飲酒運転と犯罪②
~ 昨日の続き ~
福岡県福津市に住むAさんは,地元の居酒屋X店でBさんら同級生数名と久しぶりに食事をしました。Aさんはあまり酒が飲めませんでしたが,Bさんは以前から大のお酒好きでした。Aさんが把握しているだけでも,1時間で,ビールジョッキ中2杯,焼酎水割り1杯を飲んでいました。そうしたところ,Aさんは,Bさんから「コンビニまでたばこを買いに行きたいけど,歩いて居酒屋まで来たので脚がない」と言われました。Aさんは,「コンビニは近いし,事故など起こさなければいいや」という気持ちで,Bさんの車の運転キーを渡しました。
ところが,Bさんはコンビニに向かう途中,福岡県宗像警察署の検問に遭い,酒気帯び運転が発覚しました。また,Bさんの供述に基づき,Aさんも道路交通法違反(車両等提供罪)で逮捕されてしまいました。
(フィクションです)
~ Aさんの罪【車両提供の罪】 ~
Bさんが逮捕された酒気帯び運転の罪については昨日ご紹介しました。本日は,車を貸した側のAさんの罪についてご紹介いたします。
= 車両等提供の罪の規定 =
車両等提供の罪に関する規定は,道路交通法(以下「法」)65条2項,117条の2第2号,117条の2の2第4号にあります。
法65条2項
何人も,酒気を帯びている者で,前項の規定(法65条1項=何人も,酒気を帯びて車両等を運転してはならない。)に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し,車両等を提供してはならない。
法117条の2 次の各号のいずれかに該当する者は,5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
2号 第65条(酒気帯び運転等の禁止)第2項の規定に違反した者(当該違反により当該車両等の提供を受けた者が酒に酔った状態で当該車両等を運転した場合に限る。)
法117条の2の2 次の各号のいずれかに該当する者は,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
4号 第65条(酒気帯び運転等の禁止)第2項の規定に違反した者(当該違反により当該車両等の提供を受けた者が身体に前号の政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態で当該車両等を運転した場合に限るものとし,前条(117条の2)第2号に該当する場合を除く。)
以上から,法117条の2は酒酔い運転者に対する車両等の提供に関する罰則,法117条の2の2は酒気帯び運転者に対する車両等の提供に関する罰則であることが分かります。いずれも,実際に運転した方と罰則は同じであり,これからすると,車両提供の罪も実際に運転したのと同じように悪質であると考えられていることが分かります。
= 「酒気を帯びている者」とは =
アルコール分を体内に摂取していることが外観上(顔色,呼気等)認知できる状態にある者という意味です。
車両等の提供者は,車両等を提供した時点で,この状態にあることを認識する必要がありますが,どの程度の酒気を帯びているか(酒酔いか酒気帯びかなど)までの認識は必要ではありません。
Aさんは,Bさんが,1時間で,少なくともビールジョッキ中2杯,焼酎水割り1杯を飲んだことは見ています。したがって,Aさんは,Bさんに運転キーを渡す時点で,Bさんが「酒気を帯びている者」であることは容易に認識していたといえるでしょう。
= 「車両等を運転することとなるおそれ」とは =
車両等を提供すれば,酒気を帯びて車両等を運転することとなる蓋然性があることをいいます。
車両等の提供者は,提供を受ける者が酒気を帯びている者で,酒気を帯びて車両等を運転することとなるおそれがあるとの認識が必要です。
Aさんは,Bさんが「酒気を帯びている者」との認識はあります。また,Aさんは「コンビニに行きたいけど,脚がない」と言われています。Aさんが置かれた状況下で「脚がない」と言われれば,通常,「車か自転車がない」という意味に受け取るでしょう。そして,AさんはBさんに運転キーを渡しているわけですから,AさんにはBさんが「車両等を運転することとなるおそれ」があるとの認識は十分にあるでしょう。
= 「提供」とは =
提供を受ける者が利用し得る状態に置くことをいいます。
Aさんのように,車の運転キーを渡す行為もこれに含まれます。
= まとめ =
以上からすると,Aさんの行為は車両提供の罪に当たりそうです。ただ,Bさんが結果的に酒気帯び運転だったことから,罰則は法117条の2の2第4号が適用され「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」の範囲内で処罰されることとなります。
~ その他の犯罪【酒類提供の罪】,【車両同乗の罪】 ~
酒類提供の罪については法65条3項,罰則については法117条の2の2第5号(運転者が酒酔い運転だった場合,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金),法117条の3の2第2号(運転者が酒気帯び運転だった場合,2年以下の懲役又は30万円以下の罰金)に規定されています。酒類提供の罪の場合も,車両等提供の罪と同様,酒類を提供する側において,提供した時点で,酒類の提供を受けた者が「車両等を運転することとなるおそれのある者」であることを認識していたこと必要となります。
車両同乗の罪については法65条4項,罰則については法117条の2の2第6号(運転者が酒酔い運転だった場合,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金),法117の3の2第3号(運転者が酒気帯び運転だった場合,2年以下の懲役又は30万円以下の罰金)に規定されています。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,酒気帯び運転などの交通違反をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。お困りの方は,まずはお気軽に0120-631-881までお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間体制で受け付けております。
(福岡県宗像警察署までの初回接見費用:39,100円)