ひき逃げと刑事事件
福岡県春日市に住むAさんは,仕事を終え,普通乗用自動車を運転して帰宅途中,道路を横断してきたVさん(69歳)に自車前方を衝突させて路上に転倒させました。Aさんは車を道路脇に停め,車を降りてVさんの元に近づいたところ,Vさんの意識ははっきりしており怪我の程度も酷くはなさそうだったため(後日,Vさんは加療約2か月間の怪我を負っていたことが判明),警察に通報するなどせずその場を立ち去りました。その後,Aさんは普段どおりの生活を送っていますが,いつ警察に逮捕されるか不安で仕方ありません。そこで,警察に自首することも含め,ひき逃げ事件に強い弁護士に無料法律相談を申込みました。
(フィクションです)
~ ひき逃げはどんな罪? ~
ひき逃げと言われる犯罪は,怪我した人を助けなかった
救護措置義務違反
と,交通事故の内容等を警察官に報告しなかった
事故報告義務違反
の2つに分けられます。
ひき逃げについては,道路交通法(以下,法)72条1項に規定されていますから,まずはその規定からご紹介いたします。
法72条1項
交通事故があったときは,当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(略)は,直ちに車両等を停止して,負傷者を救護し,道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において,当該車両等の運転者(略)は,警察官が現場にいるときは当該警察官に,警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(略)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所,当該事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度,当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
「~講じなければならない。」(法72条1項前段)までが「救護措置義務」に関する規定,「この場合において」以下(法72条1項後段)が「事故報告義務」に関する規定です。ひき逃げに関する規定についてはお分かりいただけたでしょうか?
~ ひき逃げ(救護措置義務違反)の刑の重さは? ~
では,ひき逃げの刑の重さ,つまり罰則はどうなっているのでしょうか?
まず,救護措置義務違反については法117条に規定されています。
法117条
1項 車両等(軽車両を除く。)の運転者が,当該車両等の交通による人の死傷があった場合において,第72条第1項前段の規定に違反したときは,5年以下の懲役又 は50万円以下の罰金に処する。
2項 前項の場合において,同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは,10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
= 1項について =
「当該車両等の交通による人の死傷があった場合」とは,交通事故のうち,いわゆる人身事故があった場合ということで,いわゆる物損事故については法117条の5第1号が適用されます。
※参考
法117条の5 次の各号のいずれかに該当する者は,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
1号 第72条第1項前段の規定に違反した者(107条の規定に該当する者を除く)
= 2項について =
「人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるとき」とは,当該運転者の運転が原因となって当該事故が発生した場合をいいます。一般的には,「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」5条に規定される過失運転致死傷罪が成立する場合は2項が適用されます。
他方,1項が適用される場合は,「人の死傷が当該運転者の運転に起因するものでなかったとき」,例えば,駐車中の車両が後方から進行してきた車両に追突され,その衝撃で前方に移動し,前方を横断中の歩行者を死傷させた,などという場合が考えられます(歩行者の死傷が,駐車中の車両の運転に起因するものとは言い難いため)。
2項は,1項に比べ,運転者の運転が原因で人の死傷が発生しているため責任が重く,罰則も1項より2倍とかなり重くなっていることが分かります!
~ ひき逃げ(事故報告義務違反)の刑の重さは? ~
次に,事故報告義務違反については法119条1項10号に規定されています。
法119条1項 次の各号のいずれかに該当する者は,3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。
10号 第72条第1項後段に規定する報告をしなかった者
事故報告義務違反は救護措置義務違反に比べ罰則が軽いです。これは,事故内容等を警察官に報告することは自ら警察官に犯罪を申告することに等しく,人情としては躊躇されるものであり,このような場合にまで重い刑罰を科すことは相当ではないと考えられたためです。
~ Aさんの刑の重さは? ~
Aさんに過失が認められれば,過失運転致傷罪が成立します。同罪の法定刑は,7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金です。また,Aさんには救護措置義務違反が認められ,Vさんの怪我がAさんの運転に起因すると認められる場合は法117条2項が適用されます。さらに,警察官にも報告していないため,事故報告義務違反にも問われるでしょう。本件では,Aさんの怪我の程度が重たいですから,情状に有利な点が認められなければ「実刑」となることも十分に考えられます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,ひき逃げなどの交通事故・刑事事件専門の法律事務所です。ひき逃げを起こしお困りの方は,まずは0120-631-881までお気軽にお電話ください。無料法律相談,初回接見サービスを24時間受け付けております。
(福岡県春日警察署までの初回接見費用:36,600円)