【児童福祉法】
34条1項6号
何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
6号
児童に淫行をさせる行為
60条1項
第34条第1項第6号の規定に違反した者は、10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
1.児童福祉法
(1)児童福祉法とは?
児童福祉法は、児童が心身ともに健やかに生まれ、かつ、育成されることを理念とし,児童保護のための禁止行為や児童福祉司・児童相談所・児童福祉施設などの諸制度について定めている法律です。
大人の方から働きかけて児童に性交等をさせた場合は、児童福祉法違反にとわれます。
(2)青少年保護育成条例、児童買春禁止法との関係
自分の性欲を満たすためだけに対価を払わず児童と性交等を行った場合は、青少年保護育成条例違反にとわれます。
一方、 児童に対価を支払ったりして性交等を行った場合は、「児童売春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反」にとわれます。
(3)「児童に淫行をさせる行為」(同法34条1項6号)について
①同号の「淫行」
男女間の性交そのものだけでなく「性交類似行為」を含むとするのが判例です。
例えば、手淫・口淫行為等があげられます。
(4)児童福祉法の判例と考察
中学校の教師のAが、その立場を利用して、児童である女子生徒に対し、バイブレーターを渡し、その使い方を説明した上、自慰行為をするに至らせた行為について、児童福祉法34条1項6号にいう「児童に淫行をさせる行為」にあたるとしています。
ここでは、特に、①淫行をさせる者すなわち行為者自身が淫行の相手方となる場合が6号にあたるか、②Aの行為は6号の「させる行為」にあたるといえるかが争われました。
しかし、①6号の規定の文理上、行為者自身が相手方となる場合を除外しているとは考えられず、淫行の相手が第三者であるか、行為者自身であるかは児童の心身への有害性という点で本質的な差異がなく、行為者が児童に対し淫行を働きかけて淫行をさせたといえる場合であれば、行為者自身が淫行の相手方となったからといって同号に該当しないというのは不合理である、等を理由に同号の適用があると判断した原判決を維持しました。。
また、②についても、「淫行をさせたといえるためには、淫行をする行為に包摂される限度を超え、児童に対し事実上の影響力を及ぼして淫行をするように働きかけ、その結果児童をして淫行をするに至らせることが必要である」とした上で、本件の場合は、淫行をさせたといえると判断した原判決を維持しました。
(判例の考察)
「淫行をさせる」場合とは、児童を事実上支配して児童の淫行を助長する場合を処罰する規定と考えるのが素直です。
よって、被告人自身が淫行の相手方となる場合は、青少年保護育成条例(下記参照)が問題になるにすぎず、児童福祉法違反に問えないように思えます。
もっとも、行為者と被害者の関係、犯行が行われた状況等の具体的事情に照らして「淫行をさせた」といえるかを判断すべきであり、判例は、本件のように被告人が児童の教師であった場合、つまり、両者間に支配関係・優越的地位関係のある場合には、児童福祉法違反で処罰することは妥当と考えているように思えます。
ただ一方で、本件事案と異なり「支配関係・優越的地位関係にない場合」には、児童福祉法を適用すべきではないと解すべきです。
(5)法定刑
「児童」に「淫行」させた場合、10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金となります。
2.青少年健全育成条例
【福岡県青少年健全育成条例】
第31条
1項
何人も、青少年に対し、いん行又はわいせつ行為をしてはならない。
2項
何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。
第38条
1項
次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
(1) 第31条1項の規定に違反した者
2項
次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(2) 第31条2項の規定に違反した者
(1)青少年健全育成条例とは?
青少年の健全な育成を図るために、青少年を保護する目的で、青少年の逸脱行動を禁止し,また青少年にとっての有害な環境を浄化するために制定されている地方公共団体の条例の総称をいいます。
① 誰であっても、青少年に対して、淫行又はわいせつな行為をしてはいけません。
② 誰であっても、青少年に対して、淫行又はわしせつな行為を教えたり、めせたりしてはいけません。
※①②いずれも、違反行為をした者が青少年であるときは、青少年に対して罰則の適用はありません。
(2)「淫行」とは?
「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうもの」と解されています。
(3)淫行の他に、福岡県青少年健全育成条例で規制されていること
青少年の健全育成を阻害するおそれのある行為の規制として
① いれずみを施す行為等の禁止(条例32条)
→1年以下の懲役又は50万円以下の罰金
② 風俗営業等への勧誘行為の禁止(条例32条の2)
→20万円以下の罰金
③ 下記を行うの場所の提供及び周旋の禁止(条例33条)
・淫行またはわいせつな行為
→2年以下の懲役又は100万円以下の罰金
・いれずみを施し、又は受けさせる行為
→1年以下の懲役又は50万円以下の罰金
・シンナー・覚せい剤等の薬物の使用
→2年以下の懲役又は100万円以下の罰金
・飲酒又は喫煙
→20万円以下の罰金・科料
④ 深夜(午後11時~午前4時)に外出させる行為の制限(条例34条)
→20万円以下の罰金
⑤ 深夜における興行場等への入場の制限(条例35条)
→20万円以下の罰金・科料
3.面会要求罪(刑法第182条)
ここまでは、未成年者に対し、性行為等を行わせたり、自身が性行為等を行うことについて説明してきましたが、令和5年の刑法改正により、わいせつな目的で、16歳未満の者に対し、一定の方法によって面会(つまり会うこと)を要求すること(刑法第182条第1項)、実際に面会すること(刑法第182条第2項)が処罰の対象となりました。
一定の方法には、金銭を交付することなども含まれています。
未成年者に対し性行為等を行わせたり、自身が性行為等を行わなかった場合であっても、罪に問われることになりました。
~児童福祉法違反・青少年保護育成条例違反の弁護活動~
1.示談活動
特に児童福祉法違反・青少年保護育成条例違反の場合には早期に示談を行い、不起訴処分など有利な結果を導けるように活動します。
同法違反の場合、示談交渉の相手方は被害者のご両親になることがほとんどです。弁護士を通すことにより被害者側とコンタクトをとれる可能性が上がります。
また、被疑者が被害者と直接交渉を行うとなると被害者の気持ちを逆なでして示談交渉が決裂、不相当に過大な金額での示談解決になる可能性があります。
弁護士が間に入れば、冷静な交渉により妥当な金額での示談解決が図りやすいです。
詳しくは ~ 示談で解決したい ~へ
2.身体拘束解放活動
逮捕・勾留されてしまうのは、証拠隠滅や逃亡のおそれがあるためです。
そこで、弁護士は早期釈放・早期保釈のために証拠隠滅や逃亡のおそれがないことを示す客観的証拠を収集し、社会復帰後の環境を整備するなどして釈放や保釈による身柄解放を目指します。
3.情状弁護
早い段階から公判準備をすることにより、少しでも有利な処分を得ることが可能となります。
例えば、依頼者の方と相談しつつ、必要であれば矯正プログラムの検討とともに証拠提出の上、再犯防止に向けてサポートします
4.否認事件
否認事件では、独自に事実調査を行うとともに、不起訴・無罪に向けて活動を行います。
児童福祉法違反、青少年保護育成条例違反事件では、18歳未満の児童と性的な関係を持ったという事実はないにもかかわらず、捜査機関からありもしない疑いをかけられ捜査対象になってしまう場合があります。
また、性的関係を持った相手が18歳未満であるとは知らずに、性行為をしてしまった場合もあります。
そのような場合には、できるだけ早く弁護士にご相談ください。
弁護士が児童福祉法違反罪、青少年保護育成条例違反罪の不成立を主張し、不起訴処分の獲得や無罪判決の獲得に尽力します。
具体的には、客観的証拠を積み重ねることで、実際は被害児童と性的関係を持つに至らなかった、あるいは人違いである旨の主張をする、または実際に性的関係を持ったとしても18歳未満だとは知らなかった旨の主張をする、さらには18歳未満と知っていたが、単なる性的欲求を満たすために性的関係を持ったわけではなく結婚を前提に真剣に交際していた上での行為であった旨の主張をしていきます。
5 被害者対応
加害者に対し、刑事手続きにより適切に処罰を求める場合には、被害届、告訴が必要となります。
しかし、実際に一般の方が警察に直接行って告訴したいと言っても取り合ってもらえない場合も数多くあります。
そういった場合にも、告訴に必要な情報を収集し、弁護士が代わりに警察に告訴を受理してもらえるよう交渉することが可能です。
児童福祉法違反・青少年保護育成条例違反でお困りの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部へお問い合わせください。