強要罪と執行猶予
福岡県大川市に住むAさんは,福岡県筑後警察署に強要罪で逮捕され,その後起訴されました。まさか起訴されるとは思っていなかったAさんのご両親でしたが,Aさんが5年前に犯した暴行罪で罰金刑を受けていることから,今度は裁判で執行猶予を獲得できるのか,刑事事件に強い弁護士に相談しました。
(フィクションです)
~ 執行猶予とは ~
皆さんもご存知のように,執行猶予とは,その罪で有罪ではあるが,言い渡された刑(懲役刑,罰金刑)の執行を一定期間猶予する(見送る)ことをいいます。たとえば,懲役刑を受けた方であれば,刑の確定後,猶予期間中に犯罪などしなければ刑務所に入らなくて済みますし,罰金刑を受けた方であれば,罰金を納付する必要はありません。
= 執行猶予を受けるための要件 =
執行猶予を受けるための要件は,刑法25条1項に規定されています。
刑法25条1項
次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは,情状により,裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間,その刑の全部の執行を猶予することができる
1号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を受けた日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
つまり,執行猶予を受けるには
1 3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けること
2 上記1号,あるいは2号に該当すること
3 (執行猶予付き判決を言い渡すのが相当と認められる)情状があること
が必要ということになります。
= 強要罪ではどうか? =
* 上記1の点 *
まず,上記1からすると,執行猶予を獲得する可能性があるかどうか,その可能性はどの程度のものかどうか知るには,犯した罪について定められている刑(法定刑)を確認する必要があります。
この点,強要罪は刑法223条に規定があります。
刑法223条1項
生命,身体,自由,名誉若しくは財産に対して害を加える旨を告知して脅迫し,又は暴行を用いて,人に義務のないことを行わせ,又は権利の行使を妨害した者は,3年以下の懲役に処する。
これからすると,強要罪だけで処罰される場合は,3年以上の懲役に処せられることはありませんから,上記1の要件を満たすことになります。
* 上記2の点 *
「前に」とは,執行猶予判決を言い渡される前にという意味です。「禁錮以上の刑に処せられた」とは,禁錮以上の刑を言い渡した判決確定したことをいうのであって,その確定判決の執行を受けたことを意味しませんから,刑の執行を猶予された場合も含まれます。つまり,刑法25条1項1号の「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」とは,
・なんら前科のない人
・前科があっても罰金刑(実刑,執行猶予付きを含む)以下の前科を有する人
を意味することになります。なお,裁判を受けたものの無罪判決を獲得し,その裁判が確定した人も「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」に含まれることはいうまでもありません。Aさんの場合,前科こそ有するものの,その内容とは罰金刑ということですから,刑法25条1項1号の「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」に当たります。
* 上記3について *
「情状」は,犯罪そのものに関する情状(犯情)とその他の一般情状に区別されます。犯情とは,犯行動機・態様,被害結果などの要素があり,犯行が終わった後ではいかんともしがたい事実です。他方,一般情状とは,
・被害弁償(示談)の有無,被害感情
・被告人の反省の有無
・反省の態度,更生可能性(被告人の更生意欲や家族等の支援,就職先の確保等),再犯可能性(前科前歴の有無,常習性の有無,犯行原因の消滅等)
などの要素があります。
~ 執行猶予を獲得するためには? ~
執行猶予を獲得するためには,上記1から3の要件を満たさなければならないことはお分かりいただけたと思いますが,上記1,2については弁護活動によってもどうすることもできません(前科があったことをなかったとすることはできません)。他方で,上記3の情状,特に一般情状に関する事実については,犯行後,逮捕後,起訴後でも弁護活動によって有利にもっていくことが可能です。
例えば,被害者との示談交渉がその一例でしょう。示談交渉によって,上手く示談を成立させることができれば,被告人に有利な情状として認められ(上記3の要件に該当し),執行猶予を獲得できる可能性は高まるといえるでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,強要罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。刑事事件での執行猶予獲得をお考えの方は,フリーダイヤル0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。