薬物事件の逮捕の現場
北九州市小倉北区に住むAさん(40歳)は、仕事を終え帰宅途中、福岡県小倉北警察署の警察官から職務質問を受けました。Aさんは、警察官からポケットの中など全て見せるよう。所持品検査を求められました(①)。Aさんは、ズボンのポケット内に大麻を入れていたことからこれを拒否しましたが、警察官から「拒否するなら令状持ってくるけど?」と言われました。そこで、Aさんは渋々、ポケットの中から大麻を取り出し、警察官に提出しました(②)。警察官の検査の結果、大麻であることが判明したため、Aさんは大麻取締法違反(所持罪)の現行犯で逮捕されてしまいました(③)。なお、大麻はその場で差し押さえられました(④)。
(フィクションです)
~ はじめに ~
事例は、よく覚せい剤や大麻などの薬物を持っている方に対する職務質問、所持品検査などの場面でみられる光景だと思います。その際の、警察官の行動に一つ一つ根拠がありますから、この機会に知っていただくべくご紹介いたします。
~ ①関係(職務質問) ~
職務質問は、
警察官職務質問執行法2条1項
に基づいて行われています。
警察官職務質問執行法2条1項
警察官は,異常な挙動その他の周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し,若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について,若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる
* 所持品検査 *
所持品検査については、これを認めた規定はありません。しかし、所持品検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげる上で必要性、有効性の認められる行為ですから、職務質問に付随して行うことができるとされています(最高裁昭和53年6月20日)。
~ ②関係(領置(任意提出)) ~
捜査は任意が原則です。この原則は、捜査機関が人、物を確保するときももちろん妥当します。警察官が物の確保を目的する捜査を行うときは、緊急性がある場合その他特別な事情がある場合のほかは、まずは対象者に任意に提出するよう求めます。そして、捜査機関は、任意に提出されたものは領置することができるとされています。「領置」とは、捜査上の必要に基づき物を占有する処分をいいます。この点に関しては、刑事訴訟法221条に規定されています。
刑事訴訟法221条
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる。
~ ③関係(現行犯逮捕) ~
現行犯逮捕については、刑事訴訟法212条1項、2項、213条に規定されていますが、このうち純粋な現行犯は1項を根拠とします。純粋なとは、現行犯人、つまり現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者をいいます。
刑事訴訟法212条1項
現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者を現行犯人とする。
刑事訴訟法213条
現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
~ ④関係(令状によらない差押え) ~
本来、人・物の発見(捜索),物の取得(差押え)は,個人のプライバシー侵害のおそれが大きいことから,裁判官が予め発する令状を取得して行わなければなりません(令状主義)。ところが、裁判官に令状発布を求めるには時間がかかります。もしかしたら、その間に大事な証拠を隠滅されてしまうかもしれません。そこで、刑事訴訟法は、被疑者を逮捕した場合において、その場で、令状なしの捜索、差押を認めています。
刑事訴訟法220条1項
(略)司法警察職員は,(略)被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは,左の処分をすることができる。(略)。
2号 逮捕の現場で差押,捜索又は検証をすること。
Aさんの大麻もこの規定に基づいて差し押さえられたことはお分かりいただけましたでしょうか?
~ おわりに ~
薬物事件においては、捜索現場で捜査機関とトラブルことがよくあり、その際の状況などが裁判の争点に発展することがあります。薬物事件でお困りの際は、弁護士へお気軽にご相談ください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。覚せい剤事件などの薬物事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。