強盗と中止未遂
福岡市城南区に住む無職のAさん(26歳)は,小遣い銭欲しさに,深夜,一人で自宅に帰宅途中のBさんにナイフを突きつけて脅迫し現金を強取しようしましたが,風で木立が揺れた音を他人の通行人が来た音と誤認し,事件の発覚を恐れて何も奪わずに逃走しました。ところが,後日,Bさんの被害状況などに関する供述や現場周辺の防犯ビデオカメラの解析結果などからAさんの犯行であることが判明し,Aさんは,福岡県早良警察署に強盗未遂罪で逮捕されました。Aさんの家族は,刑事事件に強い弁護士に初回接見を依頼しました。
(フィクションです)
~ 強盗既遂罪が成立するまで ~
強盗罪は刑法236条に規定されています。その1項をご紹介すると次の規定となっています。
刑法236条1項
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は,強盗の罪とし,5年以上の有期懲役に処する。
これからすると強盗罪が成立するには,通常,
①強盗をするぞという意図・動機(故意・犯意)→②実行の着手(強盗罪の暴行・脅迫)→(③相手方の反抗抑圧)→④他人の財物の取得(強取)
という経過をたどることになります。
~ 未遂犯とは ~
未遂犯とは,特定の犯罪の②実行に着手したものの,何らかの事情によって結果が発生しなかった場合をいいます。本件における②実行の着手とは,AさんがBさんにナイフを突きつけるという脅迫行為です。強盗罪における「結果」とは,④他人の財物を取得することです。しかしながら,AさんはBさんの財物を取得していません。つまり,④まで至っていないことからAさんは強盗未遂罪で逮捕されているのです。未遂罪について規定する刑法43条前段には次のように書かれています。
刑法43条前段
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は,その刑を減軽することができる。
未遂犯として処罰されるためには,罪ごとに未遂犯の規定を設けていなければなりません。強盗罪については243条に未遂犯を罰する旨の規定が設けられています。
~ 中止未遂とは ~
ところで,刑法43条には,先ほどの規定に続いて,次の規定が設けられています。
刑法43条前段
(略),その刑を軽減することができる。ただし,自己の意思により犯罪を中止したときは,その刑を減軽し,又は免除することができる。
このように,犯罪の実行に着手したものの,「自己の意思により犯罪を中止した」ため,結果が発生しなかった(犯罪が既遂とならなかった)場合を中止未遂といいます。これに対して,犯罪の実行に着手したものの,「自己の意思により犯罪を中止した」場合以外で,結果が発生しなかった(犯罪が既遂とならなかった)場合を障害未遂といいます。
中止未遂が成立するためには,
①犯罪の実行に着手した者が
②自己の意思により
③犯罪を中止し
④結果発生が防止されること
が必要です。Aさんは強盗罪の脅迫行為を行っていますから①の要件は満たします。では,②についてはどうでしょうか?これについての考え方はいろいろありますが,最高裁は,客観説の立場を採っていると理解されています。客観説とは,未遂に終わった原因が,一般人を基準とした場合,通常障害と考えられるものは否かを基準とする見解です。障害と考えらえる場合は障害未遂となり,障害と考えられない場合は中止未遂となります。
この基準を本件に当てはめると,Aさんは木立が揺れた音を通行人が来た音と誤認しているようですが,通常,通行人が来て犯行が発覚するという事情は,犯行を継続する上で障害となるものと考えられます。よって,Aさんには中止未遂は成立せず,障害未遂が成立するにとどまります。
* 障害未遂と中止未遂 *
障害未遂と中止未遂は上記の違いがありますが,その他に,障害未遂は刑が任意的に減軽されるのに対し,中止未遂は必要的に(必ず)減軽されます。障害未遂の場合,刑を減軽するかづおかは裁判官しだいとなります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,強盗罪をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。お困りの方は,まずはお気軽に0120-631-881までお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。