令状なしでシャブ押収

2019-03-18

令状なしでシャブ押収

福岡県北九州市小倉南区に住むAさん(34歳)は,自宅玄関で,福岡県小倉南警察署の警察官により暴行罪で逮捕されました。その際,Aさんは,家屋内を捜索され,リビングの食器棚引き出し内から覚せい剤粉末を発見,差押え(以下,本件押収手続という)られてしまいました。Aさんは,暴行罪では処分保留で釈放されましたが,その直後,覚せい剤取締法違反(所持罪)で再逮捕・勾留され,起訴されてしまいました。起訴後,私選で依頼を受けた弁護人は,Aさんと接見した際,覚せい剤の押収手続に疑義を感じ,裁判でその違法性を主張しようと考えています。
(フィクションです)

~ 本件押収手続は違法か? ~

弁護人が検討するように,警察官の覚せい剤の押収手続は違法でしょうか?以下,検討したいと思います。

= 捜索,差押えの原則 =

人・物の発見(捜索),物の取得(差押え)は,個人のプライバシー侵害のおそれが大きいことから,裁判官が予め発する令状を取得して行わなければなりません(令状主義)。この点は,憲法35条に明記されていることからも非常に大きな決まり事であることが分かります。また,これを受けて刑事訴訟法218条1項にも同様の規定が設けられています。

憲法35条
1項 何人も,その住居,書類及び所持品について,侵入,捜索及び押収を受けることがない権利は,第33条の場合を除いては,正当な理由に基づいて発せられ,且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ,侵されない。
2項 捜索又は押収は,権限を有する司法官憲が発する各別の令状により,これを行ふ。

刑事訴訟法218条1項
 (略)司法警察職員は,犯罪の捜査をするについて必要があるときは,裁判官の発する令状により,差押え,(略),捜索又は検証をすることができる。

以上からすれば,警察官は,本件押収手続は無令状(令状なし)により行われていることから,令状主義に反し「違法」との評価を受けそうです。

= 令状によらない捜索,差押え =

ところが,上の憲法35条1項は令状主義の例外を認めています。つまり,憲法第33条の場合(逮捕状により逮捕する場合,現行犯逮捕の場合)は無令状でも,捜索,差押えができる,としているのです。これを受けて,刑事訴訟法220条1項,3項で次の規定が設けられています。

刑事訴訟法220条1項 
 (略)司法警察職員は,(略)被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは,左の処分をすることができる。(略)。

2号 逮捕の現場で差押,捜索又は検証をすること。

刑事訴訟法220条3項
 第1項の処分をするには,令状は,これを必要としない。

* 「逮捕の現場」とは? *

2号の「逮捕の現場」とは,現実に逮捕した場所のみならず,これと直接接続する範囲の空間を含むとされています。逮捕の現場が「住居」である場合は,住居管理者の同一の管理権が及ぶ範囲内が基準とされているようです。Aさんのように家屋で逮捕された場合は,その家屋全体が「逮捕の現場」ということになるでしょう。

* 捜索,差押えできる物は? *

しかし,「逮捕の現場」だけらといって,何から何まで差し押さえてもいいというわけではありません。あくまで捜索,差押えできる物は,直接逮捕事実を立証できる物のほか,犯行の動機,手口,背景事情など逮捕事実に関連する情状に関する物に限られると解されます。もし,逮捕事実を関連のない物まで捜索,差押えたというのであれば,それは別件捜索,差押えであり違法だとするのが通説です。

本件での逮捕事実は「暴行」です。にもかかわらず,差し押さえた物は「覚せい剤」です。一般的に,「暴行」と「覚せい剤」は結び付かず,関連性はないと考えられますから,本件押収手続は「違法」と評価される可能性が高いでしょう。

~ 本件における弁護活動 ~

本件における弁護活動としては,まず,裁判で,本件押収手続が「違法」であることを主張する必要があります。そのためには,検察官が手持ちの証拠をすべて公開させ,公開された書類,証拠物を検討しなければなりません。
さらに,裁判では無罪判決の獲得を目指しますが,本件押収手続が「違法」であるからといって直ちに無罪判決を獲得できるわけではありません。判例はあくまで「違法で得られた証拠(本件の場合,覚せい剤)を証拠として許容することが,将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合」は覚せい剤を証拠物として認めないとしています(その場合は,無罪判決を獲得できる可能性が高い)。判例が示す基準を満たすには,本件押収手続がどの程度違法だったのかなどを検討する必要があります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。覚せい剤事件などの薬物事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間受け付けております。

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