収賄罪と没収・追徴
収賄罪と没収・追徴について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
福岡県のある町長Aさんは、下水道事業の実施設計業務委託の入札で、非公表の最低制限価格を業者らに教えて落札させ、1件につき150万円を受け取った受託収賄罪で逮捕、起訴されました。そして、Aさんは、福岡地方裁判所で懲役2年、没収1千万円、追徴75万円の判決の言い渡しを受けました。
(事実を基に作成したフィクションです。)
~ 収賄罪について ~
収賄罪は、公務員が職務に関して賄賂を収受し、またはその要求や約束をした場合などに成立する罪です。
公務員が「全体の奉仕者」(憲法15条2項)であることから、職務の公正中立それに対する社会一般の信頼を保護するために規定されています。
刑法197条は、①単純収賄罪、②受託収賄罪、③事前収賄罪の3つを規定しています。
刑法197条
1 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲 役に処する。
2 公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において、五年以下 の懲役に処する。
1の前段が①単純収賄罪、1の後段が②受託収賄罪、2が③事前収賄罪(公務員と「なろうとする者」が犯罪の主体)に関する規定です。
「賄賂」とは、公務員の職務に関する行為に対する不正な報酬としての利益を意味します。その行為と職務行為又はその密接関連行為との間に対価関係が存することが必要です。ただし、賄賂の内容となりえる利益は、人の需要若しくは欲望を満足させることができるものであれば、有形・無形を問わないとされています。したがって、謝礼金がその典型ですが、菓子箱、金銭消費貸借契約による金融の利益、保証・担保の提供、飲食物の餐応、異性間の情交、就職の斡旋なども賄賂に当たります。
「職務に関し」とは、本来の職務行為に限らず、これと密接な関係のある行為に関する場合も含むと解されています。この点、判例(昭和31年7月12日)は、「公務員が法令上管掌するその職務のみならず、その職務と密接な関係を有するいわば準職務行為又は事実上所管する職務行為に関して賄賂を収受すれば刑法197条は成立する」としています。
「収受」とは、賄賂を取得することをいいます。
「要求」とは、賄賂の供与を求めることをいいます。相手方に要求に応じる意思がない場合でも賄賂要求罪は成立するとされています。
「約束」とは、両当事者間において賄賂の授受を合意することをいいます。約束罪は受け取る側と与える側の双方がいてはじめて成立します。
~ 没収とは ~
ところで、収賄事件の判決の際、「没収」という言葉をよく耳にされるかと思います。
この「没収」とは、物の所有権を剥奪して国庫に帰属させる財産刑のことをいいます。
つまり、収賄罪の場合、公務員が受け取った賄賂を強制的に国の物とするのです。
刑罰の種類について定めた刑法9条は、
死刑,懲役,禁錮,罰金,拘留及び科料を主刑とし,没収を付加刑とする
と規定しており、没収を刑罰の一種としています。
ここでいう「主刑」とは独立に言い渡すことができる刑罰のことで、「付加刑」とは主刑が言い渡された場合にそれに付加してのみ言い渡すことができる刑罰のことをいいます。没収は付加刑ですから、判決で没収だけを言い渡すことはできず、必ず懲役や罰金等の他の刑罰と一緒に言い渡されるのです。
~ 追徴とは ~
追徴は、没収物(犯罪によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪の報酬として得た物など)の没収に代えて、これと等価値の金員の納付を命じる処分です。
つまり、犯罪時に没収可能だったものが、事後的に法律上、事実上没収不能となった場合に認められる処分です。刑法19条の2にその規定が設けられています。
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