相手方が急に進路変更~ひき逃げになる?~
ひき逃げについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
福岡市早良区に住むAさんは、仕事を終え、普通乗用自動車を運転して片側3車線の道路の中央線を法定速度範囲内で走行しながら帰宅していたところ、前方約50メートル地点に、自車と同一方向に走行するVさん運転のオートバイクを認めました。Aさんは、徐々にVさんとの距離を詰めていたことから、「右側から追い抜こう」と思い、車線を右に変更してVさんを追い抜こうとしたところ、自車をVさん運転のオートバイクに衝突させてしまい、Vさんを路上に転倒させるなどしてしまいました(Vさんは救急車で搬送され、加療約1か月間の傷害と診断されました)。Aさんは「オートバイが後ろを確認せず車線変更してぶつかってきた」「自分には責任はない」と考え、その場から逃走しました。しかし、その後、目撃者の話などから、ひき逃げしたのはAさんだということが判明し、Aさんは早良警察署に過失運転致傷、道路交通法違反(ひき逃げ=救護措置義務違反、事故報告義務違反)の被疑者として逮捕されてしまいました。
(フィクションです)
~ 「ひき逃げ」について ~
ひき逃げについては、道路交通法(以下「法」)72条1項に定められています。
すなわち、その前段では車両等の運転者の「救護措置義務」を、後段では警察官に対する「事故報告義務」を定めています。
車両等の運転者は、交通事故があった場合、負傷者の救護や道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならず(救護措置義務)、さらに、警察官に対し当該交通事故の内容(日時、場所、死傷者の数、負傷の程度等)を報告しなければならない(事故報告義務)のです。
救護義務違反の罰則は、法117条1項で
5年以下の懲役又は50万円以下の罰金
、2項で、
10年以下の懲役又は100万円以下の罰金
の2種類がありますが、2項は、人の死傷が当該運転者の運転に起因する場合に適用される罰則です。過失運転致傷罪が成立する場合は、通常、2項が適用されます。
事故報告義務の罰則は、
3月以下の懲役又は5万円以下の罰金
です。
~ 過失ない場合、事故に責任ない場合は? ~
なお、Aさんは「オートバイが後ろを確認せず車線変更してぶつかってきた」「自分には責任はない」などと話しているようですが、ひき逃げでその主張は通じるのでしょうか?
この点、法72条1項では、救護措置義務を課される者を
交通事故があったときの、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員
事故報告義務を課される者を
当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員)
としており、判例(昭和50年4月3日)は、救護義務を負う者について、
刑事上、民事上の責任とは関係なく、人の負傷又は物の損壊について故意、過失があったか否かを問わず、運転者その他の乗務員が等しく負うべきもの
としています。これからすれば、救護義務は
Aさんに過失があろうがなかろうが関係なく、交通事故が起きた場合に課される義務
ということになり、上記Aさんの主張は通りづらいものと考えられます。
法72条1項は、人命、道路の安全を優先して、加害者か被害者か、過失があるかないかに関係なく、交通事故を起こした全ての者に義務を課しているということを忘れないでください。
~ 交通事故の認識がない場合は別 ~
救護義務違反、報告義務違反は故意犯、つまり、交通事故を起こしたこと(人の死傷、物の損壊があったことについて)の認識がなければ成立しない罪です。ただし、認識の程度は、必ずしも確定的であることを必要とせず、未必的認識で足りるとされています。
交通事故の認識があったか否かは、交通事故の態様、事故後の状況などによって判断されます。
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