不正に入手した他人名義のキャッシュカードでATMから現金を引き出したとして、特殊詐欺グループの「出し子」が逮捕された窃盗事件とその弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
事件概要
福岡市在住の会社員男性A(21歳)が、特殊詐欺の「出し子」として、指示役の男が不正に入手したV名義のキャッシュカードを使用し、同市内のコンビニのATMで現金50万円を引き出したとして、窃盗の容疑で逮捕されました。Aは、窃盗の容疑を認めています。
(過去に報道された実際の事件に基づき、一部事実を変更したフィクションです。)
窃盗罪で逮捕された理由
本件Aは、特殊詐欺の一環として犯行を行っていますが、窃盗罪で逮捕されています。詐欺罪は、「人を欺くこと」が要件ですが、Aの行為は、機械であるATMから現金を引き出したものであり、人を欺いたとは言えないため、詐欺罪が成立しないためです。
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する、と定められています(刑法第235条)。
「窃取」とは「財物の占有者の意思に反して、その占有を侵害し、自己又は第三者の占有に移すこと」を言います。
預金口座の残高に相当する金員については、銀行が、保有している資金の一部としてATM内に現金で保管(「占有」)しています。
また、銀行は預金者のみが使用することを前提にキャッシュカードを発行しており、預金者と何ら関係ない者が当該キャッシュカードを利用してATMから現金を引き出すことは、銀行の意思に反すると言えます。
以上のことから、Aが「出し子」として行った行為は、ATM内の現金(「財物」)を占有する銀行の意思に反して、V名義のキャッシュカードで当該現金を引き出し、自己の占有に移したもの(「窃取」)として、被害者を銀行とする窃盗罪が成立すると考えられます(判例同旨)。
なお、指示役の男がキャッシュカードを不正に入手した行為について、Vに対する詐欺罪等の犯罪が別途成立しているものと考えられます。
特殊詐欺事件の「出し子」として逮捕された場合の刑事弁護
特殊詐欺事件の「出し子」として窃盗罪で逮捕された場合、余罪や犯行グループの全容を解明するために、引き続き勾留され身柄拘束が長期化する可能性が非常に高いです。
また、特殊詐欺事件は、組織的な犯行であり、被害額も高額で犯罪組織の資金源になる場合も多いため、「出し子」といった末端の一員に対しても厳しい処分が行われる傾向があり、初犯であっても起訴され実刑を科されることが少なくありません。
そのため、弁護人は、捜査段階から裁判を見据えた弁護活動を行うことが多いです。具体的な弁護活動として、被害弁償、謝罪文の提出、示談交渉などが挙げられますが、これらの弁護活動を適切に行うことで、起訴された場合でも、刑の減軽や執行猶予を得る可能性を高めることができます。
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