住居侵入罪で緊急避難
Aさんは,Bさんら複数人の者から突然因縁をつけられ,殴る蹴るの暴行を受けたので逃げようとしましたが,他に逃げ場がなかったことから,近くのVさんの家の敷地内に無断で立ち入りました。Vさんは,見知らぬAさんが無断で自分の家の敷地内に立ち入ったことに驚き,とっさに110番通報をしたので,Aさんは駆けつけた福岡県柳川警察署の警察官により住居侵入罪で逮捕されてしまいました。Aさんが逮捕されたことを知ったAさんの家族は,刑事事件に強い弁護士に初回接見を依頼することにしました。
(事実を基にしたフィクションです)
~ 住居侵入罪とは ~
刑法130条
正当な理由がないのに,人の住居若しくは人の看守する邸宅,建造物若しくは艦船に侵入し,(略)た者は,3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
= 人の住居 =
「人の」とは,自己以外の他人のという意味です。よって,行為者(Aさん)が単独で居住する住居や,他の者と共同生活を営んでいる住居は,人の住居とは言えません。次に,「住居」とは,日常生活に使用するため人が占有する場所をいい,起臥寝食に使用されていることを必要とすると解されています。「住居」である以上,居住者が常に居住していることを要しないとされており,一時旅行に出て家人不在の留守宅も「住居」です。ただし,空き家や建築中の家,オフシーズンの別荘は後記の「邸宅」あるいは「建造物」に当たります。
= 邸宅 =
「邸宅」とは「住居」として使用する目的で造られた家屋で「住居」に使用されていないものをいい,空き家やオフシーズンの別荘などがこれに当たります。
= 建造物 =
「建造物」とは,一般に屋根を有し,障壁又は支柱によって支えられた土地の定着物であって,その内部に出入りできる構造を有するものとされており,官公署の庁舎,,学校,工場,倉庫,駅舎などがこれに当たります。
「建造物」については,建物の周りを囲む塀が建造物に当たるかどうかが争われた裁判例があり,裁判所は,塀が建物とその敷地を外部からの干渉を排除するという建物利用の工作物であるということを指摘して,塀が「建造物」に当たると判断しました。
= 人の敷地内に立ち入ったら? =
人の敷地が「囲繞地」の場合は,敷地も「住居」,「邸宅」に当たります。その敷地が「囲繞地」というためには様々な要件をクリアすることが必要ですが,要は,外観的にも機能的にも住居の一部と言えるかどうかがいちおうの基準となるものと思います。
= 侵入 =
「侵入」とは,住居等の平穏を害する形で立ち入ること,すなわち,住居者・看守者の意思又は推定的意思に反して立ち入ることをいいます。
= まとめ =
以上を踏まえると,AさんがVさんの敷地内に立ち入ったという行為は,敷地が「囲繞地」であれば住居侵入罪あるいは邸宅侵入罪に当たる可能性があります。
~ 緊急避難とは ~
刑法37条1項
自己又は他人の生命,身体,自由又は財産に対する現在の危難を避けるため,やむを得ずにした行為は,これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り,罰しない。ただし,その程度を超えた行為は,情状により,その刑を減軽し,又は免除することができる。
= 正対正の関係 =
緊急避難は,正当防衛(刑法36条1項)と似ていますが,正当防衛が悪いことをしようとする人に対する反撃(正対不正の関係)であるのに対し,緊急避難は何ら悪いことをしていない人に対する反撃(正対正の関係)です。そのため,緊急避難では正当防衛と異なり,「やむを得ずにした行為より生じた害」が「避けようとした害」の程度を超えないことが必要とされています。
上の事案でいうと,「やむを得ずにした行為より生じた害」とは,「住居」や「邸宅」に誰を立ち入らせるのかというVさんの住居権です。他方,「避けようとした害」とは,AさんがBさんらからの暴行から身を守ろうという身体の安全に対する権利です。一般的に,前者よりも後者の方が重要だと考えられますので,本件では,「やむを得ずにした行為より生じた害」が「避けようとした害」の程度を超えないといえそうです。
= 緊急避難の効果 =
ある行為が緊急避難に当たる場合,その行為が罰せられることはありません。つまり,本件では,3年以下の懲役刑や10万円以下の罰金刑を受けることはありません。ただし,そうであるからといって,逮捕や起訴されないという保証はありません。仮に起訴された場合は裁判で緊急避難の成立を主張し,無罪判決獲得に努める必要があります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,住居侵入罪,邸宅侵入罪などをはじめとする刑事事件専門の法律事務所です。お困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。24時間,無料法律相談,初回接見サービスの受付を行っています。