取引業者から飲食接待を受けたとして、県職員が収賄罪で逮捕されたという架空の事件を参考に、収賄罪とその弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
参考事件
福岡県の管理職職員A(53歳)は、課内で用いる文房具の仕入先の業者選定の権限を有していました。
文房具会社の営業課長X(53歳)は、業者選定で有利な取り扱いを図ってもらおうと、Aに数万円相当の飲食接待を頻繁に行うようになりました。
XのAへの飲食接待について、第三者から警察へ告発があり、Aは収賄の容疑で逮捕されました。警察の調べに対し、Aは収賄罪の認否を明らかにしていません。
(事例はフィクションです。)
収賄罪とは
公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する、と定められています(刑法第197条前段)。
「公務員」とは、国又は地方公共団体の職員、その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員を指します(刑法第7条)。
福岡県の職員は、「地方公共団体の職員」として、当然これに該当します。
「賄賂」とは、公務員がその職務に関して受ける不正の報酬としての利益を指し、金銭や物品のほか、飲食接待のようなサービス提供も含まれます。
「職務」とは、「公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の執務」を指し、当該公務員が現に権限を有する職務は、これに含まれます。
また、収賄罪の保護する法益は、公務員の職務の公正及びこれに対する社会の信頼であるとされるため、利益の授受が「職務に関し」行われることが要件となっています。
本件で、取引業者選定の権限を有するAが、文房具会社の営業課長Xから数万円相当の飲食接待を頻繁に受けることは、AとXの私的な関係からというよりは、業者選定で有利な取り扱いを図ってもらうために、Aの「職務に関し」行われたと考えるのが自然なため、Aに収賄罪が成立する可能性が高いと言えます。
加重収賄罪の成立について
収賄罪が成立する場合において、公務員が不正な行為を行ったときは、より罪の重い加重収賄罪が成立します(刑法第197条の3)。
本件において、実際にAがXに便宜を図って取引業者の選定を行った場合は、「不正な行為」を行ったと言えるため、今後の捜査により被疑罪名が加重収賄罪となる可能性があります。
収賄罪の刑事弁護
本件では、Aは収賄罪の認否を明らかにしていないとのことですが、収賄事件は、不正な行為の有無や上司の関与等の事件の全容解明のため、被疑者の取調べが厳しいものになることが予想されるため、早めに弁護士と接見し、事件の見通しや取調べ対応などについて法的な助言を得ることが重要です。
捜査機関が押さえている証拠内容や贈賄側の供述内容など、捜査状況を的確に把握した上で対応を検討する必要があるため、刑事事件に強い弁護士に依頼し、適切な弁護活動を早く開始してもらうことをお勧めします。
また、本件で起訴が避けられない場合も、収賄罪と異なり、加重収賄罪の法定刑は1年以上の懲役であるため、加重収賄罪で起訴された場合は、一定の事由に該当しない限り許可される「権利保釈」(刑事訴訟法第89条)の対象外となることから、その点においても、起訴前の弁護活動は非常に重要なものとなります。
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