他人名義のクレジットカード使用で詐欺罪
Aさんは多額の借金を抱え,返済も滞りがちでした。そのため,自己名義のクレジットカードを使用することができない状態でした。しかし,物欲のあるAさんは,それでも以前から目をつけていた指輪(時価10万円)が欲しいという気持ちを抑えることができず,何とかしてこれを手に入れたいと思っていました。そこで,Aさんは,友人のBさんからBさん名義のクレジットカードを借り,これを使って宝石店Cで指輪を買うことにしました。Aさんからこの話を聞いたBさんは当初は断りましたが,「10万円分だけならいいよ」などと言って,渋々自己名義のクレジットカードをAさんに貸しました。
そして,Aさんは,宝石店Cに行き,Bさん名義のクレジットカードを店員Dに呈示するなどし,店員Dから指輪を受け取りました。ところが後日,Aさんは,福岡県糸島警察署の警察官から呼び出しを受け,詐欺罪で取調べを受けました。今後のことが不安になったAさんは,刑事事件に強い弁護士に無料法律相談を申込みました。
(フィクションです)
~ 詐欺罪(刑法第246条) ~
他人の財物をだまし取った場合には詐欺罪が成立します。
詐欺既遂罪が成立するには,①欺罔行為(=騙すこと)→②錯誤(=騙されること)→③錯誤に基づく処分行為(=財物を交付すること)→④財産的損害の発生,およびこれら①から④が一連の流れとして連結していることが必要です。
Aさんは,Bさん名義のクレジットカードを宝石店Cの店員に呈示して店員から指輪を受け取っていますが詐欺罪は成立するでしょうか。
= 欺罔行為 =
まず,AさんがB名義のクレジットカードを呈示する行為は①「欺罔行為」に当たるでしょうか。
宝石店Cとしては,クレジットカードの呈示さえあれば,それがAさんであろうがBさんであろうが問題はないようにも思えます。
しかしながら,クレジットカードは,その会員規約でカードの名義人以外の者による使用を禁止している場合がほとんどです。
これは,クレジットカードシステムがカードの名義人の支払い能力に対する信用を供与することを制度の根幹とするものであるからです。
そうすると,宝石店Cとしては,名義人以外の者によるクレジットカードの利用行為には応じないこととなっているのがほとんどですので,AさんがBさん名義のクレジットカードを呈示する行為は①「欺罔行為」に当たるでしょう。
= 錯誤,錯誤に基づく処分行為 =
Aさんの欺罔行為によって,結果的に,店員Dは指輪をAさんに渡しているわけですから,店員Dに②「錯誤」があったといえます。また,店員Dは,AさんがBさんではないと分かっていたならばAさんに指輪を渡すことはなかったと言えますから,③「錯誤に基づく処分行為」もあったといえます。
= 財産的損害の発生 =
宝石店Cは指輪をAさんに渡しているのですが,これにより④「財産的損害」が発生したといえるでしょうか。
そもそもクレジットカードシステムは,カード会社が利用者にカードを発行し,利用者は欲しい商品をクレジット加盟店(宝石店C)からカードで購入し,この代金をカード会社がクレジット加盟店に立替払いし,カード会社は利用者から立て替え払いした代金を受け取るという流れで商品・代金のやり取りが行われるものです。
そうすると,クレジット加盟店は,カード会社から商品代金の立替払いを受けられるわけですから,財産的損害は発生していないとも考えられそうです。
この財産的損害の考え方については諸説ありますが,裁判例は,
・クレジット加盟店が商品そのものを引き渡したことが財産的損害であると考える説
に立っているようです(福高昭和56年9月21日など)。
この考え方からすると,宝石店CはAさんに指輪を交付していますから,宝石店Cに④「財産的損害が発生」したということになります。
= まとめ =
以上より,Aさんには詐欺既遂罪が成立する可能性が高そうです。また,クレジットカード名義人(Bさん)からカードの利用を承諾されていたとしても,詐欺既遂罪が成立に影響はないものと思われます。この点につき,平成16年2月9日の最高裁判例が参考となります。
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