通貨偽造罪は重たい罪

通貨偽造罪は重たい罪

少年A君は、千円札2枚の両面をカラーコピーした上で、ハサミなどで本物と同じ形に整え、これを中学校の売店の店員であるVさんに手渡しました。千円札を受け取ったVさんは違和感を感じ、学校へ報告。学校から通報を受けた福岡県筑紫野警察署が捜査したところ、千円札2枚は偽札だったことが判明しました。筑紫野警察署は、通貨偽造・同行使罪、詐欺罪で捜査を進めていますが、現在のところ犯人の特定には至っていません。
(事実を基にしたフィクションです)

~ はじめに ~

先日10日、大野城市内の中学校の売店で、千円札をカラーコピーして偽造したとみられる偽札2枚が見つかったとのニュースが報道され話題となっています。犯人は特定されていないようですが、犯行場所が中学校の売店であること、犯行態様が千円札の両面をカラーコピーしはさみで切り取っただけの稚拙な犯行であることからすれば同中学校に通う中学生の犯行である可能性が高いでしょう。今後、警察は、Vさんへの聞き込み、偽造千円札に付着した指紋の採取とその鑑定、犯行に使われた道具の押収、中学生等への聞き込みなどから犯人を特定していくものと思われます。
ところで、千円札2枚をカラーコピー機で両面印刷するという行為は「通貨偽造罪」という罪に当たり得る立派な犯罪です。そして、偽造した通貨を他人に手渡すなどの行為は「偽造通貨行使罪」という罪に当たります。そこで、今回は、両罪について解説していきたいと思います。

~ 通貨偽造罪は重たい罪 ~

通貨偽造罪は刑法148条1項に規定されています。

刑法148条1項
 行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は3年以上の懲役に処する。

見てお分かりいただけるように、通貨偽造罪

無期懲役

が規定されているほか、有期懲役刑も

最低が3年

ですから、他の罪を比べてかなり重たい罪であることが分かります。ちなみに、強盗罪は5年以上の有期懲役ですが、その強盗罪ですら無期懲役の規定はありません。

~ 通貨偽造罪の内容 ~

では、具体的意味について解説いたします。

= 行使の目的 =

「行使」とは、偽造・変造した通貨を真正な通貨として流通に置くことをいいます。つまり、通貨偽造罪が成立するには、偽造した通貨を真正な通貨として流通に置く目的で通貨を偽造することが必要ということになります。したがって、学校の教材で使用するために千円札をカラーコピーしたなどとう場合は、通貨偽造罪は成立しません。

= 通用する貨幣、紙幣又は銀行券 =

「通用する」とは、強制通用力を有していることを意味します(※通用する通貨か否かは日本銀行のホームページなどで確認することができます)。貨幣、紙幣、銀行券を総称して「通貨」といいます。「貨幣」とは政府が発行する硬貨、「紙幣」とは政府が発行する貨幣代用証券(現在は流通してない)、「銀行券」とは日本銀行が発行する貨幣代用証券、すなわち日本銀行券を意味します。千円札はもちろん銀行券です。

= 偽造・変造 =

「偽造」とは、通貨発行権者(政府・日本銀行)でない者が、真正の通貨の外観を有するものを作ること、「変造」とは、通貨発行権者でない者が、真正な通貨に加工して、別個の、真正な通貨と紛らわしい外観を有する物を作ることをいいます。
「偽造」と「変造」の違いが分かりにくいですが、「変造」は常に真正な(本物の)通貨が材料となる点を抑えてください。簡単に言えば、本物の千円札に0を一個加えて1万円札にする行為は「偽造」ではなく「変造」となります。事例では、本物の通貨に手を加えたわけではありませんから「偽造」とされているのです。

~ 偽造通貨行使罪は別に規定 ~

偽造・変造した通貨を行使すれば通貨偽造行使罪に当たります。通貨偽造行使罪は刑法148条2項に規定されています。

刑法148条2項
 偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を行使し、又は行使のも目的で人に交付し、若しくは輸入した者も、前項(刑法148条1項)と同様とする。

ちなみに、通貨を偽造し、これを行使した場合は、通貨偽造罪と偽造通貨行使罪の両方が成立しますが、両者は手段と結果の関係にあり一罪として処理されます(牽連犯罪、刑法54条1項後段)。

~ 物品を取った行為は詐欺罪にも!? ~

偽造した通貨を行使し、行使した相手から物品(財物)を受け取った場合は詐欺罪に当たる可能性もあります。詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」で、通貨偽造・同行罪とは別個に処罰されます(併合罪)。

~ 少年事件の行方 ~

仮に、犯人が少年だと判明した場合でも、逮捕される可能性は十分あります。逮捕され身柄拘束が継続すれば、最短でも10日間、最長で20日間の身柄拘束を受けます。その後、事件は家庭裁判所に送致されます。家庭裁判所調査官などによる調査が行われ、少年審判が開かれます。少年審判では、

・「少年院送致」「保護観察」「児童自立支援施設又は児童養護施設への送致」の保護処分
・保護処分が必要でない場合の「不処分」
・刑事処分が相当である場合の「検察官送致」
・一定期間、更生の具合を見極める「試験観察」

のいずれかの決定が出されます。ネットなどでは通貨偽造罪は重たい罪だから「少年院送致は確実」などと言われていますが、必ずしも法定されている刑の重さと保護処分の内容とは結び付くものではありません。確かに、通貨偽造罪は社会的影響力が大きい犯罪ですが、今回は、偶然にも学校の売店段階で流通がとどまっていること、犯行態様が稚拙であること、被害額も少ないことなどを考慮すれば「保護観察」の可能性も十分あるのではないかと思います。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、通貨偽造罪をはじめとする刑事事件、少年事件を専門とする法律事務所です。刑事事件、少年事件でお困りの方は、まずは、お気軽に0120-631-881までお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間受け付けております。

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