余罪と身柄拘束の基本原則
余罪と身柄拘束の基本原則について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
福岡県古賀市に住むAさんは、Vさんの死体を川に遺棄したとして福岡県粕屋警察署に死体遺棄罪で逮捕、勾留されました。Aさんは逮捕直後からVさんを殺害したことは一貫して否認していましたが、Aさんの取調べを担当した刑事からは「お前がやったんだろう。」などと執拗にVさん殺害の件の余罪について追及を受けました。そして、勾留20日目、Aさんは死体遺棄罪の件では処分保留とされ釈放され、直後に殺人罪で逮捕・勾留されてしまいました。
(フィクションです。)
~ はじめに ~
この記事をご覧の方の中にも、マスコミの報道などで「余罪」という言葉を聞いたことがある方は多いのではにないでしょうか?そこで、今回は、まずこの「余罪」や身柄拘束の基本原則についてご説明することから始めたいと思います。
~ 余罪とは ~
余罪とは、現に疑いをかけられている事実(被疑事実、公訴事実)の罪以外の事実に関する罪で、同一人において同時訴追の可能性のあるものをいいます。
本件でいえば、
「AさんがVさんの死体を川に遺棄した」という事実に関する死体遺棄罪が「現に疑いをかけられている事実(起訴される前なので被疑事実)の罪」
で、それ以外の
「AさんがVさんを殺害した」という事実に関する殺人罪が「現に疑いをかけられている事実(被疑事実、公訴事実)の罪以外の事実に関する罪」であり「余罪」
に当たります。なお、法律上は、同一人において同時訴追の可能性のある罪、つまり起訴される可能性のある罪を「余罪」といい、その可能性すらないものは「余罪」には当たりません。
余罪は、本人の自供・自白から発覚するケース(自白先行型)もあれば、自供・自白以外から発覚するケースまで様々です。
~ 捜査の基本原則(事件単位の原則) ~
実務上、逮捕などの身柄拘束は被疑事実を単位(基準)としてなされています。これを事件単位の原則といいます(事件単位の原則に対して、逮捕などの身柄拘束を「人」を基準とする人単位説もあります。)。そこで、逮捕、勾留の要件(身柄拘束の理由、必要性)、勾留延長事由及び保釈事由の有無などの身柄拘束にかかる判断は、逮捕、勾留された事実に基づいて判断されます。
また、事件単位の原則を基準とすると、同一人につき、複数の事実で逮捕、勾留の競合が可能で、また、事実を異にして逮捕・勾留を繰り返すことができます(再逮捕・再勾留)。
~ 再逮捕の原則 ~
上記のように、再逮捕、再勾留は、前に逮捕、勾留された事実と異なる事実を基礎にできるのが原則です。死体遺棄罪の事実と殺人罪の事実は異なる事実と考えられるため、事例のように死体遺棄罪で逮捕・勾留された後、殺人罪で逮捕・勾留されることは基本的には問題ないと考えられます。
「異なる事実」での再逮捕、再勾留に限定されたのは、同じ事実で再逮捕、再勾留されるとなると、逮捕から48時間以内に事件を検察官へ送致、勾留の日は最大で20日間などと法律が厳格に定めた時間、日数制限を無視することになるからです。
ですが、例外的に、新たに新証拠が発見されたとか、新たな拘束の必要性が生じたなどの釈放後の事情変更により、重ねて逮捕・勾留することが合理的な必要性があり、それが不当な逮捕・勾留の蒸し返しにならない場合にのみ「同一事実」につき逮捕・勾留できるとされています。
今回は余罪と身柄拘束の基本原則についてご説明いたしました。次回は、余罪と諸問題に関しご説明いたします。
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