとってはなおさらでしょう。そこで,少年事件では,少しでもその負担を軽減すべく,弁護士が果たす役割は大きいのではないでしょうか?そこで,このコラムでは,特に少年事件と国選弁護人,国選付添人を中心に解説していきたいと思います。
~ 捜査段階(逮捕から勾留)までにおける国選弁護人 ~
捜査段階では,成人(20歳以上の者)と少年とで選任の要件が異なるわけではありません。つまり,成人の事件の場合も,少年の事件の場合も,
・被疑者に勾留状が発せられ
・被疑者が困窮その他の事由により弁護人を選任することができず
・被疑者の請求があるとき
には,国選弁護人が選任されます。
* 国選弁護人は逮捕段階では選任されない *
逮捕後の刑事手続としては「逮捕→勾留」という手続で進んでいきますが,国選弁護人は勾留(勾留状発布後)後でなければ選任されません。つまり,勾留前の逮捕期間中は選任されません。したがって,逮捕段階での接見,早めの弁護活動などをお望みの場合は当番弁護士制度を利用するか,私選の弁護人を選任する必要があります。
~ 家裁送致後の国選付添人 ~
家庭裁判所送致後,少年のための弁護活動をする弁護士のことを「付添人」といいます。付添人も「私選」の場合と「国選」の場合の2種類があります。
「私選」の場合,少年及び保護者が,いつでも選任することができます。選任する場合は,「付添人選任届(少年と弁護士との連署によるもの)」という届出書を家庭裁判所へ提出する必要があります。
「国選」の場合,裁量的国選付添人と必要的国選付添人とで選任される要件が異なってきます。
= 裁量的国選付添人 =
裁量的国選付添人は,
・死刑又は無期もしくは長期3年を超える懲役もしくは禁錮に当たる罪(以下,対象事件という)に該当する非行に及んだこと
・観護措置が取られていること
・少年に付添人がいないこと
・事案の内容,保護者の有無その他の事情を考慮し,審判の手続に弁護士である付添人が関与する必要があると認められること
の事由が認められる場合に選任されることができるとされている付添人です。
この点,詐欺罪は,法定刑が「10年以下の懲役」ですから,「長期3年を超える懲役に当たる罪」に当たりますし,A君は観護措置決定により少年鑑別所に収容されています。そこで,「少年に付添人がいないこと」,「事案の内容,保護者の有無その他の事情を考慮し,審判の手続に弁護士である付添人が関与する必要があると認められること」の要件を満たせば国選付添人が選任される可能性があります。
= 必要的国選付添人 =
必要的国選付添人は
・対象事件のうち,審判の手続に検察官の関与が必要とされた事件
・被害者等による少年審判の傍聴を許そうとする事件
に必ず選任される付添人です。非行事実に争いのある場合や,重大事件などで選任されやすいといえます。
* 家裁送致されたら国選弁護人の効力が失われる? *
少年や保護者の中には,「家裁送致後,国選弁護人だった弁護士に引き続き国選付添人として選任したい,頼みたい」と思われる方も多いと思われます。
しかし,少年法(42条2項)では,被疑者国選弁護人選任の効力については家裁送致によって失われるとされています。また,少年や保護者には,被疑者国選弁護人と同一人物を国選付添人として選任するよう請求する権利はありません。さらに,上記でご紹介したように,国選弁護人と国選付添人の選任の要件が異なります。ですから,捜査段階(被疑者段階)で国選弁護人が選任されているからといって安心はできません。
詳しくは,すでに選任されている国選弁護人に予め相談しておくか,家裁送致後,あるいはその前に私選の付添人を選任する手続を進めておく必要があります。
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