名誉毀損罪で警察から呼び出し
Aさんは,学生時代の友人であるVさんが有名会社Xの社長になったという話を聞いて,これを妬ましく思い,インターネット掲示板に「X社の社長には愛人が複数人存在する」という書き込みをしてしまいました。後日,Aさんは,福岡県西警察署から名誉毀損罪の件で呼び出しを受けました。Aさんはどうしていいか困り,刑事事件専門の弁護士に無料法律相談を申込みました。
(フィクションです)
~ 名誉毀損罪(刑法230条) ~
刑法230条1項
公然と事実を摘示し,人の名誉を棄損した者は,その事実の有無にかかわらず,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
= 「公然と」とは =
「公然と」とは,不特定又は多数人が認識できる状態をいい,必ずしも現実に認識したことは必要ではありません。
特定であっても多数であれば,あるいは,少数であっても不特定であれば,「公然と」と言えることになり,特定かつ少数である事のみが「公然と」から除外されることになります。
もっとも,特定かつ少数人に対する事実の摘示であっても,それが不特定多数人へと伝播する可能性があれば「公然と」に当たると考えられており(伝播性の理論),直接には2,3人に告げたに過ぎないという事案について「公然と」といえると判断した裁判例があります。
Aさんのように,インターネット掲示板へ書き込む行為は,インターネット掲示板はインターネットにアクセスできる人であれば誰もが閲覧できますので,これへの書き込みは「公然と」に当たるでしょう。
= 「事実を摘示し」とは =
「事実を摘示」とは,人の社会的評価を低下させるに足りる具体的な事実を表示することをいいます。
ここでの事実は,真実又は虚偽のいずれであってもよく,公知の事実であっても良いと考えられています。
「愛人が複数人存在する」という事実は,民法上倫理上許されるべきものではないことから,その人の評価を低下させるに足りる具体的な事実であるといえ「事実を摘示し」に当たるでしょう。
= 「人」とは =
「人」には,自然人だけでなく法人その他の団体をも含みます。
被害者は特定されている必要がありますので,例えば,「福岡県民は詐欺をしている」などと漠然とした集団・団体に対する名誉毀損罪は成立しない可能性が高いです。
Aさんは「X社の社長」と摘示したのみで,「Vさん」と摘示したわけではありませんが,通常,会社の社長は一人しかいませんから,「X社の社長」と摘示すれば被害者は特定されたことになるでしょう。
= 「名誉を毀損」とは =
「名誉」とは人の社会的評価又は価値のことをいいます。「毀損」とは,人の社会的評価又は価値を低下させることをいいます。ただし,その評価が現実に害されたことを必要とするものではなく,これが害されるおそれのある状態が発生したことで足りると考えられています。
「愛人が複数人存在する」と摘示すれば,通常,人の社会的評価は低下すると言えますので,「名誉を棄損」したに当たるでしょう。
~ 名誉棄損罪が成立した場合の例外 ~
以上から,Aさんの行為は名誉棄損罪に当たる可能性が高いです。
しかし,名誉毀損罪に当たる行為であっても,
① 「公共の利害に関する事実」であって,
② 摘示行為の目的が公益を図ることにあったと認められ,
③ 摘示された真実であったことの証明があったとき
は処罰されません(刑法230条の2)。
これは,名誉毀損罪による個人の名誉の保護と,新聞や雑誌など報道機関などの言論の自由の保証との調和図るための規定です。
ただ,本件では,AさんはVさんを妬ましく思ったことから上記の行為をとっており,公益を図ると目的はおよそ認められない(上記②の要件を欠く)として,名誉毀損罪で処罰される可能性が高いでしょう。
~ 最後に ~
名誉棄損罪は,被害者の告訴がなければ公訴提起(起訴)できない親告罪です。名誉棄損罪による処罰を免れたい方は,まずは被害者に謝罪し,示談交渉をはじめることが肝要です。示談を成立させるには,法律の専門家である弁護士の力が必要といっても過言ではないでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,名誉棄損罪をはじめとする刑事事件専門の法律事務所です。刑事事件でお困りの方は,まずは0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間体制で受け付けております。