【事例解説】致死量未満の睡眠薬大量摂取による嘱託殺人未遂事件(後編)

 前回に引き続き、自らの殺害を依頼された配偶者に睡眠薬を大量摂取させたものの、致死量未満のため殺害に至らなかった架空の事件を参考に、嘱託殺人罪の成立と未遂犯・不能犯の区別について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

参考事件

 福岡市在住の男性A(65歳)は、進行性の難病を患い数年前から寝たきりの妻V(64歳)と二人で生活していましたが、Vは「もう生きることが辛い。Aにこれ以上迷惑をかけるのも嫌だから殺してくれないか。」とAに懇願するようになりました。
 Aは都度拒んでいたものの、Vに連日懇願されたことから意を決し、Vを殺すために睡眠薬を大量に摂取させましたが、致死量を勘違いし、摂取させた睡眠薬の量は、成人女性の通常の致死量の10分の1程度であったため、Vは数日後に目を覚ましました。
 Vに懇願されて行ったこととはいえ、罪の意識に苛まれたAは警察に自首し、嘱託殺人未遂の容疑で取調べを受けることとなりました。
(事例はフィクションです。)

前回の前編では、嘱託殺人罪について解説しました。

未遂犯と不能犯について

 AがVに服用させた睡眠薬の量は、成人女性の通常の致死量の10分の1程度であり、Vが死亡する可能性は相当低かったと考えられますが、このような場合でも嘱託「殺人未遂」罪が成立するのでしょうか。

 「未遂」とは、犯罪の実行に着手したが、これを遂げなかった場合、と規定されています(刑法第43条)。
 未遂犯のうち、「犯罪の実行」に着手したつもりが、犯罪の結果が客観的に元々発生し得なかったことからこれを遂げなかった場合は「不能犯」と呼ばれ、不可罰とされます。
 未遂犯不能犯は、実行行為に、犯罪の結果が発生する危険が存在していたか否かにより区別されると考えられます。例えば、殺害の意図で、毒物と誤信して砂糖を飲料に混ぜて摂取させたような事例では、死の結果が発生する危険は存在しないため、不能犯が成立することとなります。

 本件Aの行為は、成人女性の一般的な致死量の10分の1程度の量とはいえ、薬物である睡眠薬を大量に摂取させることにより、Vの身体の状態によっては、死の結果が発生する危険が全くないとはいえない、即ち、嘱託殺人罪の結果発生の危険が存在していたと認められ、嘱託殺人未遂罪が成立する可能性があると考えられます。

 なお、判例では、殺害の意図をもって被害者の静脈内に注射された空気の量が致死量以下であっても、被害者の身体的条件その他の事情の如何によっては、死の結果発生の危険が絶対にないとはいえないため、不能犯との認定は行わず、殺人未遂罪の成立を認めたものがあります。

嘱託殺人事件の刑事弁護

 嘱託殺人罪は、「人を殺す」という点では殺人罪と変わらないため、被害者から行為者への殺害依頼が存在したのか、その依頼が被害者の真意に基づくものであったのかが、取調べにおいて厳しく追及される可能性が高いです。
 また、(3)嘱託殺人よりも (4)承諾殺人の方が一般に量刑相場が重いこともあり、加害者から被害者に対し、殺害への承諾の働きかけがなかったなど、併せて追及されることが考えられます。
 取調べで供述する内容は、裁判で証拠として用いられることとなるため、取調べに際しては、刑事事件に強い弁護士から、どのように受け答えをすればよいか等のアドバイスを事前に受けることをお勧めします。

 なお、本件Aのように、事件が捜査機関に発覚する前に自首したときは、刑が減軽される場合があるほか、逃亡・罪証隠滅の恐れがないとして、逮捕を回避する可能性を高めることも期待できます。
 自首を検討している場合、自首の成立要件が満たされているか、自首した後の刑事手続きの見通しなどについて、あらかじめ刑事事件に強い弁護士に相談することをお勧めします。

福岡県の刑事事件に関するご相談は

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、主に刑事事件を取り扱う法律事務所で、様々な刑事事件における取調べ対応の豊富な実績があります。
 嘱託殺人罪で自身やご家族が取調べを受けるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部にご相談ください。

keyboard_arrow_up

0120631881 無料相談予約はこちら LINE予約はこちら