新元号と詐欺

新元号と詐欺

北九州市八幡西区に住むAさんは、実在する銀行名の印判を封筒に押印し、封筒の中に「新元号による銀行法改正に伴う、キャッシュカードの変更手続について」と題する葉書を入れ、同区内に住む一人暮らしの高齢女性Vさん(78歳)宛に送りました。葉書の具体的な内容としては、「キャッシュカードの変更が必要なので、カードと暗証番号を教えて欲しい」「キャッシュカードと暗証番号を書いた返信用の葉書を同封の返信用封筒に入れて返送して欲しい」というものでした。Aさんは、すっかり騙されたVさんからキャッシュカードと暗証番号が書かれた葉書を受け取り、それを使ってVさん名義の口座から現金100万円を引き出しました。その後、Aさんは、Vさんからの被害届で捜査を進めていた福岡県八幡西警察署の警察官に詐欺罪と窃盗罪で逮捕されてしまいました。

(フィクションです)

~ 新元号と詐欺 ~

国民生活センターや金融庁は、

事業者団体や銀行等の金融機関、警察が暗証番号を尋ねたり、キャッシュカードや通帳を送るように指示したりすることは一切ありません。電話や訪問をされたり、書類が届いたりしても、絶対に口座情報や暗証番号等を教えたり、キャッシュカード、通帳、現金を渡したりしないでください。

などと新元号に伴うキャッシュカードや暗証番号の騙し取りによる詐欺に注意を呼び掛けています。

~ 立派な詐欺罪 ~

ところで、詐欺罪は刑法246条に

人を欺いて財物を交付させた者は,10年以下の懲役に処する。

と定められています。
つまり、詐欺罪が成立するには、まず、相手方を騙す行為(欺罔行為)が必要なのですが、本件では

新元号に伴うキャッシュカードの変更が必要だ

などという封書を送りつける行為が詐欺罪の欺罔行為に当たります。そして、それによってVさんはキャッシュカードと暗証番号を書いた葉書を返送していますから、Vさんは欺罔行為によって「騙された」といえます。なお、欺罔行為により取得した財物はVさん名義の「キャッシュカード」ということになります。

~ 銀行に対する窃盗罪 ~

なお、騙し取ったキャッシュカードを使ってATMから現金を引き出す行為について、従前は詐欺一罪とする裁判例もありましたが、現在では銀行に対する窃盗罪が別個に成立するとされています(東京高判昭55年3月3日、最決平14年2月8日)。

~ 新元号詐欺と身柄拘束 ~

新元号詐欺は組織的に行われている可能性が高いと思われます。したがって、捜査機関に発覚すれば、他の共犯者と通謀するなどして罪証隠滅のおそれあると判断され、逮捕、勾留される可能性が高いでしょう。また、勾留されれば、長期的な拘束を覚悟しなければなりません。

弁護人としてできることは、まずは被害者と示談交渉を進め、可能であれば被害届を取下げていただくよう働きかけます。被害者が被害届を取下げていただければ刑事処分は不起訴(起訴猶予)となる可能性が極めて高く、その結果早期釈放も実現できるからです。示談交渉が進まない、被害者が被害届を取下げてくれないという場合は、勾留裁判に対する準抗告や勾留取消請求、保釈請求などの法的手段を使って早期釈放に努めます。

~ 本件の行方 ~

検察官が刑事処分を決める前に被害者と示談が成立し、被害者に被害届を取下げていただければ不起訴(起訴猶予)の可能性も十分あるでしょう。仮に、起訴された場合の量刑ですが、詐欺罪の場合、被害額が100万円以下か以上かが執行猶予か否か(実刑か)をわける目安となります。ただし、量刑は被害額だけでなく、犯行態様、犯行動機、反省の度合い、再犯可能性のおそれなどの事情を考慮して決められます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,詐欺罪などの刑事事件・少年事件を専門の法律事務所です。お困りの方は,まずはお気軽に0120-631-881までお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間体制で受け付けております。

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