【事例解説】乗り捨てされた自転車の一時使用による占有離脱物横領罪(後編)

 前回に引き続き、共同住宅に乗り捨てされた放置自転車を一時的に使用したことで、占有離脱物横領罪で取調べを受けた架空の事件とその弁護活動ついて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

参考事件

 北九州市内の共同住宅に居住する自営業男性A(42歳)は、共同住宅の駐輪場に数日前から放置されている鍵の付いていない自転車を、近所のスーパーなどへの買い物で2時間程度、繰り返し使用するようになりました。
 いつもの通り自転車に乗って近所のスーパーに向かっていたとき、鍵の付いていない自転車を見て不審に思った警察官に呼び止められ、職務質問を受けました。
 警察の調べで、Aが使用していた自転車は、数日前に窃盗の被害に遭い乗り捨てられたものであることが判明し、Aは占有離脱物横領の容疑で警察の取調べを受けることとなりました。
(事例はフィクションです。)

前回の前編では、占有離脱物横領罪の成立について、「不法領得の意思」以外の要件を解説しました。

不法領得の意思とは

 不法領得の意思とは、窃盗罪や横領罪などの領得罪の成立において、不可罰的な一時使用行為や、罪質の異なる毀棄・隠匿罪との区別のために、故意と別個の主観的要件として必要とされるものです。
 窃盗罪の判例ですが、不法領得の意思の内容は、(1)所有者などの権利者を排除して他人の物を自己の物として振る舞う意思(権利者排除意思)と、(2)他人の物をその経済的用法に従い、利用又は処分する意思(利用・処分意思)、とされます。

 本件における占有離脱物横領罪の成立について、Aが自転車を、近所のスーパーなどへの買い物で2時間程度使用した行為に、(1)権利者排除意思や(2)利用・処分意思が認められるか問題となり、自転車の使用時間や使用方法、自転車自体の価値や使用に伴う価値の減少の程度、自転車の所有者の利用可能性の排除の程度、など様々な要素から判断されると考えられます。

 窃盗罪占有離脱物横領罪の裁判例では、乗り捨ての意思がなく元の場所に返還する意思をもって、短時間、他人の自転車を一時使用した行為について、不法領得の意思が認められないとして、罪の成立を否定したものもありますが、判例上明確な基準が確立されているわけではなく、自転車の一時使用で不法領得の意思を認めた裁判例もあります。

一時使用による占有離脱物横領罪の弁護活動

 不法領得の意思が認められないとして、占有離脱物横領罪の成立を争うことも可能ではありますが、早期に被害者との示談を成立させ不起訴処分での事件の終了を目指すことも、現実的な選択肢の一つと考えられます。

 本件における被害者は、自転車の所有者となります。所有者から自転車を窃盗した犯人が別にいるとはいえ、占有離脱物横領罪に係る自転車の使用によって、所有者が自転車を使用する権利が損なわれていることは間違いないため、これに対して謝罪と被害弁償を行う意味は十分にあると考えられます。

 弁護士であれば通常、示談交渉のために捜査機関から被害者の連絡先を教えてもらえると考えられ、刑事事件に強い弁護士であれば、しっかりした内容の示談が成立する可能性が見込まれ、不起訴処分で事件が終了する可能性を高めることが期待できます。

 また、本件では、取調べにおいて自転車の窃盗の容疑も追及される可能性も考えられますが、窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金と、占有離脱物横領罪と比べると重いため、取調べ対応について刑事事件に強い弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めします。

福岡県の刑事事件に関するご相談は

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は刑事事件に強く、占有離脱物横領罪などの財産犯の刑事事件において、示談成立による不起訴処分を獲得している実績が多数あります。
 占有離脱物横領罪で自身やご家族が警察の取調べを受けるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部へご相談ください。

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